株式会社リアルインサイト 講演会(平成27年11月22日)より
「ドイツ・EU・中国」そして日本の孤独
(一)
今月から来月にかけて、サイコロの目がどちらに振れるか分からないので世界の目が固唾を呑んで見守っている重大案件があります(11月22日現在)。それは国際通貨基金(以下IMF)の特別引出権(以下SDR)、がドル・ユーロ・ポンド・円に加えて人民元を主要通貨として加えるか否かで、どうやら加えることになりそうだということ。そういうホットな問題が動いています。人民元がSDRの構成通貨になりますと、ドルと同じように基軸通貨のひとつになります。IMFはこれを非常に強く推進しようとしています。専務理事クリスティーヌ・ラガルドは中国から賄賂を貰っているのではないか、などという話もあります。
金融マーケットの門戸開放や自由化をすると、人民元はある種の改革を強いられます。具体的には変動相場制にしなければならず、そのような条件に合わないのが人民元です。この間の8月にも株が暴落したとき、中国政府が介入してマーケットに取引のストップをかけるという、資本主義ではあり得ない前代未聞の国家管理が加えられました。そんな通貨を国際化していいのか。常識では当然考えられないことです。ところがどういう訳かIMFは大甘で、中国が変動相場制の「計画」を示しさえすれば来年10月からSDR構成通貨として認定してもよい、というシグナルを送っています。
もちろんアメリカと日本は大反対を展開しています。中国経済はバブルの様相を深め、著しい経済の失速と成長率の低下でハードランディング、えらい自己破壊を演じるのではないか、というシナリオが世界の人々の視野には入っています。しかし「アメリカ・日本」対「中国・ヨーロッパ」の主導権争いが展開され、今のところ中国の押せ押せムードになっているということは新聞等のとおりです。なぜそれが私達にとって困るのかといえば、中国共産党の都合で上がったり下がったりする基軸通貨であったら、どんな政治的威嚇にも利用されてしまうからです。
8月の人民元の相場が11日に約2%から3日間で5%近く落ちたわけですが、その下落幅自体は日本円でも75円から125円と相当あったのですが、当時の日本政府は何も為すことができませんでした。為替の介入を若干やっても動かなかった。私たちはその苦痛を知っています。しかし中国政府は主要な株の売買まで止めてしまいます。人民元はつまり、中国政府の意向によって突然ルールが変更されてしまうような通貨で、これは野球やサッカーの試合の途中で審判がルールの変更を宣言するような話であって、こんなことがあって良いのか、というのが常識です。
同時に我が国が大変憂慮しているのは中国の経済的影響力が同時に軍事的拡大に拍車をかけることです。実はヨーロッパ諸国特にイギリス・フランス・ドイツは、日本を含むアジアの国々すべてが中国の植民地になっても一向に構わない、自分の財布が潤えばそれでよい、という考えです。これは昔からそうです。かつて日本がなぜ戦争に入ったかと言えばそれがあったからです。今は第一次世界大戦と第二次世界大戦の戦間期と大変に似ています。つまり日本の孤独ということです。
東アジア諸国連合(ASEAN)のうち一国でも中国の支配下に入れば、中国は自由に太平洋を出入りできるようになり、日本列島は中国海軍に包囲されてしまします。食料や原油の輸入もいちいち中国の許可を得なければ動けないことになります。これはアメリカにとってもただごとではありません。もし日本の中国化が進んだらアメリカの西海岸は直接中国と対峙することにならざるを得ません。カリフォルニアの沿岸で中国軍の潜水艦と向き合うことになります。そんなことはあり得ないと思われるかもしれませんが、世界は何が起こるか分からないのが歴史の常です。「資本家は金儲けになれば自分を絞首刑にするための縄をなう」の故事を裏書きしていますが、お金のためなら何でもするのが中国です。つまり今起こっていることは、8月11日の人民元の引下げで多くの外国が損をしました。そのために中国から資金を撤退し、外資の引き揚げが更に進んでいます。中国人民銀行は株を買い支える、つまり北京政府が買い支えなければ暴落する、という危ない経済構造になっています。
IMFはなぜそんな不相応な対応をするのか。日本とアメリカはそれに対抗しているのですが、8月から9月の段階で怪しい空気がたちあがっています。すでに麻生財務大臣がこれを認めざるをえないという発言をして、日本もその方向に進んでいます。あっという間の意向変更です。
「パニックや危機が起きる瞬間に中国当局が資本の移動を取り締まるのではという恐れがある限り、人民元をSDRの準備通貨とすることはできない」
とはサンフランシスコ連銀総裁の言葉ですが、私はこのコメントを支持します。アメリカにはしっかりした人もいるのです。しかし怪しい人もたくさんいます。
中国は外貨準備高が急速に減少しています。とてもではありませんが、現状ではアジアインフラ投資銀行(以下AIIB)に対応するだけの余裕など無いのではないでしょうか。AIIBの資本金の振込みはドル建てになっています。しかし中国はこれを何とかして人民元で支払いたいのです。どんどん自分で札を刷ればよいのですから。それを国際社会が許すのか、ということもありますが。また人民元の価値が急速に下がり中国政府が損をする可能性もあります。中国は政府の為替介入はしないとか、変動相場制にするとか、こうした規制撤廃を半年後や一年後にするとかが必須です。中国の約束や計画だけで人民元のSDRを認めてしまうなら、IMFは約束が守られないことを承知で救おうとしているとしか見えません。
結局これはヨーロッパ諸国が自分たちを守るためなのです。具体的にはフォルクスワーゲンの主力工場が失敗して、メルケル首相が中国に飛んで、中国のフォルクスワーゲンの工場は中国が資金を出すという約束をとりつけました。フォルクスワーゲンは他では売れないけれど中国ではまだ売れます。中国は一番大きな取引先で、大気汚染も構わず安ければよい国なので、当然ドイツは目の色を変えているのです。イギリスが中国に対して何故あんなみっともないことをしたのかというと、イギリス経済は行着くところまで行ってしまってもう先がないので、人民元によって金融街シティの活性化、シティを守り復活させたいという意図があるわけです。イギリスの製造業は見通しなく、金融(情報戦略)だけが国力の支えです。
これは私の目には「中国とヨーロッパ諸国の弱者同盟」に見えます。しかしそれがどんなに大きな影響力があるかを考えると、簡単にはいきません。中国の状況は多くの情報にあるとおりで、ここで強調しませんが、特権階級は人口のわずか0.7%で、これが国富の70%を握っています。約9%は1億人程度ですが、中産階級で、あわせて9.7%です。つまりこの約10%が「爆買い」をしているメンバーですが、残りの12憶5千万人は抑圧され搾取されている人々です。恐らく中国経済が破産すれば中産階級を含めて没落消滅してしまうことでしょう。中国人は人民元が紙屑になることが近いことを敏感に感受して焦っているのです。だから外国で不動産を買い漁ったりして少しでもしっかりしたものを手に入れたいと思っているわけです。中国の経済体制が砂上の楼閣であることに気が付いているのですね。中国の負債総額は3千兆円といわれていて、利払いだけで年間150兆円くらいですから到底返せるわけがありません。リーマンショック以降、公共事業投資約6兆円のものと地方政府による不動産開発投資で一旦自由化の道に入っていたかに見えた中国のマーケットが、習近平によって一変に国家社会主義的、国家的管理の下のファシズム国家体制に戻ってしまったのは皆さんもご存じのとおりです。従って人民元を増刷して公的資金を企業に投げ込んで、ひたすら危なくなっている自転車操業の延命を図ろうとしているのが今の中国の実態です。このような中国に協力しないと自分たちも危ないと思い、一所懸命支持しているのがヨーロッパ諸国であり、IMFであるということになり、日本もまた仕方がないということでしょうけれど、麻生さんが急に合意するような発言に変わってしまったのも欧州の意向にさしあたり合わせたのでしょう。
ここで政治的な話をしますが、ヨーロッパ諸国はヒトラーやスターリンに悩んだのではないでしょうか。その歴史を忘れてしまったのでしょうか。縷々説明するまでもありませんが、習近平はソフトな社会主義から一変にハードなスターリン型国家経営に転じていますね。それを私たちは黙って見ていてよいのでしょうか。安倍総理にはいろいろな機会で、共産主義の克服、一党独裁政治に終止符を打ち理不尽な人権無視に対抗すべきと言って頂きたい。かねてヨーロッパ・アメリカが言っていたことを今、声を大にして日本が叫ばなければならない時がきているのではないか。日本が人権と民主主義と自由を叫ぶときが来ているのではないか。いったいアメリカは何をやっいてるのかと。アメリカにだけはそれが分かる人がかなりいます。アメリカだけが頼りなのですが、そのアメリカさえも、オバマ政権がIMFの意向に沿うような発言をしているものだから、結局怪しいのですね。
私たちの考えている未来がどの方向に行くのか見えない。これは第一次世界大戦と第二次世界大戦の戦間期においても、イギリス・フランス、もちろんドイツも自分たちを守るためには何でもするのだと、皆シナ大陸に出てきていて散々悪いことをしておきながら、最後に日本軍が残って、彼らはみんな旨い汁だけ吸って逃げていったわけですね。あとは日本が苦い味だけを背負い込んだ。というのがシナ大陸における第二次世界大戦の実態です。今戦争の話を深くはしませんが、わが国だけが貧乏くじを引いたというのは間違いなく、今度もまた同じようなことが起こりつつあります。ヨーロッパ諸国から見るとアジアは遠いのです。彼らには何の危険も影響もないのです。
そうであるならウクライナは日本から遠いのだから、日本はウクライナに援助などする必要はありません。もちろん今のEUの難民問題も一顧だにする必要はありません。私はそう思います。日本を助けてなんてくれっこないのだから、こちらが手を差し伸べる理由も全くないのです。いくら何でも日本もその程度のことは分かっているでしょう。ヨーロッパ諸国が「遠い中国」を盛り立てることは、ロシアの脅威を回避するために必要なのです。それから少しでもドルの価値を減価したいのがヨーロッパですから、そのためなら何でもやりたいわけです。悪魔の国、中国を利用するということに於いて徹底しているのです。
(まとめ 阿由葉秀峰)
つづく