故坂本多加雄君記念事業計画


 
               西尾 幹二 H16/03/25(Thu)17:41 No.81


 3月6日に故坂本多加雄君の旧友相集い、今後の記念事業の打ち合わせをした。ご父君坂本有氏より1000万円の基金が寄せられたので、これをどう有効に活かすかの相談会である。概略をお伝えしておく。

 個人の直弟子の杉原志啓学習院女子大教授が詳細な「坂本多加雄著作目録」を作成し、学習院大学紀要にのせる予定である。故人の遺した著書は13冊で、多い方ではない。総計約270万文字、400字詰原稿用紙で6500〜7000枚である。

 著書のほかに書き残した新聞・雑誌の原稿、書評、講演録、対談、座談会などが多数残されている。杉原氏は学生の協力も得て、全部を蒐集し、整頓した。相談会はこの全データのコピーを作成し、1箇所に保存することを約した。また著作目録は紀要にのるが、200部の別刷を制作し、各方面へ郵送することとした。

 全集を作成してあげたいが、基金に限界があり、無理なので、全著作、全発言のデジタル化を実行することにした。これとは別に、一冊だけは書評と対談を収めた遺稿集のようなものを出版してはどうかとの案が出され、諒承された。これにも200〜300万円の據出が見込まれる。

 以上は杉原氏という良き後継者に恵まれたのに、いずれも実行可能な、現実的な話であるが、次は希望的可能性の段階にあり、実現するかどうか分らない。

 まず著作の中の代表作で、全集や大系などシリーズに入っていないもので、すでに絶版の本から選んで、ベストコレクション形式の本をつくり、1冊から3冊かの文庫などのかたちで市販ルートにのせる努力をする。これは筑摩書房の湯原法史氏が各社に打診してくれる約束となった。

 その次はさらに困難な冒険である。「坂本多加雄賞」の可能性が話題になった。かねてこの話は友人の中島修三氏から提案されていたが、私は一寸困難なのではないかと考え、最初念頭になかった。ところが、過日のシンポジウムで出合った中西輝政氏から可能性が問われ、やるべきだとの声があがり、関西からそういう声があるからには一概に無視できないなと思った。

 坂本君の活動の象徴である天皇、靖国、歴史教育、国家主権確立、明治研究などの諸テーマに関わる業績をあげた個人ないし団体を顕彰する賞なら、あって悪くもないなと思った。必ずしも学者を対象としない。著作を対象にしてもいいが、それだけではなく、目立つ活動をした保守系の個人なり、団体があまりにも日の目をみていない。

 これは私たちだけではできない。かなりの額の残金が確保される見通しが立った段階で各方面に働きかけてみる、と私が約束した。故人へのせめてもの弔いである。賞金は巨額でなくてよく、10回くらいを予定し、あとは運を天に任せる。選考委員はボランティアでいいが、会議費ていどは必要だろうと考え、そう申し上げた。雑誌や新聞がきちんと顕彰してくれることが大切である。

 しかし私の責任の範囲は最初のレール敷設までで、そのあとの責任の引き受け手がなければ不安で踏み出せない。厄介なことを約束してしまった。夢物語に終わるかもしれない。募金への応募も含めて、協力者や協賛者がつづかないとうまくいかないだろう。

 相談会の出席者は北岡伸一(東大教授、故人の研究仲間)、中島修三(弁護士、亜細亜大学教授、故人の友人)、杉原志啓(学習院女子大学教授、故人の弟子)、山田充郎(会社員、故人の友人)、宮崎正治(つくる会事務局長)、湯原法史(筑摩書房編集員、故人の友人)、坂本純衛(システムエンジニア、デジタル化の相談役)、西尾幹二。

 全員が善意で動いている。杉原さんはいいお弟子さんである。坂本さんはある意味で幸せな人であると思った。

『文藝春秋』3月号アンケート
 
                  西尾 幹二  H16/03/28(Sun)21:57 No.83


『文藝春秋』3月号の「著名人37人アンケート『自衛隊派遣 私はこう考える』」の賛成、反対の内訳は次の通りである。

 アンケートには「自衛隊のイラク派遣に『賛成』『反対』『どちらとも言えない』のいずれか該当する答えを明記の上」と条件がつけられていた。

 賛成と書いた人の中にも口ごもる人、きっぱり語る人といろいろあって面白い。

・・・・・・・・・・・・・
 賛成   
      阿川尚之 御手洗冨士夫 久世久彦 入江隆則
      岡野雅行 尾崎 護 石井英夫 宮内義彦
      上坂冬子 小谷野敦 橋爪大三郎 吉田直哉
      三浦朱門 川勝平太 山本一力 西尾幹二
・・・・・・・・・・・・・
 反対   
      橋本大二郎 成毛 眞 村山富一 鶴見俊輔
      松本健一 小林カツ代 桶谷秀昭 内田 樹
      阿部謹也 岸田 秀 上野千鶴子 阿刀田高
      梅原 猛 内橋克人 柳田邦男
・・・・・・・・・・・・・
 どちらともいえない
      後藤田正晴 片山義博 蓮實重彦 和田秀樹
      呉 智英 永 六輔
・・・・・・・・・・・・・
      
 上記の表からいろいろなことが考えられると思う。それが厭でアンケートに応じなかった人も相当数いたに相違ない。
 
 私の解答文は次の通りである。
 
============

 残りものに福はない
 
 イラクをめぐる国際協力体制に Coalition という言葉が使われている。同盟でも連合でもなく、各国の自主性に待つ参加自由のゆるやかな枠組みのことで、53カ国が参加し、フランスもドイツも入っている。
 
 戦闘は米国が引受けている。一国で十分である。代りに各国にはイラク復興に向けての自主的貢献が求められている。米国は特定の要求をしてこない。何をやるかは各国が自分で判断してきめる。やりたくなければやらなくてもいい。米国は「この指止まれ」と言っているだけである。国連のリジットな枠組みが定まっていたPKOとはまったく異なる。現地自衛隊はこの新状況にさらされているが、日本では現実を見ないのは外務省だけでなく官邸がPKOの観念から抜け出ていない。
 
 やるならす早くやる必要がある。例えば戦闘終了後すぐに自衛隊内の医師団の派遣を決定していれば一番早く復興の旗を立てることができたのだ。残りものに福はない。
 
 朝鮮半島が南端まで「中国化」する脅威が年ごとに強まっている。米国の軍事的精神的支援なしで太平洋の孤島の存立はあり得ない。米国の困難時にこれに積極的協力する以外のいかなる選択肢が日本にあるというのか。