2004年06月26日

5月と6月の活動報告 (一)

 6月2日から13日まで、私はブルガリアとルーマニアを旅行した。動機は、単にまだ行っていなかったからというだけのことである。

 あのあたりは東ローマ帝国の支配地域である。アラビア人が西から、スラブ人が北から押し寄せた混乱の歴史を刻んだ大地である。

 ベルギーの歴史家ピレンヌが「モハメッドがいなければシャルルマ—ニュもいなかった」という名文句を残したのを思い出しつつ旅をした。アラビア人の進出がなければ、シャルルマーニュ(カール大帝)の西ローマ帝国も成立しなかった、という意味である。

 アラビア人があのあたりから地中海一帯を支配して、その結果、ヨーロッパが西に移動し、誕生した。ギリシアやローマの文明を最初に受け継いだのはアラビア人であって、ヨーロッパ人ではないという逆説である。

 『江戸のダイナミズム』(第16回)で契沖とエラスムスを比較した一文を思い出していただこう。エラスムスはヴェネチアに行って、アラビア人からギリシア語を学んだ。聖書の原典はギリシア語で書かれていたので、エラスムスはギリシア語原文の復元をむなしくも試みたのだった。

 ヨーロッパ人はギリシアやローマの古典文化からも、キリスト教の聖書の原典からも1000年間も切り離されていたのである。断絶の歴史である。日本人はそういう不幸を経験していない。この歴史事実は日本では案外知られていない。

 ブルガリアとルーマニアを垣間見た感想は『正論』に2・3回にわけて分載する予定である。
  
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2004年06月28日

5月と6月の活動報告 (二)

 ブルガリアとルーマニアへ旅立った6月2日までに、私は『諸君!』の連載の原稿と、「新・地球日本史」(産経7月5日スタート)の冒頭の私が担当した6回分を書いて置いて行った。6月22日の小泉再訪朝への怒りを抑えつつ、コラム「正論」(5月28日付)を書いたのも同じ頃で、旅立つ前のあわただしさだった。

 6月13日に帰国した。14日から23日までの間に『正論』『Voice』に併せて55枚ほど書いた。

 24日は疲れて、何をする気にもなれず、朝食をすませた後もただわけもなくねむく、日中もひたすら眠った。よく身体がつづくなァ、と自分でも自分に感心している。

 そういうわけで、よく働いたこの月の成果、8月号各誌の寄稿は次の通りである。

 1)宣長における「信仰」としての神話(53枚)『諸君!』江戸のダイナミズム(第19回)
 2)冷え冷えとした日本の夏(29枚)『正論
 3)小泉純一郎“坊ちゃんの冷血”——ある臨床心理士との対話——(26枚)『Voice

  1)この連載は20回で終結の予定なので、いよいよ最後にさしかかっている。
  2)は皇室、少子化、イラク、平等と「個」など。
  3)は「小泉純一郎の精神病理」ないしは「小泉純一郎の病理学的研究」のいづれかにして欲しいと思ったが、編集部の方針で上記のような題になった。

 今月は私の企画立案による「新・地球日本史」の私の担当分の原稿もあり、『男子、一生の問題』もやっと刊行され、いろいろな方面の仕事が一度に集中した。  
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2004年06月29日

5月と6月の活動報告 (三)

 6月28日産経の一面下に、「新・地球日本史」の告知記事がのっていたのにお気づきになったであろうか。
 
 この企画は私の責任編集で7月5日から約10ヶ月にわたり、日曜を除いて毎日、産経新聞に連載される大型企画である。私自身の担当執筆は、最初の第一回とあと中ほどで一回あるかないかである。誰かが事情で書けなくなった場合、私は責任上穴埋めしなければならない。その可能性も覚悟はしている。
 
 私が同企画を産経新聞社住田専務(現社長)から申し渡されたのは平成15年の2月だった。1年かけて特別の準備をしたわけでもない。書いてもらいたい人の名前が少しづつ心の中に浮かぶようになった。同年秋に新聞の編集局長と特集部長との打ち合わせ会が開かれ、私にテーマと人選が任された。しかし自分の仕事が忙しくて、テーマごとに執筆者を自分できめ、電話をかけまくったのは今年の3月であった。
 
 4月に私から執筆者諸氏に次のような挨拶文とともに、決定した39項目のタイトルと執筆者名の一覧表を送った。同企画の目的と内容が示されているので、ご参考までに掲げておく。
 
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                 平成16年4月
 
 地球日本史 
  執筆者各位
                    西尾幹二
 
        ご 挨 拶
 
 「新・地球日本史」という新しいシリーズを産経新聞が7月5日より連載いたします。この企画にご参加くださいますことをご諒承いただき、有難うございます。
 
 「地球日本史」はすでに平成9年11月3日から、翌10年12月25日まで長期連載を行い、16世紀から明治初年までの日本の問題をユニークな角度から抉り出し、好評を博したことがあります。連載後、扶桑社より3冊の単行本(各副題は第1巻「日本とヨーロッパの同時勃興」、第2巻「鎖国は本当にあったのか」、第3巻「江戸時代が可能にした明治維新」)として出版され、さらに扶桑社文庫ともなり比較的よく読まれました。
 
 このたび本年7月5日より、来年4月9日までの期間で、「新・地球日本史」20世紀前半篇を、産経新聞にて連載することになり、私は前回に引き続きコーディネーターを任されましたので、ここに39回(1回1週単位)の内容プログラムを作成し、提出させていただきます。皆様のご協力を得て、プログラムはようやく同封別紙のようにまとまりましたことにあらためて感謝申し上げます。
 
 「地球日本史」は題名が示すとおり、地球的視野で日本の歴史を見直すという狙いがあり、さらにまた今日的必要から、今の時代の問題に引き据えて各テーマを再検討するという目的をも担っております。地球的視野といっても、国際化という甘い感傷語の示す方向を目指すのではなく、日本人が気がつかない世界の現実の中に日本を置いて、あらためて問題を見直し、既成の歴史の見方をこわすというほどの意味であります。一つの角度から鋭い、衝撃力のある光を照射していただければまことに幸いです。
 
 また、歴史を語るといっても、過去の一時代の話題に限定する必要はなく、現代の新聞紙上を賑わしているさまざまな関連テーマを取り上げ、並べて論じていただくのも一興かと存じます。できるだけ広い世界の話題の中で、しかも今の人の身近な題材にも言及していただければありがたいのです。しかし、テーマによっては、短い紙幅に歴史事実を語ることで精一杯で、余計な話題にまで手をひろげようがないという場合もございましょう。その場合には、当該テーマを過去の一時代に限定して語っていただくことで勿論十分でございます。
 
 すべて制約はなく、フリースタイルです。どうかよろしくお願い致します。
 
 原稿ご執筆の詳細な規定と事前催促予定、原稿受け渡しの方法等につきましては、担当の産経新聞特集部より同封書にてご報告いたさせます。
 
 なお連載は平成17年前半に扶桑社より上下2冊の単行本として出版される予定です。
 
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 39回の連載は36人によって執筆される。第1回目の私の「日本人の自尊心の試練の物語」だけは総論で、それ以後はしばらく明治時代が扱われる。韓国併合が9月末から10月初旬、日中戦争のテーマはやっと年末から年初に登場する。
 
 私が信頼している書き手が続々と姿を見せる。テーマもかなりひねって工夫してある。御期待ください。  
Posted by nishio_nitiroku at 15:47Comments(1)TrackBack(0)