Subject:平成15年8月27日    
From:西尾幹二(B)
Date:2003/08/27 14:54
 
 今日から北京で北朝鮮問題をめぐる6カ国協議が始まる。その行方がどうなるか、私なりに推理を働かせているが、あえてここに書くほどのことではない。北朝鮮がどういう出方をするかで、局面はいろいろに変わるので、誰も今はしばらく様子待ちである。

 北朝鮮問題はじつは5月末ごろを境に、アメリカの対応速度がにぶくなるにつれ、ご承知の通り、大きく動かなかった。ここ約3ヶ月ほど、各国の水面下の外交にすべてが委ねらてきた。5カ国間で何が話されていたか、正確にはわれわれには分からなかった。

 そこでいよいよ6カ国協議ということになった。私は目先の小さな動きに囚われない観点で10〜20年先を見越す一つの見方を掲げたいと思った。こういうときには小さな現象面の変化にいちいち反応した議論をしていても仕方がないからだ。

 次に掲げるコラム「正論」は今から一週間ほど前に出来あがっていた。産経新聞によって協議の前日の昨26日に掲載された。

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  身近な危機に意思示せぬ国は亡びる
 ——6カ国協議の舞台裏を見定めよ——

 ≪≪≪米の頼りは中国に移る?≫≫≫

 一つの有機体が衰徴するときには、変化は内からも外からも忍び寄る。リンゴの芯も、腐る頃には、外皮もしなび、ひきつっている。国家も有機体である。内はシーンと静まり返って、死んだように動かない。そうなると、外から近づくものの気配にも気づかない。

 小泉首相がアメリカのイラク戦争に誰よりも早く賛成の手をあげて、日本の立場を守った効果は、2ヶ月も持たなかったのではないか。北朝鮮という身近な危機になると無力をさらけ出すのは分かっていたが、集団的自衛権を宣言するとか、核三原則の一部手直しを図るとか、トマホークの買い入れ交渉をするとか、首相が相次いで打つべき手はいくらもあるのに、全身麻酔でも打たれたように動けない。憲法は理由にならない。自民党内部の親中国勢力と妥協して政権の延命を図ろうとする昔からの党内政治を復活させた結果にほかならない。

 東アジア政策にアメリカが慎重になっているのは事実だが、またしても日本を頼りにできないという失望感が政策をきめる重要な要因になっていることを、小泉首相はどこまで気がついているか。アメリカが頼りとするのはこのままいけば中国であって、日本にはならない。このことは日本の将来にとっても致命的ともいうべき災厄をもたらす。

 ≪≪≪6カ国協議の焦点は日本≫≫≫

 江沢民が退いてから、中国がほんの少しだけ対日微笑作戦に転じた。もはや経済大国日本を中国は恐れていない。国連常任理事国入りを認め、政治大国日本を許容しようとするかもしれない。しかし何としても軍事大国日本の出現を阻止しようとするだろう。歴史認識だけは忽せにできない所以である。中国の手のひらの中で、経済と政治だけで満足する日本を操作する、そのためにアメリカと話し合いに入っていると私は見ている。6ヶ国協議の焦点は北朝鮮ではなく、じつは日本である。表面には出ないが、日本の核武装を阻止し、米中の許容範囲のなかでどの程度まで政治大国日本を泳がせるのか。

 軍事力を欠いた政治大国というのは歴史上あり得ない。しかし日本の国内世論は、中国が希望する経済と政治にだけに関与した平和国家日本のイメージを歓迎している。アメリカは9・11同時多発テロ以来、対中敵視政策の優先順位を下げた。拉致だけ騒いで、核に責任分担できないいつもの日本にはもう飽きている。東アジアの戦略から日本を外して、中国に任せるところは任せ、アメリカは北の核の開発と輸出だけ封じれば、後のことはどうでもよい。北の体制保証も代償として考え始めている。これは拉致の不完全な幕引き、生物化学兵器の温存放任、そして日本からの経済援助引き出しという、われわれにこの上ない不本意な結果をもたらすだろう。

 しかし、よく考えていただきたい。6ヶ国協議の行方はどうであれ、あり得る米中合意後のこの結果は、NOと言うべきときに言わない日本政府の責任である。2年前に「自民党をぶっ壊す」と叫んだ首相にアメリカは一大変化を期待した。ところが無変化は経済だけではない。首相が自ら決断ひとつすれば片がつく集団自衛権の問題は店ざらしのままである。これではアメリカは北に軍事意志を明確化できない。日米協力で経済制裁に踏み切ることもできない。金正日体制は守られる。日本政府がこれを壊すという政策意志を持たないことに責任の一半がある。

 ≪≪≪帰結は「日本の香港化」か≫≫≫

 北は核を捨てても、生物化学兵器と特殊テロ工作員潜入で日本を威嚇し続けることができる。そういう国に日本が巨額経済援助をすることが米中露の合意意志とならないともかぎらない。戦争さえなければ何でもありが許される「奴隷の平和」に慣れてしまったこの国の国民の、シーンと静まり返った無意志、無関心、無気力状態は、外から忍び寄る変化の影にも気がつかない。

 その結果は予想もつかない地球上におけるこの国の位置の変動を引き起こすだろう。一口でいえば「日本の香港化」という帰結を。

 核だけ抜いて北朝鮮を維持し、日本を平和中立国家のまま北と対立させておくのは中露韓の利益に適い、日本自らがそれでよいなら、アメリカも「どうぞお好きに」となるだろう。日本列島は返還前の香港のような華やかな消費基地でしばらくあり続け、政治大国と錯覚している間に大陸に吸収される。アメリカは「サヨナラ」というだけだろう。今が転換点である。自ら軍事意志を示せない国は、生きる意志を示せない国でもある。
                (8月26日産経新聞「正論」)

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Subject:平成15年8月28日     (一)         
From:西尾幹二(B)
Date:2003/08/28 15:41
 旧民社党の活動家で、国鉄改革に大きな役割を果した鈴木尚之さんという方がいる。「つくる会」の事務局にしばらく籍を置き、ここでもよく働いてくださったが、もともと衆議院議員西村真悟氏に私淑していた人である。今は大阪で西村氏の秘書の役を果している。

 26日の朝、寝坊して書斎へ降りていったら、次のファクスが届いていた。

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 前略、天候不順のなか、大阪の堺は暑い日が続いております。8月26日の正論欄を拝読し、西尾先生がお元気で活躍されていることを知り、本当にうれしく思います。

 「正論」でのご指摘全くその通りだと思います。日頃、西村真悟代議士の近くでその言論を聞いている私にとって、西尾先生の言論とほとんど重なっていることに気づいています。

 西尾先生は「正論」の書き出しで、この国の状態を“リンゴが腐る”ことにたとえて説かれていますが、これを見て、今から18年程前国鉄改革の必要性が叫ばれた頃、「魚は頭から腐る」との表現で、国鉄の理事者の腐敗振りが指摘されていたことを思い出しました。現状を一言で言いあてる“リンゴが腐る”との表現は、国民にわかりやすい説明の言葉の様な気がいたします。

 西尾先生、どんどんこの表現を使って国民を啓蒙してください。政局は、民由合併問題、自民党総裁選挙、を軸に回っているかに見えますが、どちらも日本の危機に対応できるものにはなっていない様な気がします。

 様々な理不尽を目のあたりにしても、怒りを忘れ、闘いから逃げることばかりを考えている国民は、結局は亡国の民となる以外に道はないのかもしれません。それでも私は闘い続けます。

 横田早紀江さんの言った“国直し”をするために・・・・・。

 西尾先生のますますのご活躍を心からお願い申し上げます。  草々
 8月26日
                       鈴木尚之
  西尾先生机下

 “追伸”お手紙を書き終えたところで西村代議士から電話がありました。“西尾先生の指摘はすばらしい。特に日本の香港化の懸念の点は・・・・”とのことでした。

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 午後3時ごろ鈴木さんにお礼の電話をしたら、丁度西村代議士と会談中で、電話口に代議士が出て来て、私と長い話になった。たしか昨年6月末、「宰相石原慎太郎論」をテーマにした朝まで生テレビで同席させていただいて以来である。

 寝呆けている私の頭に、新しい未知の情報がガンガン入ってきた。西村さんは韓国に行ってきたばかりだった。野党ハンナラ党のあの大統領候補にも会い、金正日打倒後の北の政権づくりの方策を問うと、元大統領候補は「今はそういうテーマを論じることは封じられている」と臆病な官僚風を吹かせて口を緘したという。親米派の野党も全然ダメなのだと分かったそうだ。韓国は左も右も国をあげて、北朝鮮の軍門に下るのをこのうえない幸福としているかのようにみえる。じつに不可解である。今行われているスポーツ大会で反金正日の激しい集会やデモがあるのは、与党だけでなく野党も含めて政界が北の顔色をうかがう全体主義的自己規制のムードに包まれているがゆえの一部の反発の現れなのではないだろうか。

 

 なお、英文サイトに産経新聞掲載「正論」の文章の英訳文が掲載されました。
>http://popup5.tok2.com/home2/nishio88/
>http://popup5.tok2.com/home2/nishio88/essays/20030826.html

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Subject:平成15年8月28日     (二)        
From:西尾幹二(B)
Date:2003/08/29 14:39
 「福沢諭吉の『脱亜入欧』を論じた本を取り出してまた読みたくなりました。」と西村真悟さんは仰有った。「戦後韓国はアメリカが連れてきた李承晩によって、北朝鮮はソ連が連れてきた金日成によって国家づくりをした。外国の力を借りなければ建国できない国なんですね。今また100年前の混沌とした、自己管理の出来ない半島の情勢に戻りつつある。」

 西村さんの話によると、北のNO2の亡命者黄長●(=火+華)はアメリカの権力、日本の資金力を背中に背負って金正日の代替役を買って出ようとしきりに画策しているらしい。外国の力で凱旋将軍になろうとしているのはいかにも朝鮮の人らしい発想である。

 しかし、北に置き去りにされた黄の糟糠の妻、子供たち以下一族はすでに処刑されて、地上にいない。連座制にはまるで鎌倉時代を見る思いがする。それでいて、黄は哀れな死にものぐるいの亡命者でもないらしい。韓国政府は発言を封じる代りに彼を保護している。すでに若い美人の妻がいて、80歳を過ぎて2歳の児をもうけているともいう。

 日本の国会で彼を証人として呼ぼうと企てたことがあった。日本政府が求めれば、韓国政府も出国許可証を出さざるを得ない。しかし、企ては日本側の事情で成功しなかった。個々の議員の力でも日本に彼を呼んで発言させることはできなくもないが、黄は若い妻と子供のほか五人の「大名旅行」をほのめかして、どうにも話にならないらしい。

 普通の日本人の平和で静かな暮らしのすぐそばに、「処刑」といい、「若い妻」といい、日本に期待される「資金」といい、桁の外れた法外なこと、どぎつくも生々しいことが現に存在している。歴史物語に聞くような話が同時代の私たちの住む世界と隣り合わせている。

 哀れな悲劇とばかり思っていると、死のすぐ横に欲望があり、救国の傍らに権力への妄念があり、凄絶な情念がとぐろを巻いている。人間は生きている限り人間でありつづけて、無常を悟ることはないからに相違ない。しかしこうした歴史の変転を高い処から見る視点もあってもよいのではないかと不図心に横切るものがあった。政治を非政治的に観念するものの見方もあってよいのではないかと。さりとて西村さんに電話でそこまでお話するわけにもいかなかった。コラム「正論」の拙文における「日本の香港化」への警鐘にあらためてお褒めのことばをいただいて、電話が切れた。

 西村さんは自分のホームページhttp://www.n-shingo.com/
に簡潔に叙述した毎日の行動日誌を公開している。鈴木さんから送ってもらった8月25日付の一部を紹介する。

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 午後8時新潟着。横田めぐみさんの母早紀江さんや救う会の西岡事務局長をはじめ、拉致された日本人救出に取り組む9人と食事をした。

 翌朝7時、新潟埠頭で、北朝鮮の貨客船万景峰号を待ち受けた。日本人を返さずに船を入れてくる傲慢無礼さは、許しがたい。

 それにしても、新潟県港湾管理局の馬鹿さ加減よ。日本人を規制しながら朝鮮人を保護している。港湾管理局は、日本人の埠頭立ち入を120名に制限した。そして警察官が垣根を作っている埠頭までの200メートルを歩かせた。東京から来られた80歳の婦人をはじめ多くの方が埠頭に入れてもらえなかった。炎天下で放置された。

 しかし、朝鮮人はバスに乗ってノーチェックで埠頭まで入っていった。その数150を超えていた。港湾管理局は、日本人には旗竿やゼッケンの所持を禁止した。しかし、朝鮮人には旗竿の所持を許し、彼らは朝鮮の国旗を旗竿に掲げて打ち振っていた。

 彼ら朝鮮総連の幹部とおぼしき一人は、救う会の西岡事務局長に、「殺すぞ」と脅してきた。これは立派な犯罪である。しかし、港湾管理者は見てみぬ振りをした。

 金正日の写真を焼こうか、北朝鮮の国旗を焼こうか、このような提案もあった。しかし、私は不可といった。「彼ら朝鮮人と同じ次元になる」。彼らはいつも、卵を投げ、旗を焼き、人形を焼く。このような行為を、崇高な横田早紀江さんらにさせることはできない。

 従来、万景峰号では船内パーティーが行われてきたが、新潟県港湾管理局や社民系労働組合や新潟の政財界などは、いつも招待されていた。官僚の頭では、朝鮮総連さんに迎合しておけば、今まではそつなく揉め事もなく、仕事ができたのだろう。つまり、新潟の港湾業務は、日本人であることを忘れれば、うまく仕事ができたのである。

 日本人を拉致した北朝鮮からは、堂々とこのようなおぞましい船が日本に入ってきて、「人道」という名で、朝鮮の旅行者を自由に運んでいく。

 日本人の人道を無視し、朝鮮人だけに「人道」があるとする独裁者からの船を入れる日本政府は、明らかに「おかしい」。許されない。

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 怒りが噴き出るような文章である。最後に次の歌が書いてあった。

 「この秋は、風か嵐か、知らねども、今日の勤めの、草を刈るかな」