私が高市早苗氏を支持する理由

令和3年9月17日 産經新聞【正論】欄より

 評論家・西尾幹二 

 自民党総裁選に出馬する高市早苗氏は、次のように語っていた。

 「日本を安全で力強い国にしたい、という思いです。経済が相当弱ってきているのに、五年先、十年先に必ず起こる事態に向けた取り組みが、何一つ手つかずであることに相当な危機感を持っています。一刻の猶予もないと思っており、ものすごい焦りがあります。今着手しないと間に合いません。だから、何が何でも立候補したいと思いました」(月刊「正論」10月号)

≪≪≪ 国難の中、日本を守れる人に≫≫≫

 私の胸に真に突き刺さった言葉で、共感の火花を散らした。21世紀の初頭には技術産業国家の1、2位を争う国であったのに、平成年間にずり落ち、各国に追い抜かれた。ロボット王国のはずだったのに、今やAI(人工知能)ロボット分野で中国の後塵(こうじん)を拝している。世界的な半導体不足は日本のこの方面の復活のチャンスと聞いていたが、かつて円高誘導という米国の謀略で台湾と韓国にその主力は移った。実力はあっても今ではもう日本に戻りそうもない。

 毎年のように列島を襲う風水害の被害の大きさは国土強靱(きょうじん)化政策も唱えた安倍晋三内閣の公約違反であり、毎年同じ被害を繰り返すさまは天災ではなく、すでに「人災」の趣がある。

 台湾情勢は戦争の近さを予感させる。尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺のきな臭さを国民の目に隠したままではもう済まされない限界がきている。少子化問題は民族国家日本の消滅を予示しているが、自民党の対策は常におざなりで本腰が入っていない。

 そもそも国会では民族の生死を懸けた議論は何一つなされないし、論争一つ起こらない。余りの能天気ぶりに自民党支持層の中から今度の選挙ではお灸(きゅう)をすえようという声さえあがった。横浜市長選挙の自民党惨敗は間違いなくその「お灸」だった。それでも総裁選挙となると、飛び交う言葉は、蛙(かえる)の面に水だった。ただ一つ例外は高市氏の出現だ。氏の新刊書『美しく、強く、成長する国へ。』(ワック)を見るがいい。用意周到な政策論著である。私が冒頭にあげた日本人の今の怒りと焦りがにじみ出ている。同書はアマゾンの総合1位にかけ上った。

≪≪≪目立たぬ努力に政治家の本領≫≫≫

 高市氏は十分に勉強した上で「日本を守る。未来を拓(ひら)く」を自らのキャッチフレーズにした。日本を守るは抽象論ではなく、「領土、領海、領空」を守ることだと何度も言った。世界各地域の戦争の仕方が変わってきたことを説明し、今の日本の法的手続きを早急に超党派で議論し、用意しておかないと、すべてが間に合わなくなると言っている。従来のような憲法改正一本槍(やり)の観念論ではない。

 私は高市氏と2回雑誌対談を行っている。私の勉強会「路の会」で講話していただいたこともある。最初は10年以上前だが、その頃すでに北海道の土地が外国人の手に渡っていることを憂慮し、これを阻止する議員立法に工夫をこらしている話をされた。一昨年行われた2度目の対談では「安全保障土地法案」(仮称)が準備中であることを教えられた。国土が侵されることへの危機感に氏が一貫して情熱を燃やし続けておられる事実に感動した。

 人の気づかない目立たぬ努力に政治家の本領は表れる。戦時徴用をめぐり、昭和34年時点の在日朝鮮人60万人余といわれていたが、徴用令によって日本にきたのは245人にすぎなかったことを外務省の資料から証明し、政府答弁書に残したのは高市氏だった。大半が強制的に日本に連れてこられたなどという誤解を正し、影響のすこぶる大きい確認作業である。
日本の政治の偏向危惧する
総裁選に出馬表明した岸田文雄氏は9日、安定的な皇位継承策として女系天皇を認めるかを問われ、「反対だ。今はそういうことを言うべきではない」と述べた。対抗馬と目される河野太郎氏が「過去に女系天皇の検討を主張しており、違いを鮮明にした」(読売新聞10日)。一方、10日に出馬表明した河野氏は、政府有識者会議の女系天皇ためらいに配慮し、軌道修正した(産経新聞11日)。

 前言を堂々と翻して恥じない河野氏にも呆(あき)れるが、「違いを鮮明にした」つもりの岸田氏も風向き次第で態度を変えると宣言しているようなもので、両者、不節操を暴露し、外交・防衛・経済のどの政策も信用ならないことを自らの態度で裏書きした。なぜなら「万世一系の天皇」という国の大原則に、フラフラ、グラグラしているのが一番いけない。

 議会制民主主義統治下の世界全体のあらゆる政党政治の中に置いてみると、日本の自由民主党は決して保守ではない。ほとんど左翼政党と映る。日本のメディアは左翼一色である。
高市氏が一般メディアの中で自分が右翼として扱われることに怒っていたが、怒るには及ばない。もし中道保守の高市氏を右翼というなら、世界地図に置くと公明党も立憲民主党も政党以前の極左集団と言われても不思議ではない。(にしお かんじ)}