横久保義洋さんから
哭 先師 本覺院殿信導日幹居士(西尾幹二先生)
秋雨濛濛雲蔽巓 驚聞噩耗哭東天
象胥才顯尼華論 清議名高愈軾篇
誘掖後生能自立 冥思心性友前賢
師從廿載悔何短 夢裡逍遙酌冽泉
秋雨濛々として雲 巓を蔽ひ
噩耗を驚き聞きて東天に哭す
象胥 才は顯はす尼・華の論
清議 名は高し 愈・軾の篇
後生を誘掖して能く自ら立たしめ
心性を冥思して前賢を友とす
師從すること廿載 悔ゆ何ぞ短きを
夢裡 逍遙して冽泉に酌まん
大意:
秋雨が降り続き、近くの山の頂が雲に覆われて隠れてしまっているようなその日に、 突然の先生の逝去の報せを聞き、悲しみのあまり先生のおられる東の空に向かって声を上げて哭く。
思い返すと先生は早歳よりニーチェ(尼采)やショーペンハウワー(叔本華)などの著作の翻訳によってその才能を発揮し、 やがて、その憂国憂民の至情は筆端に迸り、時勢を厳しく論ずるようになったが、その節義は韓退之(愈)や蘇東坡(軾)の諫奏の文より優れている。
多くの後進を教え導いては、いずれも論壇等で一本立ちできるようにさせ、
自由・孤独・宿命、そして生死等の哲学的命題を深く考え、時として徂徠・宣長、あるいはベルジャーエフなど古の内外の賢者たちの著述の林に分け入り、それを自家薬籠中のものとした。
先生に師事することができるようになって二十年あまり経ったが、今となってはその歳月が短すぎたことが惜しまれてならない。
冀わくは夢の中で先生にお会いし、生前愛された公園の辺りを共にそぞろ歩きしながら、そこの清冽な泉の水を汲み上げて飲むようにして再び先生のお教えをいただきたいものである。
横久保義洋(キルドンム) 哀輓