原発をめぐる個人的顛末(一)

 今回はドイツ在住の川口マーン惠美さんのゲストエッセイとなる。今日本人が知りたい国際的な「風評被害」について体験記を連載で書いていたゞくこととする。

 川口さんは好評な最新刊『サービスできないドイツ人、主張できない日本人』(草思社)を本年2月に刊行されたのを機に来日し、3月の地震を体験され、何日か後にドイツに帰国された。夏までにはまた来日されるそうである。

ゲストエッセイ 

川口マーン惠美

(1)地震、原発、そして成田空港

 ドイツへ戻ってきてからも、憂鬱な日が続いている。余震はないし、停電もないが、風評というものがある。

地震のあった時は、ちょうど日本にいた。二日もすると、ドイツから悲痛なメールが入り始めた。「すぐに帰って来い」「チケットが取れないなら、こちらで手配する」云々。私が日本でフォローしていた限りでも、確かにドイツメディアは、日本列島全体がまもなく放射能の雲に包まれてしまうかのような、パニック報道をしていた。その結果、ドイツでは医者の警告にもかかわらずヨードが売れ(ヨードは下手に服用すると、副作用が大きい)、なんと、放射線測定器まで品薄になるという現象が起こっていた。

そんなわけで、私がまだ日本にいたころ、捜索犬を連れて到着した41名ものドイツの大救援隊は、2日足らずで活動を停止し、帰り支度に入っていたし、15日にはルフトハンザは成田就航を見合わせた。そして、多くのドイツ人は、先を争うように日本を離れており、17日にはドイツ大使館も大阪に引っ越しすることに決まっていたのだから、ドイツで私の家族や友人たちが慌てたのは無理もない。
彼らは、「大丈夫よ。私の飛行機はSASだから、たぶん予定通り飛ぶから」と、東京で呑気に構えていた私にイライラし、おそらく正気の沙汰ではないと思っていたはずだ。すでに彼らの頭の中には、数年後、白血病で死の床についている私の姿さえちらついていたのだろう。

しかし、私は実際に東京にいたのだから明言できる。私たちは慣れない節電で右往左往していたのは事実だが、放射能の危険を感じて恐怖におびえていたというのは正しくない。ましてや、放射能の怖さを啓蒙されていない無知な人間でもなかったし、あるいは、情報操作された政府のウソ報告を丸のみにしている愚かな市民というわけでもなかった。そもそも、私たち全員が憂鬱になっていたのは、震災の犠牲者と被災者の不幸を思い、原発の事故にショックを受け、それら二重の悲劇の大きさに、どうしていいかわからないほど打ちのめされていたからであった。

このころZDF(ドイツ第二放送)は、首都圏の住民3800万人がまもなく逃走し始めると、南へ向かう経路は、一本の主要鉄道と数本の幹線道路があるだけなので大混乱が起こるだろうと不吉な予言をしていた。しかし、私の知る限り、東京では、彼らの言うエクソダス(旧約聖書の出エジプト記に出てくるユダヤ人の大量国外脱出)が始まる気配も前兆もなかった。ちなみに、深刻な面持ちで地図まで見せてその報道をしたジャーナリストは、翌日にはすでに大阪のスタジオから生中継(!)していたので、何のことはない、逃走したのは彼だったのだ。

私がドイツに飛んだ日、成田空港は騒然としていた。コペンハーゲンから直行で来るはずだった私の飛行機は、なぜか北京に寄って来たので、出発が大幅に遅れるとのことだった。空港のあちこちの通路には、チェックインできない欧米の若者たちがべったりと座り込んでいた。予定していた飛行機が欠航になったか遅れるかしているのだろう。出国しようとしている中国人の群れを、中国のテレビチームが取材している。出国の旅券審査のホールに入ると、今度は、再入国手続きを待つ中国人の長蛇の列。外国人の間では、確かに、エクソダスがまっ盛りだった。
驚いて腰を抜かしそうになったのは、横に来ておとなしく腰掛けたいかつい欧米人の若者が、二人揃ってマスクをしていたことだ。これまで欧米人は、日本人のマスクをバカにしたり、からかったりすることはあっても、絶対に自分で掛けることはなかったのだ。そこで周りを見回すと、他にも神妙な顔つきでマスクを掛けた欧米人がちらほら。彼らのマスクは、日本人のそれとは目的が違う。もちろん、放射能を遮断するためだ。

搭乗するとき、ドイツの新聞があったので手に取ると、第一面に、背広を着て、マスクを掛けた日本人が、キッと真正面を向いた特大写真が目に飛び込んできた。通勤の途上、横断歩道で信号が青に変わるのを待っているところだ(と私には見える)。しかし、その下の大見出しには、“死の恐怖に包まれた東京”とあったので唖然。「そうか、ドイツでは、このマスクは放射能よけのマスクと解釈されるのだ」。信号を見ている目は、死の恐怖で見開かれた目・・。そう思うと、確かにそう思えてくるから不思議だ。

ただ、この写真を載せ、記事を書いたドイツ人特派員は、真実を知っていたはずだから、これはわざと誤解を招くための仕業に違いない。そう思うと、突然、むかむかと腹が立ってきた。

つづく

「原発をめぐる個人的顛末(一)」への2件のフィードバック

  1. ドイツ人を含む西欧人は白人優越意識が抜けないので、アジアの日本が失敗したことに内心喜んで、ここぞとばかりに嘘も交えて書きなぐっているのが現状でしょう。とくにドイツ人は、日本をナチスと同罪にしようと、執拗に各界に働きかけてきたので、注意が必要ではないか。私の狭い体験から、ドイツ人には人種差別的態度を示す人が多かった。
    チェルノブイリの時に西欧はどうしたか分かりませんが、今回のようなヨタ記事が溢れていたのでしょうか?

  2. 皆さんのお好きな日本は地球上から抹殺さるべきだ - といふのが席中の一致した意見ではないでせうか。

    三陸は公園にすればよく復興すべきではないしその必要もない。
    管理能力もロクな技術もない日本の原子力発電所は北朝鮮やイランの原爆より危険であることが隠しやうもなくなつた。

    原発が存在しなくとも日本の電力は十分だし、温暖化現象も嘘なら、原子力が一番安価で無害な発電方式であることも偽りなことは、小出さんを俟たなくとも明白です。

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