謹賀新年(平成24年)

 喪中につき年末年始の挨拶を遠慮するという恒例の葉書の知らせは昨年末、数えてみたら62通あった。多いか少ないか分らない。毎年これくらい来ているとは思うが、毎年は数えていないので判断できない。たゞ今度気づいたのは長寿でお亡くなりになった方がきわめて多いことだった。90歳より以上の方が22人もいる。100歳以上で逝去された方が4人もおられた。私は自分がだんだん齢を重ねてきたので、死者の年齢も次第にあがって来たのだと思うが、たゞそれだけではない。一般に長生きが普通になったのである。

 天皇陛下がご高齢になられたとの声をテレビでしきりに耳にする昨今である。陛下は私とはわずか1.5歳くらいの年差であられる。私も「ご高齢」になったのだとテレビでいわれているようで奇妙な気がしてくる。

 陛下はまだまだご丈夫だと思う。被災地をご訪問になり、避難所の床にお膝をついて話をなさるシーンを何度も目にした。膝をついて坐れば、膝を起こして立たなければならない。立ったり坐ったりするのは容易ではない。陛下は鍛錬なさっている。私はそう直感した。私なんかより足腰はしっかりしておられ、きっとお強いのだ。まだまだ大丈夫である。

 私は昨年全集の刊行開始、相次ぐ雑誌論文、単行本三冊の出版で年齢にしてはやり過ぎである。私より高齢で多産な人もいるから、音を上げてはいけないが、10~11月ごろに少しばて気味だったことは間違いない。むかし手術を受けたところの古傷がいたんで、すわ再発かと恐れたが、要するに疲労とストレスが貯まった一時的な結果だった。仕事量を減らさなくてはいけない。

 昨年私はニーチェと原発と日米戦争に明け暮れたが、今年はどうなるだろう。今年は全集を4巻出し、次の年の4巻の準備をしなくてはならない。そして夏ごろスタート予定で『正論』に長編連載を開始する約束になっている。小さな論文とか新しい単行本の企画とかは慎まなくてはならない。それがいいことかどうかは分らないのだが・・・・・・。

 自分の肉体がだんだん衰徴していくのは避けがたいが、それにも拘わらず、行方も知れない日本の運命への不安がますます募るようで、私の心理的ストレスは高まりこそすれ鎮まることはないだろう。中国に対する軍事的警戒とアメリカに対する金融的警戒はどちらも同じくらい必要で、どちらか一方に傾くというわけにはいかない。前者を防ぐためにアメリカの力を借りれば、後者から身を守るすべが日本にはない。

 先の戦争が終ったころ、米国務長官アチソンがフィリピン、沖縄、日本、アリューシャン列島のラインをアメリカが責任をもつ防衛範囲であると明言し、それ以外の所は責任を持たないと言ったために、金日成が南朝鮮を安んじて侵攻した、という歴史がある。アメリカが最近海兵隊をオーストラリアに移動させたことをもって、アメリカの対中防衛網の強化だと歓迎する人が多く、そういう一面は私も否定しないが、しかし考えようによってはアチソン・ラインが南に下げられ、日本列島はラインの外に出されてしまった、という見方もないわけではないのである。

 大震災が起こったとき、アメリカ艦隊が大挙して救援に来た。例の「オトモダチ作戦」は善意と友情の行動という一面もあるが、日本列島がかっての「南ベトナム」「南鮮」のような保護対象としての主権喪失国家のひとつと見られた事実も間違いなくあるのである。少くとも今、日本列島はアメリカ合衆国の国境線になっている。かつての満洲北辺が大日本帝国の国境線であったのと同じような意味においてである。

 東シナ海、日本海近辺には石油・天然ガスが大量に眠っており、その総量はサウジアラビアを凌駕するという説がある。これは日本人にとって悪夢である。中国が狙うだけではない。アメリカも狙っているからだ。アメリカはこれを奪うために日中間の戦争が起こるように誘導するかもしれない。世界経済が完全に行き詰まった後、何が起こるか分らない。

 ジョゼフ・ナイの「対日超党派報告書」というのがある。ごらんいたゞきたい。

 http://www.asyura2.com/09/senkyo57/msg/559.html 

 わが日本列島はこの200年間、運命に対し受身であるほかなかった。日本の行動はすべて受身の状態を打開するためで、悲しい哉、自らの理念で地球全体を経営しようと企てたことはない。外からの挑戦につねに応答してきただけである。これからも恐らくその宿命を超えることはできないだろう。

 昨年末に次の本を校了とし、出版を待つばかりとなった。表紙もできあがったのでお目にかける。

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 前にご紹介した担当編集者の作成メッセージをもう一度お届けする。

天皇と原爆

強烈な選民思想で国を束ねる
「つくられた」国家と、
世界の諸文明伝播の終着点に
「生まれた」おおらかな清明心の国。

それはまったく異質な
二つの「神の国」の
激突だった――。

真珠湾での開戦から70年。

なぜ、あれほどアメリカは
日本を戦争へと
おびき出したかったのか?

あの日米戦争の淵源を
世界史の「宿命」の中に
長大なスケールでたどりきる、
精細かつ果敢な
複眼的歴史論考

「謹賀新年(平成24年)」への8件のフィードバック

  1. 「坂の上の雲」、日系人の物語と年末の再放送も含めたTVドラマを西尾先生もご覧になっていたようですが、もうひとつ興味深い番組があったのをご存じですか?
    NHKのBS歴史館でリンカーンの南北戦争を扱っていたものがあったのですが、いろいろ不満もあるものの、アメリカの本質をくっきりさせた見応えのあるものでした。国内での内戦でありながら、殲滅戦が(北軍の南部に対する)実行され、死者の数はそれ以後のアメリカの対外戦争での死者を上回るという歴史的事実。
    奴隷解放という大儀は後付けだったということ。
    そして司令官そのものの采配を振るった大統領も終戦後暗殺者の凶弾に倒れます。
    「対日超党派報告書」。これがアメリカです。こんな戦略に乗っかっていいのか?

  2. 「超限戦」。中国の戦略も常に臨戦態勢、あらゆる状況において、情報とプロパガンダの攪乱怠らず、日本の弱体化を計ること。戦いは戦場だけでは無い。謀略の大陸はまるでアメリカに似ている。

  3. 【香港時事】31日付の香港各紙によると、中国軍系の学術団体・軍事科学学会副秘書長の羅援少将は30日、日本の防衛力整備について、「ヘリコプター搭載護衛艦」と称して実質的には軽空母を建造するなど「こっそりと軍拡を進めている」と批判した。30日にインターネット上で行ったネット利用者との交流で語った。

     羅少将は、海上自衛隊のヘリ搭載護衛艦「ひゅうが」は排水量が約1万4000トン、近く建造される同種の護衛艦は約2万トンもあると指摘した上で、「(日本以外の)どこにこれほど大きな護衛艦があるのか」と艦種の名称に疑問を呈した。

     さらに、日本が事実上空母を保有することは「アジア人民の敏感な神経に触れる」と主張し、日本政府に「軍事的透明性」を示すよう要求。また、日本はいずれ、憲法を改正して本格的に武装する可能性があると懸念を示した。 

  4. あけましておめでとうございます。
    今年もよろしくお願い致します。

    さて、西尾幹二先生がどうして「新しい歴史教科書」の編集委員会から追放されたのか?結局、アメリカがバックにいる訳ですね。どういう手法で日本人を使い、近づいて組織委員会に新しく入り込み、先生を放り出してしまうのか、そのアメリカの手口を実名を記載して教えて下さい。

  5. >カーステン ソルハイムさま
    日録管理人です。「奥様」はもちろん先生の本当の奥様ではなく、単なるハンドルネームです。

    >さて、西尾幹二先生がどうして「新しい歴史教科書」の編集委員会から追放されたのか?結局、アメリカがバックにいる訳ですね。どういう手法で日本人を使い、近づいて組織委員会に新しく入り込み、先生を放り出してしまうのか、そのアメリカの手口を実名を記載して教えて下さい。

    とのことですが、私が知る範囲で西尾先生が編集委員会から追放されたのではありません。自ら教科書の作成という小さな?仕事から離れられたのです。つくる会から距離を置く・・・と言いながら、今でもつねに心を配って
    おられます。

    アメリカの手口とおっしゃいますが、その証拠?は全くありません。ただ、内部でいざこざがあったときに、そういう陰の力がどこかで働いたのかもしれない・・・とは思います。なにしろ、怪文書ではCIAの力を匂わせていましたから。漫画チックとその時は思いましたが、案外真実に近いのかもしれませんね。

  6. GHQ焚書図書開封5と6を購入しました。
    第2次大戦の戦前、戦中、戦後の歴史について
    知りたいと思っていたのですが、
    一般人が理解できる本や資料が無い中で、
    この5と6は当時の日本人の姿が、
    我々一般人にも大変よくわかります。
    大変貴重な内容で、米国が日本という国体を抹殺したと言う
    本当に酷い事が理解できました。

    1から4も面白いのですが、
    5と6はパールハーバー70周年記念記念にふさわしい内容です。
    今春発売予定のGHQ焚書図書開封7も今から楽しみです。

    第2次世界大戦の真実の姿を知ることが出来て、
    本当に有り難うございました。

  7. カーステン・ソルハイムさんへ。

     誤解のないように私からも一言言っておきます。

     私は若い頃から 私自身の言論を妨げるものにつねに敏感で、私個人の「言論の自由」をとても大切にして来ました。「新しい歴史教科書をつくる会」の会長職及び名誉会長職は不自由な立場で、自分の自由な発言をしばしば抑制しなければならず、それがいやで、我慢できなくなって自分から辞めたのです。アメリカうんぬんは関係ありません。アメリカ国家はこんな小さな組織に介入しません。そんなことを考えるのは買い被りです。

     もし私か「新しい歴史教科書をつくる会」にとどまっていたら、その後の「皇太子さまへのご忠言」も「平和主義ではない脱原発」の発言も、周囲の保守派に遠慮して、抑えられてできなかったでしょう。

     言論人はいかなる組織にも属すべきではありません。自由な言論が何よりも大切です。言論は個人のもので、組織活動とは一致しないものです。念のため。

  8. 奥様@日録管理人さま
    西尾幹二先生、
    わざわざお答えいただきまして、ありがとうございます。
    私は当時、朝日新聞が同じ日本人でありながらあれほど騒ぎ立てて、「新しい歴史教科書」を学校で採用することを拒んだ。日本人自らの手でされたことに失望しました。しかし、バックにアメリカがいることを感じました。いままで教科書や新聞を信じている自分の愚かさを知ったのです。それで去年から私のキーワードは「プロパガンダ」になりました。マスコミが信じられなくなったのです。いま、わたしは、文部科学省が推奨する英会話はできませんが、これから佐藤一斎の「言志四録」を読んでいこうと思います。
    この本はニーチェがいう血で書かれた本であるからです。
    わたしの思い込みをお許し下さい。

    最近ではこのBlogにも嵌っています。

    「株式日記と経済展望」
    http://blog.goo.ne.jp/2005tora

    いま、私に欠けるのはアメリカ人のような熱烈なる愛国心です。
    お礼の返信が遅れたことをお詫びいたします。

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