故吉村昭氏の推薦文

 私の『少年記』については、かつて作家の故吉村昭氏よりお言葉をいたゞき、今度本の帯の文に使わせてもらった。このご文章をいたゞいたのはもう18年も前になる。とても気に入った、有難いお言葉だった。私の全集第15巻を手に取った人はすでにご存知と思うが、そうでない方々のために同文をここに再録する。

 さいごに「史書」と言って下さったのはうれしい。本人は文学の積りだったが、子供の目で見た戦中から戦後へかけての日本社会のディテール、日本人の生活の細部が記録されている作である。小説家なら長編小説にしたであろう。文学であるような、歴史であるような一冊であって、決して思想の本ではない。

 吉村さんの目にとまったのは幸運であり、私には忘れ難い出来事だった。

少年の目に映じた昭和史 吉村昭(作家)

 作者の西尾氏は、小学生時代から中学生になるまで日記を書きつづけていた。これだけでも驚異であるのに、それが今でも作文などとともに手もとに残されているとは。しかも、小学校に通っていた頃は戦時で、当時の東京、疎開先の水戸市などでの生活が初々しい筆致でつづられている。

 この日記、作文を核として、当時の新聞、公式記録、外国の文献まで渉猟してその背景を的確に浮かび上がらせている。過去が現在であるかのような不思議な世界がくりひろげられていて、私は、遠く過ぎ去った戦時下に身を置いているような奇妙な感慨にとらわれた。

 まさしく「わたしの昭和史」であり、一個の感受性豊かな少年が歴史の時間を歩いてきたのを感じる。少年の眼に映じた昭和史は、時間の経過とともに一つの史書としてひときわ光彩を放つものになるにちがいない。

(『わたしの昭和史1』推薦の辞より)

「故吉村昭氏の推薦文」への2件のフィードバック

  1. あらためて、西尾先生の少年記を読んでいます。
    リンゴ箱に収められていた少年の頃の西尾先生の文章など、
    残っていたことも素晴らしいし、内容もすごい。
    そして、それらを思い出しながら構築している少年記、
    その時代の空気が読み取れて、再度感動しています。

    渡辺望さんの追補「危うい静寂の中から」も読みごたえありました。

  2. 私も『わたしの昭和史1、2-少年編-』を読んではいましたが、もう昔のことで・・・。再読して、また時間を越えて西尾少年の傍に引き寄せられた感覚です。ふたたび全集『少年記』という形で読むのはまた格別ですね。オヤッ!と思う仕掛けも施されていますし。

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