現代世界史放談(五)

日本人の西洋大誤解

しかし、キリスト教はそうではなかった。巨大な哲学体系が後ろに控えていて、しかもそれを強制する政治制度や軍事力が控えていた。日本人はそれを受け入れる気にはならなかった。ただ、西洋の文化や芸術や学問は危険がないので受け入れた。大変に尊敬し、いまも愛好している。しかし根っこにある宗教を受け入れていないので、日本人の西洋理解は西洋大誤解かもしれない。

日本人は、がらんどうのような何もないのが好きだったのではないでしょうか。そうとしか思えないのです。政治文化を強制してこない。哲学的理念を強いてこない。ひたすらそういう世界に憧れた。西方浄土へのあこがれ、それは平安末期辺りから強くなりますが、日本人の心をずっと摑まえていて、いまでも何か事があると、遠い国で起こった出来事を日本人は尊敬するのです。素晴らしいものは外国にあると信じ、明治以来、長い間、西洋文化を鏡としたのは「西方浄土」に代わった。つまり、仏様はいつの間にか西ヨーロッパ文明に代わったのです。それが旧制高等学校のドイツ語、フランス語崇拝、教養主義礼賛になった。

他方、世界全体の現実を見ようとしなかったのではないか。だから当時、表舞台から消えたイスラムの世界も見ていなかったのです。現実は見ていなかったけれども、西方浄土をひたすら憧れるように、西洋文化をひたすら学んだ。そして夢を育てて、自分のところでそれを移植して自分なりの西洋文化を作ってここまできた。本当にそう思いますよ。

日本では必ずどこかで西洋絵画展をやっているでしょう。ついこの間まで、モネ展をやっていました。去年はスイスのホドラー展もやっていました。近くは何度目かのカラヴァジョ展が開かれます。こんなことをやる国は、アジアで他にありません。日本中のどこかで、必ずいろんな西洋絵画展をやっています。

コンサートも盛んです。最近、ドイツ人はモーツアルトやベートーヴェンをあまり聴かないといいます。そんなもの要るのか、という話らしいのです。オーケストラはほとんど外国人だそうで、十人中八人から九人は外国人。ドイツ人の音楽家がいなくなった。文学も教育も衰滅です。音楽も哲学もダメ。ドイツの限界というか、アイデンティティの喪失ということです。中国人と一緒になって浮かれて金儲けばかりです。

ドイツの三大問題

いまのドイツには、三つの大問題があります。いうまでもなく難民、これもアイデンティティの喪失から引き起こした。ドイツはナチスを抱えた無残な国、酷い国、悪の国と言われ続けてきたことが、ドイツ人の心を破壊し続けてきたと思います。

そこでメルケルは、ドイツは立派な国だ、国際社会の模範になる国だと言いたかった。それゆえに、難民はどうぞいらっしゃいと言い出した。隙を作った。

そもそも難民は存在するのではない、発生するのです。今度の欧州の事件で、そのことがやっと分かったでしょう。隙を作った先進国を目掛けて人の波が出現し、移動してくるんです。隙を作ったら負けなんです。ドイツはそれを自らやってしまった。立派な国であるということを見せたかった。自分を否定していた戦後のドイツのイメージを逆転させたかった。この国は今度の件で、人口の20%近くがイスラム系ということになる。ドイツ文化も失われてしまうでしょう。

自分の国をネガティブに見続けているということが、仇となる。自分の心を苦しめているわけですから、いつかそれが逆になって、素晴らしいドイツにしたいと思うから、メルケルがあのようなことを言っても国民は反対しない。メディアも批判ができなかった。いまようやく反論が激しく出てきていますが、遅すぎますね。そしてそれは、EU全体を壊す問題を起こしている。

日本も違った意味で、同じような危うい弱点があると思うのは憲法9条の愚かなる平和主義です。これが日本人の心を縛っています。とんでもない禍に転換する恐れがある。

みんな軽く考えていますが、北の核は脅威ですよ。4月号の『正論』に、私は「覚悟なき経済制裁の危険」という論文を出しました。経済制裁というのは宣戦布告ということと同じです。第二次世界大戦の直前に、アメリカに経済封鎖されたことは宣戦布告されたのと同じなんだと我々は言い続けてきたのではありませんか。同じことを、我々は北朝鮮に対してすでにやっているのではないですか。

しかもアメリカはそう言って遠くから見ていられますが、日本はすぐ目の前にある島国なんです。ミサイルが飛んで来ても文句が言えない。日本が先に手を出しているのですから。日本人は何を考えているのか。一瞬のうちに、東京のど真ん中に一千万人が焼尽する核が到着することも明日、起こらないとは言えない。

しかもそれは、アメリカや国連頼みで解決する問題ではないんです。日本人が自分で解決する以外にない問題です。国連なんて何も手伝ってくれません。

私は日本はおかしな国で、ドイツの例のように善意が全部逆になるということを申し上げているのです。自分を罪を犯さない善良の国にしたいと思うことは危険なことなんです。自分は適当に悪いこともしている国だと堂々と言えることが、バランスがとれている常識というものなんです。歴史の悪も肯定しなければいけない。これからも必要があれば危いこともしなければならない。それを全部否定してしまったがゆえに、自己を主張すべきところで主張する青磁政策まで否定してしまう。そうすればドイツの二の舞です。

つづく

月刊Hanada 2016年6月号より

「現代世界史放談(五)」への2件のフィードバック

  1. 西洋の宗教の根っこを地中に埋めたまま、上に生えた「文化」という部分だけを摘んで自国の文化になじむようにしていった日本。
    歴史的にこの流れだけは今も変わっていませんが、お隣韓国はたぶん根っこまで掘り起こして、または根っこ付きのものをそのまま受け入れてしまって、今日に至っているということでしょうか。
    例のサムスン電子のスマートフォンの発火問題。相当やばいらしいですね。
    何百人もの社員が原因究明のために調べ上げようとしているが、原因がよくわからないらしいです。
    原因が何かは色んな事が想像できるそうで、最高に恐ろしいのは、人間が介入できないところで問題が起きているかもしれないとのこと。これを専門用語で「シンジラリティ」というそうです。2045年辺りになると、コンピュウターがコンピュウターを製造・改造・制御する時代になるそうで、人間のチェック機能が及ばないことになるとのこと。

    たかがスマホされどスマホで、全世界がこれなしでは成立しない時代です。ちなみに私は未だにガラ系ですが、私みたいな人間にとっては、ある意味とんだとばっちりを受けることとなるのです。どういう意味かと言うと、現実にサムスンのスマホの機内持ち込みが禁止されたそうで、もしも仮にこれが機内で火事になったら、一巻の終わりです。こんな危険性がついてまわるわけで、これのどこが便利な社会だと言えましょうか。
    実際問題スマホの携帯者はと言えば、暇さえあればゲームに熱中し、これを駆使して本当の理想的な生活を送っているんでしょうか。たかが映像や写真を納める程度のものならば、もっと安全な方法でそれを為してもらいたいし、何でもかんでもこれに頼り切る手段というものに、私は腹が立つのですが、はたしてこんな時代遅れな私の叫びがどこまで届くのものやら。

    こういうことって、結局どうなんですかね、そういう文化に乗っかっていない人間の方が、冷静に物事を見極めることが可能なことにつながるんじゃないかと思うんです。乗っかっちゃっている人間は、やっぱりイケイケになっちゃうでしょう、どうしても。
    昔よく目の不自由な方の立場になって道を歩いてみようとかあって、たしか王貞治氏がテレビでそれを体験している放送がありましたね。「ああ、これはまったく歩けませんね」と彼が語っていましたが、これはつまり便利な世の中になって、目の不自由な方々がどれだけ大変な生活をしているかを知る目的でもありますが、もう一つは、便利な社会が突然ダメになってしまったら、どれだけ一般人が大変な思いをするかと言う問題定義でもあるのでしょう。

    その意味で日本人はもう一つの「眼」を失わないようにしなければならない。
    西洋文化だけをうまく摘み取っていれば大丈夫なんだ・・・という落とし穴に、はまらないようにしなければならない。
    先生はおそらく、このようなことを訴えているんだと私は思います。

  2. 「英語をネイティブに話したい」と思う日本人も増えているのかなぁと思うわけですが、私も仕事上けっこう英語を使う場面があり、つたない英語のお披露目でそれを繋いでいます。
    インバンドの方々にはいろんな人種がいますが、特に台湾からくる方はほぼ英語が完璧な方が多いです。でもちょっとだけアジアンテイストな英語なので、ぎりぎり聞き取れるみたいな感じです。

    しかしどうして台湾の方々がこんなに英語が流暢なのか、それが不思議ですね。
    私たちが認識していること以上に、台湾と言う国が国際的な位置に存在している証なんでしょうか。それともお国柄からくる危機感がそれを強いているのか。
    ある種台湾は日本が正しく海外と交流するためのパートナー的存在となりうる国だと、ここで考え直さなければならないのかもしれません。
    韓国がこのような状況ですから、ここでどんな火の粉が上がろうと、日本は半島に手出しすべきではないでしょう。
    過去の歴史と比べて一番違う条件なのは、ロシアが過去ほど南下政策を強化していないイメージがあるということ。この国は今領土保全が精一杯で、領土拡大は過去ほどはないという考え方の可能性。
    つまり、朝鮮半島これ自体のパワーへの警戒心が最優先され、ここから生まれるマッチポンプをどう処理するかと言う課題と、他国の領土拡大策が心理の裏でどのように存在するのか、その対処の順位をここで取り違えてはいけないことを要求されていると言えるでしょう。

    今最大の課題は朝鮮半島に対する日本の防衛対策でしょう。
    いつ爆発してもおかしくない北朝鮮の核武装による他国への脅かしが、ここで一気にそれを加速させることも一応念頭に置かなければならない。

    しかし、私はもう一つの方向性も十分考えるべきだと思う。
    誰も何もわからないというその平等の条件の中で考えうることとして踏まえてほしい。

    北朝鮮は、東アジアが安定しているからこそ、今までの数知れない素行を為しえたという考え方です。自分たちが侵す以外に東アジアの不安定は起こりえないという、実に未熟な発想の国家運営が、北では実行されていたのかもしれない。
    北の最初の危機はソ連崩壊でしょう。つまり、共産圏の盾がなくなった。中国がそれを一番懸念し、中国はより共産国国家の鎧を透明な色に化学変化させて身にまとったと言えるでしょう。その色の変化を一番ちゃんと見ていたのが北朝鮮で、この国はとにかく中国の先兵を買って出たふりをしながら、自分たちの内部事情を秘密裏に薦めることができた稀有な国の象徴でしょう。

    忘れてならないのは金日成がその名前を受け継ぐ資格のない存在であるという事実が、ここ最近明らかになったこと。
    本当の金日成は日本人であったということ。
    ましてや彼(本人)は日本の軍隊を経験していたという。

    つまり偽物金日成は完全にソ連もしくは中国が生んだ模造品であるという現実。

    詳しいことはチャンネル桜でご覧ください。
    私はここで、歴史と言う一つの人間に課せられた縛りから解放された、その立場から高らかにこの事実を笑い転がしてみたい。
    「北朝鮮国家と叫ぶあなたがたよ、恨むなら自分達の先祖を恨め」と。

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