Subject:平成15年3月10日 /From:西尾幹二(B)/Date:2003/03/11 18:19

 (少し日をさかのぼって記す)

 2月17日(月)正論大賞授賞式が赤坂プリンスホテルであり、中西輝政氏のお祝い
にかけつけた。前夜氏に所用があって電話をしたら、感冒がひどく、出席は無理では
ないかとさえ思ったが、会場ではしっかり演説していた。それでも人の群れにとり巻
かれつらそうなので、私は気の毒で、あえて面と向かってあいさつする場に近づかな
かった。代りに初対面の和装の奥様にご挨拶した。姪ごさんとご長男、そして多分ご
母堂と思しき老婦人も来られていて挨拶を賜った。

 作詞家の阿久悠さんが正論新風賞というのを受けた。「新人賞ならおことわりする
ところだったが、新風賞だったのでいただくことにした」と壇上で述べられ、みなを
笑わせた。若手歌手の新人賞のたぐいをさんざん与えてきた側のかたである。私はフ
ロワーの阿久さんに近寄り「カラオケで今までたくさん歌わせていただいてありがと
うございます」と申し上げたら、私の顔をみて、「場違いなところに来ちゃったんだ
なァ、やっぱり」などというので、何かこちらが申し訳ないような気がして気まず
かった。「場違いなところにきた」は壇上の挨拶でも言っていた。

 中西さんと正月の産経新聞で対談した安倍官房副長官がかけつけて一言の祝辞が
あった。安部さんは今、注目の政治家だ。いつであったか、テレビで「次期総理と目
されていますね」と問いを向けられたら、「田中真紀子さんだってそういうことを言
われていたでしょう」とさらりとかわした。うまい。スマートである。それでいて情
熱の人で、しっかりした愛国者である。

 安倍さんとは7〜8年前、共通の若い知人の結婚披露宴で来賓席に隣り合わせて、
以来知己となり、一昨年の教科書問題のピーク時にはたいへん力になって頂いて、恩
の受けっぱなしである。フロワーで二、三ことばを交すと、すぐに私の意を察し、
「先生、私の世代より若い人は少しづつ良くなっていて、自民党もこれから変わって
くると思いますよ。」「私のような60代にダメな人が多いんですよね、保守の名でじ
つは保守じゃないというような。」「そうです、そうです。」自覚的な保守と無自覚
な保守との区別について一寸の間に話は噛み合った。こういうパーティーの対話は、
ものの2〜3分で話が核心に触れ、さっと別れるのが骨である。

 パーティーでたくさんの人に会ったが他にはあまり印象的な対話を交していない。
帰りぎわにPHP研究所の北村正則氏とVoice編集部の吉野、中沢の両氏に誘われ、
四人で赤坂のサントリーへ行って飲み直した。私が書き上げたばかりの「本居宣長の
〈日本人の魂のおおらかさ〉」(『諸君!』4月号)について快気炎をあげ、北村氏か
ら「またまたいい調子」とからかわれた。吉野編集長はVoice3月号の売れ行きがま
ことに目ざましく、拙論「北朝鮮は妥協しない——アメリカ政府に問い質したきこと
——」(なぜイラクより危険な国と及び腰で話し合うのか)の、親米派なのに人より先
んじてアメリカに文句をつけたショッキングな一撃のおかげだというので、「お世辞
がうまいなァ」と私は答えた。
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Subject:平成15年3月11日 /From:西尾幹二(B)/Date:2003/03/12 15:49

 2月25日〜28日の間三笠書房の仕事でホテル・エドモントに宿泊した。2日目
の正午、ロビーに朝日新聞社会部の記者が取材にきた。約束していたのである。1987
年以来の朝日新聞社襲撃の一連の事件が11日をもって時効成立となる。「赤報隊」
と名乗るものの犯行声明が残されている。このことをめぐる見解をただしに来た。

 私に「見解」らしきものはことさらないが、つねづね朝日新聞に厳しく意見をもつ
ものの代表者の見解をのせたいといい、私と「救う会」佐藤勝巳会長のコメントをほ
しかったらしい。なぜ「つくる会」は私ではなく、田中英道会長のコメントでないの
かが不思議だが、詮議しても仕方がない。また、逃げるのも嫌だから黙って応じた。

 ロビーで1時間雑談をして、記者は帰った。ここに二つの文章を掲げる。(A)は私
の話をまとめたといって、記者が最初に送ってきた文案である。(B)は本日、すなわ
ち時効成立の11日の朝日新聞28−29面の全面をつかった特集記事にのっている
私のコメントである。(B)に「靖国にとって迷惑な話」という題がつけられていた
が、私のつけた題ではない。

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 (A)
 私たちの教科書に対して厳しい批判が起こった時、テロを懸念する警察から、身辺
に気を付けるようたびたび注意された。だから、朝日新聞は私たちの教科書を繰り返
し批判していたとはいえ、言論人として朝日の事件は身につまされる。右も左も、言
論への暴力はいけない。赤報隊は靖国問題で中曽根元首相を批判し、竹下元首相に対
しては靖国参拝を求めた。靖国にとって迷惑な話だ。靖国を大事にする人が暴力とつ
ながっているように、世間の人々から思われてしまう。靖国関係者は、こんな形で靖
国を尊重してもらいたいとは思っていない。

 (B)
 私たちの教科書に対して激しい攻撃が起こった時、テロを懸念する警察から、身辺
に気を付けるようたびたび注意された。だから、朝日新聞が私たちの教科書を繰り返
し批判していたとはいえ、言論人として朝日の事件は身につまされる。一昨年8月、
つくる会の事務所の壁ぎわに発火装置が仕掛けられ、網戸などが焼かれた事件も、朝
日も含めマスコミにはもっと厳しく批判してほしかった。右も左も、言論への暴力は
いけない。
 赤報隊は脅迫状で靖国神社参拝問題に触れた。靖国にとって迷惑な話だ。靖国を大
事にする人が暴力とつながっているように、世間の人々から思われてしまう。靖国関
係者は、こんな形で靖国を尊重してもらいたいとは思っていない。

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 (A)ではダメだと口頭でいい、(B)に直させた。(B)の一行目の「激しい攻撃」は
私がさらに直したもので、原文では「厳しい批判」だった。「事務所の壁ぎわに発火
装置」も元の文では「事務所のそばに発火装置」とかかれていたものを、直させた。
以上事実の報告のみ記す。
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