宮崎正弘氏を囲む――中国反日暴動の裏側(十二)

J:だけどね、小泉さんの公式の談話とか、見解を見ていると、首相がこれだけ謝って、哀悼だ、反省だの、靖国神社を前倒しにしますだの、あのときの談話読んでごらんなさい。あれが首相だったら、あの下にいる外務省はそれより前に出るのは不可能です。あの首相の言っていることはおかしいんだな。それで中国の裏をかくようなことをやっているんですよ。
 
 宮崎さんのテーゼっていうのは、中国に社会不安があって、それをそらすために、日本というスケープゴートを捜しているんだという推論の立て方だと思うのですが、僕は、今年の2月19日のワシントンでの戦略目標っていうのが発表されて、あれはね、中国から見ると、かなりびっくりするような方針転換だと思うんですよね。日本が台湾の防衛にコミットするなんてことは、中国は考えてもいなかったんじゃないでしょうか。日本が悪いというのではなくて、僕は当然だと思うし、台湾防衛大いにやりましょう、という鷹派なんですけれど、しかしこれは小渕氏の時や橋本さんの時は周辺事態法なんていうわけのわからない法律を作って、よく読んでみると、何もやらないって書いてあるんでしょ。あれから比べたら、小泉さんはかなり踏み込んでいるんですよね。

西尾:じゃ、それが原因なの。今度の反日暴動の原因は、台湾で共同行動を取るという外相会談だってきめてしまっていいわけ?

J:中国は最初はそう言わなかった。最初は国連の常任理事国入りを問題にした。僕はおかしいなと思ったんだ。その次に教科書とか歴史認識とか出てきて、胡錦濤が出てきたら、彼は台湾ということをはっきりと言っているんですね。

西尾:やっぱり、台湾があったから今度の官製デモがあったと?

J:だって、反分裂法というのを全人代で通したのは胡錦濤なんだから、あれはアメリカと日本に対する平手打ちみたいなものでね、正面からこんなことは許さないよと言ったんでしょ。だから小渕さんの頃の周辺事態法からみたら向うとしては、かなり脅威だと思うよ。

西尾:それだけ事柄があの時代より切迫しているということですね。だから今度の官製デモもあり得た。他の方どうですか?

K:今のとも関係があるんですけれど、一つは片岡さんも言われたんですが、先行きに中国が大きな問題を抱えていると、宮崎さんも水の問題とか、言われました。私はそこは本当にそうなのかなと、八年前にアジア経済という本を書いたのですが、その中で中国の経済の問題として、エネルギーが不足しているとか、食糧が足りなくなるとか、不良債権の問題とか、摩天楼はがらがらになって、空家と化すのではないかとかを書いたんですけれど、それぞれそういう問題になりそうではあるんだけれど、全然今の中国の経済というのは、膨張の障害にはなっていない。

 だから個々に書いてある水不足というのも、大きな問題だろうけれども、これはいざとなったら水を飲ませないようにすればいいし、環境汚染の問題だって、平気のへいざでやり過ごすのですよ。まぁ一般住民を無視するわけで、あんまり大きな問題として意識されていないんじゃないかと思うのです。本当に彼等にとって、危機意識があるんでしょうかね。ここにかかげてあるたくさんの問題。

宮崎:いや、暴動が年間20万件くらい報告されているんですが、その暴動の原因別でいうと、汚職、立ち退き問題、それから汚染、水、そんな感じです。水は深刻な問題だと思いますよ。ガンジス川でね、泥の河で顔を洗って、となりで排便をしているって、あれと同じですからね。そういう水しか飲めないような、地方の中国人の農民がたくさんいますからね。それから、ホテルは皆、ミネラルですよ。風呂はだめですよ。風呂は汚い。

 片岡先生のさっきの政策問題、今回はまさしくその政策なんですね。台湾は12月に、ちょっと国家分裂法を作るぞとアナウンスをして、三ヶ月様子を見ていたんですよ。そしたら、反撥が強そうだから、法律の条文を変えて、わずか10項目にしたんですね。ただあれは、法律というより、宣言です。それにもかかわらず、世界の反撥が強いということ等、ヨーロッパはついに、中国に対する武器輸出を1年以上延期すると、これは中国外交の大敗北ですよ。そこへもってきて、2プラス2で、日本が生意気に反中行為に走ったと。これはやってやろうということになったと思いますね。それが何時の時点なのかわかっていないですが。

 ただ早い時期に4月の確か12日だったと思いますが、北京で緊急政治局会議をやっているんですよ。で、やりすぎだと、4月10日です、その時に胡錦濤から初めて、批判的な発言が出ている。これはニューズウィークかなんかが書きましたよね。つまり、あわてたんです。ちょっとやりすぎだと。やりすぎという発言には、その裏には自分達が企画した、反日デモ・組織的なデモの動きというのが、国連の常任理事国に加盟するから云々というのは、表向きの理由で、隠された理由は2プラス2だと思います。それが企画した以上の暴力デモになったので、相当慌てたんだと思います。

宮崎正弘氏を囲む――中国反日暴動の裏側(十一)

宮崎:4月10日だったか、北京のデモの翌日に、外務省に呼びつけましたでしょ。王毅大使を。王毅大使がちょっと、こうやって頭を下げているんです。それを共同通信が写真で流したら、回集命令が出たんです。

西尾:あれは腰をおろす瞬間だったんでしょ。

宮崎:お辞儀しているようにみえるんですよ。おそらく大使館から抗議が来たんでしょう。共同通信はそれを配信中止にして、共同はその時APか何かに流したのを今、日本のメディアは外国から写真を買っているんですから。

B:13日に、○○委員会がありまして、その時に中川昭一さんから聞いたんですが、誰かのところに王毅が来て、助けてくださいと、言っていたというんですね。中川さんがそう言っていましたよ。その意味は中国の大衆がかんかんで、日本に於てね。

H:宮崎さん、いいですか。私一つ不思議に思ったのは、愛国無罪といったでしょ。愛国無罪と言ったら、A級戦犯も無罪になっちゃいますよ。そういう意味ではないのですかね。あれは。国を愛してやる行動は許される・・・・

宮崎:愛国ならなんでもいいと。例えば、何かサイケデリックな歌がありますよね。中国はあんまりひどいのを禁止しているんですが、あれを翻訳する時に、途中一ヶ所だけ恩愛中国と、私は中国を愛するとワンフレーズ入れると許可になるんです。全部。ですから、これは何でも免罪符なんですよ。軽い意味だと思いますよ。理論武装的にやっているのではなくて。

H:そういう意味ですね、逆に使えますね。

西尾:向うが愛国無罪ならこっちも愛国無罪だと。向うが正しい歴史認識ならこっちも正しい歴史認識。そして日本人の反日派は売国有罪。

H:やったことが正しいかどうかは別として、愛国っていうならA級戦犯も無罪。宮崎さんも今回の外相は、おかしいということを言わなかったでしょ。向うは態度を絶対に変えないから、結局こちらが何を言ったってしょうがないという感じで、宮崎さんもおっしゃったように感じたんですが。

宮崎:しょうがないとは私はおもいません。けれども、結論的にはいつも、言ってもしょうがないという結果に終わっていると言うことを申し上げただけです。

H:言い続けるということは、我々外交としては常に、言い続けて、一度ブッシュ大統領が中国の教科書はまずいと、あれはおかしい、少なくともアメリカの記述がぜんぜんおかしいと言って、あれに対する反応というのは、殆ど向うではないですよね。

宮崎:何か向うは反撥しただけで終わったんじゃないですか。「朝鮮戦争はアメリカの侵略である」なんて、むちゃくちゃなことを書いているんですね。

H:結局ブッシュが言っても、何も変化がないと。

宮崎:アメリカはあの時、一回言っただけで、強くその後継続的に抗議していません。その後すぐにイラクでことがおきて、うやむやなうちに、また中国は戦略的パートナーとか言い出しましたから。今対面しているんじゃないですか。

西尾:ニューヨークタイムズは叩きましたよね。

宮崎:新聞はたたいているんですよね、ワシントンポストも。日本の代理人の如くかばってくれている。

H:ブッシュが言ったのは、向うに対して言ったんじゃなくて、北京大学かどこかで講演したんで、正式に外交上の問題として取り上げたわけじゃないんでしょう。

宮崎:あれは中継しなかったでしょ。途中の都合の悪いところはノイズを入れて、結局あれをブッシュの演説を聞いた人も、よくわかっていないと思いますよ。何を言ったか。

I:私たまたま昨日、ある会で聞いたんですが、ワシントンで三極会合があったらしいですね、経済人の会合があったらしいですね。それに出た人から聞いたんですが、ヨーロッパやアメリカの人たち―その会合に出て来た人たちは歴史認識については、日本に対して厳しいことを言っていました。英米、ヨーロッパですね。私が直接出たわけではないですが、そう言っていました。

西尾:実際の事を知らないで言っているんでしょう。

K:私も仕事柄英米のメディアの論調をいくつか読んだんですけれど、確かに日を経つに従って、日本寄りの論調が増えてきたのは確かです。特に最初にデモが起ったときは、中国のやり方も問題だけど、やはり日本も歴史を反省していないとか、そういうことをイーブン、イーブン、50、50位の比率で言っているんですよね。英米メディアが今回日本寄りになってきたかというと、必ずしもそうではなくて、日本がきちんと自己主張するというのは、中国に対しても意味があるんですけれど、国際世論をこちら側に引き寄せていくという意味でも、意味があるんです。

宮崎:英米メディアには慰安婦問題が出ていましたよね。

西尾:そういうことに就ては、日本の保守系論壇では論議は尽くされている、そして論証もされ尽くされていて、議論はいつでもできるし、論客は揃っているんですけれども、残念ながらそれをメディアで英語ないし、フランス語で向うのマスコミに出すという方法を持たないんですよね。それで、いつもそのことについて、じゃあ代わりになる外務省の役人なり、政治家の代表的な人が、レトリックも鮮やかに、われわれ
がセリフをつけてあげてもいいですから、ちゃんと堂々といざとなった時に、言ってほしい、とこういうふうに思うわけなんですけれど、ですが、それは非常にむずかしくて、いつも残念に思っています。

 ついこの間、安倍晋三さんが外人記者の前で話をしてきた直後にお目にかかったことがありますが、南京のことを聞かれたといって、それで応答はちゃんとなさって、これは学問的には疑義があって、何十万人死んだなんていうことのはあり得ないんだというぐらいの反論をなさったわけです。

 だけれど、それにさらに突っ込んでですね、南京事件はありとあらゆる知見を労したけれども、要するに、なかったという論証もできないけれど、あったという論証も実は出来ないんだと、そこまで学問的には突っ込んだ研究がなされていると、いうぐらいのことを政治家の口から言ってほしいわけですよ。そこまでは言いませんでしたと、仰言っていました。これから政治家になる人たちは、そういう言論上の防衛武装をして、出て行ってほしいし、従軍慰安婦のことも、すみずみまで知って、激論が戦わせられるような人でないと困ると思うのですよ。それとあとは勿論外務省ですよね。

宮崎正弘氏を囲む――中国反日暴動の裏側(十)

宮崎:しかしあの独裁政権が倒れなくては、この反日教育はなくならないでしょう。共産党延命の為の舞台装置だから、

西尾:ですから私は、よしんば大破局が起ってもいいから、共産党政権が倒れることが一日も早くこなくちゃいけないと思います。ソフトランディングなんていうのは、その分だけ日本が傷つくことが多くなる。ソフトランディングではなくて、ハードランディングを願っている。

F:宮崎先生におうかがいしたんですが、先生のお話しを最初から最後までうかがって興味深かったのですが、対日、反日デモはやらせだったと、それで、中国は非常にいろいろ問題を抱えているから、いつまでもそういう方向ばかりではやって行けなくなるだろうという感じのお話しだったと思うのですが、そういうことであるとすれば結論的に反日デモの問題は、ほっとけば自然に中国側の中の事情で消えていくという風におっしゃっているようにも聞こえたんですが、どういう感じなんでしょうか。

宮崎:強弱は出るでしょうが、消えることは無いと思います。基本的には中国は反日ですよ。我々は常に反中ですから、それは宿命的な隣人関係じゃないかと思います。

F:やらせの反日デモみたいなものは、今後はなかなかやれなくなるだろうと?

宮崎:いやいやそんなことはないでしょう。やはり日本がかなり得点を挙げてしまえば、またやると思います。半年くらいたてば。今年は5・4の後は、7月7日が盧溝橋事件、8月15日があって、9月3日が抗日勝利60周年で、その後、9・18ずっと永遠にありますから。その時は必ず何かのキャンペーンをやりますから、その前後でね。今度はまた何か違うことをやるのではないかと思いますよ。たとえば、日本の企業がまた集団買春をやったとかいってね、醜い日本人というのとか、アングルはちょっとわかりませんが、常に強弱は別にして、やることは繰り返しやると思います。

西尾:それにひたすら耐えなきゃいけないんですか。

F:それがね、橋本派がいままでいたってことが原因で、日本がこれに対して余りに無神経で、ほったらかしておいたのが、橋本派と関係があるような気がします。橋本派はこういうものに批判する声をあげた人だけど、そういう人たちをしらみつぶしにしていたでしょ。たとえば外務省の事務次官で、高柳さんでしたか、「鄧小平は雲の上の人だ」と言ったら、それだけで更迭されました。

G:柳谷さんですね。

F:ああいうことがね、大事件にならなくてもしょっちゅうあって、それで橋本派は対中ODAの利権を握っていて、日本はお金どんどんやるのに向うは感謝もしない、そういう橋本派がどうも、日本のイメージに対するダメージを与えたんじゃ< ないかと思うのです。

西尾:要するに静かにおとなしく、事柄を回避して、アジア・アフリカ会議で「侵略」と「植民地」でまた例のごとく謝罪して、小泉さんの外交の勝利であるかの如くいわれており、そして、それがあったおかげて日本の企業も安心し、世界から日本は大人だと思われたか、それとも日本は腹黒いところがある、だから演技したとかなにか分りませんけれど、今のところは治まっているように見えるわけですけれど、また繰返されるでしょう。こういうことは、実はずっと繰返されてきているのですが、そんなに遠くない時期にまた同じことがあったら、今度同じ手は使えないですよね。また総理大臣がのこのこ出て行って、ばかなことを言うということは、もう出来ないと思うのです。

F:今回は少なくとも西欧とアメリカに関する限りは日本の立場は非常に強いんですよ。今度の場合は小泉さんをブッシュがかばおうとしたんですね。

G:かばうよりも、せっかくの世界の監視の中でですからね、注視しているところにね、小泉氏がわざわざ、冷静にしろとかわけのわからんことを言ってね、わざわざジャカルタの向うの旅館にまで行ってね、会うなんてもっての他ですよ。

西尾:少なくともセリフの中に、21回目の謝罪であって、日本は十分にやりすぎるぐらいやったと、今日を以て一切を終わりにするという、宣言を世界に言うとか、それぐらいのことは総理大臣はやらなきゃ、おかしい。

G:こうやってねレンガや生卵まで用意して、大使館に石を投げることを公然と認めておったのは、外交常識においても常識外のことですよ。それを敢えてやったのは、これくらいやっても、相変わらず日本は大人しくしているだろうと。そういう風にみたんじゃないですか。

宮崎:ですから条約とか、ウィーン条約違反とかそんなことを言っても、関係ないんですよ。
(笑い)

G:この前、瀋陽の総領事館に侵入したでしょ。あの時も謝罪を求めたにも拘らず、うやむやにしちゃったでしょ。

西尾:潜水艦

宮崎:潜水艦は遺憾の意を表した。

G:潜水艦は遺憾の意を表したことにしてあるけれど、ほんとうかどうか分りません。しかし、今度のやつがまたうやむやになるんじゃないかと、瀋陽の例がありますから、日本はそういう日本に対する見方というのを許しているので、日本を見くびっているんじゃないかという感じがするんですね。

A:私はね、最低限、小泉さんにしろ、町村さんにしろ絶対に言うべきだと思うのは、向うは正しい歴史認識と言っているんですよ。正しいって何ですか?と。正しい歴史認識、賛成です。日本には日本としての正しい歴史認識がありますよと。中国の歴史認識を我々が、鵜呑みにするわけには行きませんと。これははっきりう客観的なものがあって・・・・

西尾:日本がそれに従っていないと・・・・そうすると、われわれの教科書だけが悪者になるんですよ。

A:そうなんですよ。これは最低限小泉さん、町村さんは言うべきだと思います。

西尾:そこまで踏みこんで言ってないから僕はやっぱり町村さんは期待だおれだと思っている。

A:正しい歴史認識って、何をいうかと。それは中国の。

西尾:町村さん、やっぱり予想したとおりラインを越えられない。

宮崎正弘氏を囲む――中国反日暴動の裏側(九)

C:始めに戻りまして、Aさんは計画されたデモだといわれたのですが、北京の方はレンガも生卵もちゃんと用意してあったということですと、大使館への投石は初めから計画されていたと、公安の方もということですか。

宮崎:と、思います。というのは、天皇陛下が御訪中された時に、万里の長城に観光客がいましたよね、あれ全部公安だったんです。これは語り草になっているんです。最初に石を投げるというのは、市民に扮装した公安に決まっているんです。合図があって、あぁ今日は投げていいんだと、そしてみんな投げるんですよ。(爆笑)

 ですから、公安の総意であったかどうかは難しいけれど、一部はねっかえり必ずいますから、関東軍にも暴走した軍人がいましたように。

C:上海の方を見ますと、領事館に投げてはいけないと紙に書いてあるんですね。

宮崎:それは動員された、基礎動員されてきた人達にはそういう命令が廻っていたんです。

C:上海のデモと北京のデモでは、計画が少し違ったわけですか。

宮崎:計画自体は同じだと思いますよ。計画どおり行っていなかったのが、冒頭申し上げたように、携帯電話動員がでてきた。

C:北京の方では大使館に石を投げてもよろしいと。

宮崎:いやいや、そういう指示は廻っていません。

C:でも、レンガがちゃんと用意してあったので、

宮崎:ええ、それは公安が指示書で、文書で残すようなものではありませんから。

C:あぁ、文書ではね。

宮崎:ひょっとしたら口頭で、そういうことを言っていたかもしれませんけれども。

C:用意したということは、当然投げることを前提にしているのでは。

宮崎:それは、日本の大使館は昔のように、ビデオでもって、活動家の顔を撮るべきですよ。何にもしていないんですよね。本当に情報収集能力ゼロです。

C:民放の方は撮っていましたよね。

宮崎:ええ、民放各社もずい分アルバイトを入れて、フィルムをそういう所から映像を買っていたようですが、あれだって後でライブラリーを作って分析しなくちゃね。そうすれば、必ず活動家が出てきますから。

C:上海の方は予想外の出来事だったとしても、大使館に石を投げるというのは、どういう感覚ですかね。

宮崎:両方とも共通しているのは、北京は中間村といって、シリコンバレーで、ちょっと都の西北じゃないけれど、北京の西北にありまして、大使館まで20キロくらい歩いてあるんです。歩いて4時間あるんですよ。ですから当初はあの辺で、デモをやっておしまいという計画だったんですよね。ところがずーっとみんな歩き出して、人が増えて、それで途中で考えが変ったか、現場の人達が指揮を変えたか、どっちかだと思います。上海も人民広場から領事館まで、16・7キロありますから、歩いて4時間かかりますよ。当局はやはり最初はそんな遠いところまで、歩くまいと思っていたに決まっているんですね。

西尾:途中ちゃんと江沢民の私邸を迂回したりとおっしゃった。

D:大使館投石というけれど、クリントンの時にコソボでアメリカの空軍が間違って中国大使館を爆発させて、ぶっ壊して、人が死んだんでしたよね。あの時のデモは日本のデモとは違う。

宮崎:あれは完全に流れたんですよ。サッサ―というアメリカの大使は命からがら逃げたんですから。

D:あの時は本当にこれは、大使館○○・・・・・・だったんですが、

C:大きな石を投げるのは静止した、新聞にはそう出ていましたね。

宮崎:いやいや、火炎瓶を投げたんだよ。

D:中には火事がありましたね。

E:先ほど、先生は反日教育のことで、あまり影響が無いのではないかという観点からお話しになったんですが、私はこれは非常に大きな問題ではないかと思うのです。今回の先生の資料を読みますと、中国のメディアの論調がなぜ悪いかというと、それは文明国の規(のり)をはずしている。

 これは民主主義の国家であるわれわれ国際社会には受け入れられないなという観点からの、つまり今のデモでいえば、物を投げたりということへの非難というふうに受け取れるのですが、そこをはずせば、整然とデモが行われて終わっていれば、じゃあ必ずしも欧米のメディアは中国の批判へ廻らなかった可能性もある。ということは、どういうことになるかというと、そこは日本が悪い、日本と中国との構図が、日本が悪いということが相対的に上がってきてしまうと思います。

 私は盧溝橋の博物館しか見たことがありませんが、やはりああいうものを見たら、たとえ一日の参観であっても、あれを見て育つということは、潜在的に心の中に残るわけでありまして、そこをさらっと反日教育はたいしたことはないというよりも、かなり問題だという認識を持ったほうがいいのではないかと思います。

西尾:たとえば日本政府が持ったほうがいい、と・・・・

E:もちろんそれもそうですし、そこが我々も中国に対して訴えるポイントだという風に、認識をするべきではないかという気がいたします。

宮崎:よくわかりますよ。われわれの民族感情としても、腹がたってしょうがないんですけれど、あれやっぱり本気じゃないんですよ。見に来ている人たちは。学校教育でも小さい時から子供は答案にはこう書きなさいと教わっているんです。現実は違うということは、みんな百も承知なんです。

西尾:そんなに区別がついているのかな。そのうち一緒になっちゃう。

宮崎:いや、ならないんですよ。文革の現実と・・・

E:ちょっと説明の仕方が悪かったかもしれませんが、中国人の末裔が信じるということよりも、彼らがそれを使えるものだという意識をもって、要するに欧米人がそれに着目をすることが問題なんだろうなと思うのです。

 日本と中国の間だけであれば、お互いに何世紀も昔から違うことを言い合って、それで済ませてきたという歴史があると思うのですが、超大国のアメリカというものが間に入ることにより、そういう存在がある以上、彼らにもなるほど日本にはそういう非があるのかと思わせるような材料を提供することは、きわめてマイナスなんじゃないかと思います。

西尾:それを日本政府はいつも黙っているんだね。

宮崎正弘氏を囲む――中国反日暴動の裏側(八)

宮崎:いい悪いは別として、客観的に大破局のような、そういうことがあり得るかという問題もあるんですよ。ロシアと中国で今まで大革命が起きたんですけれど、中国の場合は特に、共産党が一人で革命をやろうとしているときに、彼らは失敗して、江西省で、江西ソビエトを棄てて長征イデオロギー、長征というのは逃げたということですからね、それで陝西省に着いて、張学良を戦わせて、蒋介石をつかまえて、抗日戦争が始まるように仕掛けておいて、そういう過程で共産党が変化をしたんですよね。

 だから、ロシアの場合もドイツの参謀本部がレーニンをロシアに送って、第一次大戦で、その過程で・・・・つまり、革命というのは、既存の政府が戦争で負けて、長期戦争でね、負けた場合に威信を失って、その時に初めて改革派が成功するようなタイプの現象であって、平和の事態で、政府が軍隊を完全に握っている場合、恐らく僕は、学生や農民が立上がっても、近代化された軍隊の暴力によって、立ち向えないんじゃないかと思うのですね。

西尾:ソビエトが崩壊して、ロシアになった、というような変化は中国大陸では期待できないですか。

宮崎:それはあるかもしれないね。でもその場合はやはり・・・・

西尾:ソビエトは戦争に負けたんですね、冷戦に負けた。

C:だから、政府が威信を失って、あの場合はゴルバチョフの自由化というのは、共産主義体制の中からやったんですよね。彼は最後の共産党の指導者だった。範疇からはずれるんだけれど、僕は中国の人民解放軍がそのためにしっかりしているんだと思うのだけれど、共産党が最後に頼れるのは軍隊であって、軍隊はあそこを抑えきれるのではないかと思いますね。

西尾:抑えきれるか否かというよりも、最初に出た山口先生と僕との意見の違いなんだけれど、今回の推移を見ていて、小泉がのこのこ出て行って、収めてしまって、これはまずいなと思った。もっといらつかせて、もうちょっと混乱が起きれば胡錦濤がすっ飛ぶじゃないかと、そうなったほうがよかったんじゃないかと、何も大混乱、大破局、何百万人の人間が流出という事態じゃなくても、北京オリンピックがすっとぶくらいのことが起ってほしいと。

A:僕は西尾先生と、ぜんぜん別のことを言っているんじゃないと思います。ソ連がゴルバチョフみたいな男がやって、軟着陸したわけですね。別にそんなに大革命が起きたわけじゃなくて。ああいう風にですね、今回の混乱だって、北京オリンピックがすっとぶぐらいの事態になって、別に核が飛び交うことになるなんてそんなことはならないでですね、北京の共産党当局者、政府当局者が、少しずつ軌道修正していかなくてはならないなという風に、そういう方向に動いて、やがてスローペースでしょうけれど、軟着陸してくれる、それがシナリオとしては、一番好ましいのではないでしょうか。アジア全体、ことに日本にとっては。

宮崎:分析的にはそういう状況もあるんですが、中国にはそういう公式をあてはめても、全く意味がないことがありましてね、たとえばキャピタルフライトというのがありましてね、幹部が海外に持ち逃げしている資金がおおよそ一千億ドル。昨年マカオから大陸に旅行者が出たのは大体1650万人。マカオでバクチに使ったのが52億ドル。スイスとか、海外から入ってきた投資資金はそのまんまケイマントあたりに行ってね、どうなっているかよく分っていないんです。本当のブラックホールの恐れがあるんです。

 その辺からまず、危機が来るでしょうね。もう一つは、不動産バブルが、今上海は日本より高いんですよ。完全なマネーゲームで、去年までは温州商人といって、セッコウ省の中腹にある中国のユダヤと言われているところですが、その温州が闇資金の33パーセントくらい持っている。中国のね。闇金融をさかんにやっておりますけれど、温州商人たちの投機を越えて、今金が入ってきているんです。台湾とアメリカから入ってきている。

 アメリカの不動産ファンド筋が、それこそ巨大な額を持って、今まだ投資を続けていますので、去年も20パーセントくらい上がりました。その前は28パーセントくらい上がりました。6年前に中国の株式投資ブームは終わったんですね。それまでは株を買いさえすれば儲かるという狂乱の下に、株がうぁーっと上がって、どんと落ちて、この6年間、6年前の40パーセントくらい低いところに行って、株投機は今はないですね。

 3年前から始まったのが、例のセメント・ニッケル・石膏その他言ってみればいわゆる商品投機です。建材が7割だの、8割だのばかみたいに上がって、あれみんな買い占めしていたんです。そういう投機資金が最後のバクチ場で、上海の不動産に来ている。あとは、中国人は騙しあいの世界ですから、急にドンとくることはないんですが、お互いに騙してババを回していくうちに、最後に誰がババを引くかというところで終わりますから、不動産○○○考えにくいんですけれど、その間に減っていく金ですが、その金が結局どこに集まっていくかというのが、読めない。蒋介石の資金が、当時380億ドルあって、蒋介石達がアメリカに持って行ったドルが280億ドルぐらいで、あれ銀行だかどうだか分らないのです。今の中国の銀行もそれに近いところがありますからね。

 どうも軍の衝突とか、農民の暴動、国籍軍との対立、そういうことはまだしばらく起こらないのではないでしょうか。

宮崎正弘氏を囲む――中国反日暴動の裏側(七)

 出席者は小田村四郎、石井公一郎、大島陽一(元東京銀行専務)、尾崎護、呉善花、三好範英(読売新聞国際部)、東中野修道、大塚海夫、山口洋一(元ミャンマー大使)、片岡鉄也、木下博生、大澤正道(元平凡社出版局長・歴史家)、田中英道、萩野貞樹、真部栄一(扶桑社)、力石幸一(徳間書店)、西尾幹二。

 なお、宮崎と西尾以外の発言は声で識別できないのでABCで表す。また、聞き取れなかった言葉は○じるしで示す。

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宮崎正弘氏を囲む――中国反日暴動の裏側(七)

● ディスカッション

西尾:いろんな現実を幅広くご紹介たまわりまして、ありがとうございました。皆様にはご感想はまたいろいろあるでしょうが、いかがでしょうか、山口さんどうぞ。

A:大変興味深く拝聴しました。確かに党の中は一枚岩ではなくて、江沢民派との確執があるんでしょうが、私は今回の事態を見て、逆説的な言い方をすれば、むしろ安心した、よかったなという思いがしているんですね。というのは、やはり全体として完全に政府の演出、共産党中国政府の演出どおりに事が運んで、先生がおっしゃったようなことがあるんだけれども、全体としては政府が統制して、政府の振り付けどおりに事がすすんでいると、総じてそういうことがいえるんじゃないかと思うのです。

 一番心配なのは、共産党、中国政府自身がまさに、危惧しているんだけれども、大衆の動きが反政府、反共産党という方向に向って、収拾がつかなくなるとえらいことになるんですよね。そういう事態にならないで、まぁ、政府の振り付けどおりに事が進展したということで、一段落して、まぁまぁよかったなぁという感じがいたします。

 日本として一番恐いのは、私は中国の一党独裁制が今の情況では続けていくしか、国を束ねていく手立てはないと思いますけど、未来永劫それが続くとは思えないんで、それが暴力的な中国伝統の易姓革命で、叛乱とか、暴動とかで、今の政権がおかしくなるというのが、日本にとってばかりではなく、アジアにとって好ましくない状態ではないかと、

西尾:好ましくない?中国の叛乱とか暴動とかは私は大歓迎ですよ。大混乱に陥って、体制がひっくり返って欲しいですよ。

A:え?そうですか?私はやっぱりですね、望むらくは、軟着陸してね、

西尾:軟着陸はあり得ない。百年も二百年もかかるでしょう。

A:そう、そりゃそうですが、中国何千年の歴史で、ずっとこれまで易姓革命しかなかった国ですから、民意でもってだんだんと変っていくなんていうのは・・・・でも世界は変わっていますからね、殷、周、漢、隋、唐、宋、元、明、清と来た時代と、今の時代は世界は変わっていますからね。少し時間がかかっても、暴動とか革命で変るんじゃなくて・・・・

西尾:革命は、中国に精神的に新しい勢力が起こらなくてはおきませんけれどもね。革命が起きるのではなくて、反革命が起きてほしいんですよ。蜂の巣をつついたような大混乱が起きて、軍閥が割拠して、その中で大破局が起らない限り、あの国は変らないんじゃないかと思う。

A:だけど、大破局というのは血で血を洗うような・・・・

西尾:なればいいと思っているんです。

A:そうですか?日本に何十万という難民が押し寄せますよ。

西尾:あるかもしれませんけれど。

B:ちょっと議論はですね、いろいろパッチを貼ってですね、弥縫策(びほうさく)でよろよろよろよろやっている間に、傷が深くなると。そうすると後の始末は一層深刻になるという問題を含んでいるように思うんですね。だから、日本のバブルもあるところではじけたけれど、はじけないであと数年、よろよろ前に進んだら、もっとあとがひどいと、そこら辺の問題があると思います。

西尾:いきなり私が破局待望を言ったもので、価値観の転換が・・・

A:いずれにしろ今回の、反日デモ云々を見る限りにおいて、政府がよろしく振付けしているから、まだ破局に至るような段階には・・・

西尾:今日の段階ではそうですね。5月、6月、7月、8月はどうなるかわかりませんよね。

B:私の言ったことにお答え頂きたいのですが。

西尾:コントロールがきけばいいという?

B:いえ、コントロールを効かせていると・・・・

西尾:かえって後でひどくなるということですね。

B:バブルがより一層膨れ上がって、膨れ上がることによってよりダメージが大きくなり、回復に時間がかかるのではと。そうすると、破局というのは何らかの時に起るんだから、早い方がお互いに結構なんじゃないか。向うの民族にとっても、世界にとっても結構なのでは?それがどんどん時を稼いで、より一層病状を悪くすると、病気や怪我と同じで、治療が遅れることによって、病状の悪化が回復を遅らせ、ダメージを大きくするというような気がするんですが、いかがお考えかと。

A:私は必ずしもそこはちょっと、そうは思いません。漸進的に少しずつ、中国国民もこうやってガス抜きをしたり、いろいろしながら今の共産党の圧制はおかしいよと、民意をますます露にしていく。世界が、国連を始め国際世論が、かつてとはちがうなという状況は明らかですから、中国の政権も、これは時間がかかると思いますが、30年か50年かもっとかかるのかもしれませんが、少しずつ変っていって、軟着陸してくれるというのが、僕はアジアや世界全体の為には好ましいんだと思います。

 あそこがめちゃめちゃになったら、ソ連の崩壊どころじゃないですよ。アジア全体も、ことに日本はぐしゃぐしゃになるんじゃないですか。その過程で飛び道具を持っている人がいるんでしょ。核兵器を含めて、そんなのが、飛び交ったら地球は破滅ですよ。私はそういう、中国の大爆発、破局は是非とも起らないようにするのが・・・・・

西尾:それは日本の力じゃできませんから、自然に待つしかないですね。

A:漸進的にね、30年かかっても50年かかってもいいから、今日の明日、大混乱が起きて、人類社会全体が破滅するような・・・・

西尾:そりゃ、大げさですよ。

A:大げさかもしれないけれど、大混乱は大変なことになる。

西尾:早くドドーッと変わってくれないと周りが窒息しちゃいますよ。

宮崎正弘氏を囲む――中国反日暴動の裏側(六)

● 中国は何を反日ですり替えようとしたのか?(2) 宮崎正弘

 不良債権、これもやはり隠していますが、おおよそ日本円で90兆円くらいの不良債権がある。国有4大銀行だけで、4大銀行とは中国銀行、中国建設銀行、中国工商銀行、中国農業銀行。

 対GDP比で、中国の不良債権は50パーセントあるだろうと米国などの金融機関のシンクタンクが指摘しています。

 すると、この不良債権をどう誤魔化すかということは、日本と同様に債権買取会社を作って、そこに移管させる、帳簿上そういう操作をやっているんですね。

 また中国はさかんに赤字国債を出しています。

 赤字国債と不良債権と全部合わせると、今のところGDPの140パーセントぐらいになっているはずです。

 中国は大掛かりな詐欺を平気でやります。中国銀行と中国建設銀行を香港とニューヨークと、もうひとつどこかで上場してね、それで1千億ドルそこで集めて穴埋めをしようとした。そうしたところ、事前審査でニューヨークはこれはちょっと受付けられない、ということで、香港あたりに、上場を移行すると言われております。

 赤字を補填する為に、外貨準備高から一昨年450億ドル、追加で700億ドル外貨準備から入れる、これまた不思議な操作をやろうとしております。不良債権の爆発というのは、そのうちに成長率が止まって、外国からの投資が半減するようなことがあった場合には表面化するでしょう。

 現実に台湾の中国への投資はことし第一四半期に48パーセント激減しております。台湾に対する「反国家分裂法」の制定が原因です。

 ですからこれは、日本も進出を考えているところは遅らせたり、実際にお金を振り込むのを1ヶ月、2ヶ月遅らせて様子をみるというようなことになると、もっと表面化してくる。銀行の不良債権がすぐ出るか、或は今バブルのピークを作っている北京や上海の不動産に出るか、その辺のところはちょっと読みにくいところではあります。

 あれだけ愛国を言っている連中の、汚職と腐敗が全く絶えないという問題があります。非常に深刻な問題です。

 党の最高幹部はどれだけの汚職をやってもつかまりませんけれども、相当の幹部がつかまっている。

 たとえば中国銀行の前の頭取、それから今年の3月だったとおもいますけれども中国建設銀行の頭取が逮捕、なぜこの人たちが逮捕されるのかというと、みんな朱容基派なんですね。上海閥はそうやって、どんどんどんどん胡錦濤は影響力を削いでいく。みせしめのために逮捕したというような意味もあるかと思います。

 こういう社会的経済現象のみならず、基礎的な問題で環境汚染と水不足が深刻で、特に水に至っては四百数十の都市で飲料水がもはや飲めない、という検査結果が出ています。

 辛うじて北京、天津あたりの水は飲めるけれども、ミネラルウォーターを家庭では使いなさいという通達が出ている。

 黄河の下流流域では汚染された水を飲もうにも、水が来ていないんですね。断水しておりますから、そうすると水の汚染と水不足により、とくに人間は水がないと生きていけませんから、過去十年間の改革開放のなかで、中国は農村から都市部に1億4千万人が移動したわけですが、今度は水不足で新たに就職ではなくて、水不足が原因で長江方面に、向う5年か10年の間に1億数千万の民族移動が起る可能性があるのではないか。

 それを一生懸命対策を講じるには、長江の水を黄河までひっぱって、という非常に乱暴なプロジェクトをやっている。

 三本の運河を引く。隋の煬帝でもこういうことは出来なかったんですが、工事は2年前から始まっています。総予算680億ドル、しかし、あと20年くらいかかりますから華北の水不足に間に合うかどうか。

 江沢民派と胡錦濤派のせめぎあいですが、胡錦濤さんはどうもまだ三権を掌握していない。軍が特にそうです。軍はまだ江沢民が任命した高級軍人が、あの人が軍事委員会の主席を勤めたのは10年くらいですけれど、その間に69名の上将・大将を任命しております。その中で引退した人が20人ぐらいです。胡錦濤になってから、任命した上将はまだ3人。そうしますと、軍の中のバランスはまだ胡錦濤派には完全になびいていない。

 今、胡錦濤がやっていることは、自派から、地方の省長クラス、副省長クラス、書記クラスをどんどん自分の派閥で固めて、いずれ折江省、安徽省にも及ぶでしょう。あと一年くらいの時間を要するでしょうが、胡派が殆どの地域のトップも抑える。

 今の段階で申し上げられることは、反日デモというのは、胡錦濤派達が、外交的に日本に強く出ることによって、国内のイメージを高めようとしてやらせ始めたけれども、途中から上海閥のいやがらせが入って、上海で暴動を起して、国際的イメージを損壊させるまでの事態に至ったのです。

 そうすると胡錦濤としては今、この状況は一刻も早く静めなければならない状況に追いこまれたことになるわけです。

 これまで共産党は自分達の悪政への抗議を回避する為に、反日を利用していたんですけれど、その反日が逆のブーメランとして、跳ね返ってきて、自分達に歯向かおうとしている。

 アメリカのマスコミの分析なんかを見ておりますと、そういう視点からの日本への同情論が多いようです。

 彼らがどれだけ、中国の実状を掴んでいるかはわかりませんけれど、そういうところが今の状況ではないかと思います。以上でアウトラインを終わります。

宮崎正弘氏を囲む――中国反日暴動の裏側(五)

● 中国は何を反日ですり替えようとしたのか?(1) 宮崎正弘

 さて中国は反日で何をすり替えようとしたか?

 申し上げて参りましたように、社会不安、農民暴動、ストライキ、炭坑暴動、失業対策の無策・・・・結局今民衆が一番敵視しているのは、中国共産党であって、亡命知識人達が指摘したように、一般の民衆にとって、日本なんかなんの関係もないということです。

 もう一つは、日本で伝わっておりませんけれど、今共産党員の大量脱党事件っていいますか、100万人くらい脱党したんです。ニューヨーク、ロサンゼルス、その他では、共産党批判の集会が開かれてデモが開かれている。

 非常に静かな、平和的な集会やデモであったりするもんですから、日本の新聞は殆ど書いておりません。共産党の党員の減少というものは、危機に直面しているという問題がございます。

 また農村対策の遅れ、貧困地域のそのままの遅れ、都市戸籍の問題その他あるんですが、特に農民は過去2、3年間所得が減っているんです。出稼ぎに行って、都会部で働くわけですが、戸籍の問題があって、月に例えば千円くれるという約束があって行っても、あんたは田舎の戸籍だから、賃金は半分だとか、スシ詰めの部屋に入れられて、場合によって頻繁に給与の不払い、それから現場監督が給料の持ち逃げをやるんですね。それで、我慢できなくなって暴動がおきる、というような問題があります。

 もう一つの深刻な問題は、開発に対する弊害。たとえば三峡ダムで立ち退いた農民が公式的には117万人と言われていますけれど、事実上は83万から85万立ち退いた。多くは職もなければ移転した先に家も建てられないという人がたくさんいる。

 そのうち20万人くらい流れこんだのが、重慶の中の万州区で、ここへ流れこんで、スラム化をしているのです。そして、昨年の10月18日に、この重慶で5万人の暴動が起きています。3人くらい死んでいるんです。これは三峡ダムの強制立ち退きに付随した問題です。

 昨年10月26日、四川省漢源県で、共産党始まって以来の15万人の暴動がございました。

 理由はあそこにダムを作っておりまして、ダムの立ち退きを要求されている農民が、おおよそ13万人、補償金が1平米あたり日本円で数十円。これは死ぬか生きるかの問題で、それで農民達が立ち上がって、地方幹部に抗議をしたところ、軍隊が導入されたのです。ワシントンポストだったと思いますが、6人から8人死んでいると報道されました。その後、この場所は戒厳令がひかれておりますので、その後様子は全くわかっていません。

 こういうことは、しょっちゅう起きている。外国には詳しく伝わっていないのですが、たまたまデモの参加者が、携帯電話なんか持っていると、他の地域に電話をするもんですから、それで情報が香港とか、他へ流れて出て、外国にある反共産主義的な自由派の新聞がそれを書く。ニューヨークタイムズにはその他の中国の人が知らせますので、英字新聞がほぼ同時に伝えていく、というような状況があります。

 環境問題でもデモが起きています。北京の反日デモのその日に折江省の東陽で、ここは4年前に、近郊に工業団地を開いた。化学工場、染物工場、製薬、化学肥料、農薬などの工場が廃液を全部垂れ流して操業しておりまして、たとえば、妊婦が奇形児を産むとか、原因不明の病気になるとか、癌の発生率が異常に高いとかいうような状況になっています。

 それで、近くの農民が自警団を組織して、原料を搬入するトラックをストップさせるというようなところから、騒ぎが発展しました。農民が封鎖線をはっているというので、警官隊が3千人導入されてやはり2、3人死んでいます。最後は5万人の暴動になって、戒厳令が引かれて、その後のことが今は分っていません。

 とにかくあっちこっちで、反日デモなんてああいうやさしい、石を投げるくらいじゃなくて、本当の農民一揆を越したような状況が進展しているのです。そういうところを共産党の指導者はみんな知っている。

 この矛盾をすり替えるのは、反日でやってきたわけですが、いよいよ「反日」でもすり替えが効かなくなってきた。

敗戦国に謝罪の義務はありえず

 現在、「宮崎正弘氏を囲む―中国反日暴動の裏側」を連載中ですが、5月12日産経新聞「正論」欄に以下の文章を書きましたので、掲載します。

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敗戦国に謝罪の義務はありえず

二重謝罪招く首相のおわび表明

《《《喜べない欧米からの評価》》》

 4月22日、バンドンの首脳会議で小泉首相が例によってわが国の「植民地支配」と「侵略」を謝って以来、私はずっと胃の腑(ふ)になにか消化の悪いものがたまっているような気分から解放されない。

 中国の無法に耐えて謝ったからではなく、謝罪演説が欧米で評判がいいと分かってかえって私は気分がすぐれない。

 中国が反日暴動に謝罪しない傲慢(ごうまん)さで世界の非難を浴びていたさなかだったので、小泉演説は大人の印象を与え、政治的に点数を稼いだ。米紙ウォールストリート・ジャーナルは25日「今度は北京が謝罪する番」と書いた。欧米や国連の論調はたしかに小泉氏に好意的だった。それだけに私はだんだん腹が立ってきた。中国の強圧的無礼に屈した形になったことより、外電が歓迎したことのほうが私にははるかに不快だった。

 アジア・アフリカ会議の出来事で欧米人がアジア人である日本人に点数をつけている。しかもドイツと比較している。そしてそれを日本人が喜んでいるような構図全体がこのまま固定したらひどくまずいな、と思った。アジアへの「植民地支配」と「侵略」をしたのはいったいどこの国々だったというのであろう。

 最近しきりに考えるのは、第一次世界大戦と第二次世界大戦とでは勝者の態度に異変が見られることである。

 第一次世界大戦では4年にわたって悲惨な戦争をして、最後には毒ガスまで出て、ヨーロッパは焦土と化した。インドの詩人タゴールは文明がもたらす非文明、ヨーロッパの野蛮を指摘した。ヨーロッパの内部からも強い反省の声がわき起り、「西欧の没落」という本が書かれ、不戦条約も作られた。

 しかし第二次世界大戦の後で欧米の勝者の中から反省の強い声が出てきたであろうか。惨劇の規模は前の戦争よりずっと大きかったのに、ナチスの悪口ばかり言って、ついに異なる戦争をした日本まで巻き添えにして、大量破壊史を展開した欧米人は、自己断罪を回避した。アジア・アフリカへの「植民地支配」と「侵略」を日本の首相が謝るのはおかしいのではないか。

《《《究極の選択としての戦争》》》

 ここで「謝る」とか「わびる」とかはどういうことかを原則から考えてみたい。

 国家同士も市民社会と同じように謝るべきことはある。幼児が罪を犯せば親が謝るようにクリントン前大統領は沖縄で起こった米兵による少女暴行事件に直ちに謝罪した。

 韓国の少女ひき逃げ事件ではアメリカはやり方を間違え、それが引き金で盧武鉉大統領を誕生させてしまうというヘマをしでかした。国家としての謝罪行為はいかに大切か。

 けれども、国家との間で断じて謝罪してはならないことが一つだけある。それは戦争に対してである。戦争は言葉の尽き果てた最後に、言うべきことを言い尽くし、屈辱を重ね、反論も謝罪も当然した揚げ句の果てにどうしようもなく、とうとう最後の手段として戦火の火ぶたが切られるという究極の事態であろう。

 勝敗は言葉とは別の手段、暴力で決する。敗者は反論を封じられる。海外の権益を奪われ、賠償を取られ、領土を失い、その他あらゆる屈辱が強いられ、外交上の発言力は低下するし、国益は守りにくくなる。苦しんだ揚げ句、やっと講和条約が結ばれる。これが「謝罪」である。

《《《ドイツも戦争は謝罪せず》》》 

 当然ながら、もうこれ以上二度と「謝罪」ということはあってはならない。なぜなら双方言い分を出し尽くした結果一致せず、相手を互いに不当と信じて突入するものが戦争であるから、事後の謝罪はあり得ない。謝罪する余地がないから戦争になったのではないか。敗者は暴力に屈しても内心に多くの不満を残し、正当性の感情を蔵している。つまり敗者には敗者になる前からの理があって、結果に必ずしも納得していない。不服従の感情を抱き続けている。

 それを鎮め癒すために講和がある。講和は勝者には報復の確認だが、敗者には二重謝罪を防ぐための確約である。戦後60年も経て日本の二重謝罪三重謝罪が当然視されるのは、地球上で日本を抑えつけておこうとする「戦争」が続いていることの何よりもの証拠であろう。日本が今後謝罪を繰り返すことは将来の戦争に道を開く行為である。

 なおドイツはナチスのホロコーストには謝罪しているが、侵略戦争には謝罪していない。最近各国からドイツに賠償要求の声が上がっている。ドイツは講和さえ結んでいない。戦後処理はやっとこれから始まるのである。間違えないで欲しい。

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宮崎正弘氏を囲む――中国反日暴動の裏側(四)

● 反日デモはいかに演出されたか(2)  宮崎正弘

 次に3月下旬に、共産党は各大学、職場にオルグを.派遣して、反日デモへの参加要請をしております。要するに当局が動員指示を出していたのです。

 たとえば上海の例ですが、集合場所は「人民英雄記念碑前」と「人民広場」に集合しなさい、集合時間午前8時その他、と書いてあるんですね。コースは南京路へ向い、人民広場で合流し、延安路から日本領事館へとなっています。

 延安路というのは、日本でいう昭和通りみたいに、クルマ専用道路なんですね、ほとんど人通りがない。

 周りにデパートも何にもない道です。本当は平行して走っている上海の銀座に匹敵する盛り場もある。そこには多国籍企業が山のようにあって、ここで暴動を起されると困る。その先には江沢民の豪邸がある。

 これを非常に巧妙に迂回させて、それで日本領事館に向っていくというコースの演出があるのです。

 それから、注意事項が書いてありまして、まず「飲料水など各自が用意すること、日本製品は携帯しないこと、貴重品も持参しないこと、排便をすませておくこと、そして、日本製のデジカメ、携帯、パソコン、ラジカセ、ウォークマンなどは誤解を与えてはいけないので携帯をするな、それから出席をとるので、筆記用具を持参しなさい。領事館前では投石はいけない、小泉のポスターや国旗を焼くために、ライターなどを持参しなさい。シュプレヒコールは「日本製品を買うな」「歴史教科書改竄抗議」「日本製品排斥、国産品愛用」「日本の国連常任理事国参加反対」「魚釣島を取戻そう」など決まっているんです。これ以上のことは言うなという意味です。

 さらに細心の注意事項が追加で添付されておりまして、先ず一番「日本の右翼を刺戟するような破壊活動を慎みなさい」「付近の日本商店やレストランに投石するな」三番目「国旗を焼くときは自分の衣服に燃え移らないように気をつけよう」「警備の警察の指示にしたがいなさい」「上海の国際都市のイメージを保持するため、リーダーの指示に従って整然とデモ行進をしなさい」「以上を踏まえて広く友人に参加を呼びかけてください」というような指示書が書いてある。

 これらを見てまいりますと、どうも直前の4月9日に起きた広東省深センで起きたデモは武装警官が、まさに便衣隊の伝統がありますように、かれらが市民に化けてデモをやっていた。

 すると、上海もどうも最初のデモを組織して、最初の行進あたりまでは、相当公安が市民に扮装して入っていて、途中から携帯電話で入ってきたので、ややこしいことになったんだろうと思うのです。携帯電話の呼びかけは「今日は、石を投げてもいいみたい」とか、そういうことで、集まっているんですね。

 4月10日、広州の領事館(花園ホテルのなかにある)や付近の日本料亭が襲撃を受けた。

 深センでは「ジャスコ」が投石被害が出ておりますけれど、ここで蘇州に広がっているんですね。

 蘇州は日本企業と台湾企業が集まっているところですが、しかも蘇州といえば、これは江蘇省ですから胡錦濤にとっても非常にまずいのですが、この辺から反日が本格的になってきた。

 北京の場合はかなり、上海と比べるとかなり整然としていたんですね。勿論暴力行為はありましたけれど、大使館前にはレンガがいつの間にか積み上げられて、生卵がケースで用意されて、帰りのバスも用意されて、ただこれは相当の失業者が北京では加わっているというようなことが、大体確認されております。上海の場合は今申し上げたとおりで、同じ日に反日感情の薄いとされた広州、天津でもあったというところは気になるところです。

 4月17日には瀋陽、寧波、長沙、アモイ、と広がっていった。

 アモイでのデモを友人に確認したところ、やはり1万人くらいが参加して、自動車を二台燃やしたということです。

 東莞ですが、これは日本企業が二社、ストライキに遭遇しております。それから広州、珠海、南寧(江西省チワン自治区ですが)。どうして南寧にまで広がったのかわかりませんが、香港でも5千人のデモがあって、この時に町村外務大臣が北京にとんで、「日中外相会談」を開きました。

 その時、李肇星外務大臣が「日本側に責任がある。だから謝罪しない」ということを言明して、一方では町村外務大臣が謝罪をしたという一方的な報道を中国はしました。

 これは中国が勝ったイメージを捏造して、しかも当日愛国ネット指導者らは「ゴルフ・リゾートホテル」に招待されている。これは、まあ隔離をしたのだろうとは思われますけれども。

 翌日から今度は外国メディアの中国批判が激化します。

 そこで中国は柔軟路線に突如転換して、大使館修理の修理を申出たり、上海当局は賠償するなどと言ってみたり、今度は犯人逮捕に踏み切るんですね。上海では20数人から40人くらい逮捕したなんて、言っておりますけれど、逮捕の現場の写真が出ませんので、公で逮捕した、したと言っているだけの可能性もあります。