ゲストエッセー
坦々塾塾生 池田 俊二
失態をくりかへす外務大臣
一昨年(2015年)12月の日韓合意。先生が事前に豫想されたとほり、ほぼ反故になりましたね。先生の「日本の公的機關のなすべきは」「二十萬人もの無垢な少女が舊日本軍に拉致連行され、性奴隸にされたと國際社會に喧傳されてきた虚報を打ち消すことであり」、韓國を論理的に説得することでも、經濟カードで威嚇することでもありません」といふ御指摘を當局が理解できず、殆ど何もしなかつたのですから、當然の成り行きですね。
「合意の記者會見で、岸田外相は『當時の軍の關與』をあっさり認める發言をしました。そして再び『謝罪』をし、十億支拂うことを約し、慰安婦像撤去については合意の文書すら殘さず、曖昧なままにして歸國しました。それでも安倍首相はこれをもって完全決着した、と斷定しました」。先生とともに、私も呆氣にとられました。「なぜこんな失態をくりかえす岸田外務大臣の進退が問われないのか不思議」「人間がすべてなのです。『勇氣の欠落』がものごとのすべてをおかしくしている」ーーあの腑が拔けたやうな表情を見ると、なるほど全く「欠落」してゐますね。
「韓國を論理的に説得」? 何度煮え湯を飮まされれば、そんなことは不可能だと分るのでせうか。などと、私がもつともらしい言ひ方をすることはない。日本人が根本的に變らない限り、永久に分らないだらうと觀察されてゐるに違ひない先生の苦いお顏が目に泛びます。
軍艦島
軍艦島の世界遺産登録に關聯して、韓國に騙されたのは同年(2015年)7月、つまり「日韓合意」の僅か5ヵ月前!のことだつたのです。かうなると健忘症などといふ生易しいものではなくて、學習能力皆無、完全な病氣です。地球上で、今の日本人に固有の症状でせう。やはり「人間」の問題で、先生にはさらに研究していただく價値がありさうです。
あの時、 遺産登録は成りましたが、「また韓國に瞞され」「日本はありもしない『強制勞働』をあっさりと認めさせられました」ーーこの次第について、先生は直後に論じられましたが、いま再び觸れざるを得ないとは! お氣持は察するにあまりあります。たしかに瞞されたのですが、こちらから進んで瞞されたやうにも見えました。
ユネスコで、日本の女大使が演説しましたが、明瞭に、” They (Korean people)were forced to work” と言ひました。下線部分は私など高校英語で、「力づくで~させられる」」と教はりました。 韓國が主張する「銃劍の威嚇の下で」にピッタリの表現です。岸田外相は、これは強制勞働(forced labour)とは違ふと言つた由。バカバカしくて、議論になりませんね。
演説する女大使ののつぺらとした顏は無表情で、自分が何を言つてゐるか分つてゐないやうでした。まして、それが國の名譽や利害にどう影響がするかなんて・・・。
要するに、なにも考へてゐないのでせう。つまり、上司の岸田大臣と全く同じです。
無表情・無思考の人々出現の淵源
先生の洞察・分析は明快で、ことの筋道がはつきりとしますが、登場人物が安倍さん以下まつたく の ワン・パターンの顏・姿勢・言動しか見せてくれませんので、それに續く私の感想は同じことの繰り返しになつてしまひます。そこで、恐縮ですが、少し脱線させていただきます。
以前、如上の如き近代日本に固有な新人類ともいふべき人たちの、發生状況・生態などについて、少し考へました。その一部に觸れたことがあります。昨年、高校の同級生 關野通夫さんの『いまなほ蔓延る WGIPの嘘』(自由社)を同窓會の文集に紹介すべく、著者宛私信の一部を原稿として送りました(幹事の檢閲によりボツになりました)が、關野さんの岸田外相批判にこと寄せて、固有新人類論を展開しました。
その一節をここにーー
「御著の一節『 岸田外務大臣が稲田防衛大臣の靖国神社参拝を控へろと発言し
たそうです。この岸田という人は、東京裁判史観に骨の髄まで冒され、靖国の英霊を冒涜する国賊です』には完全に同感です。國賊であり賣國奴であるのは、外務大臣だけではありません。總理大臣以下ほとんどみな然りです。彼等は平氣で國を賣ります。何度外國から瞞されても懲りることがなくて、瞞されつづけます。二階にゐるといふ自覺もない上に、WGIPの猛毒を注射されたのですから、そのなれの果ての非・日本人が超低能なのは當然です。惡意で國を賣つてゐるわけではないのです」。
この「二階」は、前後しましたが、下記からの續きです。
「マッカーサーが、日露戰爭の時の日本の軍人と大東亞戰爭の時のそれを比較
して 『 とても同じ國の軍人とは思へない。前者は、 たとへ教育のない者でも、肝腎な點は きちんと判斷するだけの常識があつた。それが後者にはまるでない』と言つたのは有名ですが、明治以來の歩みを的確に言ひ當てられましたね。私には、日本人・日本といふ國の大變化(墮落) が、そこに如實に現はれてゐると思はれます」。
「 戰前に東北帝大で教鞭をとつた、ドイツの哲學者カール・レーヴィットの『日本人は二階建ての家に住んでゐるやうなもので、階下では日本的に考へたり感じたりし、二階にはプラトンからハイデッカーに至るまでのヨーロッパの學問が紐に通したやうに 竝べてある。ヨーロッパ人の教師は、これで二階と階下を往き來する梯子はどこにあるのだらうかと 、疑問に思ふ』といふ批判は、圖星です」。
「明治維新を成し遂げた世代にとつて、二階はお神樂ではあつても、その増築工事は自分が擔當したものだつたので、一階からの梯子の位置は勿論、全てが分つてゐた。日露戰爭時の軍人は、普請には參加しなかつたものの、先代を通じて學んだり、見聞きしておほよその樣子は知つてゐたので、二階に上つて 、一階にゐる時の感覺で行動しても、大きな誤りはなかつた。ところが、大東亞戰爭の時の軍人は、工事も先人の苦心も知らないので、二階、一階の區別もつかず、二階については書物による斷片的知識のみ。何がどこにあるかも頭に入れてゐないので 、どう振舞ふべきか分らず、右往左往するだけーーまあ、別の天體に紛れ込んだやうなものでせう。本來の日本人としての智慧や能力を一切發揮できなくなつてしまつたのです」。
そして 僭越ながら、次のやうに結論を出しました。
「(日清戰爭時の)外務大臣陸奧宗光は私にとつて、理想的日本人です。陸奧外務大臣⇒岸田外務大臣は日本人の消長・變質を典型的に示す好例ですね。ここまで墮ちて
は、もはや・・・」。
入口だけの雜駁な議論で、恐縮です。
近代日本の目も暈むばかりの榮光と、そのあとの悲慘・滑稽。後者のすべてを體現してゐるのが、この非・日本人でせう。さいはひなことに、彼等は完全に一つの種から生れたのですから、複雜なことはなにもありません。安倍、御厨、北岡、岸田、女ユネスコ大使etcなどを個別に研究する必要はないでせう。十把ひとからげに觀察した結果に基いて、その増殖防止の手立てを考へれば、それが亡國への歩みの齒止めになるのではないでせうか。
西尾先生の關心・テーマの一つは、さういふところにありさうだと、先生のお若い頃から屡々感じました。先生に、個別診斷のほかに、綜合的處方箋をお願ひしたら、叱られるでせうか。實は、先生のお嫌ひな大正教養主義の位置づけについても考へましたが、御本尊の前では恥かしいので、それには觸れません。
ただ先日、乃木神社に吟行した際、白樺派の志賀直哉、武者小路實篤をふと思ひ出したことを申し添へます。二人は、その學習院時代に院長たりし乃木さんの殉死を、揃つて嘲つたのです。あの二人はもう新人類だつたなあといふ感慨に捉はれました。そして、この殉死に對する鴎外や漱石の反應を想ひ、乃木さん自身を含めて、三人とも、日本の將來に絶望してゐたのではないかなどと想像しつつ、棗の木を仰ぎました。
だいたい、我等日本人が、世界から蔑まれたり、揶揄されるやうな存在になり果てたのは開闢以來初めて、非・日本人的新人類が主流を占めるやうになつてからのことでせう。
中國製博士號と 「高度人材」
「國内にはすでに大陸からの人の波が限界を越え始めている。韓國人や中國人の近年における急速な増加は半島の内亂、大陸の經濟破綻が起こればそれに伴い國内に收拾のつかない動亂を引き起こす呼び水になりかねない」。『高度人材』などといつても、「米國の三流大學の基準でも99%がはねられるようなレベルの人が中國では博士號を與えられてい」て、「永住外國人の拔け道になっていはしないか」。「そういうことも考えないで中國人移民の急増を默って看過ごし、むしろ推進派の主役にさえなっている安倍總理に根本的疑問を提したい」。
先生の御心配、お腹立ちが痛いほど感ぜられます。何十年も前から、この問題に取り組んで、提言されたり、警告を發したりしてこられた(しかも、それを政府が聞いた、つまり世の
中が動いて、國が救はれたこともありました)先生は、安倍政權になつてからも、何度か忠告
されましたね。安倍さんはそれに耳を傾けたのでせうか。
どうもこの人は、何度も申すとほり、自分の頭で考へることがなく、自身の尺度も持つてゐないやうです。すべて出來あひの物差しで測るので、新しい現象や考へに獨自に反應することができません。先生の齒痒さ・苦衷はいかばかり。
不愉快な話題で終り、申し譯ありません。でも、かういふ苦い現實に先生は永年堪へてこ
られたのだと思ひ、そのままにしました。
(以上)