中国の東シナ海進出は止まらない(四)

VOICE6月号 特集「中国の脅威」は本物か より

「海への野心」で膨張する大国に日本は何ができるか

平松茂雄
西尾幹二

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日米でいかに中国を弱体化させるか
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西尾 ここでまったく違う質問をしたいのですが、日本には平松先生のお話とは逆に、「中国はもう、どうしようもないほどダメになっている」とする中国観があります。経済格差は大きいし、民族対立が発生しているし、ソ連崩壊と似たようなパターンに入っている。経済上の数字も全部ウソのデータで、エネルギーや水も著しく不足している。得体の知れない病気もはやっている。さらには中国人は一人ひとりがエゴイストで、自分の欲望を満たすことしか考えておらず、国民としてのアイデンティティがない。

 中国は昔から君子と匹夫に分かれ、平松先生は君子、つまり中国共産党を見ている。その一方で、昔でいう苦力(クーリー)や農民、庶民などに焦点を当てて見た中国論もある。その違いからとも思うのですが、先生の中国像と一致しないんです。

平松 「中国が崩壊する」という論は以前からずっとありました。しかし、共産中国の歴史のなかには、「大躍進」や人民公社のたまえに、2000万~3000万を餓死させたなどという話もあった。そのことを思えば、いまは2000万~3000万の餓死者が出たという話は聞きませんから、ずいぶんよくなっているのです。

西尾 でも、暴動はあちこちで起きているようです。

平松 暴動は昔からあります。中国が比較的安定していた1950年代中ごろ、毛沢東は「中国には小皇帝が何十人もいる」という発言をしています。軍閥の親玉のような存在の人を「小皇帝」と称し、そのような人物が何十人もいるという。毛沢東の時代ですらも中国は治まっていなかったわけで、その意味では、いまも昔も変わらないのです。

 かつて大陸で生活した人からこんな話を聞いたことがあります。北京の街では真冬の朝、いつも家の前に何人もの人が凍えて野垂れ死にしていたそうです。いまはそのようなことはない。「だからよくなっているんだ」という。一昔前と比べると、はるかに生活が向上しているのです。腹が減っていては、暴動やストライキをすることができないですよ。

 そもそも人間が死ななくなっています。たくさん生まれるのは相変わらずですが、昔は同時にたくさん死にました。いまは文明化して簡単には死ななくなった。日本に比べればまだまだ劣るしレベルではありますが、医療がずいぶん発達したし、衛生状態も非常によくなった。昔はそこいらじゅうに豚がウロウロしており、糞尿が垂れ流しになっていた。蠅も辺り一面が真っ黒になるくらいいっぱいいて汚かったのが、見違えるほどきれいになった。そのような点から見れば天国ですよ、いまの中国は。

西尾 ただ、こういうことは一ついえますね。中国がアメリカや日本のような大資本主義国に対抗するには、富を平均化してしまってはダメで、一部に集中するしかない。国家権力が富を掌握し、民衆を置き去りにするというスタイルをとらざるをえません。

 実際中国では、非常に悪質で非人道的な法律によって、国家による富の収奪が行なわれていると聞きます。一部の農民を都市に連れてきて、一定期間、安い労働力としてこき使ったあと再び農村に帰す。そして新たに農民を都市に連れてきて、また安い賃金でこき使う。これを繰り返すことで人件費を抑えるのです。あるいは土地はすべて国有なので、立ち退きや追い払いといったことを、まことに残酷なやり方で行なっている。

 ならばアメリカや日本は、中国を軍事的、経済的に恐れる前に、まず中国の人権問題を攻撃すればいいのではないか。中国をもっと民主化させ、富の偏在をなくせば、軍事に経済力を集中させることができなくなり、軍事的な拡大も阻止できると思うのです。一方で中国の民衆はもっと幸福になるかもしれません。日米両国は中国に対してそのような戦略を採るべきだと思うのですが。

平松 毛沢東は経済力をまず核兵器に投入し、その後政権はさらに、海岸、宇宙という方向に使ってきた。それを違う方向に使わせるということですね。

西尾 そうです。

平松 ただ富を国民に平均分配すると、豊かになった国民が贅沢な暮らしをしはじめて、世界中のあらゆる資源やエネルギーがなくなってしまう。あまりに影響が大きいから、そのようなことをさせたらダメだというのが、私の考えです。中国は近代化しないほうがいい。「毛沢東流の人民公社がよい」と、私はずっといいつづけています(笑)。

西尾 中国を穏健な国家にしようと、アメリカは中国をWTO(世界貿易機構)に加盟させました。国際秩序に取り込むことで、よりソフトにしようとしうのが冷戦以降のアメリカの戦略のようでした。ところが、どうもうまく進んでいない。逆になっているように見える。

平松 もともと中国は、WTOにおいて優等生になるためでなく、「使えるところだけを使う」と考えて加盟したと私は見ています。だいいち、このまま生長を続けていけば、世界中の資源やエネルギーのかなりの部分を使ってしまいます。中国の国民に冷酷といわれても、私はそのような方向に導く戦略を採るべきでないと思います。私は、中国が欧米や日本のような発展方式ではなく、中国の現実に合った発展の方式を採るように考え、あるいは協力することだと考えています。

西尾 いずれにせよ日本は、いかに中国を弱体化させるかを研究する必要があるのではないですか。それなのに、そのような議論が堂々と語られない。有効国家としての扱いばかりしている。日本経済が中国にぶら下がっているからある程度仕方ないとしても、そもそも経済をもっと政治戦略として使うべきではないか。日本経済の力をもってすれば、一国の軍事力に匹敵するようなパワーがあり、相手を抑えつける政策論もありえるはずです。

平松 日本だけではないでしょうか。国家が総合的な戦略を立てていないのは。欧米の国家なら、どこでもやっている話です。企業にしても皆バラバラで、お互いに競争して足の引っ張り合いをやっている気がします。

西尾 日本政府だって省庁ごとに戦略がバラバラですからね。

平松 そこにいちばんの問題があります。そのあたりが変われば、いろいろな方法が考えられるはずですけどね。

つづく

「中国の東シナ海進出は止まらない(四)」への2件のフィードバック

  1. 平松氏の論は、眞に正論と思われる。

    小学校の学級会でしか通用しないような親善だの、共存共栄だの
    の話を大の大人が真面目に論じている我が国において、
    中国を封じ込めるという戦略が正しいと分かる人は多くないように思える。

    単純に考えても、10億の民のモータリゼーションが、地球を
    破壊することは言わなくても分かることだ。

    彼らには、現代の先進国の資源大消費生活ではない、
    よりもう少し進んだ省資源生活を提案したい。

    というわけで、具体的には電脳生活を楽む方向へ導きたい。
    ゲームやアニメの輸出は、その意味で戦略に沿っていると思える。

  2. 素朴人さまへ

    「ゲームやアニメの輸出は、その意味で戦略に沿っていると思える。」 という言葉

    あ なるほどなぁ と思いました。
    意外とアニメとかマンガをつくる芸術家的な立場にいてるかたたちのほうが、本能的に日本がとるべき戦略を体で感じとって実行しているのかもしれませんね。
    あと、海外で闘うサッカー選手なんかスポーツの人たちだって。

    日本という国は、国家よりももはや在野のそれぞれの職業に命を賭けている人たちのほうが国家戦略を本能でやって闘ってる と考えるのは すこし夢見がちで空想家が過ぎますか・・・
    でもそう信じて僕らは自分の職業に自分の目の前にあることに命かけるしか出来ないですから。
     がんばろうって思います。

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