ありがとうアメリカ、さようならアメリカ (一)

Voice6月号より 戦争へ向かう東アジアシリーズより

日本に核抑止力を与え、領土主権を守るための軍事力充実に米国が協力する日が近づいている!

日本をいつまでも「軍事的準禁治産者扱い」

 生き残りを賭けた北朝鮮の言い分は昔も今も一貫して筋が通っている。大国はみな弾道ミサイルを開発して来た。日本も人工衛星を射(う)ち上げている。わが国だけが禁止される理由はない。国連の安保理決議は茶番である。北朝鮮がそう言い立てているのはまことに尤もであり、どの国も返す言葉がないはずだ。国民が飢えているのにミサイルに巨額を使うなんて?というのは外国人の言い分で、北朝鮮にすれば余計なお世話だ、国が生き残るのが最優先だ、ということになろう。そしてそう言わせてきたのはアメリカである。さればこそ、ミサイルは北米大陸に届くのが目的であることを北朝鮮は隠そうともしていない。日本と韓国を最初から眼中に置いていない。」

 北朝鮮は今までにいろいろ試して来た。核実験はもとより、日本列島を越えるミサイルを飛ばして見せたり、繋留中の韓国船を魚雷で破壊したり、国境を越えて韓国領内へ白昼堂々と実弾を打ち込んでみせたり、いろいろしたが、アメリカは動かない。否、日本にも韓国にも手出しをさせない。核が成功しかけても何もさせない。かつてイスラエルが建造中のイラクの核基地を空爆で破壊したとき、アメリカは黙認した。今イランの核基地に同じことが起こりかねないが、万一起こったとしてもアメリカはイスラエルを窮地に追い込まないだろう。

 アメリカにとってイスラエルは大切だが、日本や韓国は覇権国アメリカの大戦略の図面に合わせて行動させる将棋の駒にすぎず、ぎりぎりまで自由にさせないつもりだ。北朝鮮の核弾道ミサイルが北米大陸に届くと分かったら、つまり王手を掛けたら、さしもの自己本位のアメリカも具体的に動き出さざるを得なくなるだろう。しかしそうなった頃には、日米韓の将棋盤上の陣形は崩れ、手に負えなくなっているだろう。

 アメリカはヨーロッパも中東もパキスタンもアフガニスタンも東アジアもすべてを牛耳りコントロールしようとしてきたが、その力を次第に失いつつある。日本と韓国はある日突然、放り出される可能性がある。海兵隊のグアムとオーストラリアへの移動は早くも勢力撤収の徴候といえる。岡目八目を決め込んで、へぼ将棋をニタニタ笑って見ているのが中国とロシアである。してやったりであろう。なんと中国は北朝鮮に戦闘爆撃機など大規模な兵器輸出を企画中と伝えられる。日本はどうしてこんなに割の合わない、身動きできない、切ない窮地に立たされてしまったのだろうか。

 四月十三日朝、日本政府がミサイル発射の確認に手間取って発表が遅れ、またしても危機対応のお粗末ぶりを国民は見せつけられ、寒気がする思いだったが、それよりもなによりも、イージス艦を並べてPAC3を配置して、二段構えでミサイルを撃ち落す、という防衛省の作戦が公開されたとき、私は正気が、とそのばかばかしさに呆気に取られた。真上から落下するミサイルは迎撃しようがない、とある専門家が言っていたが、問題はそのことだけではない。今回の件は、四月十二日から十五日までと時間が限定され、海域と空域まで指定された「落下物御注意案内」の対応にすぎなかったのだ。本当の戦争になったらどうするつもりか、防衛省にお尋ねしたい。イージス艦を俊二に百艘そろえ、PAC3を列島に1㎞ごとに配列しても間に合わないだろう。

 落下するミサイルに対する迎撃ミサイルでの防衛は不可能である。打ち上げ前の核ミサイルを基地ごと上空からミサイルが空爆で破壊する以外に技術的に確実な防衛方法は存在しないのだ。そんなことは軍事専門家はみんな知っているし、アメリカ軍当局も知っている。イージス艦とPAC3による防衛網は日本国民を政治的に安心させ、慰撫し、時間稼ぎをしているアメリカの「戦争ごっこ」である。(韓国は分かっているから、かねて隠して用意していた北朝鮮向けのミサイルをその後あえて公開した)

 平穏無事のためと称し日本にこんな屈辱的な足踏みを余儀なくさせ、中露両国の思う壺に日本がみすみす填(は)まるのを放置するのはアメリカの国益にも必ずしも合致しないはずなのに、アメリカはいつまで経っても対日方針を改めない。もう自らの抑止力にもさして自信がないくせに、同盟の名において日本をいつまでも何もさせない弱国扱い、軍事的準禁治産者扱いをつづけている。

 こうなったのには恐らく世に知られている原則以外の別の大原則があるからに違いない。「日米関係は日本外交の基軸」と言い古されてきた大前提にメスを入れる必要が日ごとに増大していると思われる昨今である。

つづく

「ありがとうアメリカ、さようならアメリカ (一)」への1件のフィードバック

  1. 先回のいわば文学談義から一転、政治談義に切り替わられた様子であります。
    私は先生とは米国に対するスタンスがやや違い、米国政治のの理想には共感する者であります。ただその実践において相違点もあり、実の上がらないながらも外交軍事に発言を続けています。
    ロシア、中国のいわば力を第一とする権力政治は、国際政治において最近正に脅威の観を増しており、非力ながらも警戒の感を強くしています。
    やはり私は、透明性と説明責任を負う自由と民主主義の有徳理想政治を推進せんとする者であります。
    米国も価値観原理原則が共有できるならば、さっさと日米安保の橋を米国側から落としてしまい、有無を言わせず日本を軍事的に独立させてしまえば、米国の国益にもなると思うのですが。

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