近況至急報告
 投稿者:西尾 幹二 投稿日:2004/04/17 23:28


 

近況至急報告
           西尾 幹二  H16/04/17(Sat)23:28 No.85

 私はいま「江戸のダイナミズム」第18回の〆切り日直前で、睡眠時間は削れないので散歩時間をゼロにして、風呂に入る時間も惜しんでいる毎日であるため、気になりながら「橋本進吉」(二)が書けないままで20日近くが流れました。

 「江戸のダイナミズム」はあと3回で、体操競技でいう着地寸前にあり、着地に失敗すると大幅減点になりますので、いたく緊張しているのです。『古事記』と本居宣長と日本古代の文字表記をめぐる本に毎日没頭していて、イラク人質事件は人並みにバカらしいと思っただけでやり過しました。

 3人の人質は帰国後、自作自演が裏づけられたら、あるいは犯人側と密約をして行動したと判ったなら、逮捕されるでしょう。そう期待しています。報道ステーションの古舘は醜悪の一語です。(久米さんが懐かしい。オヤ?)

 間もなく紹介しますが、この20日の間に5月と7月に出す2冊の自著の整理と準備が入りました。5月から9月までに4冊の自著が出版される予定なので、たしかに異常な時間欠乏状態なのです。(日録本の第二弾もあります。)

 これとは別に、産経が7月から来年4月までに長期連載する「地球日本史」の執筆者39名と各人の論文のタイトルの選定が2月頃から私のコーディネーションに委ねられていて、今週これもようやく最終決着をみました。

 私の知友に池田俊二さんという方がいる話は前に何度も書きましたが、彼が旧仮名論者で、拙論「万葉仮名・契沖・藤原定家・現代仮名遣い」について、現代仮名遣いの原理的容認は原理的に不可能ではないか。なぜなら現代仮名遣いには、自己完結の原理はないのだから、という意味のことを言ってきました。私は時間がないさなかですが、大急ぎで彼にファクスで箇条書きの文章を回答しました。以下にご参考に供します。

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 池田様

 お察しのとおり時間がないときなので、略記します。私の考え方のうち一番肝心な点をあなたは故意に見落としています。

1)現代かなづかいは仮名遣いに非ず、と私は言っているのです。

2)現代かなづかいに仮名遣いの原理はない、ということを私も認めています。

3)現代かなづかいは「はーわ、へーえ、おーを」を除いて音符に近づいている、と私は言っています。音符としても不正確ですが、ともかく仮名遣いであることをやめようとしているのです。

4)万葉仮名の「音仮名」は音符に近い。先祖返りではないか、と言っているのです。(これは誰もまだ言っていないし国語学的に正しいかどうかも私には分りません。しかし橋本進吉理論を追及するとそうなります。)

5)仮名遣いは、乱れ、不正確、不統一が宿命なのです。橋本氏の言うとおり、音は動き、文字の書き方は簡単に動かないからズレが生じる——それが仮名遣いだからです。

6)どこまで「乱れ、不正確、不統一」を許容するかの問題なのです。

7)漢字仮名交り文では、仮名の表意性の必要は平安より鎌倉へ、鎌倉より江戸へとどんどん減っていきました。漢字が表意性を守っている現代において仮名の表意性はどこまで必要か。

8)もう一つ今まで言っていませんでしたが、明治末年生まれの私の母は変体仮名を多用し、私が読めなくて困ったことを『わたしの昭和史』で書きました。母はえを「江」ともかき、には「尓」とも、のは「乃」とも、他にもいろいろありました。一音一字の定めが政令できめられたのは明治三十三年でした。

9)あなたは戦後政府に反感をもっていますが、私は明治政府も同じくらいおかしい統制狂だと思っています。仮名遣いは江戸時代の不統一のまま、21世紀まで放置すべきでした。そうなれば落ちつくところに落ちついたはずです。

10)仮名遣いは「乱れ、不正確、不統一」が『常態』であるという認識が世間一般の常識でありつづけるべきでした。

11)明治政府が契沖を受け入れて、歴史的仮名遣いを『正則』としたことがそもそもの間違いだったと私は漠然と予感しています。無理強いは破れるのです。いっぺんに奈良朝にもどるというのですから。

12)福田先生とはまるきり考え方を異としています。私は福田氏に盲從する弟子ではありません。

13)ただ私は、仮名遣い問題は考え始めたばかりで、徹底して勉強していません。これから残りの人生で考えを煮つめるかどうするか、今の処分りません。

14)『諸君!』6月号では仮名遣いの問題はもう出てきません。

ご無礼いたしました。

                     不一

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 なお、旧仮名が復活したら受験生がどうなるか、次回に面白い出題をみなさまに出してみたいと思います。「橋本進吉のこと」(二)は後で追加書きします。