月別: 2016年11月
お知らせ
「坦々塾 秋季特別研修会」を、11月26日(土)に、四ツ谷地域センターにおいて、下記の要領で開催することとなりました。
皇室・宮中祭祀等に関する研究の第一人者とされ(葦津珍彦先生の没後の門人でもある)斎藤吉久先生をお招きし、「今上陛下の「譲位」の思召し、その御真意と国民の責務」と題してご講演をいただき、質疑応答・相互の意見交換をいたします。お一人でも多くの皆様のご参加をご期待申し上げます。
また今回は、一般(非会員)聴講希望者のお席も「30席」設けて、先着順にご参加を申し受けます。是非奮ってご参加下さい。
そして、研修会終了後に、近傍のホテルで、講師斎藤先生と西尾先生を囲んでの懇親会も開催いたします。(一般聴講者のご参加も歓迎いたします。)
以上、会員の皆様、一般聴講者の皆様の奮ってのご参加とご高論を大いにご期待申し上げます。
1.研修会・懇親会の日時・会場
(1)研修会 日 時 : 11月26日(土)16:00~18:45 (受付: 15:30~)
16:00~16:30 挨拶・講話(西尾幹二先生)
16:30~18:00 講 演(斎藤吉久先生)
18:10 ~18:45 質疑応答・相互意見交換
(2)会 場 : 四ツ谷地域センター12階 「多目的ホール」
(東京メトロ 丸の内線「新宿御苑前」下車 徒歩5分 )
(3)懇親会 日 時 : 同日 19:00~21:00
会 場 : ホテルウィングインターナショナルプレミアム東京四谷
(四ツ谷地域センターから 徒歩5分 アクセス 別添)
(4)会 費: 研修会 1.000円 懇親会(立食パーティー) 6.000円
(5)お申込み: 「研修会・懇親会ともに出席」 又は 「研修会のみ出席」をご明記の上、11月25日(金)までに、事務局(小川)(℡ : 090-4397-09087 FAX:03-6380
-4547 E-mail : ogawa1123@kdr.biglobe.ne.jp) までお申し込み下さい。
(ただし、一般聴講者の皆様につきましては、30席受付が満員となり次第 〆切とさせていただきます。)
西尾幹二坦々塾事務局 小川揚司 拝
追 伸 : 恒例の坦々塾新年会(西尾先生のご講演と懇親会)を、来年1月21日(土)午後に、水道橋の「内海」で開催する予定でおります。詳細につきましては、西尾先生の
「年頭メッセージ」に添付させていただきますが、先ずは斯く予告申し上げます。
現代世界史放談(九)
アメリカの世界支配構造
ピルグリムファーザーというのは、最大多数がプロテストタントなんです。アメリカはプロテスタントの国であるということはアメリカの世界史の支配構造と深く関係しているんですが、これをどう説明するかは難しい。
結論だけ言いますが、たとえばリンカーンは宗教者です。南北戦争、あれは奴隷を解放するために戦った戦争ではない。13州に分かれていたアメリカを一つのネイションにするという、英語でゼムと書いていた13州をイットにする、単数扱いにする戦争だった。複数を単数にした。それはワシントンから続くアメリカの努力目標だった。しかしその理想もまた、暴力でしか実現できなかった。それが南北戦争です。それによって強引に統一国家になった。南部にはたくさんの問題があったのに、全部切り捨ててしまった。北から南の制圧には凄まじいことが行われた。
その制圧の仕方を真似したのが、実は日本征服なんですよ。北アメリカが南アメリカを抑えるときにとった政策、たとえば公職追放、指導者を牢屋にぶち込んで罪の意識を与えて、しばらくしてある段階になって釈放し、従順な知識人を復活させて自分たちのほうに取り込むという、アメリカ占領軍はこの北軍のやり方をそっくり日本に当て嵌めました。それが自由民主党の生まれた所以です。それから日本は肝どころを握られ、ずっと支配されっぱなしである。
核問題では日本が一番怖い
この間、安倍首相の戦後七十年談話に先立ち、外務省主導の21世紀構想懇談会がつくられ、先の戦争を「侵略」戦争と首相に言わせようとした北岡伸一さんという座長がいましたね。懇談会のああいう人士は、いまでもアメリカのコントロール下にあると考えるべきです。少なくとも外務省がアメリカの顔色を窺って、人選に自己規制をかけていると見るのが至当で、「侵略」はそれ以外には考えられない唐突な発言でした。
あるいはまた、NPT(核拡散防止条約)体制の管理人に天野之弥さんという日本人がなっている。それを日本では出世したかのように言う人がいますが、黒人組織を管理させるには黒人の代表者を連れてきて管理させるんです。同じことが天野さんの役割なんです。核問題では日本が一番怖い。だから日本を抑えるためには日本人を使うんです。
アメリカは南北戦争によって統一国家kになり、国家意思というものを鮮明にしました。
この国家の持つ膨張性格を雄弁に語ったのは、リンカーン大統領のウィリアム・スワード国務長官です。
彼が太平洋侵略を考え出した最初の帝国主義者でした。そこから先は長い話になるので、今日はできません。太平洋をアメリカのものにするのは、リンカーンの時代から始まったのです。
其の後、ドイツがやられ、日本がやられ、ロシアがやられ、いま中国がやられかけていますが、さてどうなるでしょう。地球は再び大破壊を被る。あと10年先か20年先か分かりませんが・・・・・・。そうなる前に、アメリカが覇権意志を本気で捨て、ドル支配もなくなり、地球はカオスに陥るかもしれません。
何が起こるかわからないんです。今日は何が起こるかわからないという話で終わることをお許しください。(2016年2月29日、日本工業倶楽部での講演に依る)
了
月刊Hanada 2016年6月号より
現代世界史放談(八)
アメリカの覇権の背景
はたしてそれを中国ができるのか、定かではありませんが、この大きな中国の賭け、その前に今日は歴史を古いところからお話をしたので、もう一度、イギリスとアメリカの覇権争いを思い出してもらいたいのです。第二次世界大戦は、アメリカがイギリスに勝利した戦争です。
日独はだしにつかわれたようなものかもしれません。アメリカは常に地球の他の覇権国、地域の覇権国を許さないことで始まった国で、まずイギリスを、次にドイツを、そして日本を潰しにかかった。ロシアを許さなかった。次々と地域の覇権国を倒すのがアメリカの国是、いまもそうです。大統領候補のトランプが言っているじゃありませんか、アメリカの意向であり、ずっとそれできている。
だからトランプは夢をもう一度と叫び、アメリカ人の心を摑んでいる。しかし実力がそれに伴わなければできないので、彼の主張のとおり、アメリカが「世界の警察官」であることを止めればドルは暴落し、アメリカの覇権も終わってしまうのです。アメリカはベトナム戦争からのち、一国で覇権国だったのではありません。日本という懐刀をもっていたので、アメリカは覇権国であることが可能になったのです。日本は黙って国債を買い続けて、その国際は国家予算んのなかに入れないできている不可解な構造が、日米一体でアメリカの覇権を可能にしてきたんです。トランプはそのことが全く分かっていない。
アメリカは「世界の警察官」であることによってヨーロッパに価値、ロシアに勝ってきましたが、しかし中国に対してはどうか。中国も、アメリカと日本が手を組んで勝つという構造にするのは経済だけでやってもらいたい。それであれば日本は受けて立てばいい。
カトリックとプロテスタント
冒頭で述べたようにペリーの来航の前から始まって、アメリカはイギリスと戦った。独立戦争ですね。それは何が原因かというと宗教が原因でした。ヨーロッパはキリスト教といってもカトリックとプロテスタントが相争っていた地域です。カトリックは日本の心とも繋がるところがあるのは、自然法を尊重するからです。カトリックは中世の初期にヨーロッパの古代神話の世界を残存させ、それと妥協した宗教なんです。ですからカトリックというのはある意味で異教徒には寛大な宗教なんです。内部の異端には厳しいが、異教徒には譲歩しなければ政治的に自分を存立もできない古い時代を生きました。
だから、例えば靖国神社を取り潰すとマッカーサーが言ったが、ダメだと言ったのはアメリカのカトリック教徒でした。なぜならば自然法を尊重する、自然信仰があって、堕胎はいけないとか、男は女と結婚するものだとか、民族共同体のために戦った戦士に対しては何であれ、祈祷することは当たり前のことdと考えて、これが自然法で、カトリックは靖国神社を燃やすことに反対した。しかしアメリカは基本的にプロテスタントの国であり、イギリスもそうなんです。
カトリックは古代人の信仰を残している。プロテスタントはそれを異端として退け、信仰を純粋化しようとした。その自覚が人間の主体性、近代化につながることは間違いありませんが、偏狭でときに破壊的です。
ヨーロッパはカトリックとプロテスタントの間で17世紀に激しい戦乱を重ねます。それに疲れてしまい、宗派間の争いをやめて妥協するのが啓蒙主義です。カントの永遠の平和のために、なんてものが出てくる。ヨーロッパは宗教間闘争に疲れた。しかしそれがいかに根強いかは私が1960年代に留学した時はまだドイツの小学校はカトリックとプロテスタントに分かれていました。いまは宗派別学校闘争はやめようということになっています。
ヨーロッパでは20世紀後半になってようやく日本に追いついてきたのです。日本は信長が比叡山を焼き討ちしたときをもって、宗教が政治の脅威となることは大体終わっている。その後島原の乱があり、大正時代に大本教もありますが、そのあと宗教が政治を脅かすことはオウムまでない。日本は大人の国なんです。それが神仏信仰なんです。
つづく
月刊Hanada 2016年6月号より
現代世界史放談(七)
EUの未来
三番目は、EUの理念の行き詰まりです。EUの未来はどうなるか。結論を言いますが、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、イタリアの南ヨーロッパ諸国の経済破綻が非常にはっきりしてきたのはご承知のとおりで、ギリシャ問題はそれの代表例だったにすぎませんが、日本でも似たようなことが起こっているのです。
八増五減とかいって、議員定数の調整という問題が起こっており、たとえば参院選で島根県と鳥取県を合体させるとか言っていますよね。これはヨーロッパの例と同じです。東京の繁栄と地方の衰微というドラマが、北ヨーロッパの繁栄と南ヨーロッパの衰微という形で表れているんです。
お金になる仕事は全部、北ヨーロッパ、ドイツやノルウェーに行ってしまう。そのような仕事を持っている人たちは北へ北へと渡って行って、北の富を大きくするのに役立っている。南の国々には公務員と老人と子供ばかりが溜まってくる構造、これが日本の東京と地方の動きとよく似ている。
日本の場合には、地方交付税という形で地方に還元するという考えがあり、このシステムに誰も反対しません。東京都民は地方を助けないといかんと思っているし、ふるさと納税なんかもあります。
同じことでドイツが実行すべきことは二つある。ドイツが首都になることです。地方交付税と同じように、どんどんお金をギリシャやスペインに回すということです。文句を言わないで、ドイツはこれまで安くなったユーロで輸出がし易く、儲けに儲けてきたわけですから、ここいらでグローバリズムのために自分を棄てなければいけない。
しかし、ドイツ人は絶対にやらないでしょうね。なんで我々は、とドイツ人は憤る。ギリシャ国民のあまりに有利な生活保護まで引き受けなければならないのか、と。国というものが邪魔をする。今度はナショナリズムがグローバリズムの邪魔をする。東京と島根県のようにはいかない。でも、私の常識は次のように考えます。
ドイツが東京都になるか、EUを解体するか二つに一つしかない。当然、動きとしては後者でしょう。十年ぐらいかかるかもしれないでしょうが、そちらにいかざるを得ない。
EUがなぜできたのかを考えますと、なぜダメになるかの理由もわかります。思想的には、共産主義が崩壊したときに歩調を合わせるかのように始まった。共産主義の普遍主義、国境を取っ払うグローバリズム、それの代替が欲しいということから始まったのがEUです。根は左翼思想なんです。アメリカニズムのグローバリズム、いわゆる連邦主義に対抗する必要もあり、その時に「日米経済同盟」が地球の40%の富を獲得していたんです。1990年代初頭です。ヨーロッパは焦った。
この日米経済同盟のパワーに対抗するために、ヨーロッパは一つにならなければならない。もう一つは、共産主義のグローバリズムがなくなった代わりに、ヨーロッパは別のグローバリズムを作らなければならない。EUはこうした守りの動機から生まれたので、もともと消極概念でしかない。
もう一つは1970年にニクソンショックがあって、ドルが兌換紙幣ではなくなり、ドル札を刷ればアメリカの消費は自由気儘だと予想される事態になった。ヨーロッパはすごく恐れた。アメリカは責任なしの消費大国になる可能性がある。実際、そうなっていくわけです。
それを抑制させていたのは、共産主義社会の存在だったんです。共産主義と張り合っているアメリカがバランスを取っていたんです。つまり1970年から20年間は、ドルがそれほどめちゃくちゃなことにならなかった。
しかし1990年に共産主義という他山の石がなくなったら、アメリカが慢心して手放しのことをやるようになって2008年のリーマンショックに立ち至るわけですが、そういうことをヨーロッパは始めから恐れていたので、自分たちがグローバリズムに立て籠もるんだということにせざるを得なかった。恐怖からきた守りの思想ですよ。決定的な間違いがそこにはあります。ユーロはドルの代わりができない。なぜなら、統一軍事力がないからです。
かつて軍事力を伴わない国際機軸通貨があり得たかというと、ない。ボンドもイギリス英国の支えがあり、いまのドルもそうです。湾岸戦争が起こって、あれはドルとユーロの戦いですから、戦争してでもドルを守るという意志をアメリカが示したことになり、ユーロはあそこからどんどん駄目になった。ユーロが力を失っていく勢いというのも激しかったのですが、アメリカはNATO(北大西洋条約機構)を手離さなかった。そしてEUを国として認めなかった。
EU共通軍隊というのを絶対にアメリカは許さなかった。日本に独自の軍隊を許さないように、EUもアメリカは自分のものとして囲い込み、温存させようとし続けてきたのです。いままではそれでうまくいった。それでヨーロッパ共同体を潰したんです。
かくて次に中国というのが軍事力と金融による両面の覇権を狙い出しているというのが、アメリカがいま目の前で見ているドラマです。
つづく
月刊Hanada 2016年6月号より
現代世界史放談(六)
ドイツ銀行の破綻
ドイツには三つの禍があると申しました。一つは難民問題、二つ目はドイツの銀行の破綻です。これはいま急速に起こっているドラマです。
ドイツ銀行の取引総額は、67兆ユーロ(約8700兆円)。ドイツのGDPの20倍です。ところが、ここに来て、フォルクスワーゲンの1兆ユーロ(120兆円)に上る保証金を全部ドイツ銀行が背負っていることが分かった。
ここで指摘したいのは、日本では久しく政府が赤字国債を抱えていると言いますが、日本の銀行、特にメガバンクは赤字を抱えていません。日本政府に借金を集中させているのに比して、ドイツなどの欧州は政府が借金を背負わない代わりに民間銀行にしわ寄せがいっているんです。
日本はGDP比200%の借金大国だから大変だと大騒ぎされ、ドイツ政府は無借金で素晴らしいことのように言い、メルケルもそう言い、ドイツの知識人も自慢して日本はダメだと言いますが、何のことはない、代わりに銀行が借金を全部背負っているのです。
ドイツ銀行が引き金になって、リーマンショックのようなことが起こるかもしれません。あのサブプライムローン事件が起こった頃、ヨーロッパのほうがむしろアメリカよりも酷い金融危機だったのですが、これはアメリカが支えた。あの時、アメリカの政策金利は5%あったんです。だから金利を下げることができた。
ところが、いまはアメリカは極端に金利を下げていますから、これからはドイツ銀行がリーマンブラザーズのように破綻しても、アメリカは助けることはできない。ドイツは火だるまになる可能性があります。
フォルクスワーゲンは、1兆ユーロ(120兆円)もドイツ銀行に融資をさせています。日本ならばここで公的資金の注入というスタイルで破局を避けるでしょうが、これもEUが邪魔をしている。ドイツ政府がいままでもそういうことが思い切ってできないのは、ヨーロッパ中央銀行が合意しないからです。つまり、ヨーロッパのグローバリズムが正義の建前になっていて、ナショナリズムを抑えている。ですから、この局面はドイツの三重、四重苦になるのではないかと思っています。
つづく
月刊Hanada 2016年6月号より