『「アメリカ」の終わり』の著者山中泉氏の講演を聞いて

ゲストエッセイ
坦々塾会員 松山久幸

 7月3日、文京シビックセンターで『「アメリカ」の終わり』著者、山中泉氏の講演会があるのを知って興味を覚え、会場に足を運んだ。「英霊の名誉を守り顕彰する会」の佐藤和夫会長が主催する講演会である。そもそも『「アメリカ」の終わり』は西尾幹二先生が、ご自身のお読みになる前から私に勧めてくれた著作である。直ぐ購入して読んだ同著には、アメリカの惨憺たる状況が余すところなく記されていて、ただ驚愕するばかりであった。

 滞米30数年の山中氏はアメリカの現実を肌で感じ、日本とアメリカを行き来する度に、独自の取材源を持たない日本のメディアが、FOXニュースを除き民主党びいきであるアメリカ主要メディアの単なる受け売りであり、垂れ流しに過ぎない、横書きをただ縦書きにしているだけだと嘆いている。そんな訳だから、私達日本国民に正確な情報など伝わって来ないのは当然至極のことである。

 同書にも書かれていることではあるが、アメリカの大学の現況に触れ、左派系教授13人に対し保守系教授はたったの1人という比率(カーネギー・コミッション レポート)にまでなっていて、大学の左傾化は驚くべき状態に陥っているという。学内がヘルベルト・マルクーゼを中心としたフランクフルト学派の亜種共産主義思想に侵され、それが蔓延した結果である。フランクフルト学派の思想による「critical race theory」(批判的人種論、人種多様性理論)がまさに猛威を振るい始めている。

 人種差別撤廃やキャンセルカルチャーの名のもとに、いまアメリカの学校では、建国が1776年の独立宣言ではなく、1619年の黒人が奴隷としてアメリカに初めて連れて来られた年を建国の年、すなわち黒人奴隷がアメリカを作ったとして教えられているそうな。奴隷として連れて来られた黒人は被害者で善、奴隷を連れて来た白人は加害者で悪として位置づけられて、2020年5月のジョージ・フロイト事件以降は、共産主義者が組織したBLMやアンティファによる都市破壊活動が猖獗を極め、J・ワシントン、リンカーン、コロンブス、グラント等の偉人の銅像の破壊まで起きている。しかも50あるアメリカの大都市の中の35は民主党の市長で、彼等は暴徒に対する厳しい処置は敢えて取っていない。中でもニューヨーク市は警察予算を6000億円から1000億円をカットしている。

 学校教育の現場では、教員組合の指示で小学1年の子供に、男の子・女の子・お父さん・お母さんの呼称を禁じるまでに至っている。一般家庭の母親からは流石に強い反発を受けてはいるようだ。

 また、軍隊においては白人男性兵士がいま最も弱い立場になり、女性・黒人・ゲイ(少数弱者)などが優遇されているため、軍の士気はかなり低下しているという。軍から白人が排除されつつあるといってもよい。軍の統合参謀本部議長(黒人)が、私はマルクスやレーニンを読んでいますと告白していて、暗に将校たちにそれを読めと言っているに等しいと。

 2008年から2016年までのオバマ大統領時代は、生活保護者という弱者に殊の外配慮をして、オバマケアを実施した。その負担をしたのはミドルクラスであり、山中夫人の保険料も30,000円から60,000円に倍増したとのこと。弁舌爽やかなオバマはそもそもディープ・ステイトのパペット(操り人形)として選ばれた。バイデンもまた同様のパペットで、世間ではオバマ第3期目だと揶揄されている。現在、バイデンの後ろにはオバマがいて、オバマの後ろでは、JPモルガンやゴールドマンサックスといったウォール街やビッグテックがディープ・ステイトとして睨みをきかす構造となっている。

 片や、トランプは善良なる白人労働者・黒人・ヒスパニック・ジア系などに支持層を拡げて、先の大統領選では現職大統領としては最高得票の7,500万票を獲得した。かつての共和党と民主党の支持基盤は逆になって仕舞った。

 個別的な話として、ユナイテッド航空は自社のパイロット資格を、黒人と女性だけに限る方針を打ち出したという。

 この日のもう1人の講演者である元米軍海兵隊員のマックス・フォン・シュラ―氏は、岩国基地での勤務経験もあり、次のような面白い話題を提供してくれた。アメリカ軍艦のアメリカ製部品は欠陥が多く、日本の佐世保や横須賀の基地で修理して日本製に取り換え、それでやっとまともな軍艦になるという。会場内がどっと笑いに包まれた。その米海兵隊には退却や撤退はなく、大日本帝国陸軍と同じだと強調していた。

 講師の山中泉氏の著作『「アメリカ」の終わり』は今のアメリカ社会をリアルに冷静に見つめて描写したものであり、読者に対して強い説得性を持つ。偏向したというより、左傾民主党のプロパガンダ機関に堕したアメリカ大手メディアとそのコピーに過ぎない日本マスコミ(産経も含めて)の論調ばかりを目にする私にとっては、アメリカのかくまでの左傾化の現実は全くの驚きであった。アメリカの左傾化がこのまま進めば世界情勢は一体どうなって仕舞うのか。そして日本は果たしてどうなるのか。甚だしい危機感を覚えずにはおれない。

 最後に付言しておきたいことがある。アメリカの左傾化に深く切り込んだ著作がもう1冊最近出版されている。渡辺惣樹氏の『アメリカ民主党の欺瞞2020-2024』(PHP研究所)がそれだ。渡辺惣樹氏もカナダ在住で、奇しくも山中泉氏と同様に実業界に身を置きながら評論活動を精力的に行っている。まだお読みでない方には『「アメリカ」の終わり』とともに渡辺氏の近著もお薦めしたい。
(令和3年7月4日記)