坦々塾研修会・懇親会 ご報告②

ゲストエッセイ
吉田圭介

坦々塾研修会は続いて西尾先生のご講話「二つの病理・韓国の反日と日本の平和主義」に移りました。 冒頭、先生は会場到着が遅れたことを詫びられ、体調に何が起こるか分からず予定が立てにくい現状を述べられましたが、但し健康状態は至って堅調であり、ご友人のお医者様からも「100人に1人の強運」と評されたエピソードを語られました。

 数年前の大病を乗り越えられたご自身について先生は、「なぜ上手くいったのかは分からない。ただ、病気についてあれこれ情報を漁ったりせず自分でも驚くほど無関心でジタバタせずに居たことが、逆に良かったのではないか」と振り返られ、「それは腹が据わっていたというわけではなく、目の前の課題・執筆・思索に追い立てられているうちに時間が経過していっただけだが、神経の奥深くに不安があって、思いもよらぬ場面でコントロールが効かないこともあった」と、ご自身の心理を分析されて、この体験は整理して文字にしないとなかなか理解できないので闘病について本を執筆したい、タイトルは『運命と自由』としたい!と、話を纏められ、会場からは大きな笑いと拍手が起きました。

 坦々塾に参ずる者として、先生のこういうご近況を伺うことは何より嬉しいことであり、また、改めて先生の使命感・精神力そして自己を冷徹に分析・理解しようとする深淵な知性に感銘を新たに致しました。

 つづく本題に入るに当たって先生は、ご自身の韓国に対する印象について、竹島の日が制定された際、すでに実効支配を確立しているはずの韓国が朝野を挙げて大騒ぎをし、大統領令まで発して竹島に大型対空砲を設置したのを見て「おかしな国だなぁ」と感じたことを挙げ、日本人としてはまるで講談社の絵本に描かれていた大地に張り付けられたガリバーがちょっと腕を一振りしただけで小人が大騒ぎしている場面を見るような感覚だったと、先生らしいユーモア溢れる例えで表現されました。

 そしてそれは韓国人が竹島の領有権は本当は日本にあるということを知っているからではないか、その事実を伝えるTV番組やインターネット情報は世界中に溢れており韓国人が知らないはずがない、松木氏の紹介した『反日種族主義』が韓国内で何十万部も売れるのもそのためだろう、と分析され、韓国人が問題にしているのは事実そのものではないのではないかと考察を進められました。

 すなわち、領有権についての客観的事実ではなく、領有権問題について日本人が沈黙し忍耐している姿こそが韓国人にとって最も腹立たしいことなのであり、韓国人は日本人が興奮して韓国国旗を焼き日本の小学生が熱狂して竹島の歌を歌う有様が見たいのであり、要するに日本人に韓国人のコピーをさせたいのに、日本人が静かに白けて大人が子供の相手をするかのような態度を取っていることが「韓国人を深く深く傷つけているのですよ...」と、先生がしみじみとした調子で仰ると、会場からはまた大きな笑いと拍手が起きました。
日本人の、自信を持った無視の態度が韓国人を怒らせているのであって、「竹島は日韓両国の『友情の島』にしよう」と言った朝日新聞論説主幹や、竹島の日の設定を非難した東大総長のような、「譲って与えてやる」という意識に基づく姿勢を韓国人は最も侮辱に感じているに違いない、という先生の分析は、真に公平で普遍的・人類的な視点に立つ西尾先生ならではのご発言と感じました。

 さらに先生は、朴正熙大統領狙撃事件の際、犯人の北朝鮮工作員が逮捕されたにもかかわらず当時の木村敏夫外相が「北朝鮮の軍事的脅威は無い」と発言したことに対し、韓国市民が日の丸を燃やし指を切断し大統領が国交断絶まで検討した事例を挙げ、全く無関係な原因も状況も異なる事象に対してでも、日本が関わるという一点だけで感情の激発が起こる韓国人の心理は病的心理としか言いようがない、と首を傾げられました。
これは世界でも例外的な特殊な事例で、フランスとアルジェリア、オランダとインドネシア、あるいはイギリスと旧植民地との間にも見られぬものであり、そもそも日本の行ったことは植民地化でも保護国化でもなく併合であって、比較するのであればハワイやチェコスロバキア等であるべきなのに、韓国が支配・被支配、抑圧と残虐のドラマを勝手に作り上げていった結果、説明不可能な、お互いにどうしたら良いか分からないような状況になってしまったことは、日本にとって不幸なことだ、と先生は韓国の反日の現状について纏められました。

 ここで先生は演題である『二つの病理』を改めて提起し、日本と韓国の病理は方向性こそ正反対だが世界から見れば同じようなもの、それどころか日本の平和主義は韓国の反日病理以上におかしいのではないか!と、二つ目の主題に話を向けられました。
韓国問題でも発現した日本の沈黙と言葉の無さ、主張や反撃の意志の無さが問題を悪化させているのであり、大使の召還などではとても間に合わないこと。慰安婦問題を例にとれば、日本国民が切望する本質的な一点は韓国人を説得することでも経済活動を威圧することでもなく、20万人の無垢な少女が日本軍によって拉致・監禁され性奴隷にされたと国際社会に喧伝されてきたことを打ち消すことにあり、20万という数も軍関与という嘘も日本人は絶対に許すことができないのだということ、先生ご自身が半世紀前フランクフルター・アルゲマイネ紙に掲載された記事を見て憤激して以来、そのことをずっと指摘し発言し続けてきたが、事態は改善されず虚報は各国の教科書に載りユネスコに登録され、それに対して日本の外務省が本気で戦った姿を見たことは一度もないこと...を挙げられ、「私はもう疲れてしまった。何も反響が無いのだから」と、ご自身の率直な心情を吐露されました。「外交官が命を賭して戦うべきは事実ではない国際的汚辱を雪ぐことであって相手国と上手く交流することなどではありません!」という先生の怒りの叫びは、心からの憂いと無念さに満ちたものに感じられました。

 続いて先生は、2015年にユネスコにおける明治日本の産業革命遺産の登録にあたって孤軍奮闘した加藤康子氏とのエピソードを紹介されました。加藤六月元農水相のお嬢さんである加藤康子氏は、内閣官房参与として遺産登録の中心的役割を果たした方で、西尾先生は「驚くべき精神的パワーを持ち、たった一人でユネスコに政治の嵐を巻き起こした女性」と絶賛し、加藤氏が登録推進にあたって立ち上げた委員会に参画された際の体験を踏まえて、話を進められました。

 すなわち、そもそも明治の産業遺産は韓国併合よりも前の時代のものであって非難は筋違いであること、遺産登録の委員会がドイツで開催され、大挙して押しかけた韓国人のプロパガンダをドイツが応援する状況下であったこと、中国とドイツは反日国家群と認識すべきであること、委員会に臨んだ日本の外務省は登録だけを全てに優先させ、日本国の国益と名誉を守るという観点はおろそかであったこと、その結果「強制」という言質を取られてしまい、「端島(軍艦島)はアウシュビッツ同様の強制収容所」という韓国側のプロパガンダイメージを認めさせられてしまったこと等々...。さらに、謝罪と「軍の関与」という国益と名誉に係わる点をあっさり譲歩し、慰安婦像の撤去という譲れない点については文書化すらしなかった岸田外相による慰安婦合意の失敗を挙げ、ひたすらトラブルの回避を優先し交渉の妥結だけを目的とする姿勢こそが、日本外務省の交渉態度引いては日本人の対外折衝一般における構造的欠陥だ、と喝破されました。

 先生は「韓国は交渉のゴールポストをよく動かす」という加藤氏の言葉を引用し、日本側が一定の譲歩をすると次の課題を繰り出してくる強請や集りのような韓国のやり方に日本側がいつもむざむざと乗せられてしまう一番の原因は、日本人が交渉において最初から自分の意志を明確にせず、常に双方の歩み寄りを前提にし彼我の主張の真ん中を設定したがるからなのだと解明されました。慰安婦問題のように、真実は動かすことができず絶対に譲れない妥協できないケースも有るのであり、そんな交渉で真ん中を設定することなど不可能で、それをやればおかしなことになるに決まっている、バカじゃないだろうか?問題の根本的解決ではなく相手との妥協点ばかり索めようとする日本外務省こそがゴールポストを動かしているのだ!と先生は断じられました。

 慰安婦合意がアメリカの関与・承認を得て行われたことで「国際合意を踏みにじる韓国」という形勢を確立できたことが現在の日本政府の韓国に対する強い態度を齎しているのであり「無駄ではなかった」と、一定の評価をしつつも、「ありもしない犯罪を外国からのちょっとした圧力ですぐに認め、謝罪し、賠償まですることは、国民の未来を裏切る行為です」と、沈痛に述べられる先生の姿が強く心に残りました。

つづく