現代世界史放談(六)

ドイツ銀行の破綻

 ドイツには三つの禍があると申しました。一つは難民問題、二つ目はドイツの銀行の破綻です。これはいま急速に起こっているドラマです。

 ドイツ銀行の取引総額は、67兆ユーロ(約8700兆円)。ドイツのGDPの20倍です。ところが、ここに来て、フォルクスワーゲンの1兆ユーロ(120兆円)に上る保証金を全部ドイツ銀行が背負っていることが分かった。

 ここで指摘したいのは、日本では久しく政府が赤字国債を抱えていると言いますが、日本の銀行、特にメガバンクは赤字を抱えていません。日本政府に借金を集中させているのに比して、ドイツなどの欧州は政府が借金を背負わない代わりに民間銀行にしわ寄せがいっているんです。

 日本はGDP比200%の借金大国だから大変だと大騒ぎされ、ドイツ政府は無借金で素晴らしいことのように言い、メルケルもそう言い、ドイツの知識人も自慢して日本はダメだと言いますが、何のことはない、代わりに銀行が借金を全部背負っているのです。

 ドイツ銀行が引き金になって、リーマンショックのようなことが起こるかもしれません。あのサブプライムローン事件が起こった頃、ヨーロッパのほうがむしろアメリカよりも酷い金融危機だったのですが、これはアメリカが支えた。あの時、アメリカの政策金利は5%あったんです。だから金利を下げることができた。

 ところが、いまはアメリカは極端に金利を下げていますから、これからはドイツ銀行がリーマンブラザーズのように破綻しても、アメリカは助けることはできない。ドイツは火だるまになる可能性があります。

 フォルクスワーゲンは、1兆ユーロ(120兆円)もドイツ銀行に融資をさせています。日本ならばここで公的資金の注入というスタイルで破局を避けるでしょうが、これもEUが邪魔をしている。ドイツ政府がいままでもそういうことが思い切ってできないのは、ヨーロッパ中央銀行が合意しないからです。つまり、ヨーロッパのグローバリズムが正義の建前になっていて、ナショナリズムを抑えている。ですから、この局面はドイツの三重、四重苦になるのではないかと思っています。

つづく

月刊Hanada 2016年6月号より

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