賀正
自由と民主主義と国土の安全は、我が国では戦後長らく空気や水のように当たり前の存在でした。ところがそう呑気に構えていいのかという不安を最近気にしだしている。それは日本の国内がナショナリズムの熱狂に走ったり、帝国主義化したりする心配ではなく、すべて外国の異常からくる。
例えば米国国内の信じがたい分断や分裂、中国の時節をわきまえぬ軍国主義化。ソ連が崩壊してから国家を超える連邦の理想は終わったはずなのに、この夢は欧州に乗り移り、国境を低くするというグローバリズムの幻想が生じ、他方、中国が一帯一路の名で経済帝国主義の挙に出た。同時に移民の大波が世界を襲った。だから危険なのは国家ではない。国家の連合である。グローバリズムの行き過ぎた応用の仕方である。
私は昨年末に『日本の希望』(徳間書店刊)という単行本を出した。そこに家族、民族、国民国家、ナショナリズムはいまや自由と民主主義の敵ではなく、むしろその味方であり、これを守り育ててきた母体ですらあると書いた。日本を取り巻く世界の情勢はいまや明治の開国期に似ていて、何となく「我に利あり」という印象を持っている。
令和四年元旦 西尾幹二