西尾幹二氏による画像説明(4)
つづく
次は清朝考証学者の三人をご紹介いたします。最初は「こうそうぎ」、この「ぎ」という字は、果してパソコンで出てくるかどうかというのが、本日の画像をこしらえて下さったスタッフの最大の問題で、やってみたら、出てきたぞ~と、みなさん大変な苦労をしてこの画像を作っているんですよ。で、この「ぎ」は出たんです。実はこの「こうそうぎ」は、明の滅亡に対して援軍を求めて来日、将軍家光は兵3万の出動を計画をした。本当なんですよ。鎖国していたなんて、大嘘です。日本軍が堂々とあそこで中国に上陸して、清を滅ぼす可能性があったのですが、ところが、南明の軍隊が日本の襲来を恐れたとか、いろんなことがあって、そのうち明軍が亡びてしまって、結局大陸進出はなしに終ったということであります。こういうこと、知られていないですね。
「こえんぶ」という清朝考証学者でありますが、二頭の馬と二頭のろばに書物を満載して、生涯放浪の旅を続けた。放浪の旅を続けて、どうして偉大な著作ができたのか。非常に不思議でありますけれど、本当にそうなんですね。この「こえんぶ」という人は、本当に悲劇的な運命をたどった人で、そして、すこぶる片意地で誇り高い歴代伝説上の人物で、おもしろい、おもしろい、伝記を書いたら本当におもしろい人物ですが、次にいきましょう。
清朝考証学者「たいしん」。「たいしん」は体制漢学を支えた文字の学者、哲学者、天文学者。左は弟子の「だんぎょくさい」に送った手紙ということでありますが、戴震と段玉裁という名前を覚えておいてください。どちらも漢字の大家でございまして、戴震は先ほど話題に出たヴィラモービッツ・メレンドルフに匹敵するような、漢学アカデミックの学者でありまして、しかし、今日の漢字の世界を切り拓いたのは、この人です。
さて、これは田中英道先生からお教えいただいているテーマでございまして、セザンヌは全部北斎を真似したというお話。北斎のモチーフを盗んだ、富岳三十六景が北斎ですが、セザンヌの連作も36枚であったと。これは田中先生が発見してですね、フランスの雑誌に堂々と発表して、向うは沈黙を守っているそうでございます。何かあるんですね。きっと。
セザンヌが模倣した北斎のモチーフ。わぁ~これじゃあ間違いないね。セザンヌがまねしたんですよ。逆じゃないですからね。こういうものがあるということを覚えておいてください。
これが先ほど、吉田先生が出されたドイツのウルリッヒ・フォン・ヴィラモービッツ・メレンドルフというドイツ近代文献学の完成者で、ニーチェの『悲劇の誕生』を学問の邪道といって指弾し、ニーチェをついに学会から追い出した男です。後にベルリン大学教授、きっといやらしい男だったにちがいない。かのテオドール・モムゼンという有名なローマ史を書いた歴史家がおりますが、そのひとの娘婿です。要するに権力者ですね。僕はこういうのを文学官僚と言っている(笑)。おわります。
図表出展
〔1〕〔3〕 林己奈夫 「中国古代の神がみ」 吉川弘文館
〔2〕 平川南・他篇「文学と古代日本」第2巻 吉川弘文館
〔4〕 L・D・レイノルズ、N・G・ウィルソン 「古典の継承者たち」 国文社
〔5〕〔6〕〔7〕 世界文学選集1「ホメーロス オデッセイア」 河出書房新社
〔8〕 平川南編 「古代日本の文学世界」 大修館書店
〔9〕 安本美典 「日本神話120の謎」 勉誠出版
〔10〕〔11〕〔12〕 ジャン・イヴ・アンプレール 「甦るアレクサンドリア」 河出書房新社
〔13〕 宮内庁 (「江戸のダイナミズム」395p.)
〔14〕 お茶の水図書館蔵 (「江戸のダイナミズム」395p.)
〔15〕 〔8〕に同じ
〔16〕 「東大寺 法華堂と戒段院の塑像」 奈良の寺16 岩波書店
〔17〕 興福寺 国宝館
〔18〕 「黄宗羲」 人類の知的遺産33 講談社
〔19〕 「顧炎武集」 中国文明選7 朝日新聞社
〔20〕 「戴震集」 中国文明選8 朝日新聞社
〔21〕〔22〕 HIDEMICHI TANAKA Cézanne and Japonisme,artibus et historide no.44,2001
〔23〕 西尾幹二 「ニーチェ」第二部 中央公論社