宮崎正弘氏を囲む――中国反日暴動の裏側(十九)

D:面白い見方があるんですが、ベルリンオリンピックが盛大に盛り上がって、丁度9年後にナチスが崩壊する。それからモスクワオリンピックの9年後にソ連が・・・・・(笑い)・・・・北京オリンピックの9年後まで長生きしたいという先輩がいるんですよ。(笑い)それは冗談ですけれどね。

宮崎:それは2017年ですね。

C:東京オリンピックのあとはどうなったんです?

D:東京オリンピックは民主主義国家だから、そうではなくて、独裁国家がオリンピックをやると9年後に崩壊すると。

西尾:まぁ今のこの新聞にも、日本歴史教科書って出ているね。

B:大躍進の時に餓死者が2000万と3000万とも出ていますね。あの時内乱が起こらなかったのはどういうことですか?

宮崎:やはり軍事力ですよね。それに鎖国していましたから、外国からバイキンというか、自由思想が入っていませんでしたから。

西尾:今でも私は鎖国だと思うのですけれども。携帯電話というのは鎖国をやぶる力になるんですか。

宮崎:なると思いますね。海外ともかかりますから。一部のGPSとか、ただこの間の上海デモの時に、あらゆる携帯電話にまで、当局から通知が入ったというあの恐さ、みんな登録番号をどこかが控えているんですよね。文字通信で入っていて、声では入らないけれど、声の通信がどこまで統御されているか、ちょっと疑問です。

 今日言い忘れたのですが、反日といっていても、本気の反日の人は少ないと言いましたけれど、反日というのは、これが記号でこれを反日=反共産党と置き換えますと、彼らはそれで通信をやっている形跡があるんです。若者達が。それだと当局にはキーワードには入っていないから、それで自由な通信をしているんです。

西尾:一字置き換えて読み直せと。

宮崎:そうそう、そういうことあると思いますよ。それは複雑な思考回路を持っている民族ですから。

西尾:それは法輪功の中のメディアとも違うと?

宮崎:そうとうダブっているんです。法輪功がこれだけの力を持ったということは、今までの民主人戦とか、中国民主党とか、北京の春、中国の春、その外世界中の反体制派が結局ここに、収斂しているんです。コメントはみんなここに出す。自分達の機関紙はまあせいぜい・・・・

西尾:じゃあ、アルカイダなんかとも繋がっているの?

宮崎:アルカイダとは繋がっていないでしょう。

C:大紀元はいつから出ているのですか?

宮崎:これは去年あたり、おととしに池袋に撒いていたのが最初で、えっと思って取ったんですね。

西尾:資金は何かというさっきからの質問ですが。

宮崎:資金は法輪功です。

C:法輪功はそんな資金があるんですか?身銭ですか。

宮崎:話半分、3000万単位だって、創価学会600万であれぐらいの金があるんだから、そりゃ3000万というと相当あるでしょうね。

A:その情報が出回るのは在外の人たちに向けてなんですか。

宮崎:在外です。内部には一切入りません。

西尾:だから弱いね、内部に入らない限り。携帯でどうなのか、というところですね。えっと、三好さんどうぞ。

M:ちょっとひとつお聞きしたいのですが、今回の中国の反日の引き金、韓国の反日がありましたけれど、それが引き金になったのではないかと言われましたが、韓国の反日と中国の反日は、何かつながりがあると見た方がいいのでしょうか。

宮崎:情緒的な部分の反日感情は近接していると思いますけれど、韓国の場合は盧武鉉の延命が第一でしょ。そのために、昔日本に協力したやつをとっつかまえて、罰金を課すとかいう法律を作ったり、いろんなことをやっていますね。

 それから反日グループは殆どプロですからね。戦争中に抗日分子であったということを言えば、年金をもらえるんですよ、ずーっと。強盗やった犯人も刑務所から出てきて、みんな私は抗日分子だと言って、金を貰っているんですから。その団体が大きなメジャーで、三つか四つあって、彼らは会費をとっていますから、常に日本大使館に行って、何かをやらないと、レゾンデートルにならないんですよ。そうやってやってきたら、今度はたまたま竹島でぶつかったでしょ。島根県が竹島の日を制定した、それでまた燃えていると思います。中国の場合は反国家分裂法と2プラス2があったけれど、韓国の場合はやはり竹島問題で火がついたんでしょう。

C:呉善花さんは、中国の反日デモも韓国が作ったんだと言っておられましたけれどね。

宮崎:世界中に文化を発信したのは韓国だと言いたくなるのでしょう。

C:韓国に触発されたんだろうと。

西尾:少しはあるけれど、中国は中国で別です。あとの方、いかがでしょうか。

L:中国から日本にたくさん留学生が来ているわけですけれど、あの人たちは日本の中で学生生活を送りながら、中国の政治的立場というものを日本の学生の中で言わないように、ひっそりしているということはあると思うのです。この間テレビを見ていましたら、日本に来ている優秀な中国の留学生達は今度の反日暴動をどう考えるかということで、アンケートに答えていましたけれど、日本を相当理解しているはずの学生達が、大体半分ぐらいは反日暴動賛成だと、答えていたんですよね。ちょっと質問するとすぐに、大虐殺だとか、侵略だとか、簡単にそういうことを言うんですよ。

 つまり、歴史の知識というものがないので、つくる会が矯正しようとした反日の歴史知識のまんまで見るんですね。だから、それを教育する手段が日本側にあればいいものだと思うのですが、まさか留学生に入国前に日本史の試験をやるわけにもいかないでしょうし、考えてみると、つくる会の歴史教科書が大きく普及することが鍵だなというふうに、思います。どうにもならないんだなと、閉じられた気分になりました。

西尾:それでは最後に今のことについて感想を述べますと、基本的には悲観しておりましてね、要するにレッテル張りですね、余り深い意味もなく。つくる会というものも世界で有名なレッテル張りをされているわけですよね。アメリカやヨーロッパの世界まで、歴史修正主義が悪いことをしているから、それは一部除いて、小泉初め政府は謝罪して、それで、中国が収まった、結構なことだというような言い方になっていますね。こういう構造でことが収まるのは、ものすごく嫌なんですよ。

 むしろ逆に大混乱が起きてですね、中国は野蛮な滅茶苦茶な国なんだよと、我々の主張しているのは、結局正しいんだよと、言うことが日本国民が肝に銘じるためには、中国の国民が自滅するくらいのことが起らないとだめなんじゃないかと思っているんですね。大躍進のころのことがまた起って、それが海外に今度は広く知られて、日本も外国もそれで初めて眼が覚めるじゃないかと、こう思っています。これで本日の会の最初の山口先生のお話と逆で、大混乱、大波局を期待しているという私の最初のテーマに戻ります。小泉さんがなんか謝罪めいた変なことを言って、収束してしまうのは、結局負債がこっちに残るだけと思っています。

 
 
 過激な発言をしたのは、私だけでしたが、今日はどうも有難う御座いました。

日本会議へのメッセージ

 日本会議から私に「みんなで靖国神社に参拝する国民の会」の発起人に就任し、国民に呼びかけるメッセージを書き送って欲しいとの依頼があったので、就任を承諾し、次のメッセージを認めた。

  弁解、釈明、反論などの

「罪」を前提にした議論をすべて止めよう。

日清戦争以来の日本の戦争が中国を一国として保全し、

韓国と台湾その他に現代文明を与えた

アジアの歴史の母であることを前提にした議論を、

政治家が国際舞台で当然のごとくに語るように導こう。

宮崎正弘氏を囲む――中国反日暴動の裏側(十八)

西尾:そのとき武器は返すの?その辺の管理はどうなっているんですか。

宮崎:これはちょっとわかりません。管理はあってないようなものかもしれません。ともかくね、モラルがないでしょ。私ね、海南島の山奥の五師団、昔日本の監視所があったところに行ったんですよ。突然山の中にピンクのビルがあってね、何だこれと思うと、それが兵舎なんですよね。私が泊ったのがなんとか賓館というんですが、一泊2万1500円ぐらいで、値段はともかく、外人はこっち側、あっち側に違う旅館があるんですよ。それで朝みていましたら、皆軍人が女と出てくるんですよ。なんだこの腐敗ぶりは・・・と、そういう印象を持ちました。

 チベットへ行く時に、西都から320人乗りのエアバスだったのですが、310人が兵隊なんです。今兵隊が勤務の移動を飛行機でやっているんですけれど、たまたま30分ぐらい飛行機が遅れた時にね、ロビーのソファにふんぞりかえって寝ているのはみんな軍人でね、日本の自衛隊ならあんなこと絶対にしないでしょ。一般乗客が立って待っているのにね。それで若い兵士に、いろいろ話し掛けて、「おまえ等何処へ行くんだ?」「ラサに行く」「何年勤務だ?」「1年勤務だ」と。それでね、バリバリ、バリバリ食べてました。「ところで、隊長は何処に居るんだ」と聞きましたら「隊長はあそこで飲んでいる」と。

 一事が万事そうではないと思いますけれど、「台湾向けに700基のミサイルといっていますけれど、使えるのはおそらく200基くらいだろう、その中で台湾に飛んでくるのは75基ぐらいしかないだろう」と佐藤守さんが言っておられましたけれど、それに近いのではないでしょうか。

東中野:どうなんでしょう?200年大体国家が治まって、200年天下大動乱あって、この繰り返しがチャイナの大陸でしたけれど、1840年のアヘン戦争からまだ200年経っていないんですよ。1840年からずっと内乱が続いていると考えていいのか。年表を作ってみますと、そうなる。

西尾:共産党政権も内乱のひとつと?

東中野:そうです。大躍進政策の3000万も内乱の一つ、毛沢東の文革も内乱の一つ、年表を作っていきますと、私はこれはチャイナの内乱はまだ終わっていないんではないかと思います。ひょっとして内乱の原因は、いっぱい下に隠れているわけですから、天下大乱が起きてきても不思議ではないと思います。

西尾:2040年に別の政権が生まれると?

東中野:そうかもしれませんね。

西尾:それは群雄割拠ですか?

東中野:それはわかりませんけれど、今の中国共産党の磐石の独裁というのは、クェスチョンマークがつくんだなと、お話をうかがっていて思いました。

宮崎:法輪功は会員数を7000万人と言っていますが、話半分にしたって3500万。

東中野:共産党員は何人くらいですか?

宮崎:6400万くらいですから、今100万人脱党したといっています。法輪功がアメリカに行って、英字新聞を出して、それから香港、台湾、日本、アメリカで漢字の新聞を出しているんですよ。日刊ですよ。この軍資金はどうしているのかということですが、すでにそれだけの反政府運動が広がっているんですよ。

東中野:これはインターネットですか?

宮崎:インターネットも出しています。英語版、日本語版、支那版。

C:資金源は?

宮崎:ですから法輪功。会員がみんなで身銭を出す。

東中野:すごい反政府運動ですね。

宮崎:統一教会が世界日報を出していて、アメリカに行っても世界日報がありますけれど、ワシントンタイムズは完全に統一教会ですからね。

東中野:え?ワシントンポストじゃなくて。

宮崎:ものすごくいい新聞があるんです。原理色、統一教会色はぜんぜん出していない。で、申し上げたいことは、そこまでの反政府運動が巨大な組織として、世界に散らばっている。そしてテレビ局もアメリカに一個作りましたから、毎日反共、反政府です。

お知らせ

 6月末~7月の私の公開活動

《評論》
「靖国で譲れば次は『天皇制廃止』だ」
(特集・中国に譲る勿れ)『Will』8月号

《出版》 
編著『新・地球日本史2』
扶桑社刊  ¥1800

 周知の産経新聞好評連載の後半部で、現代史の中で最も重大かつ議論を呼ぶテーマを18氏が論じる。

 巻頭に三浦朱門氏と私との対談があり、新聞掲載時の対談の約3倍の分量。また巻末で私は書き下ろし新稿「日本人は運命の振子を自ら動かせたか――あとがきにかえて――」を掲載し、責めを果した。

《増刷》
民族への責任』増刷決定!

《講演筆録》 
「ヨーロッパ人の世界進出」
藤岡信勝+新しい歴史教科書をつくる会編
『歴史教科書10の争点』の中の第三章。
徳間書店刊  ¥1500

《テレビ出演》 
TVタックル「靖国問題を徹底討論する」(仮題)
7月11日(月)21時~22時テレビ朝日

《記者会見》
船橋西図書館焚書事件・最高裁判決を受けて
7月14日(木)10時30分の判決以後、
時間未定  法務省記者クラブ

《講演》
 「これでよいのか!日本の姿勢」
7月9日(土)午後2時~4時30分
鎌倉市 鶴岡八幡宮境内 直会殿
(JR鎌倉駅下車 徒歩10分、Tel 0467-22-0315)
参加費:  ¥1000
主 催: 教育を考える湘南地区連合会・鎌倉市の学校教育を考える会
      教科書を良くする神奈川県民の会
代表連絡先: Tel 0467-43-2895(木上)

《シンポジウム》
サマーコンファレンス2005道徳力創造セミナー
7月23日(土)15時30分~18時
名古屋国際会議場(名古屋市熱田区西町1-1、Tel 052-583-7711)
基調講演: 西尾幹二
パネリスト: 兼松秀行、陰山英男、水野彌一
参加費: 入場無料  
主 催: 日本青年会議所
代表連絡先: Tel 090-8991-7123(宮崎修)

『新・国民の油断』の改版について
 

 『新・国民の油断』の128ページ後半部分に誤解を招きかねない記述があり、129ページの写真の無断使用にも遺憾の意を表し、同書は店頭からいったん回収された。しかし問題の個所を修復して、あらためて店頭に出すことになっている。ご迷惑をかけた関係各位にお詫びする。本全体の内容には格別の影響はないので、今後も読み継がれ、社会批判の一書として重要な役割を果たしつづけることを疑っていない。

宮崎正弘氏を囲む――中国反日暴動の裏側(十七)

西尾:ご発言いただいていない方、東中野先生いかがでしょうか。中国問題をに携わっていたお立場から。往時の中国大陸の研究をなさっていて、今の中国はあんまり変わらないと思いますか・・・・

東中野:ちっとも変らないですね。結局腐敗と、汚職と、水滸伝の昔からそれですし、史記の昔からそれですし、皇帝専制が今は共産党独裁。今日のお話で驚きましたのは、農民の叛乱が20万件、しかしながら中央集権国家の軍事力というのは、月とスッポンですから、農民反乱は太刀討ち出来ない、近代軍隊に対しては。しかしながら、常にどの時代も農民反乱で、社会が大混乱に陥り、農民反乱のリーダーが二回も皇帝になり、これからまた同じような近代版の、21世紀版のそういった社会変動というのが、中国を襲うのかなぁと。

 しばらく小康状態が続いても、ネタはつきないわけでしょ。ぜんぜんネタはつきない。原因はぜんぜん消えていないわけです。金融問題だ、水問題だ、そして農民の不払い問題だ、すべてがそろっている。中国に向かって、アメリカは選挙をやってくれといいましたよね。中国のリーダーが農民は字が読めないんだ、字が読めないから選挙は出来ないんだと言ったら、アメリカはいや、インドネシア方式でちゃんと書いたものを配って、丸をつけさせたらいいじゃないかと、そこまで言ったんです。

 結局私たち日本にとって、非常に大きな不安というのは、常に中国人民の感情を傷付けたといわれますけれど、世論のない、言論の自由のない国ですから、大きな問題はそこにありまして、中国が民主化するということ。選挙をやって、そして自分達のリーダーを選ぶという、民主化するということがはたして可能か、そこが非常に大きな問題だろうと思います。そういう意味で、海外のメディアの反応として、21世紀の問題はもう日本問題じゃないんだ、中国問題だと、言っている。私はそうだろうと思いました。

 その意味では1930年代に、中国国民党が世界の問題は日本だと日本を問題視して言いましたが、それが20世紀まで続いて来て、21世紀に入ってようやく世界が日本を見る目を変えてきた。そしてアジアの問題は中国問題だと、こういう所に到達したところが、私としては非常に嬉しいと思います。

 あわせて、今度は日本がどういう政策を取るのか。相変わらずアメリカとは足して2で割った政策を行っている。したがって台湾問題に関してはアメリカと妥協する。今度は北京に対しても、足して2で割った対応を取るのか。「すみませんでした、私がいたりませんでした、どうかよりを戻してください」こういった、足して2で割る発想で外交を行っていて、それでいいのか。日本人が南京の問題で今までこれだけもめてるというのは、あの時にきちんとした記録を政府が残さなかったからなんだと思います。

 今回のバンドンの問題でも、政府はきちっとした記録を残してほしい。私たちはこういう発言をしたということを記録に残してもらいたい。やはり言葉だけでもいいので、先ほど西尾先生がおっしゃられたように、謝罪はする、しかしこれまで何度謝罪をしました、これが最後でございますと。そういう形で記録をきちっと残していかないと、50年たったときに、2005年のバンドン会議を歴史家が研究する時に、研究する資料がなくなるわけですね。政府がそういうものを用意してくれないと困る。

 70年代の南京はそういう、資料を政府が用意していないから、ものすごく今苦労しているわけです。あまつさえ、敗戦の時に全部焼きましたから、日本陸軍、海軍は、とんでもないことをやっているわけですよ。あれが残っていれば非常に楽なわけです。私たちは外交交渉というのは、二国間交渉であると同時に、その二国間交渉を世界に向けて発信するというような、発想をしなければいけない。

 合わせて、二国間交渉というのは50年後の日本民族に対して我々はこういうことをしたんだという記録を残す、そういう形でやってほしいなと思うのですが、ところが依然として村社会の発想で、足して2で割ることをいろいろなところでやっている。そういう気持ちで聞いておりました。

宮崎:一点だけね、今の中国の人民解放軍というのは、あれは国家の軍ではないんですよ。共産党に従属するもので、そういう意味ではプライベートアーミーなんです。それで第二軍、つまり人民武装警察、これが国に依存しているんです。そうしますと、近代国家の中央軍というのは、今の人民武装警察、これは機動隊の役目しかないんですが、ややとって代わりつつあるんです。そうすると、これからどうなるか。プライベートアーミーと、国家に属する軍隊というのがこうなる可能性がありますよ。人民解放軍はまた人数を減らすと言っていますから、240万今度、200万人になるのかな。

東中野:減らされた人民解放軍というのは、また私兵化するんでしょ?中国大陸では。

宮崎:それが皆盗賊をやるんですがね、それが危ないので、第二軍にいれているわけですよ。放っておいたら、この4月10日に北京でデモがあったように、やるんですよ。退役軍人は、暴動予備軍ですから、職がないしね。軍人恩給というものは
・・・・

東中野:退役軍人のデモがあったんですね。

宮崎正弘氏を囲む――中国反日暴動の裏側(十六)

宮崎:まず、鉄鋼から言いますと、新日鉄もJFも高炉を持っていくんです。しかしこれは大変なんですよ。この高炉で特殊鋼を作られたら、戦車から大砲からみんな向うの精度があがるんでね。この問題があるんですよ。

西尾:禁輸にはできないの、日本は政治的に。

宮崎:いや、もうこれは決めちゃっていて、向うで作っていますよ。

西尾:そういうのは、たとえばアメリカだったら防衛上のストップをかけると思う。

宮崎:日本にはその条項はありません。

西尾:だけども、それじゃ自分が自分を殺すような話ですね。

C:製鐵の投資はストップはかからない。もう少しハイテクのものになってくれば、ちがうんでしょうが。

宮崎:クルマの問題でしょ。クルマは全社でていて、しかもトヨタは、天津、広州、長春、三つ工場を作るんです。これみんな合弁でしょ。合弁というのは危ないですよ。ただ、それほどいいものは作りませんから。

 問題は日産ですよ。日産は武漢の――武漢は上海から600キロあるでしょ――その武漢から200キロ山奥のところなんです。なんであんなところに行ったのかというのは、非常に不思議なんですけれど、ただあそこでつぶれかけの(とうふう汽車)というのがあって、頼むからそこと合弁してくれと、カルロスゴーンは出遅れたのを一気に挽回するためにたのみこんで、あそこと合弁して、年間30万台作るそうです。日産は、それ以前の基本の商業として、クェスチョンマークですね。

西尾:どういうクェスチョンマークなの?

宮崎:つまり、そんな山奥に作って、どこに売るんですかね。作った自動車を全国に輸送するだけでも、コストがかかりますよ。それから原料を上げるのに、船でえっちらおっちら持って行って、それから武漢の山奥まで運ぶんですかね。

西尾:そこは計算してやっているんでしょ。

宮崎:いや、もちろんやっているんですが、ただ、現地に行っている人から聞くと、なにしろど田舎で、カラオケもない、週末に200キロ運転して武漢まで行ってカラオケをしに行くっていうんですからね。それぐらいひどい所だっていうのは、分ると思うんですよね。

C:80年代の話になりますけれど、中国は松下とかトヨタに是非中国に来て、工場を作ってくれと言ったんです。松下は割りあい素直にしたがって、北京の近くにテレビの工場なんかを作ったんですが、トヨタは非常に慎重な会社ですから、これはアメリカに行くときもそうですし、ヨーロッパに行くときもそうですが、他より遅れるんですよ。いつも遅れて、あとで追い越してしまうというそれがトヨタの特徴なんですが、中国では慎重の上に慎重に、80年代は受けなかったんです。

 それでヨーロッパのフォルクスワーゲンなんかがその時受けて出て、結果としてフォルクスワーゲンが中国の中では今一番大きなシェア―を取っていると思います。日本の企業もホンダあたりが出て行って、初めて、10年くらい前に、私トヨタといろいろ話しをしていた事があったんですけれども、トヨタの人もやっぱり中国に出遅れたなと、意識があって、それでダイハツに出て行ってもらったものをダイハツと一緒にやろうと、いまおっしゃったようになったんです。それでトヨタとしては、今他のマーケットと同じように、三番手、四番手だけれどもいつかは一番手になってやる、という格好でやろうとしているんじゃないかと思います。

宮崎:ただ、日本車がデモ隊に壊されましたからね。

西尾:なんで中国に進出してやりたがるんだろうかなァ。

C:それはマーケットが大きいからですよ。

西尾:いやぁ僕はそんなに目の色を変えてやらなくってもいいと思うんだけどな。

B:中国で中国向けの品物を売るというのは、比較的いいけれども、製造工場を中国へ作ると、設備投資もこれは非常に危険だから、考えてやったほうがいい。

C:作って向うで売るのは、今でも難しいと思いますよ。作ってそれをどんどん世界に売っていくほうがむしろいい。

西尾:中国向けで売るとなると、金を取れないということ?

宮崎:自動車が一昨年440万台作って、去年500万台作ったんですね。今50万台ぐらい在庫があるはずなんです。それは結局自動車ローンを組んだけれど、二回目くらい払って、そのままドロンというのが相当いるからなんですよね。金融子会社が今までなかったんですが、日本信販みたいなものをじゃあ中国が作れるかというと、作れないんで、それをつくることまでまたメーカーに頼んでいるわけですよ。

 トヨタは金融子会社を出して、クレジットカードみたいに割賦を受付けるわけです。受付けているんですけれど、3回、4回くらい払ったら、そのあとドロンというのが相変わらず多い。今取りっぱぐれが非常に多いので、今度頭金を20%、30%にして、それで今売行きがガタっと落ちたんです。中間層が買い出したからこういうことになっている。

 特権階級は自動車買うにせよ、マンション買うにせよ、全部キャッシュを持ってきていますからね。消費人口が変ったことで、資料を読み違えた。やはり基本的に中国人は、金は返さない。払うのは最後の土壇場で払うけれど、ただひたすらまけろっていう民族ですから・・・・

西尾:痛い目に会うんじゃないですか、日本の企業は。

D:すでに相当痛い目にあっていると思いますよ。

宮崎正弘氏を囲む――中国反日暴動の裏側(十五)

西尾:それで中国の先行きは?

宮崎:先行きは、今申し上げましたように、エネルギー投資が余りにも無謀なので、そこから破綻を来たしそうです。

 軍のエネルギー確保の発想はパラノイア的です。

 長期契約で、向こう25年間に、2000億ドルをイランに出資するといって、今700億ドルを払ったらしいんですが、今から開発するわけでしょう。開発するのに、資金切れになったらどうするのか、そんなことぜんぜん考えていません。

 ですから、中国のやることが、あんまり無謀なので、メジャーがみんなプロジェクトから撤退していくわけです。東シナ海からもユノカルなどが撤退しましたね。コスト度外視ですから。

 新疆ウイグルから上海まで持ってきているガスも、パイプラインは完成しましたが、末端の消費者にとって、国際価格の3倍もするんですよね。だれも買わないでしょ。買わないから今度は共産党が押しつける。国有企業にこれをこの値段で、買いなさいと。

西尾:日本のように、中東から輸入するというラインだけでは足りないんですか?

宮崎:中東からも石油、ガスを輸入しておりますが、足りないというよりも備蓄設備が少ない。

C:中東から輸入するだけじゃなくて、スーダンからも石油を輸入しているらしいですよ。

西尾:そこで素朴な質問ですが、なんで日本はそんなに、がつがつしないでもやっていられるのでしょうか。

C:いえいえ、過去に於て日本がやろうとした同じようなことを中国もやろうとしているんでしょう。日本は最近政府が石油公団を廃止したりしましたけれど、一時国が金を出して、石油を自分の側に抑えて、それで安定輸入先を確保しておこうということでやっていたんです。その政策があまりうまくいかなかったので、というか一部分しか成功しなかったので、そのうち堀内さんなんかが批判するもんだから、やめてしまったんです。それで今になって、石油がなくなり、天然ガスがなくなろうとしているとき、もっと日本は自分の側に抑えておくべきだったんじゃないかという議論が、今ごろまた再発しているんです。

 中国は30年前の日本と似たようなことを、わぁ~っといっぺんに金をかけてやろうとしているんです。で、今宮崎先生が言われたように、全てのプロジェクトがうまく行くとは思えませんけれども、ただ彼等としては本当に必要なのは油とガスだから・・・・・

西尾:日本はどうなの。何度もききますが、日本はのんびりしていませんか?

C:日本も同じです。石油の値段がこんなに上がったのは、中国がそうやってたくさん買おうとしているからなんですよ。ですから、影響は全世界が受けています。

西尾:中国の経済が伸びれば伸びるほど、エネルギーはより必要になるということですね。

C:宮崎先生がいっておられたように、めちゃくちゃやっているから、プロジェクトとかなんかで、おかしくなるんじゃないかというのはとおっしゃる通りではないかと思いますね。

D:アメリカの共和党は、民主党もですが、チェイニーとかラムズフェルドあたりはニクソンの時代から、ワシントンに居た人間です。彼らはマッカーサー元帥が好きなんですよ。マッカーサーが辞めた時に、議会証言の中で、彼らは朝鮮戦争の体験を心情を通して語ったんです。それはつまり、我々アメリカというのは、アジアの戦争に勝てないと言っているんですよ。そこらへんが共和党の、中国に対する考え方の根底にあるんじゃないかと私は思うのです。

 戦争しちゃいけない、封じ込めくらいはいいけれど、戦争はとにかくやっちゃいけない。今やっているのは、日本式に金持ちにして、おだやかにソフトランディングにもっていこうというのが、共和党の政策の根幹だと思います。

西尾:金持ちになるプロセスで、日本の場合は平均して金持ちになり、静かになっていった、だからよかったけれど、中国は非常にドラスティックに差ができたりするから、金持ちになったとたんに情報が過剰になって、内乱が起きる可能性は中国の場合は高いですよね。

宮崎:富の独占という意味で、中国共産党という権力だけが富を独占するわけですから、庶民のことなんか共産党はどうでもいいんです。そこで必ず不満が堆積してくるんですね。今の段階は、なんといったって飯が食えるから、まあいいのですが、これで農民が本当に食えなくなったらあちこちで一揆的な暴動を起すでしょうね。暴動が起きても、今の軍隊240万と第二軍の人民武装警察70万とで抑えられる、ただ軍がそのうち、武器を敵に渡すなどの腐敗を始めるでしょうから、そうすると昔のように、群雄割拠じゃないけれど・・・・がたがたしてくるでしょう。

西尾:中国と北朝鮮とは違いますか?そういう意味で。

宮崎:いや、かなり違いますよ。

西尾:違いますね。抑えられない。北朝鮮の軍隊、北朝鮮の民衆は抑えられるけれど、本当に餓死者が出るようになったら中国の場合は抑えられないと。

宮崎:あの半島とは違って中国のように広いところでは、山西省は山西省で何をやるかわからないし、江西省は江西省はで何をやるかわからないという状況も出ないとも限らない。ただ、この間もその議論になったんですが、かつての地方軍閥のごとくにたとえば、旧満州では張作霖が出たり、天津からは袁世凱が、山東に閻軍閥、四川に朱徳、広東に葉剣英が出て「広東覇王」をなのるというような、旧来の軍閥かといえば、それは違うと思うのです。

西尾:ということはつまり、片岡さんがさっきから言っているように、現代の国家、主権国家が武力、軍事力を持ったら、地方軍閥は手が出せないということですね。

宮崎:地方叛乱ですね。もちろんそうですが、我々が昔からイメージしていた中国の地方軍閥というのは、もう消えかけてないと思います。

 軍の近代化以来、地方軍閥を警戒してきた。

 その結果、いまあるのは、総参謀本部、総政治部、総後勤部、もう一つ。この四つの「縦の系列」があって、それぞれが地方空間を束ねている。

 軍の中の四つの「縦の系列」にそれぞれ利権があるんです。どこどこのガスはここ、たとえばどこかに労働者を派遣するのはここ、サウジアラビアのミサイル管理はここ、ホテル経営から何から全部「縦の系列」で利権を取り合っているので、それが喧嘩を始める、(ま、今も喧嘩していますけれど)そのときが大混乱の始まりでしょう。

西尾:それが流血の喧嘩になるかもしれないと?

宮崎:なる可能性はある。しかしいい部隊にはいい武器が行くわけですから。

 外国にも出している。軍は輸出で儲けていて、たとえばバングラディッシュあたりは、全部中国製の武器ですよ。90パーセント。ロシアのカラシニコフを真似た機関銃ですが。一発打ったら弾奏が壊れるので、あれみんな“チャラシニコフ”と言っている。(爆笑)

 周縁諸国は、プロチャイナの国々でも、そういうものしか持っていない。まだ、それで十分だから。一方、中国は沿岸警備を含めて、海軍の装備が格段によくなったようですね

西尾:北京オリンピックの見通しはどうでしょうか?

宮崎:オリンピックまでは強権発動で持つと思います。その前に不動産と金融の問題がどうなるかですよ。

C:さっき宮崎さんがおっしゃった、株の投機は?メタル関係は?

宮崎:これは終わりました。鉄鉱石は上がっているんですが、ただ需要がもうないんです。いままで隠していたやつを今だして、それから発注っていうことになりますでしょ。

C:アメリカでも日本でも、そういうのは起っていますけれど、上がるとみんなが買いだめして。

B:上海の土地はもう下がるとおもいます。

宮崎:石油と金が上がっています。

C:日本企業の投資の問題ですが、ちょっと感想を述べさせていただきたいのです。過去10年、15年の間に中国向けの投資については、日本の企業は揺れているんですよね。中国はカントリーリスク――リスクと言う言い方はおかしいかもしれませんが――結局中国に投資して、うまくいくかということです。日本の企業も90年代の前半なんかは、相当慎重だったんです。それは現実に、うまくいかないケースもあったし、中国の中で売ろうとすると大臣が買い占めちゃうようなケースもあった。

 さっき銀行は不良債権が多いとおっしゃっていましたが、中国人は借りた金を返さない。それで日本のやおはんという会社が投資して、つぶれちゃったんです。結局、中国の中で商売しようとして、やっていけなかったのです。日本の企業はどっちかというと、中国で作らせて、それを買ってアメリカに輸出すると、その商売だったら代金はアメリカから入るわけですから、それで向うで割に伸びているのはそうです。

 私は中小企業の仕事をしていましたけれど、日本の中小企業も中国向けの投資がむずかしいなという感じをもっていたんです。ところが、90年代の終りごろから、少し様子がかわってきて、日本の大企業もうまくやるのが出てきたし、しかも中国の中で商売するイトーヨーカ堂とかですね、そういう所も出てきて割にうまく行き始めたもんだから、中国国内をマーケットにした商売の為の、投資というのが非常に増えてきて、つい最近まではものすごいブームになっていたんです。ただ、反日暴動の事件があったのでまたカントリーリスクが出て来たと思います。

 東南アジアの方に、アセアン諸国のほうにまた若干ウェイトが移っていくんじゃないかなと思います。それは中国にとっては、非常に大きな影響があると思います。しかし経済問題ですから、これはしょうがない。

宮崎:もうひとつ、今木下先生がお触れにならなかったことで、WTOの問題があるんですね。WTOで来年、金融の自由化とか知的財産権の保護とか、いろいろあるんですけれど、やはり繊維ですよね。繊維のクォーターがなくなって、中国がラオス、カンボジアに負けるんですよ。中国企業がみんなあっちへ行っているでしょ。価格競争に勝てない分野が中国でさえ今でてきた。

B:ストが起きているでしょ。賃金ストが・・・・

宮崎:ストは年中起きている。基本的にはみんな不払いなんですよ。工場長が持ち逃げしたり、約束の半分ももらえない、これ一番多いんですよ。

B:約束した金を払わないというのは、中国人なんですか。

C:中国に投資することに、通産省がかんでいます。通産省が熱心にやったような気がするんです。

西尾:台湾の悲運がここで問題になりますね。許文龍さんが涙を飲んだ事件がありましたね。愛国者だったのに、自分の会社の人間がおそらくひどい目にあって、仕方なく台湾の独立放棄なんて心にもないことを無理して書かされたんでしょうが、日本の企業も罪もないのに、10年の刑とか、そういう人があいついで出たりすると、日本の企業もこれは大変だということになって、逃げ腰になる、そんなことおこりませんかね。

宮崎:今小林陽太郎だの、一応財界が中国の言うとおりに動いているから、今のところ嫌がらせはないと思います。ただ、たとえばトヨタの会社あたりが全然違うことを言いだすと、やりかねないですね。

西尾:困ったもんですね。常識の存在しない始末に負えない国ですから、日本の企業もちゃんと分って、不当なことをされたらどうしたらよいか、今から対応策を考えておいてほしいですね。

台湾の楊さん

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豊城和彦
 56歳、会社員。団塊の中心世代。全共闘運動真っ盛りの時期に学生時代を過ごし、三島由紀夫の自決に言い知れぬ衝撃を受けた。素材メーカーに勤務すること三十余年。進行する日本社会の劣化崩壊に、こうしてはいられない、の思いが強い。

 台湾の楊さん

 劉さんの時の台湾出張から10年ほど経った頃、また別の新製品の市場開拓で何度か台湾に出かけた。代理店の楊さんは私よりもだいぶ若い。市場打診を始めたばかりの特殊な製品を目ざとく見つけて台湾代理店に名乗りを上げた、小さな商社の経営者である。日本の大学に留学していた時のバイト先(?)で今の奥さんと恋仲になって千葉県から台湾に連れ帰ったという辣腕。奥さんは日本人だからもう少しうまい日本語を話してもいい筈なのに、性分なのかかなり雑な日本語をしゃべる。

 10歳ほども年下だし、ややがさつでさっぱりした男だから、遠慮のない話ができる。現地で一緒に市場開拓に回った時、途中で車を止めて楊さんとその部下の3人で昼食を取った。例によって絶対に食べきれないほどの種類と量を注文しようとする。

 「そんなに食べられないよ、このくらいにしようよ。」と言っても「まあまあ」とか言いながらどんどん注文する。過剰注文をして大量に余らせるのはもう2度目か3度目である。たまりかねて年の差をいいことにお説教を試みた。

 「こっちの言葉でもったいないはどう書くんだっけ?」
 「可惜。」
 「日本語の『もったいない』には単に経済的に惜しいとか、損をするという意味だけでなく、例えば食べ物だとかに対しても、そのものの本来の目的を達して上げられないような状態になる時に、そのものに対して申し訳ない、気の毒だ、と思う気持ちがこもっているんだ。その食べ物を作ってくれた人に申し訳ない、という気持ちもあるが、それだけでなく、人間が接する森羅万象にはすべて何らかのたましいがあって、それが、本来果たすべき役割を果たせていないような状況にある時、その気の毒なたましいに対す
る同情心のこもった言葉が『もったいない』なのだ。」

 大略こんな話をした。楊さんは神妙そうに聞いていたが、話は耳の穴を素通りしたのか、それともちょっとは記憶に残ってもう一回お説教されると面倒と考えたのか、その晩は台湾人の経営らしい日本料理屋に連れて行かれた。和食ならコースで出るから量が多すぎると言って文句をつけられる心配がないと考えたのかもしれない。

 そんなに安い店ではなかったろうと思うが、お皿やお椀は確かに和風なのに、料理の出し方はめちゃくちゃで順序も何もあったものでなく、ほとんど全品をいっしょくたに持ってきて、お膳の上にごちゃごちゃにおいて行った。盛り付けだってなんか洗練されてないのである。

 全体にこっちの人は大まかで、細かい事にこだわらない。(台湾人に限らず、大陸でもシンガポールでも似たような印象を受けるから、シナ人全体と言った方がいいか?)

 お膳の上のありさまにちょっとしたカルチャーショックを受けながら、和食というのは順序だとか容器のとりあわせだとか盛り付けだとか、要するに総体のものなのだなあ、ということを改めて感じた。

 『もったいない』が地球環境保全のキーワードとして使われる気配である。森羅万象に精霊が宿ると考えるアニミズムに根差しているらしい日本人の「もったいない」感覚をぜひ世界中に広めたいものだ。

鹿子木裁判長が与えた憂鬱(追記あり)

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・否定された企業防衛策

我が国初の平時導入型敵対的買収予防策が司法により否定された。
新株予約権差し止め、東京地裁・異議審・高裁・・・まだ記憶に新しいほりえもんの事件を思い出す。最初に司法判断をして強烈な牽制球を投げた裁判長も同じ鹿子木氏。
あの時はニッポン放送が買収を仕掛けられた後の「有事・事後の」新株予約券発行という防衛策が問題となって、ライブドア側の差し止め請求が通った。この事件以降、各企業ともおっとり刀で「平時・事前の(有事に発動する)」買収防衛策を作った。
経済産業省の企業価値研究会でも「論点公開~公正な企業社会のルール形成に向けた提案~」 が公表されている。この資料の126ページ、企業価値研究会 委員名簿を見ると「武井一浩 西村ときわ法律事務所 弁護士」とある。
日経新聞によると実はこのニレコのライツプランは経産省の企業価値研究会の委員をしていた事務所(西村ときわ法律事務所)によるものらしい。

ニレコの企業買収防衛策に対する新株予約権発行差止仮処分命令申立事件の決定を読んだ。東京地裁商事部の鹿子木裁判長の論旨はいたって明快、ここまでくるとあきれるほど。この判断が基準になるなら今回新株予約権スキームを実施したほとんどの企業は発行差し止め処分を食らうことだろう。

H17. 6. 9 東京地方裁判所 平成17年(モ)第6329号 保全異議申立事件
H17. 6.15 東京高等裁判所 平成17年(ラ)第942号 新株予約権発行差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告

この判決についてはいろんな専門家がそれぞれの立場で解説するであろうから詳しくは触れない。
(異議審の市村氏、高裁の赤塚氏に比べて、鹿子木判決が一番いやらしいことだけは述べておく)
ここではあえてテクニカルな話題を避け、この判決の根底にある考え方に注目したい。
なぜなら、この東京地裁民事8部というのは今後も実質的に我が国の大多数の企業(上場会社)の管轄裁判所となるのだから。
そして、この二つの地裁決定が今後の我が国の企業買収防衛策に大きな影響を与えることになるのだろう。

しかし、これが罷り通るなら、もう、ムチャクチャだ。
一体どこまで企業の自治に司法判断が踏み込んでくるというのか。
鹿子木氏の論では理想的な経営者とは、いくつかの利害関係者(ステークホルダー)の利害を同時に考えることができる人物となる。そして、必ず一般株主の利益を忘れない人物。しかし、経営者に複数ある利害関係者に対する責任を持たせて、いろいろなことを実行させるということは、結局、経営者の裁量権が増してしまうことになり、最終的にはそれが論理破綻になってしまって、どんな利益も満たせないということにもなりかねないのだが。

本来なら、このような状態で安易に市場経済の活性化のみを目的とした練りこみの足りない新会社法を導入すべきではない。(新会社法では新株予約券の差止請求のみならず、発行無効確認訴訟もできる、そして施行1年後には合併対価の柔軟化により三角合併も可能となる)
経営者が余計なことに気を取られて、本業に没頭できなくなるとしたら本末転倒もはなはだしい。

・株主重視経営と株式市場中心経営は、似て非なるもの

あえて誰も言わない禁句を言おう。
「我が国では会社は株主のものではない」 「企業価値は株価で決まるものでもない」

皆が口には出さないものの、本当は心の底で思っていることだろう。
我が国の会社の成り立ちを考えてみれば誰でも分かることが何故言えなくなったのか。

我が国は間接金融主体の経済であったので、その成長期には銀行融資によって資金調達を行なっていた。そして、それを一所懸命返済してきた。株式市場から会社の成長に必要な資金を調達するところなど殆んど無かったはず。
つまりオーナー経営者ならずとも、会社に関わる全ての人には株式市場の力を借りずに、自分達が会社を大きくしたという自負があったはず。長年会社に勤めてきた従業員が「会社は自分達のもの」と思うのもある意味当たり前とも言えよう。特に短期投資の株主など、株式を売ってしまえばその会社と縁はなくなってしまう。

働く者の心の底では皆が「会社は株主だけのものではない」と思っているのに、いつの間にか会社は株主のものとされてしまっている。岩井克人さんの論とは別の意味で私は会社は株主のものではないと言い切る。従来は日本的産業資本主義、家族的会社制度、金融機関からの資金調達に絡む株式の持合いや系列によって磐石と思われていた日本的社会システム。ところがこれを時代遅れと批判する考え方の勢力が実権を握りだしてこれを解消させてきたことが、現在のような事態を招いたと言えよう。

・株式市場とは長期投資の人も短期投機の人も同時に存在する場所

ほりえもん達の台頭にしたところで、小泉氏や竹中氏の存在抜きには語れない。
当時低迷していた我が国の株式市場に、一般投資家の参加を呼ぶ込むとのことで、2001年の小泉政権の時に株式分割を容易にした。
恐らく株式分割は業績良好、高株価の株式の分割を想定したものだったのだとは思うが、実際にそれを利用したのは、今やほりえもんに代表される新興市場のIT企業だった。
実業の能力には乏しくとも、こういう抜け道には目ざとい彼らは株式分割制度の歪みをついて魔法の杖を手にすることになる。
ライブドアなどは2003年には公募増資して51億円を、昨年の公募増資ではいきなり382億円を手にしている。この背景には、一株を4回にわけて3万分割するという、常識外れのやり方でドーピングして時価総額を極限まで高めた手法がある。
株式を2倍に分割すれば、株価は半分になりそうなものだがここにトリックがある。
株式分割に伴う株券の交換、それにかかる一ヶ月半のタイムラグによる需給バランスの崩れによって株価が高くなるのだ。巨額の資金を持ち短期売買を繰り返す投機的投資家が動き、また、たいしたお金も持っていないくせに、自分も将来お金持ち、とバカな夢を見る自称デイトレーダーがそれに乗せられ、せっせとその手助けをして結果的に社会に対する価値破壊を行なう。そして、それによって手にした資金でこうした会社はまた企業買収を続けていくことになる。時価総額の大きさに比べ収益力が劣るこんな会社は、これを止めるわけには行かない。止めれば待つのは株価の下落しかないのだから。

鹿子木氏の基準では、生産品質や技術の向上のような地道な努力ではなくて、ほりえもんのようなサギまがいの時価総額上げのトリックが真摯な経営努力になるのだろうか。(既存株主にとって不測の損害を与えるという点では、MSCBのような資金調達を行う経営者であるほりえもんはまさにその筆頭なのだが)
このようなことができる日本の株式市場のスキームにこそ歪みがあり、これをこそ是正しなければならないのではないかという考えになぜ至らないのか。
鹿子木氏は分かっているのだろうが日本はアメリカ型の資本主義はできないのだ。
元々の金融システムが根本的に違うのだから。
それなのに、彼のような人達がそれを無視してこんな考えで司法判断を続けていくと、何をどうやってもアメリカの資本主義に負けてしまうことになる。
もっとはっきり言うと、金融力がないといくら産業が強くても、国家は必ず乗っ取られる。
つまり、日本がアメリカの「下請け国家」にならざるをえないということになる。

・株式市場中心主義におけるコーポレートガバナンスの問題

直接金融主体のアメリカ型資本主義の最大の特徴は株式市場至上主義、あるいは時価総額至上主義にある。会社の優劣は市場で判断される。どんなに立派な仕事を行っている企業でも、将来性があっても株価が低ければ価値がない。クリントン政権の労務長官を務めたロバート・B. ライシュは『勝者の代償』(東洋経済新報社)の中でこう言っている。
かつての経営者支配の時代には、労働者は限られた労働強度の中でその雇用は安定していた。底辺の労働者の賃金は上がり、経営トップの報酬は制限されて、賃金格差は縮小した。労働者の平均賃金が持続的に上昇することによって、中流階級が拡大した。
 ところが、九〇年代以降こうした状況は急変することになった。企業は、いまでは、従業員や地域社会や一般大衆に対する責任を果たさなくなった。経営者の唯一の任務は株価を最大にすることであり、そのことにより自分の報酬を高めることである。企業はコスト削減のため、リストラを繰り返し、労働者の安定した雇用は消滅した。労働者は収入を得るために以前よりもはるかに継続した努力を求められ、長く働き、家庭にも仕事を持ち込まざるを得なくなった。この求めに応じられない労働者は下層に転落して行った。こうして、不平等はおどろくほど拡大した。

アメリカ経済の帰結は、金融資本による独裁とも言える。

・むしり取りの構図

その金融資本にいく金が、結局は我が国が稼いだ金であることが一層私を苛立たせる。
アメリカは実業は下手でも、マネーゲームだけはとても上手い。株、為替、M&Aなどのゼロサムゲームになると、アングロサクソンであるアメリカは本当に強い。
ここ数年のアメリカは貿易では大赤字、ただし金融資本による富のむしりとり-海外直接投資-では受取超過となっている。アメリカの03年海外直接投資収益率は10.3%。対日投資収益率は13.9%にも達する。逆に、米国以外の国からの対米直接投資の利益率は、平均で4.2%(欧州が4.5%。日本は5%)。要するにアメリカの一人勝ち、そして、特にむしりとられ方が激しいのが日本である。アメリカ金融資本にとって日本は「おいしい植民地」なのだ。
ただし、日本は製造業中心で5%の収益を上げている。しかも、地域に根ざした雇用をつくりだしている5%である。雇用を生まないマネーゲームの13.9%とどちらが社会的価値があるだろうか。
政治力をも利用したアメリカ企業の収奪ぶりはすさまじい。しかし、我が国で同じ事を今後もやらせることを許すわけにはいかない。小泉改革がアメリカの利益を計るための方向性をもって推進される-私にはそうとしか思えない-のを止めねばならない。(数字は米国国務省「International Investment Position of the U.S.」より、参考「WEDGE」4月号10-12ページ)

日本は金融資本を欧米型にせず、土地をベ一スにした資本を産業に投下することで発展してきた。そして、一所懸命に努力し、いいものを安くつくることで成功し、資本を蓄えた。
しかし、ほりえもんや竹中氏と根っこのところでは同じ考え方の鹿子木氏のような人達が、自らの無謬性を信じて亡国の司法判断を繰り返していけば、その蓄えは、結局はアメリカの金融資本に取られ、最後には我が国の主要な全産業が「下請け」にされてしまう。
政府が巨額の税金を投入した長銀を、アメリカの投資会社リップルウッドが買い取って新生銀行になったのも、旧日債銀をソフトバンク、オリックス、東京海上火災の3社連合が買い取ったのも、みな同じ構図。
そして、この流れは、これからいっそう激しくなろうとしている。
日債銀の破綻後の一連の出来事などは、合法的に行われた一種の強奪だったとも言えよう。
本来、このようなことは政府が規制するべきものである。
しかし実際には4兆円強の公的資金、つまり税金が投入されていたにも関わらず、自分の都合のみでソフトバンクの孫氏は490億円で買ったあおぞら銀株を1011億円でサーベラスにさっさと売却した。しかし、これは彼の信ずる経済合理性に基づき、合法的に可能な限り早く多くの利益をあげただけである。小泉氏や竹中氏といった市場原理主義者がいつも言っていることを投機家として行っただけにすぎない。
旧日債銀だけでも、幼児も含め国民1人あたり3万6000円を負担した計算になるのだが。
そして、その後こういうことがあったことも見ておかねばならない。
楽天 株式会社あおぞらカードの株式譲受
ヤフー、あおぞら信託を傘下に収めてネット銀行業参入へ

完全にもてあそばれている。政治家のみならず、我が国の国民も。
従業員、顧客、地域社会のいずれも考慮されることのない資本家中心の経済理論など、アメリカのむしりとり植民地経営正当化の詭弁にすぎない。郵政民営化にしても政府機関が民営化されれば、資本家がそれを買い取り、またも同じ事が起きるのが当然の帰結になるやもしれぬことも声を大にして言う人がいない。

さて、鹿子木氏はこれらの事例を十分に承知の上で、一体どんな考えを持って訳の分からない持論で裁いてきて、今後はどうするというのか。

・アメリカの言うことは本当に正しいのか

もともと、欧米でできあがった資本主義というものは、資本家を中心としたものであり、極端に言えば金貸しの利益と権利最優先である。ただし、鵜飼の鵜がいなくなって鵜匠だけになっても困る。だから、支配者からすれば、生かさず殺さずというのが丁度良い。いまの日本はアメリカニズムとその信奉者によって、そういう状態に置かれようとしている。

日本の問題点が政財の癒着体質と情報公開不足にあるとするアメリカ政府の主張を正しいとする人に問いたい、エンロンやワールドコムの事件が示すようにアメリカの方が我が国以上に腐敗と癒着体質、情報公開不足が多かったのではないか。 アメリカの突きつける年次改革要望書は情報公開や腐敗防止策をさせることで我が国経済を脆弱にし、乗っ取りやすくすることが目的ではないのか。
そういうバカな話を真に受けてきて我が国のシステム全体が歪んでしまっているのだから、このままアメリカの要望のままに部分的に変えていっても、もうダメだということに気付くべきだ。

西尾幹ニ先生が「ライブドア騒動の役者たち」で鹿子木氏について、既に4月に彼の無国籍思想の危うさを語っておられたが、その時は買収攻防のスキームにばかり目がいってしまい、さして気にも留めなかった。これは私のみならず専門家もほとんどそうではなかったろうかと思う。確か「正論」だったかと思うが、「民族への責任」という近著に所収されている。あの時どうして誰も気付かなかったのか。そうすればこんなばかげたことの繰り返しは起こらなかったのかもしれない。

いや、今からでも遅くない。
この判決には強い意思を持って、国民世論としての異議を申し立てるべきである。このような判例を既定路線とさせて良いはずがない。
労働の対価としての賃金のみで満足し、企業が生み出す経済的付加価値は海外に流出してよいという人がいるなら別だが。
その場合には、我が国の経済は崩壊する。

企業価値の優劣すら企業へ判断をゆだねることは許されず、もっと司法判断を仰げというようなわけの分からない判決。
極論を言ってしまえば平時における買収防衛策の導入自体を否定しているのだ、鹿子木氏達は。
一体誰の損害を念頭においてこのようなことを言うのか、彼等は。

鹿子木氏はアメリカ帝国主義の走狗となりたいのだろうか。
我々日本人を下請け奴隷にしたいのか。
そういう人間を法匪と呼ぶのに私は何のためらいも覚えない。

福井雅晴
Ph. D in Economics Univ. of California,Berkeley

以下に追記あり
24,June ’05
“鹿子木裁判長が与えた憂鬱(追記あり)”の続きを読む

新刊『民族への責任』について(八)

 今度の本は私が15年ぶりに本気になって経済評論を書いた点に新しい特徴があることにはたして気がついてくれる人がいるか、エコノミストはどう考えるか、ずっと気になっていた。

 PHPの編集者の丸山孝さんは経済畑の本も出している方だが、今日、6月16日にファクスで個人的な書評を書き送って下さった。

 謹啓『民族への責任』をお送りいただき、ありがとうございます。 

 今回もたいへん面白く拝読いたしました。個人的には、特に私の興味の強い分野である第一部の「第四章 ライブドアー騒動の役者たち」から「第六章 アメリカとの経済戦争前夜に備えよ」の部分が、単行本では通読できることもあって、再読の印象は一段と切実かつ興味深い内容でした。

 タイトルの「無国籍者の群れ」や「アメリカとの経済戦争前夜に備えよ」というコピーに現われた明快な内容に、まったく賛同します。アメリカが日本を「自分に都合のいいように組み変えた後で、利益を吸引」しようとしているのは明白で、なぜエコノミストがこのことに警鐘をならさないのか、それのみならず、なぜむしろアメリカに加担しているのか、かねてより不思議でなりませんでした。

 今から書くようなことは邪推であるため、マスコミにはもちろん登場してきませんが、どうも一橋大学の経済学部、社会学部出身者(あるいは同程度の大学の出身者)に、そういった「アメリカ賛美派」が多いように感じています。その代表が竹中平蔵氏と中谷巌氏ですが、要するに国内では東大でないとワンランク低く見られるので(・・・・それもどうかとは思いますが)、一橋経済学部の人たちはアメリカに留学してドクターを取ってくるため、すっかり洗脳、あるいはトラの威を借りる、あるいは無国籍者となってリベンジ、ということになってはいないかと、かねてよりウガッています。

 もうひとつ気になっているのは、いわゆる「無自覚な内通者」とでも言うべきか、一般のビジネスマンを見ても、アメリカ流に加担することによって自分の利益を上げようとする人物が、ここ10年ほどずいぶん増えたように感じます。(特に金融とIT)。

 そういったことを思い出しつつ読み進めると、最初は『民族への責任』とはなかなか強烈なタイトルだと思っていたのですが、だんだん「なるほどその通り、実に、実に良いタイトルだなあ」と印象が変ってきたことも、付け加えておきたいと思います。

 確かに『民族への責任』という立場から本書を(私の場合特に第一部の第四章から六章を)読んでみると、日本人が真に何をなすべきかが見えてくると感じます。

 成程、そうか、そうか。やっぱり私の経済評論を評価してくれる人もいるのだ、と思うと嬉しくなり、ならばなぜ『正論』に出た段階で一般のエコノミスト諸氏がかくも完全に無視してかかるのか、ここに逆に、エコノミストの世界が今の日本で機能していない秘密があるのではないかとさえ思った。

 「グロバリゼーション」や「市場の自由化」を唱えるのでなければエコノミストの看板を張っていられないともひごろ聞いている。経済評論は日経が旗降る「大政翼賛会」になっているのかもしれない。

 

それから個人的には第二部「第五章 採択包囲網の正体」が収録されていたのも嬉しかったです。これでようやく、この論文のためだけに保管していた『諸君』を、取り出しにくくてもかまわない場所に移動できます(笑)が、やはり単行本という形で一冊にまとまってくれると、何かと重宝で、改めて本の良さを感じたりしました。ここに出てくる長谷川さんが「インターネット日録」の長谷川さんと同じ方だと今頃気がつくとは、うかつの限りでしたが(笑)。

 丸山さんは私のたゞの担当者ではなく、昔からの根っからの愛読者であることが上記の前半の文からジーンと伝わってきて、あゝ、こんな風にして読んでくれていたのか、と知って、なにか胸に迫るものがあった。

 そして、そのような彼が、つい2、3日前の日録で管理人長谷川さんのアイデンティティに初めて気がついたというのも、不思議では決してなく、人は本を読んでいるときには必要のないかぎり固有名詞を読みとばしていることを裏書きしている。

 

タイトルといえば、「第三章 皇位継承問題を考えるヒント」というよりサブタイトルの「まず天皇制度の『敵』を先に考えよ」も、たいへんに印象深い内容です。特に、奥平氏の引用があることによって、きわめて効果的に問題の本質をえぐっていると思います。そのような感想は雑誌掲載時にも申し上げたかもしれませんが、読者によっては「本書の中でこの論文に最も感銘を受けた」という人も多いのではないでしょうか。

 それに比べると、私のように第一部の第四章から六章の経済評論に最も引かれるというのは、あるいは少数派なのか・・・・この点の議論が盛んになればと思うのですが、依頼するのに適当なエコノミストの著者を思いつかない次第です。

 初歩的な印象ばかりで恐縮ですが、たいへん興味深く拝読したことが伝われば幸いです。

 「天皇制度の『敵』を先に考えよ」のアングルが効果的と言っていたゞけたのも、うれしい。というのは、皇室問題を論じる人が概して穏健な保守派で、敵の巨大さを日頃意識していない穏和しい、呑気な人が多いことに私は的確な警告を発したつもりだったからである。皇室に近い人であればあるほど、この点では迂闊である。

 なにかを論じるには論じ方ひとつで論の内容は変わってくる。よく素人っぽいもの書きで、自分は誰それと同じことを考えてきたとか同じことを言ってきた、とか簡単に口にする人がいるが、月並みな語り口で平板に語れば、同じこともじつは違った内容になる。

 結論が同じでも経過が違えば、本当は結論も違っているのかもしれない。丸山さんは永年の編集者経験から、その違いのきわどさをすでに十分に肝に銘じておられるのだ、と私は思った。