北朝鮮のミサイル発射は本当は大変に深刻な出来事なのだろうが、目の前に薄い膜がかかって、なぜか白昼夢を見ているような趣きがある。うまく言葉で言えないが、不安が習慣化している。
1920年代に「日米もし戦はば」というような本が流行したことがあった。いつしか言葉は現実を引き寄せた。同じようにミサイルが七発も発射されても、われわれはまだ夢の中の出来事のように思えている。相手がまだ遊んでいるように見えている。だがこんなことを繰り返していると、きっといつしか現実になる。
われわれは、もう言うべきことは言い尽くしたし、何を為すべきかもみんな分っているはずである。そして何ができ何ができないかも考え尽くしている。自衛隊は相手ミサイルの発射基地を叩くことが出来ない。こちらの対抗ミサイルは地対空はあっても、地対地が用意されていない。
行って空爆して帰還する航空機はあっても、飛行距離が足りないといわれていた。途中で給油する必要があると聞いた。給油機の導入は平成18年だと3年前に聞いていて、ずいぶん先だと思っていたが、今その年になっている。あの件はどうなっているのだろう。いざとなったら韓国の米軍基地に緊急着陸して、爆撃して帰ってくればよいと言っていた元自衛官の話もあったが、あの件もどうなっているのだろう。
私も他人(ひと)のことは言えない。追及する意識を手離しているうちに歳月のみ流れた。今はどうなっているのか、専門家の話も最近は詳しく聞いていない。
しかし問題は、北朝鮮のミサイル基地に自ら軍事攻撃を加えるというような可能性がこの国でははなから考えられていないことなのだ。(注・9日麻生外相と額賀防衛庁長官がやっと敵基地攻撃の可能性を憲法のゆるす範囲で検討すべきだと重い口を開いた。)基本的にはアメリカだのみだが、ご覧の通りアメリカの対応も鈍い。日本が本気でないのだから、アメリカもほどほどに手を抜いているようにしか見えない。
出てくる話といえば経済制裁と国連安保理への提訴である。国際社会の結束が大切だと政治家は口を揃えて言う。中国とロシアが不熱心であることに(それは当然である)息まく政治家もいる。韓国がスキを狙って泥棒猫のように動いている。
勿論、経済制裁も国連安保理への提訴も大切だ。物事の順序としてそれはそれで仕方がない。だが、軍事力行使が構えとして最後にあって、いつでも発動できる用意ができていて、その上での経済制裁でなくては効果がないし、その上での国連安保理の利用でなければ国際的効力も期待できないだろう。
ところがミサイル防衛のパトリオットの導入その他が取沙汰されるだけで相手基地を叩くという発想が全然ない。石破元防衛庁長官はいざとなれば攻撃は防衛の範囲に入り、憲法に違反しないと言っていた。給油機や韓国基地の話はそのとき盛んに出されていたのに、今はディフェンス網の話ばかりである。
北朝鮮のミサイルの着弾地点は今後少しづつ日本列島に近づいてくるだろう。ロシア沿岸に落としたのはまずは日本のお手並拝見なのである。北朝鮮は勿論ロシア政府の了解を必ず取っている。背後に中国政府も控えていて、日本の出方をじっと見つめている。そう考えれば着弾地点の選択は絶妙である。これから少しづつ日本海を南へ下って、列島に近づけてくる。日本国内は初めて騒然となるだろう。
そして何よりも、中国が日本国内の情勢分析に意を注ぐだろう。北朝鮮は中国の指令でぜんぶ動いているわけではあるまいが、いいときにいいことをやってくれた、と思っているに違いない。
日本は政権の交替期である。予想通り安倍晋三氏が総理になられたら、氏にぜひおねがいしたい。長期政権をあえて望まず、この機に憲法九条二項の削除を断行してもらいたい。
そうすれば地対地ミサイルを配備できるし、長距離戦略爆撃機を用意できる。すぐ使えというのではない。攻撃力を使える状態にしておかなければ、安倍氏が提案しるづけてきた経済制裁も安保理提訴も絵に描いた餅に終わるだろう。
憲法改正に時間をかけている暇はない。九条二項の削除だけを大急ぎで国民投票にかけるべきである。
こわいのは北朝鮮のミサイルではない。中国の核攻撃力である。核を振りかざした政治的影響力、日本への無理難題の押しつけである。
それをはね返すには、安倍氏よ、北朝鮮のミサイルの脅威をぜひとも上手に利用してもらいたい。北朝鮮がいいことをいいときにやってくれたと日本人が後で思えるように巧妙に立回ってほしい。
本当の脅威は中国である。
次回から平松茂雄氏と私の対談「東シナ海進出は止まらない」を掲示するが、この意味で時宜に適っているといっていいだろう。北朝鮮の攻勢を切っ掛けに、背後に控えている中国を正眼を据えてしかと見つめたい。
お 知 ら せ
*TLF7月講演会*
講 師 西尾幹二氏 (評論家)
テーマ “GHQ焚書図書”から読み解く〔大東亜戦争〕の実相
と き 平成18年7月15日(土)
午後6:30~8:30(受付6時)ところ 東京ウィメンズプラザ・視聴覚室(1F)
東京都渋谷区神宮前5-53-67(地下有料駐車場有)交 通 〔表参道〕B2口より渋谷方面に5分(国連大学)手前右折
参加費 男女共1500円・学生1000円(要学生証)
当日会場までお越しの上、直接お申し込み下さい!“非営利・非会員制”の知的空間
主 催 東京レディスフォーラム
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