日本の会計事情と公認会計士の試練

 高石宏典(たかいしひろのり)

 昭和37年山形県生まれ。新潟大学経済学部卒。東北大学大学院経済学研究科修士課程修了。太田昭和(現新日本)監査法人山形事務所を経て、現在、山形県立産業技術短期大学校庄内校に勤務。

 個人レベルでは、「日本会計基準等の米国化」より「わが頭髪の消失化」の方が大問題ですが、こうした諸々の老化現象を受け入れつつ逆境をはね返してより社会貢献できるよう、この夏はまず虚心坦懐に学ばなくてはいけないようです。個人的感情のはけ口を求めるのは、その後ということなのかもしれません。
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 公認会計士監査の実務から離れて8年程になる。この間、ゴーイングコンサーン監査の学術研究にかまけ、簿記会計教育を生計の資として暢気に暮らしているうちに、会計基準や監査基準だけでなく商法や公認会計士法までも大きく様変わりしてしまった。昔読んだ愛着のある会計学や商法のテキスト類はもう役に立たない。変わり続ける会計基準等や法律(以下「会計基準」とする)に対応しようと、溜息をつきつつ研修中のわが身が息苦しい。

 上記会計基準の変更理由には、企業会計の「透明性」と「国際化」が馬鹿の二つ覚え?のように謳われている。これらが意味するものを敷衍すれば、会社は従業員や社会のためにあるというよりも株主の私有財産にすぎないとの“割り切った企業観”に基づく、会社の利益よりも会社資産等の現在価値それ自体がより重要であるとする“短気な会計観”への変更、ということになるであろう。端的に言えは“日本会計基準の米国化”ということに他ならない。金融商品等の時価会計や固定資産の減損会計の採用、それに春先のニッポン放送株式敵対的買収事件の発生は、こうした考え方の反映であり現象である。

 これら会計基準の米国化は、わが国の景気を躓かせる方向にのみ作用し、外資からの被買収リスクを高め、国益を損なうありがたくない効果をもたらした。「日米投資イニシアティブ報告書」等の存在によって会計基準の変更が米国の政治圧力に屈した結果であることが明らかになり、ここにまた一つの“経済敗戦”が現実化しようとしている。

 私はわが国の上場会社が米国化するのを好まない。また、何よりも米国流経営によって人心が荒廃し訴訟社会が出現して、地域社会が崩壊するのを決して望まない。公認会計士として米国の経済戦略に加担せずに、日本社会により貢献する道はあるだろうか?会計基準変更の背後にあるものをしかと見つめ、いま感じているこの“息苦しさ”の発散策を自分なりに模索してゆく必要に、私は迫られている。いや私に限らない。2万人強の日本人会計士は、例外なくそれぞれの立場でそれぞれの厳しい試練に直面している。

「日本の会計事情と公認会計士の試練」への4件のフィードバック

  1. 「私はわが国の上場会社が米国化するのを好まない。また、何よりも米国流経営によって人心が荒廃し訴訟社会が出現して、地域社会が崩壊するのを決して望まない。」と記していらっしゃいます。
    では、彼の国はいわゆる「米国流経営」によって「人心が荒廃し」、すでに「地域社会が崩壊」しているのですか?
    何をもってそのように思われますか?「黒船来タル!」と気分的にそう主張するには勝手ですが、例証もナシに黒船の国はダメな国という総括は如何なものでしょう。説明・分析・・・等々が必要では?
     小生はかって彼の国に滞在したことがあり、このご意見の結語にはチョット問題ありと考えます。
     小生の少ない経験・知見でも、日本よりよっぽど「地域社会」はしっかりしており、それを保とうとする人心も「健全」であると云えます。揚げ足を取るつもりはありませんが、粉飾決算にホイホイとハンコを捺すこの国の「公認会計士社会」の人心の「荒廃」の方が問題なのでは?

  2. 貴殿の文章を読む限りでは何処に質問の要点が在るのか聊か確信を得ませんが、自分の思う処を其の文から感じるままに述べます。
    まず其の一、違いが在るこその自然であり又、其の生命所謂生存の意味が在る。違いを無くせば即ち其の生命所謂、生存の意味無し、死んでいる状態です。

    この違いを明瞭にし其処に生きる意味を見出す、全ての出発点はここからです。孤独な自分自身との闘いの始まりです。

  3. 山田正英様のお書きになったコメントが小生のコメントに対してか否かよく分かりませんが、「質問」とあるので小生のコメントに対するものと理解します。
    小生のコメント内での質問 : 原文の著者・高石様は『米国はいわゆる「米国流経営」によって「人心が荒廃し」、すでに「地域社会が崩壊」していると考えているのか?そして、もしそうなら、何(米国社会のどのような現象・生態、etc.)をもってそのように考えているのか?』もしくは『米国流経営に対し米国の社会はそれに耐えうる社会であるが、日本は「米国流経営」によって「人心が荒廃し」、「地域社会が崩壊」してしまうと考えているのか?そして、もしそうなら、何(日本の社会のどのような現象・生態、etc.)をもってそのように考えているのか?彼我の何が違うからと考えているのか?』
    「質問の要点」をご理解頂けたでしょうか?
    少々小生のコメントを敷衍させて頂くと、『コメントで冒頭に引用させて頂いた二文章はこのエセーに必要のない文章ではないか』、と小生は考えています。なぜなら、このエセーから二文章を削っても高石氏のご専門での差し迫った問題・悩みが何であるか、門外漢の小生にもその外郭を理解できるからです。また、「そう考える理由」を縷々述べる必要があると承知の上で端折って二文章を記したとすれば軽率で、筆が滑ったとしか小生には思えず、小生ならずとも「その根拠は?」「ほんまかいな?」と考える人がいるでしょうから。

    小生のコメント最後の部分の「揚げ足を…云々…」は、高石様が「2万人強の日本人会計士は、例外なく……厳しい試練に直面している」と力み返っている(と思える)ので最近の社会欄で見た「日本人会計士」の不祥事(?)を例に引きチョット揶揄したものです。ゴメンナサイ、悪しからず。

    以上、小生の第一回目のコメントがよく分からないとのことでしたので、少し補説をさせて頂きました。しかしながら、誠に申し訳ありませんが、山田様のコメントはほとんど理解が出来ません。小生のコメントもしくは高石氏のエセーに肯定的なのか、否定的なのかもよく分かりません。
    氏の記されたような禅問答的ないしは衒学的もしくは形而上学的(?)な内容の言説を導き出す「質問」をしたつもりは全くないのですが…。「違い」が三回も出てきますが、それぞれ何の「違い」なのかもさっぱり理解できません。まして、人生論風に「孤独な自分自身との闘いの始まり」と言われても主語は無いし、何がなんだかさっぱり分かりません。
    どうしませう?
    -以上-

  4. 倭寇の下廻り さん

    最初のコメントの趣旨が分かりかねましたので返信のしようがなかったのですが、山田様のお陰でようやく理解できましたのでお答えいたします。ご指摘の「米国流経営によって人心が荒廃し・・・地域社会が崩壊することを望まない」という文章は、特に商法の変更によって日本社会が変質する可能性をイメージしています。あくまで、こうなってほしくはないという強い願望です。

    例えば、米国のある会社から三角合併が行われて、地方の業績が低迷している上場会社が吸収合併された場合、その米国会社の経営者がその地方の大規模工場を閉鎖してリストラを断行し業績をV字回復させ株価を高めて売却する一方で、その地方の雇用の場が失われて地域が崩壊してしまうことも十分にあり得ることは、少し想像力を働かせれば分かることではないでしょうか。

    また、同様に三角合併が地方の業績に問題のない会社に行われた場合はどうでしょう。もちろん、その経営者がその会社と地域の実情をよく考慮して経営してくれるなら問題ありませんが、もし米国の経営手法をそのまま適用したり会社の価値を短期的に高めて売却することしか関心のない人物ならば、そこで働く人々の気持ちが会社から離れ人的な結束力が弱体化して業績が伸び悩んだり、また経営者層と従業員層との間に意識のズレや不合理な所得格差が生じてしまうことはないでしょうか。この結果として、そこで働く人々が仕事に自信を失ったり、会社への帰属意識が薄れることになれば、人の和が廃れ地域の活力がなくなっていくことも、もう一つの可能性として考えられると思います。

    以上が私の単なる取り越し苦労なら良いのですが、いま私が住んでいる地方の中心商店街においては、商店経営と人のつながりが崩れかけています。これは全国的な現象だとは思いますが、郊外の大型店に顧客が流れ本当に寂しい状況です。これも時代の流れであるとの見方ができるとはいえ、実は昔の中心商店街が衰退している全国に共通のこの現象は、15年以上前に米国が大規模小売店舗立地法の改正を日本に求め郊外に大型店舗の出店規制緩和が行われたことをきっかけにして生じた現象と言われています。もう言い古されていることですが、米国は日本の強味や弱味をしっかり研究して、自国の利益になる施策をタイミング良く要求しわが国に実施させてきているのです。それは「日米投資イニシアティブ報告書」等を読めば簡単に分かることです。今回の商法等の変更要求も米国にはしたたかな計算があると考えるべきではないでしょうか。

    自分に何ができるかどうかは別にして、地方で暮らしている者としてこれ以上に地域社会が廃れることを何とかして食い止めたいという思いも、上記文章には込められていることを最後に付け加えさせていただき、質問に対する回答とさせて下さい。貴重なコメントありがとうございました。

    山田様へ

    お陰様で質問の意味が分かり回答を記すことができました。どうもお世話様でした。

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