鹿子木裁判長が与えた憂鬱(追記あり)

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・否定された企業防衛策

我が国初の平時導入型敵対的買収予防策が司法により否定された。
新株予約権差し止め、東京地裁・異議審・高裁・・・まだ記憶に新しいほりえもんの事件を思い出す。最初に司法判断をして強烈な牽制球を投げた裁判長も同じ鹿子木氏。
あの時はニッポン放送が買収を仕掛けられた後の「有事・事後の」新株予約券発行という防衛策が問題となって、ライブドア側の差し止め請求が通った。この事件以降、各企業ともおっとり刀で「平時・事前の(有事に発動する)」買収防衛策を作った。
経済産業省の企業価値研究会でも「論点公開~公正な企業社会のルール形成に向けた提案~」 が公表されている。この資料の126ページ、企業価値研究会 委員名簿を見ると「武井一浩 西村ときわ法律事務所 弁護士」とある。
日経新聞によると実はこのニレコのライツプランは経産省の企業価値研究会の委員をしていた事務所(西村ときわ法律事務所)によるものらしい。

ニレコの企業買収防衛策に対する新株予約権発行差止仮処分命令申立事件の決定を読んだ。東京地裁商事部の鹿子木裁判長の論旨はいたって明快、ここまでくるとあきれるほど。この判断が基準になるなら今回新株予約権スキームを実施したほとんどの企業は発行差し止め処分を食らうことだろう。

H17. 6. 9 東京地方裁判所 平成17年(モ)第6329号 保全異議申立事件
H17. 6.15 東京高等裁判所 平成17年(ラ)第942号 新株予約権発行差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告

この判決についてはいろんな専門家がそれぞれの立場で解説するであろうから詳しくは触れない。
(異議審の市村氏、高裁の赤塚氏に比べて、鹿子木判決が一番いやらしいことだけは述べておく)
ここではあえてテクニカルな話題を避け、この判決の根底にある考え方に注目したい。
なぜなら、この東京地裁民事8部というのは今後も実質的に我が国の大多数の企業(上場会社)の管轄裁判所となるのだから。
そして、この二つの地裁決定が今後の我が国の企業買収防衛策に大きな影響を与えることになるのだろう。

しかし、これが罷り通るなら、もう、ムチャクチャだ。
一体どこまで企業の自治に司法判断が踏み込んでくるというのか。
鹿子木氏の論では理想的な経営者とは、いくつかの利害関係者(ステークホルダー)の利害を同時に考えることができる人物となる。そして、必ず一般株主の利益を忘れない人物。しかし、経営者に複数ある利害関係者に対する責任を持たせて、いろいろなことを実行させるということは、結局、経営者の裁量権が増してしまうことになり、最終的にはそれが論理破綻になってしまって、どんな利益も満たせないということにもなりかねないのだが。

本来なら、このような状態で安易に市場経済の活性化のみを目的とした練りこみの足りない新会社法を導入すべきではない。(新会社法では新株予約券の差止請求のみならず、発行無効確認訴訟もできる、そして施行1年後には合併対価の柔軟化により三角合併も可能となる)
経営者が余計なことに気を取られて、本業に没頭できなくなるとしたら本末転倒もはなはだしい。

・株主重視経営と株式市場中心経営は、似て非なるもの

あえて誰も言わない禁句を言おう。
「我が国では会社は株主のものではない」 「企業価値は株価で決まるものでもない」

皆が口には出さないものの、本当は心の底で思っていることだろう。
我が国の会社の成り立ちを考えてみれば誰でも分かることが何故言えなくなったのか。

我が国は間接金融主体の経済であったので、その成長期には銀行融資によって資金調達を行なっていた。そして、それを一所懸命返済してきた。株式市場から会社の成長に必要な資金を調達するところなど殆んど無かったはず。
つまりオーナー経営者ならずとも、会社に関わる全ての人には株式市場の力を借りずに、自分達が会社を大きくしたという自負があったはず。長年会社に勤めてきた従業員が「会社は自分達のもの」と思うのもある意味当たり前とも言えよう。特に短期投資の株主など、株式を売ってしまえばその会社と縁はなくなってしまう。

働く者の心の底では皆が「会社は株主だけのものではない」と思っているのに、いつの間にか会社は株主のものとされてしまっている。岩井克人さんの論とは別の意味で私は会社は株主のものではないと言い切る。従来は日本的産業資本主義、家族的会社制度、金融機関からの資金調達に絡む株式の持合いや系列によって磐石と思われていた日本的社会システム。ところがこれを時代遅れと批判する考え方の勢力が実権を握りだしてこれを解消させてきたことが、現在のような事態を招いたと言えよう。

・株式市場とは長期投資の人も短期投機の人も同時に存在する場所

ほりえもん達の台頭にしたところで、小泉氏や竹中氏の存在抜きには語れない。
当時低迷していた我が国の株式市場に、一般投資家の参加を呼ぶ込むとのことで、2001年の小泉政権の時に株式分割を容易にした。
恐らく株式分割は業績良好、高株価の株式の分割を想定したものだったのだとは思うが、実際にそれを利用したのは、今やほりえもんに代表される新興市場のIT企業だった。
実業の能力には乏しくとも、こういう抜け道には目ざとい彼らは株式分割制度の歪みをついて魔法の杖を手にすることになる。
ライブドアなどは2003年には公募増資して51億円を、昨年の公募増資ではいきなり382億円を手にしている。この背景には、一株を4回にわけて3万分割するという、常識外れのやり方でドーピングして時価総額を極限まで高めた手法がある。
株式を2倍に分割すれば、株価は半分になりそうなものだがここにトリックがある。
株式分割に伴う株券の交換、それにかかる一ヶ月半のタイムラグによる需給バランスの崩れによって株価が高くなるのだ。巨額の資金を持ち短期売買を繰り返す投機的投資家が動き、また、たいしたお金も持っていないくせに、自分も将来お金持ち、とバカな夢を見る自称デイトレーダーがそれに乗せられ、せっせとその手助けをして結果的に社会に対する価値破壊を行なう。そして、それによって手にした資金でこうした会社はまた企業買収を続けていくことになる。時価総額の大きさに比べ収益力が劣るこんな会社は、これを止めるわけには行かない。止めれば待つのは株価の下落しかないのだから。

鹿子木氏の基準では、生産品質や技術の向上のような地道な努力ではなくて、ほりえもんのようなサギまがいの時価総額上げのトリックが真摯な経営努力になるのだろうか。(既存株主にとって不測の損害を与えるという点では、MSCBのような資金調達を行う経営者であるほりえもんはまさにその筆頭なのだが)
このようなことができる日本の株式市場のスキームにこそ歪みがあり、これをこそ是正しなければならないのではないかという考えになぜ至らないのか。
鹿子木氏は分かっているのだろうが日本はアメリカ型の資本主義はできないのだ。
元々の金融システムが根本的に違うのだから。
それなのに、彼のような人達がそれを無視してこんな考えで司法判断を続けていくと、何をどうやってもアメリカの資本主義に負けてしまうことになる。
もっとはっきり言うと、金融力がないといくら産業が強くても、国家は必ず乗っ取られる。
つまり、日本がアメリカの「下請け国家」にならざるをえないということになる。

・株式市場中心主義におけるコーポレートガバナンスの問題

直接金融主体のアメリカ型資本主義の最大の特徴は株式市場至上主義、あるいは時価総額至上主義にある。会社の優劣は市場で判断される。どんなに立派な仕事を行っている企業でも、将来性があっても株価が低ければ価値がない。クリントン政権の労務長官を務めたロバート・B. ライシュは『勝者の代償』(東洋経済新報社)の中でこう言っている。
かつての経営者支配の時代には、労働者は限られた労働強度の中でその雇用は安定していた。底辺の労働者の賃金は上がり、経営トップの報酬は制限されて、賃金格差は縮小した。労働者の平均賃金が持続的に上昇することによって、中流階級が拡大した。
 ところが、九〇年代以降こうした状況は急変することになった。企業は、いまでは、従業員や地域社会や一般大衆に対する責任を果たさなくなった。経営者の唯一の任務は株価を最大にすることであり、そのことにより自分の報酬を高めることである。企業はコスト削減のため、リストラを繰り返し、労働者の安定した雇用は消滅した。労働者は収入を得るために以前よりもはるかに継続した努力を求められ、長く働き、家庭にも仕事を持ち込まざるを得なくなった。この求めに応じられない労働者は下層に転落して行った。こうして、不平等はおどろくほど拡大した。

アメリカ経済の帰結は、金融資本による独裁とも言える。

・むしり取りの構図

その金融資本にいく金が、結局は我が国が稼いだ金であることが一層私を苛立たせる。
アメリカは実業は下手でも、マネーゲームだけはとても上手い。株、為替、M&Aなどのゼロサムゲームになると、アングロサクソンであるアメリカは本当に強い。
ここ数年のアメリカは貿易では大赤字、ただし金融資本による富のむしりとり-海外直接投資-では受取超過となっている。アメリカの03年海外直接投資収益率は10.3%。対日投資収益率は13.9%にも達する。逆に、米国以外の国からの対米直接投資の利益率は、平均で4.2%(欧州が4.5%。日本は5%)。要するにアメリカの一人勝ち、そして、特にむしりとられ方が激しいのが日本である。アメリカ金融資本にとって日本は「おいしい植民地」なのだ。
ただし、日本は製造業中心で5%の収益を上げている。しかも、地域に根ざした雇用をつくりだしている5%である。雇用を生まないマネーゲームの13.9%とどちらが社会的価値があるだろうか。
政治力をも利用したアメリカ企業の収奪ぶりはすさまじい。しかし、我が国で同じ事を今後もやらせることを許すわけにはいかない。小泉改革がアメリカの利益を計るための方向性をもって推進される-私にはそうとしか思えない-のを止めねばならない。(数字は米国国務省「International Investment Position of the U.S.」より、参考「WEDGE」4月号10-12ページ)

日本は金融資本を欧米型にせず、土地をベ一スにした資本を産業に投下することで発展してきた。そして、一所懸命に努力し、いいものを安くつくることで成功し、資本を蓄えた。
しかし、ほりえもんや竹中氏と根っこのところでは同じ考え方の鹿子木氏のような人達が、自らの無謬性を信じて亡国の司法判断を繰り返していけば、その蓄えは、結局はアメリカの金融資本に取られ、最後には我が国の主要な全産業が「下請け」にされてしまう。
政府が巨額の税金を投入した長銀を、アメリカの投資会社リップルウッドが買い取って新生銀行になったのも、旧日債銀をソフトバンク、オリックス、東京海上火災の3社連合が買い取ったのも、みな同じ構図。
そして、この流れは、これからいっそう激しくなろうとしている。
日債銀の破綻後の一連の出来事などは、合法的に行われた一種の強奪だったとも言えよう。
本来、このようなことは政府が規制するべきものである。
しかし実際には4兆円強の公的資金、つまり税金が投入されていたにも関わらず、自分の都合のみでソフトバンクの孫氏は490億円で買ったあおぞら銀株を1011億円でサーベラスにさっさと売却した。しかし、これは彼の信ずる経済合理性に基づき、合法的に可能な限り早く多くの利益をあげただけである。小泉氏や竹中氏といった市場原理主義者がいつも言っていることを投機家として行っただけにすぎない。
旧日債銀だけでも、幼児も含め国民1人あたり3万6000円を負担した計算になるのだが。
そして、その後こういうことがあったことも見ておかねばならない。
楽天 株式会社あおぞらカードの株式譲受
ヤフー、あおぞら信託を傘下に収めてネット銀行業参入へ

完全にもてあそばれている。政治家のみならず、我が国の国民も。
従業員、顧客、地域社会のいずれも考慮されることのない資本家中心の経済理論など、アメリカのむしりとり植民地経営正当化の詭弁にすぎない。郵政民営化にしても政府機関が民営化されれば、資本家がそれを買い取り、またも同じ事が起きるのが当然の帰結になるやもしれぬことも声を大にして言う人がいない。

さて、鹿子木氏はこれらの事例を十分に承知の上で、一体どんな考えを持って訳の分からない持論で裁いてきて、今後はどうするというのか。

・アメリカの言うことは本当に正しいのか

もともと、欧米でできあがった資本主義というものは、資本家を中心としたものであり、極端に言えば金貸しの利益と権利最優先である。ただし、鵜飼の鵜がいなくなって鵜匠だけになっても困る。だから、支配者からすれば、生かさず殺さずというのが丁度良い。いまの日本はアメリカニズムとその信奉者によって、そういう状態に置かれようとしている。

日本の問題点が政財の癒着体質と情報公開不足にあるとするアメリカ政府の主張を正しいとする人に問いたい、エンロンやワールドコムの事件が示すようにアメリカの方が我が国以上に腐敗と癒着体質、情報公開不足が多かったのではないか。 アメリカの突きつける年次改革要望書は情報公開や腐敗防止策をさせることで我が国経済を脆弱にし、乗っ取りやすくすることが目的ではないのか。
そういうバカな話を真に受けてきて我が国のシステム全体が歪んでしまっているのだから、このままアメリカの要望のままに部分的に変えていっても、もうダメだということに気付くべきだ。

西尾幹ニ先生が「ライブドア騒動の役者たち」で鹿子木氏について、既に4月に彼の無国籍思想の危うさを語っておられたが、その時は買収攻防のスキームにばかり目がいってしまい、さして気にも留めなかった。これは私のみならず専門家もほとんどそうではなかったろうかと思う。確か「正論」だったかと思うが、「民族への責任」という近著に所収されている。あの時どうして誰も気付かなかったのか。そうすればこんなばかげたことの繰り返しは起こらなかったのかもしれない。

いや、今からでも遅くない。
この判決には強い意思を持って、国民世論としての異議を申し立てるべきである。このような判例を既定路線とさせて良いはずがない。
労働の対価としての賃金のみで満足し、企業が生み出す経済的付加価値は海外に流出してよいという人がいるなら別だが。
その場合には、我が国の経済は崩壊する。

企業価値の優劣すら企業へ判断をゆだねることは許されず、もっと司法判断を仰げというようなわけの分からない判決。
極論を言ってしまえば平時における買収防衛策の導入自体を否定しているのだ、鹿子木氏達は。
一体誰の損害を念頭においてこのようなことを言うのか、彼等は。

鹿子木氏はアメリカ帝国主義の走狗となりたいのだろうか。
我々日本人を下請け奴隷にしたいのか。
そういう人間を法匪と呼ぶのに私は何のためらいも覚えない。

福井雅晴
Ph. D in Economics Univ. of California,Berkeley

以下に追記あり
24,June ’05

まず、私のエントリに対し新たにエントリを立ち上げてまで答えていただいた47thさんに御礼申し上げます。

鹿子木決定の実務的影響は?というところで「鹿子木決定に沿ったとしても、株主総会+ニッポン放送高裁四類型の組み合わせなら「通し」ということになりそうです」とお答えいただいているので少し安心もし、ほりえもん事件と同じくこのニレコ差し止め事件が「木鐸」としての一定の効果があることを期待するものですが、それでもToshiさんのエントリなどを見るに、じゃあ西濃運輸は大丈夫なのだろうか、という不安は拭えません。この辺り、専門家のご意見をお聞かせ願えればありがたいのですが。

そして、実際に実務に関わっておられる方たちとこうしてブログを通じて意見が交わすことができ、また、ここをご覧の皆さんも接触するチャンスが生まれたことは望外の喜びです。今後とも宜しくお願い申し上げます。

さて、「外資むしりとり論」について・・・ですが、以下の四点の疑問を挙げていただいています。事はそう単純なものでもありません。何しろこれだけで1冊の本が書けそうなくらいの問題があり、重いテーマでもあります。

・投資収益率はリスクとの相関関係を見なくてはわからない。(投資収益率の差はリスク選好の差を表しているだけかも知れない)
・たとえ、リスクとの関係でみても高い投資収益率を外資があげているとしても、その原因は、国内の資金供給プロファイルの偏り(国内の資金供給が過度に低リスク資産に偏っており、相対的に高リスク資産への投資が有利になっている可能性がある)
・投資された資金が国内の事業に投資される限りにおいては、その分、国内経済は潤うのであって、海外投資家が高収益をあげているだけでは「むしりとり」とはいえない
・「外資むしりとり」論は、ほとんど具体的な政策提言を伴っていない

まず、2004年の外資による金融投資は15兆円、そのうち株式が10兆円、債券が5兆円です。実に東証の売買の2割以上がいわゆる外人買いです。皮肉なことに外国人投資家が日本企業の潜在力、将来のキャッシュフローを一番良く分かっているのです。
他市場と比べ割安感があり、出遅れているがゆえに出し抜きやすいので「儲かる市場」と見て、非常に安く買い叩かれています。
勘違いして、外資の誘致によって市場が活性化している、と、喜んでいる人もいますが。
今の歪な日本の状態が、短期の金儲けには一番リスクの少ない市場だと思います。日本国債がデフォルトにならない限り、一番おいしい場所とも言えます。なにしろ、コンペティターが相対的に手ぬるいのですから。

現在外資による東証の持ち株比率は25%に届こうとしています。我が国が必死にドルや米国債を買い支えた結果、NY市場が好調でしたので、その資金が日本株の買いあさりとなっているのです。また、日本企業が投資に廻した金が回りまわって日本企業の買収に使われているという笑えない話もあります。国内の資金供給プロファイルの偏りという話が出ましたが、これはアメリカの金融政策が深く関わっています。

今のアメリカは2つのドルを使い分けています。途上国に対する強いドル、これは自国のインフレ抑制、購買力維持のためのモノ経済から見たリアル・ドルとでも言うべきものです。一方、先進国の通貨に対しては反対に弱いドルが国益となります。リアル・ドルに対して金融経済用のファイナンシャル・ドルとでも呼びましょうか。
実際、FRBは2通りのドルの価値を公表しています。メジャー・カレンシーズ・ドル指数(先進国主要通貨に対するドル指数)は2002年1月をピークとして、以降3年で名目、実質ベースともに約30%下落しています。この大幅な調整は資本流入を促進させるためのファイナンシャル・ドル政策です。ただし、メジャー・カレンシー以外の通過に対するドル指数(OITP Other Important Trading Partners Dollar Index)はメジャー・カレンシーズ・ドル指数がピークとなった2002年1月の水準よりも2005年1月現在で2.4%高くなっています。要するに、輸入シェアの高い途上国に対しては強いドルをもってインフレを抑制しているのです。今やフイッシャー効果が厳密に働くようになっているので、インフレになってしまうとアメリカ国債の価格の下落を招きますから。国債が売れなくなって財政赤字がファイナンスできなくなれば恒久減税もできませんし、「テロとの戦い」も維持できませんので途上国に対しては強いリアル・ドルを維持してインフレを抑制しています。

9.11以降のアメリカの対外債務管理政策は実に徹底したものです。このありがたい指導の一環で我が国はせっせとアメリカに協力すべくさまざまな金融政策を行なっていますので、「国内の資金供給プロファイルの偏り」というご指摘は単純にここをこうすれば良い、というものでもありません。これは政策変更はあれ、アメリカが主導してきたグローバリズムの-我が国側から見た場合の-本質的に持つ構造的問題であり、世界中で起こり得る普遍的な問題といっても良いのではないかと思います。アメリカ(IMF等を含む)は絶対にこのヘゲモニーを失うようなことはしません。詳しくは書きませんが、これがイラク戦争の一因となったとまで言う人もいます。

恐らく、このアメリカのヘゲモニーに真っ向から対立できる、あるいはしようとしている国は、アジアでは中国くらいのものでしょう。
(可能かどうかは別として)
intelligenceもmilitary powerも、nuclear weaponもない我が国が国際基軸通貨となることはあり得ませんし、アメリカのヘゲモニーに逆らえる道理がありません。

なぜか、古い資料しか公開されていませんが、ここに対日投資会議の資料があります。

今後の我が国のM&A の余地(自らが日本売りのメッセージをwwwで世界中に発信しているとも言えます)

何故、アメリカをやり玉に挙げるのか。それはアメリカのみが我が国の政策決定に重大な影響をを及ぼすからに他なりません。(今やEUの証券規制委員会からも別な圧力がかかったわけですが)
そして、欧米のみならず中国や韓国にも狙われることになります。私が三星(samsung)の経営者なら、シャープか東芝を狙います。三星の時価総額ならこれらの企業は射程範囲内です。何しろ東芝の2兆4000億に対して三星は8兆円の時価総額があるのですから。
昔ならいざ知らず、現在においてはたとえ日本語ができなくとも対日投資は比較的容易です。バランスシートやその他のIRを見るだけで分かりやすくなっていますから。これはアメリカの要望によって、長い時間をかけてその為に会計基準などを変えてきた結果と言ってもいいでしょう。

・投資された資金が国内の事業に投資される限りにおいては、その分、国内経済は潤うのであって、海外投資家が高収益をあげているだけでは「むしりとり」とはいえない

対内直接投資(FDI-Foreign Direct Investment)はグリーンフィールド型直接投資(Green Field Investment)とM&A に大別されますが、先進国の場合、FDI の大半はM&A です。
私はグリーンフィールド型直接投資を問題としているのではありません。
これは一から事業を立ち上げ、一所懸命に企業努力を積み重ねて事業を拡大していこうというものですから、そこには雇用も生まれますし、むしろこういう企業と切磋琢磨していくべきです、我が国の企業も。
そういう意味では木村剛氏のこの話はグリーンフィールド型直接投資の話と理解しています。こんなものは脅威でもなんでもありません。むしろ、グリーンフィールド型直接投資こそが本来日本の国益にかなう外資の導入形態なのではないでしょうか。
在日米国商工会議所(ACCJ)のニコラス・ベネシュFDIタスクフォース共同委員長などは、「M&AなどFDIのうち10%ではないか、対日FDIを批判する人は対日FDIの10%に過ぎない Private equity fund の部分に焦点を当てて、「ハゲタカ・ファンド」だと言う。しかし、残りの85%近くはそうしたものではなく、対日FDIの現実を誤解している」と言っています。
さて、本当にそうでしょうか。これはアメリカだけを見ても正確な数字は出ません、例えばオランダからの投資を入れるとM&Aの数字は一気に20%近くなり、欧米企業の対日直接投資全体で見ると30%に届こうとしています。
何故オランダを入れるとこうなるかというのは、多国籍企業が同国に中間持株会社や統括会社を設立し、同国の優遇税制を活用しながらM&A を行うケースが多いためです。したがって、これらも実質的には、欧米主要国、とくにアメリカの親会社が間接的に投資をしたものと推測されます。そして、今後の一定期間この割合は増えていくのではないでしょうか。。(対日投資会議の資料にオーガニック・グロースの話はなく、M&Aの促進の項目しかないことを見ても短期の利益回収の意図は明らかです。)

米国と日本における株式に対する大きな違いというと、米国では個人金融資産の50%を超える資金がなんらかの形で株式に投資されているということにあります。つまり一般的なアメリカ人にとって、それだけ株式市場は身近なものであり、また切実な問題と言えます。
では、さぞかしアメリカ国民は株式に詳しいのだろうと普通は思うのですが、実際はそうではありません。ウォールストリートジャーナルの一般市民の株式に対する意識調査では、40%近くの市民が株式投資は銀行預金と同じように元本が保証されていると思っているという結果が出ています。つまり極端な言い方をすれば、ムラカミファンドの村上氏曰くの物言う株主であるはずのアメリカ国民の多くが、資産運用をまったく専門家に任せ、自らは無知のまま過ごしているということになるのです。
もしも、日本人がこうなった時には、もっと目も当てられないことになりそうな気がします。

アメリカは進んでいるなどと思い込むのは極めて危険でしょう。とは言え全く日本が正しいというわけでもありません。とどのつまりは、所詮人間のすることなのです、どっちもどっちでしょう。
だから、ことさらにグローバル・スタンダードなどと言って、アメリカの真似をしたからその企業が優れているとは決して思うべきではないと思います。

元大蔵財務官の榊原英資氏が5月1日の産経朝刊の正論でこう述べていました。

日本の多くの法律家や経済人たちが「浮き足立って」無批判にアメリカ型株主民主主義、あるいは、コーポレート・ガバナンス(企業統治)を受け入れているという構図である。この日本に蔓延る根本的な勘違いを・・・

今までの行いはどうであれ、Mr.円と呼ばれた世界的には我が国で一番有名であるかもしれない経済学者
そしてまた、学識・実務・経験においても恐らく日本でトップクラスの彼が奇しくも全く同じ事を言っています。
そして、こうもまた・・・

問題はストックオプションをどうするとか社外取締役制度をどうするか等だけにとどまらない底の深いものである。例えば、時価会計。今の日本では時価会計導入に反対だと言ったら守旧派扱いされ、ばかにされるのが落ちだが、本当にそうだろうか。すべての会社が資産運用会社であれば、それもいいのだろうが製造業やサービス業にそれを導入することが本当に妥当なのかどうかを真剣に議論した人がどれだけいるのだろうか。
また、たとえ資産運用会社にしても、長期保有が目的の金融資産を毎期洗い換えして時価評価することがいいのか。時価評価の結果、損切りのために本来長期的に保有したい資産を無理に売ってしまっているのではないか。こうしたことを客観的に議論して時価会計・減損会計の導入を決めているのだろうか。(中略)
ものを基本から考えなくなってきた知識人・専門家たちと「浮き足立った」経済人やメディアが主流になってしまっている日本は危うい。
村上氏や堀江君程度に荒らされる日本の資本主義市場に相当のゆがみがある
とも言っています。

3代の政権にまたがって政府に仕えた男が自分で自分の仕事(それが例え公僕と言う立場上仕方ないものであったとしても)を総括もせずに何事か・・・とも思いますが、言っていることは全くの反駁する能わざる正論です。

先のエントリでも述べましたが、市場の活性化などというものを期待するあまり、いわゆるバクチ場と化したのが現在の株式市場の実体なのではないでしょうか。
長期的な視野で投資行動を取るようなまともな投資家にとってもこれは迷惑です。
実は長期的運用の投資家もインデックス運用をしているのですから。
現在の株式市場は、もはや投資ではなくマネーゲームの場となっています。これはアメリカに限ったことではありません。

衣食足りて礼節を知る、と言うように、我が国の誇りたるべき優良企業が韓国のように皆外資に支配されてしまったとしたらどうでしょう。
今の韓国のどうしようもない閉塞感から来るヒステリーにも若干は同情の念を禁じ得ません、
明日は我が身かもしれないのですから。
そして、今の我が国が経済的母艦を失って搾取されるばかりの外資という女王アリに仕える働きアリの国となった時、韓国以上に国民は自信を失い、腑抜けになってしまうでしょう。

一言でいえば、小泉政権の「構造改革」など、アメリカの80年代初めのレーガン大統領によるレーガノミックス、イギリスのサッチャー首相による70年代後半のサッチャリズムの焼き直しです。
最大限市場経済に委ね、供給重視の経済政策(サプライサイドエコノミクス)という理念を打ち出しつつ、他方でナショナリズムを鼓舞するという巧みな心理的誘導を含んだ手法はかなり共通しています。

しかし、その頃よりすでに年月が経過し取り巻く状況も変化しているのですから、少なくとも彼らの負の遺産を考慮すべきなのですが、小泉さんにはそんな視点は全くないようです。榊原氏が述べているように2周遅れのトップランナーというのにふさわしいというのはけっしてアイロニーとは思えません。

小泉さんの掲げる「構造改革」の理念は、市場経済原理主義に基づいて出されていると言ってもよいでしょう。郵政3事業の民営化、特殊法人等の見直し、民営化などは、その最たるものと言えます。

民間でできることは、できるだけ民間に委ねる、頑張りがいのある社会システム、自助と自律(の社会保障)など、新古典派経済学が好んで用いるタームが、キーワードとして使われています。

こうした理念に裏打ちされた小泉さんの「構造改革」の行く末は、「恵まれている人が報われる」です。「恵まれた人が一所懸命働くとより豊かになる。最終的にはその豊かさが、多くの人に配分される」となるのですが、この考え方はトリクル・ダウン理論と言われています。
(トリクル・ダウン=滴り落ちる-成長の果実はやがては社会全体にしたたり落ちるように裨益する)
レーガン政権の時に盛んに唱えられた理論です。
しかし、結果は所得格差の拡大と無気力な失業層の増大でした。
そして、我が国にはアメリカの様に敗者復活の社会的構造はありません。

我が国日本丸の小泉元帥、竹中提督の船は・・・「構造改革」後の社会は、このまま捨て置けば、現在よりさらに不安な怠惰な、そして緩みきった無気力な社会となることは想像に難くありません。

経済問題(資源開発・確保も含む)は、いまそこに足下に迫っていて、そして国民の関心が薄く、気付きにくく、忘れやすい(何ヶ月もたたぬうちに、もうホリエモンの件は世間の耳目を集めません)問題で、しかも生活と心の芯にボディブローのように効いてくる問題なのです。
これは私が経済畑であるというだけでは決してなく、資源立国、農業立国の目指せない我が国にとっての生命線なのです。
鎖国が許され、今の生活レベルを100年戻しても心が折れずにやっていけるというのなら別ですが。

今我が国が直面している諸問題の底の底、その芯にあるものは、それぞれの物事の本質が実は欠落していることへの非認識に他ならないのではあるまいかと思います。
人間の関わりにも似て、国と国との関わり合いなどというものは、その本質はその国の独自の利害でしかなく、国際関係の中で我が国がしきりに謳う善意なるものなどは所詮バーチャルなものでしかない、というアクチュアルな、怜悧な認識をこそ我々はこの国難と言って良い時代に持ち直すべきなのではないでしょうか。

・「外資むしりとり」論は、ほとんど具体的な政策提言を伴っていない
については、あらためて書くこととします。
キーワードはbalance of powerです。

Nevada Economic Report
衆議院第154回国会予算委員会10号議事録

The National Intelligence Council Mapping the Global Future

「鹿子木裁判長が与えた憂鬱(追記あり)」への18件のフィードバック

  1. 本当に勉強になる内容、ありがとうございました。小泉首相は郵政民営化に今最大の力を注いでいるようですが、現実化した後の郵便貯金が非常に心配です。

    最近すごく気になることがあります。郵政民営化はアメリカが日本にやって欲しいことの一つ(どこかで読みました)。日本の国連常任理事国入りに対してアメリカがずいぶん親日的であること。この二つが天秤にかけられて動いているような気がしてなりません。誰かご存知でしたら教えてください。

  2. もひとつ・・・

    これが小泉さんの政策虎の巻

    日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本政府への米国政府の年次改革要望書

    ね、小泉改革まんまでしょ

    これがあって、上の森田さんのこの文章を見ると、またひとしお。
    森田さんは、あんま好きな人じゃないけど・・・これは納得。

    (以下転載)
     郵政国会にも世界の注目が集まっている。それは350兆円という巨額資金への関心である。米国保険業界は郵政民営化法案を採決する衆議院本会議と参議院本会議の「数」の計算に懸命である。小泉首相支持派と反対派はとくに参議院において伯仲している。米国保険会社は国会担当を置き、彼らは毎日議員会館を回っている。
     米国保険会社の調査員は「世界中が日本の国会を注目している。郵政公社のもつ350兆円の郵貯・簡保資金が世界の金融市場に流出する。これほどの巨額資金が動き出すのは過去になかったことだ。おそらく将来もないだろう。歴史的な大事件だ」と語る。
     350兆円は世界中が注目するほどの大金であり、米国ハゲタカファンドの垂涎の的になっている。
    (ここまで)

  3. えーっと、2ちゃんとか、色んなところの書き込み見て痛かったんで、ここに書きます。

    鹿子木判決で、ニレコのプランというか、ライツプラン全体に対する要件が厳格だったからって、それを既存の判例路線を踏襲とか、現商法の条文に忠実だとか、経済産業省や法務省のガイドラインそっくり、とか言ってる人がいた・・・これは読売http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20050602mh12.htmも勘違いしとったけど。

    んで、この鹿子木さんの根っこにある思想はこれ見りゃわかりそうなもんだけど・・・

    (判決文抜粋)
    3 保全の必要性について
    しかしながら,会社支配権の争奪は,不適任な経営者を排除し,合理的な企業経営を可能とするという側面も有しており,一概に否定されるべきものではないし,仮に好ましくない者が株主となることを阻止する必要があるというのであれば,定款に株式譲渡制限を設けることによってこれを達成することができるのであり,このような制限を設けずに株式を公開した以上,支配権の争奪が起こり得ることは当然甘受すべきものである。そもそも,不適切な敵対的買収を防止するためには,収益性を改善し,株主を重視した経営を行うなど,真摯な経営努力により企業価値を高めることが重要であり,安易に新株予約権を利用した事前の対抗策を講じることは,かえって企業価値を損なうおそれすらあろう。仮に,債務者があらためて事前の対抗策を導入するために新たなコストを要するとすれば,それは,株主利益に十分配慮しないまま本件プランの導入を図ったことによる結果であり,やむを得ないことといわなければならない。
    (ここまで)

    意訳してみる

    会社支配権の争奪ってのは、ダメダメな経営者を排除して、合理的な企業経営を可能とするっていう側面もあるんだから、否定するな。
    それが嫌なら、定款変更して譲渡制限会社にすりゃいいじゃん。そうせずに株式を公開したからには支配権争奪なんてのは当然甘んじて受けろって。
    大体、不適切な買収なんてのを防止したけりゃ、収益を改善して株主を重視した経営をすればいい。
    んな、泥縄の安易な買収対抗策なんて、かえって企業価値を低下させるだけだよ。
    もし、買収防止策やり直して余計な金がかかったとしても自業自得。事を軽んじてそんなことをしたお前らが悪い。
    と、まあ、こんな感じ。かなり乱暴だけど。

    決定理由が明快で突っ込み入れにくいってことと、決定内容を妥当なものとして、納得できるかどうかは別でないの?
    とりあえず、その後の買収防衛策考えてる人に対して、十分脅しの役には立ってる。

    その証拠に・・・

    西濃運輸HP信託型ライツ・プランに関するQ&A

    これでこの司法判断が他の会社のライツプランに与えた影響ってのがわかるはず。

    ニレコと違って西濃の場合、上のQ&AのQ12で

    ニレコ社の『セキュリティ・プラン』においては、取締役会決議のみに基づき新株予約権が発行され、その発行について株主総会の決議を経ることは予定されていません。
    これに対して、信託型ライツ・プランにおいては、新株予約権は、株主総会において3 分の2 以上の株主の皆様のご承認を得ることを条件として発行されますので、その発行にあたり株主の皆様の意思を十分に反映させる仕組みが設けられています。

    なーんて説明して、他にもぐちゃぐちゃ言ってるけど・・・要するに、

    「ニレコの事例は取締役会決議で導入したものだから、発動の条件が厳しいけど、うちは平時に株主総会決議で導入するんで大丈夫、有事発動の条件も緩和される」
    っていう論理が前提となってる。

    この決定(特に鹿子木)を読んで、そんな理屈が確認されたとは思えない。

    というか、こう読める。

    裁判所の言い分は多分・・・
    「平時において、取締役会が株主総会より有事の際の買収者からの防御のために、緊急避難的防衛措置の委任を受けることはできたとしても、企業価値の毀損を比較検討するところまでの委任はできない。企業価値の比較、買収者と現経営陣のどちらが経営者としてふさわしいか、ということは本来その時点での株主が決めること」

    ま、こんな風に言われるのがオチだね。いざ有事になって発行の際には。
    判決文を必死で読んで、それを信じて株主総会でライツプラン通しても・・・後でハシゴはずされる。

    株主総会での決議で導入することで、有事発動条件が緩和されるとは限らんのよ、この判決見る限りじゃ。
    判決文の各論だけ見てても仕方ないんよ。

    高裁決定にしたって、鹿子木判決や異議審決定の該当部分を覆したわけじゃなく、単に理由として採用しなかっただけだよ。

    というか、ご立派な知識とオピニオンあるんだったら、HNでいいから、ここに書けばいいのにね。

  4. てっくさん、長文コメントありがとう。
    あまり裁判内容の個別項目に対して、ここで私が細かい話をしても仕方ないので別な切り口で一言。

    私が言いたいことの一つは株式会社における利害関係者(ステークホルダー)を、一時的なステークホルダーと継続的なステークホルダーに分けて考えても良いのではないかということ。
    短期で利ざやを稼ごうとする投機家と、会社の価値創造の継続に対し貢献し、それとともに利得を得るステークホルダーと言う意味で。

    そして、証券市場には残念ながら短期投資をする勢力のほうが多いということ。
    それゆえ、本文中で少し述べたMSCBなどという資金調達法は問題とされないのに、一時的なステークホルダーのことまで考えて経営をしなければいけないのは何故かという素朴な疑問を持ったのです。
    極論を言えばMSCBなど、引き受け証券会社に対する既存株主からの不当な配分とも言えると私は思っています。
    そして、まさにその引き受け手は一時的なステークホルダーと言えるのです。

    ここからは少し禅問答のような形。

    確かに、企業の所有権は法律上は株主にあり、それゆえ株主は経営者を選択することが出来ます。
    すると、「株主の利益を毀損する」というのも、おかしな話になります。
    株主自身が自分の利益を毀損する者を経営者として認めていることになる。
    それが気にいらなければ、経営者を交代させればよいし、総会決定が気に入らないという株主は、その企業の株式を売り払えばよい。
    とこうなります。
    また、だから法律に基づいて、司法に訴えるのだ、という株主もいるでしょう。

    かくして、議論は堂々巡りとなる。

    エントリを出すタイミング上、今さらとも思い、ニレコの件に関して考察しておられるブログにトラックバックは打ちませんでしたが、遅ればせながらこれからトラックバックを打ってみます。
    その方々がご自分のブログでこれ以上この件に関して触れていただけるのか、ここにコメントしていただけるものかは私にはわかりません。
    もし、ここにトラックバックが返ってきたり、幸いにもここにご意見を頂戴することができたなら、私も含めあなたや皆さんにも大変有意義な勉強になることと思います。

  5. TBありがとうございます。
    色々と日頃考えていることとつながる点もありましたので
    改めて記事を拝読させて頂き思ったことをTBさせて頂きました。

  6. アメリカは実業は下手でも、マネーゲームだけはとても上手い。株、為替、M&Aなどのゼロサムゲームになると、アングロサクソンであるアメリカは本当に強い。

    アメリカが実業が下手であるというのには、疑問を感じざる終えません。個々の産業で違いがあっても、全体的に見てアメリカの生産性が世界一高い水準にあるというのは、経済学では常識のような気がします。たとえば
    http://post.economics.harvard.edu/faculty/aghion/papers/effect_of_financial_development.pdf

    海外直接投資の収益率を参考にされていますが、海外直接投資は必ずしもゼロサムゲームでは無いと思います。第1に、投資家はしばしば投資先の経営に積極的にかかわり経営の改善に尽力します。(このような投資家が何もしない投資家よりも高いリターンを手にするのは当然ではないでしょうか。)第二に、投資家は株式をもつことによって高いリスクをとります。これによって、債権を持つ銀行は自分のリスクを減らすことができます。これに関して付け加えますと、アメリカの高い投資収益率はアメリカの投資家が他の国の投資家よりもリスクの高い投資先を選んでいるということだけであって、アメリカがマネーゲームに強いということではないかもしれません。

  7. 47thさんへ

    早速のトラックバック、そして ご丁寧にエントリまで書いていただいてありがとうございます。

    実はこのようなオピニオンを書いていながら本業との乖離があるのですが、それはさておき。
    仕事が終わってからじっくりと読ませていただいて、上記エントリの中で返答させていただきます。

    私のエントリ自体が限られた持ち場の中での読者層を考えた最初のエントリでしたので、どうしても総花的な、また部分部分においては舌足らずの内容とならざるを得なかったわけですが、ツッコマビリティ(by木村剛)いっぱいの内容としておりましたので、まずは外資むしりとり論からもう少し(エントリ中で)話をさせてください。

    他の方のために、参考リンクをあげておきます。

    石原慎太郎箴言集 金融経済論

    立花隆のメディアソシオ-ポリティクス

    船井幸雄.com -「藤井厳喜の亜米利加とJAPANのいい関係」

    実は、この辺りを意識して書いていましたので、ここら辺の方々から突っ込みを入れていただけないものかと期待していました。
    (実は、上記の元ネタであろうと思われる文章を知っていて、それを見ながらあの部分は書いたのですが、上記の方々に敬意を表し、あえてアメリカの論文とだけ書いておきます)
    劣化コピーとまでは言いませんが、上記内容には少し不満がありました。
    ただ、限られた場所などと私と同じ答えを返されればそれまでですが。

    また、別のレイヤーの話ですが、せっかく専門家がいらしたので素朴な疑問を聞いてください。

    どうも裁判所の判断を見ていると、資本の「運用側」ばかりに注目し、「調達側」を軽視する傾向があるようです。
    具体例を挙げますと、本文でも書きましたがライブドアのMSCB=Moving Strike Comvertible Bondなど、乱暴に言ってしまえば、既存の一般株主と全く同じライブドアの普通株式を10%OFFで手に入れることが出来る「(一種の)新株予約券」を、リーマン・ブラザースに売ることによって、800億円調達したとも言えます。

    10~15%というのは慣例的に「有利発行」と認められない範囲の割引率ではあるのでしょうが、言ってみればリーマン・ブラザースの儲けの分だけ、株主の利益が毀損されているわけです。
    そして、全額転換されれば当然ライブドアの株式は希薄化します。
    これは本来、株式分割においても得失する立場の人間が変わるだけで、同じような構図のはずです。

    最近の事件で企業価値云々が取りざたされますが、いくら優良な企業であっても企業価値の創造には時間がかかるものなのです。
    その企業価値の創造より短いスパンで儲けようとするのが短期トレードであり、その場合は必ず、誰かが儲けた分は誰かが損をするというゼロサムゲームとなるはずです。
    つまり、短期の株式投資それ自体がゼロサムゲームであるのに対し、裁判所はどこまでの範囲で「一般株主」なるものの得失を評価するものであるのか、一体どこまで踏み込んでしまうのか、それを疑問に思うわけです。

    恐らく、私を含めた素人はこういう疑問を持つのではないかなと思い、あえて書いておきます。

  8. [予告とお断り]
    上のコメントで予告しておりますエントリの続きは恐らく明日の夜になります。
    本業のほうで後回しにできない件があり、午前3時くらいまでかかりそうなもので。

    このエントリに関連して、無視できない真摯な内容のメールを20通いただいておりますが、以降はコメント欄に書き込んでください。
    私のほうでエントリ内に全てを転載すると非常に長くなりますので。

    オーガニック・グロースについてご意見を頂戴した方へ
    詳しくは、別の機会に答えさせてください。
    アメリカの企業がオーガニック・グロースをとらずにM&Aを利用するのは、主に産業構造の違いによるものでしょう。

    別の方へ
    現在の我が国の企業の株式では買収カレンシーたり得ないと思います。
    全く魅力が無いので相手先株主の賛成を得ることは難しいでしょう。

  9. >福井様
    丁寧なコメントありがとうございます。
    ライブドアのMSCBについては、立花氏なども含めて若干誤解があるような気がします。以前、ちょっと細かく分析した記事をご紹介させていただきます。大部になりますので、お時間のあるときにでもご笑覧下さい。
    理想と現実~ライブドアMSCBに想ふこと
    借株について本気出して考えてみた
    借株について本気出して考えてみた(続き)

    CBに限らず、現在世に出回っているエクイティ・リンク商品は、何らかの形で転換価額調整(Moving Strike)型であり、それ自体は資金供給者と調達側の合理的なリスク配分のツールとして極めて有効です。ただし、どんなツールもそうですが濫用されれば毒になります。濫用を防ぐための制度的手当ては必要ですが、MSCBという商品そのものへの過剰反応は企業(特に事業リスクの高い企業)の資金調達の選択肢を狭めるなど弊害も大きくなってしまいます。なお、ライブドアのMSCBの条件は毎週上下方修正がなされる上に、随時償還コールオプションが付されているなど、条件自体からみればリーマンブラザーズにとって、必ずしも有利なものではなかったような気がしています。

  10. 47th様

    分かりやすい説明をありがとうございます。
    ただ、立花隆さんという、いくら他分野ですごくとも、仏文科卒のジャーナリストさんと同一項で括られると辛いものがあります(笑)
    この辺りは我が身の筆力を恨むこととしましょう。

    MSCBをも含めるとなると、今の状況で明日中に書くことができるのか怪しくなってきましたが、47thさんのコメントの中の「それ自体は資金供給者と調達側の合理的なリスク配分のツール」という表現に、引っ掛かりを覚えます。
    (まだ、ご紹介のリンク先は読んでいません、リンク先にご説明があればご容赦を)

    少なくとも、私ならMSCBで資金調達をする経営者に投資はしません。

    話は変わりますが、私が今回いちばん凄いなと思ったのは、2億5000万株という大量の株式を2ヶ月の短期間で引き受けるクライアントをリーマン・ブラザースが持っているのだな、ということです。
    ・・・仕事に戻ります。

    磯崎さんのブログはお読みのことと思いますので、私はJ_coffeeさんのリンクでも貼っておきます。
    http://members.at.infoseek.co.jp/J_Coffee/sonotoki9.html#nipponhousou5
    (手抜きですみません、本当に追われています。またJ_coffeeさんの意見全てに同意するわけでもありません、近いことは確かですが)

  11. さて、つい先ほどまで国際電話をしていて寝られなくなったので、またも専門家の方々の眉をしかめる話を書いておきます。
    アメリカ式の考え方では「堅実経営の会社」は極端に言えば悪です。
    そんな会社は一番に買収の標的にされます。
    業種によって違いますが、理論上は負債比率というものは、倒産リスクがある一定以上に高まり、企業価値が下落する、そのかなり手前まで上がっていることが、その企業の価値を最大にする負債比率ということになります。

    堅実経営とは、負債比率の少ない会社、ある程度ミスをしても揺るがない会社を言います。
    英語ではMargin for error と言って経営者の失策に対するのりしろが大きい会社です。
    これは経済、特に金融の方面から見ると過大資本とされてしまいます。
    言い換えれば、経営者のミスを隠すために不当に内部留保を大きくして、株主に還元していない会社となるのです。
    こういった会社は堅実経営に見えて、社会全体としては最適解になっていない(資本のムダ遣い)とされます。
    資本(株主資本)という貴重な資源を無駄遣いしているので、社会全体が目いっぱい成長できない、資源の効率配分を阻害しているとみなされるわけです。

    ついでにアメリカの個人向けの住宅ローン「モーゲージ・エクィティ・ローン」のお話もしておきます。
    例えば、家を建てるのに5000万円のローンを組んだとします。
    何年か経ち、2000万円は返済し、ローン残高は3000万円となりました。
    ここでアメリカ人なら差額の2000万円を銀行から目いっぱい借ります。いわゆるリファイナンスというやつです。
    そして、その資金で株式への投資を行なうのです。
    さて、担保としている住宅の価格が暴落したらどうなるのでしょうか。
    当然、目減りした分の担保価格の返済請求が銀行からなされます。
    ここで株式投資に失敗していればどうなるのでしょうか・・・

    いかがですか。
    かなり乱暴な書き方をしていますが、このような考え方がここをご覧の皆さんに、いや、我が国のどれだけの人に受け入れられるのでしょうか。
    上記は不当な比喩だとの謗りを受けるかもしれませんが、あえて書いておきます。

    MSCB(リセット条項付転換社債)も制度自体を批判するものではなく、不利な条件でリセットされるようなMSCBを選択する経営者というのは、いかがなものかと。
    損をするのは投資している株主です。
    私なら、そういう経営者には投資しないということです。

  12. >福井様
    釈迦に説法かとは思うのですが、前者の点については、客観的なデータでいえば、日本企業の負債/資本比率は米国よりも遥かに高いことが知られています。その意味では、データ的には米国企業の方が負債比率の低い(=堅実?)な経営をしていることになっています。もちろん、これはMM理論からみれば、ややパラドキシカルですが、この状況を説明する要素として情報の非対称性や流動性制約が着目されているのが、現在の米国の理論状況ではないかと思います。

    後者の点については、これも統計的データで見る限り、家計の負債比率は最近米国でも上昇しているものの、なお日本の方が負債割合が高くなっているようです。
    これは、こちらがネタ元になります。
    このレポートの中では、規制緩和によってご指摘のエイクイティ・モゲージが可能になったことが、最近の米国の負債比率向上の原因としてあげられています。
    なお、私が福井さんの御意図を正解していないのかも知れませんが、借入金によるリスク資産への投資を問題とするのであれば、土地の(利用価値ではなく)資産価値に着目した借入れによる購入や株式投資における信用取引という行動様式は日本人にも見られるものではないでしょうか。そもそも、投資にレバレッジを利かすことによってプレミアムをとりにいくという行動のインセンティブ自体は国籍に関係なく存在します。問題は、そのインセンティブに対して、国家がどのようなアプローチをとるかという点です。
    この点において、適合性原則や説明責任など金融機関側に厳しい行為規範をかけた上で、あとは消費者の判断に委ねるのか、それとも、弊害がありそうなものは一律に禁止するのかというアプローチに対する選好のいずれが望ましいかも、国民性や民族性では結論が出ないのではないかと思っています。
    コメント欄に長文失礼いたしました。とはいえ、大分はしょって書いてしまったので、改めて自分のブログで敷衍させて頂くかも知れません。何れにせよ、大変に考えさせられる問題提起かと思います。MSCBも含めて、またブログで考えを書かせてもらうと思いますが、引き続きご指導頂ければ幸いです。

  13. >福井様
    丁寧な追記によるご回答ありがとうごじます。
    不躾ながら、私の知識の範囲では分からなかった部分をメモ的に書いたものをTBさせていただきました。
    マクロの素人におつきあいいただくと、大変なことになってしまうかと思いますので、「そんなことも分からんのか、これを読め」というものだけでもあれば、教えて頂けると幸いです。

    ところで、西濃運輸のピルについては、(仮に訴訟になったらですが)高裁決定がああいう形でしたし、鹿子木判事も含めてニレコ・ピルとは違うものという認識はあると思うので、割合まっさらなところから心象を形成していくのではないかという気がします。

  14. うーん、鋭い。

    47thさんとお話をしていると色んな側面から見ていただけるので、非常に為になります。ありがとうございます

    痛いところをつかれました。
    バランスシートの改善・悪化を正味資産対可処分所得倍率の増減で見れば、90 年代以降、米国家計はマクロではバランスシートが改善し、日本の家計はなんとか悪化を食い止めている、ということになりますか。

    せっかくですから、あまり言いたくない話もすることにします。
    一般の方には異論があるのかもしれませんが、個人にとって住宅は、リスク性資産です。土地・住宅価格の変動リスクがありますし、転勤などによる住宅の転売、家族構成変化に合わせて引越しが必要となった場合に、流動性が極めて低いという問題がありますので。
    金融資産だけでなく住宅など実物資産も含めた総資産(金融資産+実物資産)に対するリスク性資産(住宅・宅地資産+株式出資金)の構成ウェイトを見ると、日・米・そして英の3カ国ともリスク性資産のウェイトが50%程度とほぼ同じになります。つまり日本人は必ずしも安全志向が強いということではなく、米国・英国とは異なり、金融資産よりも実物資産により多くリスクを傾斜せざるを得ない環境にあるという見方もできます。(検討資料の一つ、survey of consumer financeは3年ごとの更新ですので、最新の2004年版を後で探してみます。)

    金融資産と実物資産の代替性、つまり中古住宅市場の流動性を高めることや、金融資産と実物資産の税制をイコールフッティングとすれば、金融資産と実物資産の代替性を向上させることは可能だという見方もあります。

    しかし、個人の実物資産にかかるリスクを減じることができたところで、日本人が金融資産選択において今以上にリスクを取るようになるかどうかは個人的には疑問があります。(ただし、若年層と低所得者層を除く)

    我が国の場合、購入者の意識としては(アメリカとは住宅事情が違うのもありますが)大半は住み替えを前提としていないので、家族構成変化の可能性も考えながら調達可能額の上限に近いような住宅を購入するという傾向にあります。(負債残高の実に9割を住宅ローンが占めます、ちなみにアメリカは7割弱)
    住宅ローン保有世帯比率自体はさほど高まってはいないのですが、近年の住宅ローンの増加は、住宅購入者の広がりではなく、住宅購入者1人当たりの債務残高の増加によってもたらされたのだと見ています。

    上でリスクテイクの件を言っていたのですが、実は一番の心配は日本人のお金に対する認識の低さです。
    若年層や中低所得者層でローン残高の比率が上昇していることは、金融機関のリテール部門での競争激化から、貸出サイドで融資条件を緩和して高利のお金を貸し付けていて、それに対する抵抗感が無いことにありそうです。その他リストラによる所得減等もあるのでしょうが。
    これについては、また別途。

    そして、前者の日本、アメリカ企業の負債/資本比率ですが、ざっと以下のような考え方で仕事が終わってからまとめます。

    従来型の閉鎖経済モデルを基本形として、それを開放モデルに拡張していくような伝統的経済理論は、いまや世界中で起こっている事象を説明できません。100ヶ国以上ある国々を全て別の経済とみなしているので。

    そこで、マネー経済においては、その過剰流動性により、世界が一つの経済圏に統合されたものが基本形となって、理論を個別の国に適用するのはあくまで例外とする。と考えます。
    なぜなら、国の数だけ合ったIS曲線とLM曲線が、今や世界で一つのものに統合され、先進国の実質金利が収斂に向かっているからです。
    その一方で国内経済は国境を越えられる経済と、容易には国境を超えられない経済(サービス等)に分断されているとします。
    そうすると、日本の経済を救済するための過剰な金融緩和が功を奏しなかった理由も、金融緩和によるマネーが国境を越えて近代化経済圏に向かい、そこでブームを引き起こし、一次産品価格の高騰や素材インフレを引き起こしたという説明が成り立ちます。

    こうすると、今後は今までの工業製品のデフレから、固定電話料金の価格破壊に代表されるようなサービスデフレが起こることの予測もできます。

    要するに、1国内2形態の経済です。
    これは今、思いつきで書いていますので、ツッコミどころ満載でしょうが、後ほど整合性を持たせてまとめてみます。(本当はweb engineer君に頼んではみたのですが、彼も追われているようです)
    ただ、今晩中に時間が取れるかどうかは、例によって定かではありません。

    TB先の投資リスクの件ですが、これもまたあらためて。
    市場の平均上昇率では投資リスクは見えにくいとも思います。
    どこまで投資テクニックとしてのリスク分析の話をするかということになりますが、ちょっと悩ましいところもあります。

  15. 47thさん、みなさん、はじめまして

    忙しい2人に代わって駆りだされちゃいました。
    某所で研究員やってます。といっても、秋からはいなくなりますが。
    秋からはVisiting fellow, xxxx College, xxxxxx University Grants by XXってやつです。
    どこかでお会いすることがあればよろしくです。(何でも食べられます<47th様)

    えっと、アメリカに資金が集中し、中国に資源が集中するってことと、米ドルの持つ2つの顔の説明です。
    で、まず、デフレの説明から(本題にはなかなかたどり着きません・・・長いです)

    経済財政諮問会議がデフレ問題の論点整理(リンク)なんていう報告書を出してます。

    詳しくはリンク先を見てもらうことにして、デフレの何が問題なのかってことで、こう書いてあります。

    ● 実質金利の上昇による総需要抑制
    ● 実質債務負担の高まり
    ● 賃金の下方硬直性が生産や雇用量の削減に影響

    で、さらにその下に

    ■ 景気低迷やデフレ期待による消費・投資の先送り
       や産業構造調整の遅れ
    ■ 資産価格の下落及びそのデフレへの影響

    なんていう問題が発生するとおどしてます。

    今、まだデフレですが・・・こんな脅しは杞憂に過ぎなかってことがもうバレてます。

    ●実質金利は高くなるどころか低下してます。しかも世界的に。
    ●実質債務負担の高まり・・・これについては、そもそも債務過剰の企業が債務を増やせたのは、単に土地担保価値の増大という偶然があったからにすぎません。フローの経済活動で返済するための借り入れじゃなかったんですから、インフレが起こったところで債務が返済できるわけじゃないでしょう。ふざけるな、デフレのせいで借金が返せないのはただの言い訳ってことです。
    ● 賃金の下方硬直性・・・こんなものは、福祉国家時代の産物です。グローバル化の時代では賃金は低下してます。
    ということで、別に以上の問題は顕在化してませんから、後の二つがデフレのせいで起こってるというのは受けられません。

    大体、今の世界経済は、冷戦終結後のグローバル化とIT革命による市場統合で、国境なんていう概念は希薄化してます。
    そういう構造変化があって、現象面としてデフレとなってでてきているわけです。
    もしもデフレが日本だけで起こっていて、固有の問題なら、原因は需要不足なんですから需要追加策をもって脱却できてるはずです。
    ところが総額130兆円、9回にわたる総合経済政策を敢行したにも関わらず、いまなおデフレなわけです。
    日本だけじゃなく、いったんデフレから脱したアジアやユーロでも消費者物価上昇率がまたゼロに近づく国が出始めてます。

    これって、単なる失策か?・・・それとも・・・

    原因なんて需要側にあるんじゃなく、市場統合に起因した供給側にあるのはわかってたはずです。
    従来は国ごとに自国の需要に対応した供給曲線を描いてましたが、グローバル化が進んで供給曲線が世界で一つに統合されていこうとしてます。
    で、アジアの国は意図的に、どこの国も為替が過小評価されてますんで、先進国からすると小さな金で大きな投資ができるわけです。
    ここで生産量をX軸、物価水準をY軸にとって統合された世界の供給曲線のグラフをとってみると、X軸方向に大きくシフトしてしまったわけです。
    ということは、先進諸国でちょっとやそっと需要が増えたところで、供給不足になんてならなくなってしまってるわけです。

    というわけで、市場統合は物価を下げるということがわかってもらえたかなと思います。

    次にアメリカの話です。

    アメリカはデフレじゃありません。消費者物価が2年以上にわたって下落しているのがデフレですから、プラス2%台で上昇してるんで当てはまりません。

    が・・・程度の差はあれ、アメリカでも日本と同様の消費者物価上昇を抑制するメカニズムが働いてます。

    1.ドル安が即輸入物価の上昇につながらない
    2.生産者物価が消費者物価の財価格に転嫁されない
    3.景気回復気においても消費者物価のサービス価格の上昇率が鈍化し始めている

    1.については輸入の弾性値に大きな変化が見られます。’02年頭からBload Daller Indexは15.6%下落してますが、輸入物価の上昇はたったの5.6%です。ということは、弾性値は0.36まで下がってます。
    2.についてはアメリカの生産者物価は今年2月で2.8%増・・・これは’98年並みです。ところが’92に4%前後だった消費者物価の財価格は同じく今年2月でたったの0.7%の上昇にとどまってます。’98以前は財に関して消費者物価の上昇率は生産者物価の1.5倍でした。生産者物価が3%あがると消費者物価は4.5%あがってたんです。
    それが’02年以降消費者物価の生産者物価への追随率があきらかに下がり始めてます。
    3.消費者物価の半分のウェイトを占めるサービス価格も上昇率の鈍化が見られます。要するに製造業と非製造業の賃金の連動性が日本と同じく低下し始めてます。

    長いんで、いったんここで切ります。

    続きは・・・世界中がデフレ構造になっていく・・・すくなくともデフレ基調は続く・・・でもデフレは必ずしも悪じゃない。

    竹中さんはデフレはやっぱり悪い、これはマクロ経済的に解決を要する問題だ・・・なんて言ってますが、それってどうなの?ということを次に説明したいんです。
    それとデフレは貨幣現象なんですか?今でも・・・ということと。

    多分今晩・・・でも、変わってもらえるんだったら、そのほうがありがたい・・・喜んでバトン渡します(笑)<Web様

  16. >あつや(弟)さん
    ありがとうございます。NYにお越しの際には是非ご連絡ください^^
    おかげで、マクロ素人の私にも、理屈として市場統合がデフレの原因になるというところと、金融政策が効を奏しない仕組みは理解できました^^
    ただ、それが他の可能性のあるデフレの要因を排除するのかは、もうちょっと自分でも勉強してみたいと思います。
    あと、デフレが悪くない理由は楽しみです。今晩とはいいませんので(私も週末はのんびり派ですので^^)、お時間のあるときに教えてください。

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