Subject:平成15年2月14日 (一)   From:西尾幹二(B)Date:2003/02/15
10:59

 2月13日「本居宣長の問い」(25枚)を書き上げた。雑誌論文ではない。『日
本の根本問題』(新潮社刊)のいわばヘソにする論文で、同書の原稿調整はこれを書
き終えてようやく私の手を離れた。昨9月以来の、積み重ねるような努力の結果であ
る。10日までに、他の全原稿の校正ゲラを出版社の手にもどした。

 「本居宣長の問い」が入ってようやくこの本には、一冊の中心となる柱ができた。
一冊の冒頭は、北朝鮮と安全保障、対米外交のテーマで始まる。『Voice』3月号
「北朝鮮は妥協しない——アメリカ政府に問い質したきこと」は本に入れるとき、題
名を「相似国家『米朝』のはざまにある苦悩」に変えた。「〜に問い質したきこと」
という題目の立て方が、福田恆存先生の真似と思われかねないと思ったからである。

 以上二つの論文、合わせて50枚になるが、これを何とか一冊の中に入れたいと考
えて、出版をあえて少しづつ遅らせてきた。『Voice』3月号論文を入れるか入れな
いかで、これまた違う。安全保障の問題を評論集の中に入れるのは、時々刻々と情勢
が変わるので、とてもあぶない。しかし、私の書き方はそう簡単には腐らない。9・
17観察記が基本になっているからである。(当インターネット「日録」の成果であ
る。)それでも、2月初旬刊の『Voice』3月号の論文を入れないと、微妙に情勢は
動いているので、本は成り立たないと思って、出版をぎりぎりまで延ばしてきた。3
月半ばごろの刊行予定である。

 北朝鮮問題への今の私の関心は急速に新たに動いている。私が注意の目をこらして
いるのは、今では「ポスト北朝鮮問題と朝鮮半島」というテーマになろう。勿論、北
朝鮮問題は終ったと思っているわけではない。まだまだ山があり、これからが正念場
である。

 日米安保に対するアメリカのひょっとしたらの裏切り、対米猜疑心を評論ではっき
り書いた(『Voice』3月号とコラム「正論」2月4日)のは、結局親米保守派のな
かでは私ひとりであった。岡崎久彦、田久保忠衛、中西輝政の各氏はアメリカを信頼
し、ほかに何も言わなかった。しかし今日、政府の中枢部がいささか慌てているとい
うニュースが私のもとに入っている。私は20日夜に、防衛庁長官に会う。本当のと
ころを聴き出したい。しかし、話の内容を「日録」に明記できるかどうかは分らな
い。私が真実を知りたいと激しく動いていることだけは分ってほしい。

 私は大学を辞め、年をとって益々忙しくなっているが、これは幸福なことか不幸な
ことかよく分らない。
.



Subject:平成15年2月14日 (二)   From:西尾幹二(B)Date:2003/02/16
09:03

 『日本の根本問題』(新潮社・3月半ばごろ刊行)の「目次」と「あとがき」を公
開する。

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     目 次

 日本国憲法 前文私案
 安全保障と北朝鮮——9・17以降の観察記
 アメリカへの複眼
 相似国家「米朝」のはざまにある苦悩

 サッカーW杯、靖国神社問題、そしてナショナリズム
 愛国者の死
 観念の見取り図

 本居宣長の問い
 漢字と日本語——わたしの小林秀雄
 明治初期の日本語と現代における「言文不一致」
 天皇制度と日本人の教養
 危機に立つ神話

 石原慎太郎論
 三島由紀夫の死 再論

 日韓の歴史共同研究は可能か
 歴史教科書問題は終わっていない

==========================

     あとがき

 本書について「あとがき」で述べることはあまり多くない。

 そこで、約三十個の見出し語ないしキャッチワードを本書の中から取り出して、こ
んな内容の本だという案内をしてみてはどうか、という一寸した遊びを考えてみた。

 憲法、安全保障、対米外交、韓国と韓国人、政教分離、保守主義、歴史と物語、歴
史と政治参加、知識人の自己不在、日本文化のアイデンティティ、原理主義を欠く文
化の弱さと強さ、言語と文字、古代中国と近代西洋、日本語における朗誦、記述体と
口語体、漢字と表音化、言文一致運動、元号、天皇制度、神話と科学、日本の国のか
たち、儒教と神仏信仰、行為と文学、犯罪、ニヒリズムとカルト、ファシズムかス
ターリニズムかの時代、夢と現実、論理の一貫性、歴史認識、韓国史、歴史の叙述
法、学問と外交、教育における訓練と自発性、など。

 「漢字と日本語——わたしの小林秀雄」と「天皇制度と日本人の教養」の二篇は、
既刊の私の単行本に一度入れたものの再録であることをお許しいただきたい。いずれ
も短文である。

 比較的最近の文章ばかりを蒐めた本書の中で、「観念の見取図」の一作だけが『新
潮』昭和48年(1973年)4月号掲載という、私が37歳の、同誌に文芸評論を書き出
して三年目の仕事であることをお断りしておきたい。今まで単行本に未収録であっ
た。昭和49年11月に中央公論社から『懐疑の精神』という新刊を出した。それに
入れる予定だったが、担当編集者から遠慮して欲しい、といわれて、それからチャン
スがなくてその侭になって来た。

 後に『新潮』編集長となった坂本忠雄氏が、今でも折ふし「あの頃書かれた最も重
要な評論のひとつ」と言って下さっている同文は、今回三十年ぶりに所を得て、新潮
社刊の本書に収まった。

 中央公論社が文壇政治的に警戒して本に入れなかった同文は、「サッカーW杯、靖
国神社問題、そしてナショナリズム」の終結部でも記録しておいた通り、江藤淳氏の
フォニ—論争とユダの季節論争を引き出す先駆けとなった。江藤氏の挑発に文壇・論
壇は大騒ぎしたが、私の同文には沈黙が支配した。新人への不当な黙殺扱いであった
のか、私の論の緻密な徹底さに手が出せなかったのか、いずれかであるが、私は後者
であると自負している。

 今回、本書に同文が置かれた位置もぴったりである。私の文体も姿勢も、当時と今
とでほとんど変化していないことが今度再読して私自身にも分った。本書の読者は最
初からつづけて読んで多分違和感なく、「あとがき」でこのようにお断りしなけれ
ば、旧作であることにもお気づきにならないであろう。以上書誌的事実を二、三ご報
告するにとどめる。

 本書は新潮社出版部の冨澤祥郎氏が平成14年9月頃に着手され、私のその後の新
しい雑誌論文が出るたびにこれを見守り、蒐集して、育てるようにして作成して下
さった。末筆ながらあらためて深謝申し上げる。       
  平成15年2月11日
                        著者
.



Subject:平成15年2月20日 (一)   From:西尾幹二(B)Date:2003/02/21
23:01

 戦後長期間ジャングルで暮らし、靖国に戦死者として誤って祀られた小野田寛郎氏
が、新しい追悼施設に反対して、12月24日記者会見で次のように語った。

 「国が靖国を護持していないだけでも背信行為であるのに、(別の)国立追悼施設を
作ったら裏切りであり、(英霊らは日本を)敵国として断定するだろう。」

 「国が靖国を護持していない」とは、戦後靖国は一宗教法人になり、国家施設でな
くなったことを指す。それでも靖国があるから英霊たちは今まで救われていた。小野
田さんは、「われわれは死んだら神になって国民が靖国神社で手を合わせてくれると
思えたからこそ戦えた」とも回想している。靖国とは別の国立の追悼施設を作るとい
うのなら、それは英霊への裏切りであり、そういうことをする国は英霊から「敵国」
と断定されるだろう、と言っているのである。

 これは相当に烈しいことばである。私は小野田さんのこのことばを読み上げること
から私のシンポジウムにおける第一発言を開始した。

 2月15日(土)14:00〜17:30靖国会館で行われた、第四回英霊慰霊顕彰勉強会
は、最初に国学院大学教授大原康男氏が40分間「小泉参拝の意味」を語った。小泉首
相のイレギュラーな参拝でも、参拝が三年つづいたのは靖国にとってありがたいこと
だった、というのが大原氏のスタンスである。

 まあ、そういう考え方もあり得るだろう。1985年の中曽根さんの中国屈服以来、ど
の首相も参拝を逃げてきたのだから。一昨年、「自分が首相になったのは革命なの
だ」とまで公言し、8月15日参拝を「公約」した首相の2日ずらしの姑息さに私は耐え
がたい思いをしたが、靖国に近い人がそれをも許したいほどに神社側の今の状況は厳
しく、追い込まれているのだな、と思いつつ、大原さんの話を聴いた。

 私に与えられているテーマは「追悼懇の非常識」(40分)であった。追悼懇を許す今
の日本は英霊から敵国扱いされるだろう、という小野田さんのコメントを紹介したあ
と、日本をいまだに敵国扱いしているのは現在の中国であり、韓国であるという話に
つないだ。当「日録」2月5日(二)で述べた通り、世界のあらゆる国々の政府高官が靖
国を参拝しているのに、「首相の靖国参拝問題に内政干渉してくるのはわずかに中国
と韓国だけということはもっと知られてよい。この二国は日本を仮想敵国にし始めて
いる」と前に私が述べた、あの一連の話をした。

 それから例の福田官房長官私的懇談会「追悼懇」の最終報告書を読んだ感想、ある
いは読むに耐えなかった感想を語るのに、私は10ページ(A4に大きな活字で20行)の
片々たる文章に、数えたら「平和」ということばが50個出てきたのに驚いたという話
をした。いかに論旨は空疎で、無内容で薄っぺらであるかをご紹介したいと言って、
次の個所を読み上げた。

==========================

 また、戦後、日本は、日本国憲法に基づき、政府の行為によって再び戦争の惨禍が
起こることのないようにすることを決意し、日本と世界の恒久平和を希求するように
なったが、その後も日本の平和と独立を守り国の安全を保つための活動や日本の係わ
る国際平和のための活動における死没者が少数ながら出ている。 

 私たちは、このような事実を決して忘れてはならず、日本の平和の陰には数多くの
尊い命があることを常に心し、日本と世界の平和の実現のためにこれを後世に継承し
ていかなければならない。

 先の大戦による悲惨の体験を経て今日に至った日本として、積極的に平和を求める
ために行わなければならないことは、まずもって、過去の歴史から学んだ教訓を礎と
して、これらすべての死没者を追悼し、戦争の惨禍に深く思いを致し、不戦の誓いを
新たにした上で平和を祈念することである。

 これゆえ、追悼と平和祈念を両者不可分一体のものと考え、そのための象徴的施設
を国家として正式につくる意味があるのである。

==========================

 「平和」という文字のところで私は声を一段と大きくし、右手を掲げて指を一本づ
つ折った。会場は爆笑に包まれた。

 いったいどんな人物が委員であったか、新聞にも公開されているが、念のためにか
いておく。

  追悼・平和記念のための記念碑等施設の在り方を考える懇談会
    
       委 員 名 簿

       東江 康治  (前名桜大学長・元琉球大学長)
  (座長)  今井  敬   (日本経済団体連合会名誉会長、
               新日本製鐵株式会社代表取締役会長)
       上島 一泰  (株式会社ウエシマコーヒーフーズ代表取締役社長、
               前社団法人日本青年会議所会頭)
       上坂 冬子  (ノンフィクション作家、評論家)
       草柳 文恵  (キャスター)
       坂本多加雄  (学習院大学法学部教授)
              [平成14年10月29日逝去]
       田中 明彦  (東京大学東洋文化研究所長)
       西原 春夫  (学校法人国士舘理事長、元早稲田大学総長)
       御厨  貴   (政策研究大学院大学教授)
(座長代理)  山崎 正和  (劇作家、東亜大学長)
                                 (50音順)

 最終報告書には故坂本多加雄委員の懇談会における発言要旨が3枚ほど少数意見と
して添付されていたが、そこだけがまともな知性を示す文意である。皮肉なことに誰
が読んでも、排除された少数意見が知性のレベルに達している。私はそう言って坂本
氏の次の発言を読み上げた。

==========================

〈平成14年4月11日第4回懇談会〉
いかに平和をつくるかというのにはいろいろな道があって、国民全部が高い国防関心
をもっているために、相手方も攻めてこられないで平和になったこともあるので、一
方的に受動的に平和を祈念して、戦争の犠牲者は気の毒だということだけ思っていれ
ば平和になるというものでもない。 

〈平成14年2月26日第3回懇談会〉
・・・・一般に先進国を含めて戦没者の追悼施設、記念碑について、従来のいわゆる
敬意を表する形態自体をこの国際化の時代であるから見直そうという動きが各国で出
ていれば、それはついに国際化もここに及んだかということだが、そういうことでは
ないと思う。特に近隣諸国もそうで、韓国、中国でナショナリズムを越えた国際的な
観点から戦没者を慰霊するような動きがあるわけではない。・・・・・(中略)・・・
・日本だけが仮にそういう新しいものを出すということの理由は何か。

==========================

 以上でほとんどすべてを語ったに等しい。私見を加える必要はなく、「追悼懇の非
常識」のテーマは坂本さんが全部言ってくれていると思うが、なぜ他の委員——その
中には信頼の置けそうな人が何人もいるのに——がかくもダメな結果になるのかとい
うと、政府委員に選ばれると大抵みな政府の意向——この場合は官房長官の意向——
に沿おうとする心根が働くためである。さらにもうひとつ今度の場合には「政教分
離」に関する世界の一般知識を欠いている人が多くて、「首相の靖国参拝は憲法の政
教分離令に反する」などといわれると、すぐ腰がぐらつくことに根本の原因があるよ
うに思える。そこで私は、残された時間はこのテーマの話をした。
.



Subject:平成15年2月21日   From:西尾幹二(B)Date:2003/02/22 12:46

 20日私は札幌行きの時間を予定より4時間半もおくらせて、全日空ホテルで行わ
れた国際日本フォーラムの緊急委員会に出席した。席上さまざまなコメントが参集者
から出されたが、すべてを、アピールに反映したわけではない。けれどもアピールと
はそういうものである。

 ある委員が「となりに核大国ができてもいいのか」と発言したことばが単純な一語
だけに強く、印象的であった。元外交官の某氏が「ドイツとフランスがもっと北朝鮮
の問題に真剣であるべきだ。」と言ったのも成程と思った。また、「昨9月17日の
ピョンヤン宣言で小泉首相が核のことをとりあげずに、10月16日にアメリカから
たしなめられるという一件があった。今ごろ日本が核を騒ぎだしても、『だから前に
言ったじゃないか』とブッシュに言われそうで、バツが悪い」ということばを吐いた
人がいたが、まったくその通りである。「20年前にはNPT(核拡散防止条約)に日
本は入らないと抵抗した一幕があったことをここで思い出した方がいい」と言った人
もいた。

 私自身は日本の安全を守るために朝鮮半島と利害対立が起こる可能性もある、と書
いておいてほしいと発言したが、アピールの文面には盛りこまれていなかった。た
だ、イラク問題と北朝鮮問題とを結合する論理を非道徳のように唱える「奇論」が世
の中にあるので、むしろ冒頭から二問題の一体化を正面きって堂々と訴えるようにし
てほしい、と発言したことは、格別に私見が取り入れられたわけではなく、全員のコ
ンセンサスでもあって、実現している。

 国際日本フォーラムのホームページよりアピールの全文を以下に引用する。

緊急提言委員会アピール
http://www.jfir.or.jp/j/about_us/appeal_2.htm



 財団法人日本国際フォーラム(会長今井敬)は、2003年2月19日にその拡大
緊急提言委員会を開催し、下記の同委員会有志アピール「イラク問題について米国の
立場と行動を支持する」を審議、採択のうえ、同委員会有志39名の連名により、こ
れを2月20日付けで新聞発表いたしました。

 日本国際フォーラム緊急提言委員会は、激動する内外情勢のなかでその変化に対応
し、適時適切な政策提言を緊急に行なうことを目的として設立され、1993年のウ
ルグアイ・ラウンド交渉最終段階では同年2月5日「『コメ輸入の関税化』受入れを
決断しよう」との緊急提言を発出して、その後の国民的決断をリードし、また200
1年には当時鈴木宗男議員の影響下で進行していた「二島先行返還論」を批判して同
年6月29日「対露政策に関する緊急アピール」を発表して、大きな反響を呼びまし
た。

 今般、イラク、北朝鮮情勢が重大な局面に入るなかで、本件アピール「イラク問題
について米国の立場と行動を支持する」を発表することとなった次第です。

→ 緊急アピール「コメ輸入の関税化受け入れを決断しよう」 (1992年2月2日)

→ 「対ロ政策に関する緊急アピール」(2001年6月29日)



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日本国際フォーラム緊急提言委員会有志アピール


 【イラク危機と北朝鮮危機は連動している】米国によるイラク攻撃の時期が切迫す
る一方で、北朝鮮の核武装化の動きがエスカレートしています。われわれは今こそ何
が日本の国益であり、何が国際社会の進むべき道であるかについて熟慮しなければな
りません。われわれは、イラク問題について米国の立場と行動を支持し、北朝鮮問題
での日米連携の強化を主張します。この二つの危機は連動しており、われわれが北朝
鮮危機を解決することができるかどうかは、われわれのイラク危機への対応いかんに
かかっています。

 【「ならず者国家」の大量破壊兵器保有は許容できない】われわれが最初に明らか
にしたいことは、いわゆる「ならず者国家」による大量破壊兵器の開発や配備は許容
することができないという基本的立場であります。九・一一テロによって国際テロリ
ストの脅威が明らかにされました。大量破壊兵器がかれらの手に渡った場合の脅威に
は計り知れないものがあります。国際社会は、平和的措置によって脅威を取り除くこ
とができない場合には、最後の手段として武力を行使せざるを得ません。ただ「反戦
平和」だけを叫んだり、「イラクも悪いが、さりとて米国の軍事力行使も悪い」と
いった他人事のような発言は、自らの立脚点を放棄し、警棒と凶器の区別をしない誤
りを犯すものです。イラクは湾岸戦争停戦の国連安保理決議六八七の下での大量破壊
兵器の査察を一九九八年に拒否しました。昨年十一月に採択された決議一四四一は、
イラクに義務遵守の「最後の機会」を与えましたが、その挙証責任はイラク側にあり
ます。しかるに、これまでのところでは、イラクが義務遵守を証明したとはとてもい
えません。

 【米国支持の旗幟を鮮明にせよ】次は、日米同盟への揺らぐことのない信頼の堅持
であります。ソ連の崩壊と中東欧諸国のNATO(北大西洋条約機構)加盟により、
ドイツ、フランスにとって東方からの脅威はほぼ消滅しました。両国はその分だけ、
行動の自由を拡大したといえるでしょう。これとは対照的に、北東アジアでは北朝鮮
の核武装志向が地域の緊張感を高めています。かりに国際社会がイラクの武装解除に
失敗すれば、北朝鮮はその核開発計画をさらにエスカレートさせることでしょう。朝
鮮半島における核保有国の出現が、日本の安全を脅かし、外交を掣肘することは必至
です。一部に、ドイツやフランスのように日本も米国から距離を取ることによって、
外交の「自主性」を発揮せよとの主張がありますが、ドイツやフランスの置かれてい
る立場と日本のそれとの間には大きな懸隔があります。いま日米同盟は試練の秋を迎
えています。日本はこのような時にこそ、自主的な判断によって米国支持の旗幟を鮮
明にすべきです。イラクと北朝鮮という二つの難問の解決に当たらなければならない
米国に対して「イラクへの武力行使には反対するが、北朝鮮の危機には断固として対
処してほしい」などと日本が要求するのは、道理にも正義にも反しているといわなけ
ればなりません。

 世界情勢の重大な危機の中で、左記に署名するわれわれ日本国際フォーラム緊急提
言委員会有志39名は、その所信を明らかにして国民各位に訴える次第であります。

二〇〇三年二月二十日

緊急提言委員会委員長
田久保忠衛
 杏林大学教授

委 員

愛知 和男
 日本経済研究会理事長
 秋山 昌廣
 シップ・アンド・オーシャン財団会長

石井公一郎
 元ブリヂストンサイクル会長
 市川伊三夫
 慶應義塾財務顧問

伊藤 憲一
 日本国際フォーラム理事長
 猪口  孝
 東京大学教授

今井  敬
 日本国際フォーラム会長
 今井 隆吉
 世界平和研究所理事

鵜野 公郎
 慶應義塾大学教授
 江畑 謙介
 軍事評論家

岡崎 久彦
 岡崎研究所長
 小笠原敏晶
 ジャパンタイムズ会長

小此木政夫
 慶應義塾大学教授
 小山内高行
 外交評論家

柿澤 弘治
 衆議院議員
 金森 久雄
 日本経済研究センター顧問

金子 熊夫
 日本国際フォーラム理事
 北岡 伸一
 東京大学教授

木村 崇之
 前EU代表部大使
 黒田  眞
 安全保障貿易情報センター理事長

小池百合子
 衆議院議員
 斎藤  彰
 読売新聞社編集局総務

佐々 淳行 帝京大学教授 澤  英武  評論家
志方 俊之 帝京大学教授 島田 晴雄 慶應義塾大学教授
神保  謙
 日本国際問題研究所研究員
 永野 茂門
 日本戦略研究フォーラム理事長

中西 輝政
 京都大学教授
 那須  翔
 東京電力顧問

奈須田 敬
 並木書房会長
 西尾 幹二
 電気通信大学名誉教授

袴田 茂樹
 青山学院大学教授
 服部 靖夫
 セイコーエプソン副会長

村田 良平
 日本財団特別顧問
 森本  敏
 拓殖大学教授

屋山 太郎
 政治評論家
 吉田 春樹
 吉田経済産業ラボ代表取締役


http://www.jfir.or.jp/ (財)日本国際フォーラム