寒波襲来の早春――つれづれなるままに――(二)

 私は翌7日の12時30分には、海上自衛隊から車が迎えに来た。羽田空港に向った。同行して下さる一等海佐の大塚海夫さん――いつ会っても爽やかで気持のいい紳士――に、プリントアウトしておいた「つくる会顛末記」を機内で読ませた。「まことに残念ですね、まことに。」が彼の口から出た唯一の言葉だった。彼にはそれ以外に言いようがないようだった。

 その夜は呉に泊まり、江田島の副校長先生ほかから接待を受け、その後大塚一佐の昔仲間である艦長さんや軍医さんと一緒にカラオケを楽しんだ。私は「イヨマンテの夜」まで歌わされた。翌日午前中に講演。演目は「二つの前史」。江戸時代は近代日本の母胎であり、戦前・戦中は戦後の繁栄の前提である。歴史は連続していて切れ目がない。今の若い人を惑わせている暗い江戸時代像も、北朝鮮のような戦争時代のイメージもともに間違っている。明治維新も第二次世界大戦の敗戦も決してそれほど大きな切れ目ではない、等々を具体例をたくさんあげて話した。副校長先生があとで「このはなし、まとめて小さな新書のような本にはなりませんかねぇ」と言って下さったのは嬉しかった。

 午後は江田島の中の教育参考館を見学。ここは二度目であるが、特攻隊の展示は再び眼に痛い。日清日露の貴重な海戦図も初めて見る思いだった。そして、呉市に渡り、ひきつづき新設の「大和ミュージアム」を見学した。

 最近「男たちの大和」という映画が上映されたこともあってか、江田島にも「大和ミュージアム」にも観光客が大挙して押し寄せているらしい。そして不図思った。鞄の中に入っている平松茂雄さんの『中国は日本を併合する』は軍事大国たらんとし、アメリカとの宇宙兵器による戦争をさえ用意し始めている中国の今の現実と比較して、「昔の偉大な日本」を懐かしむ日本人の心を私はどことなく悲しくも、哀れにも思った。展示物が大規模で、展示内容が「軍事大国日本」「技術大国日本」をデモンストレートしていればいるほど、私の心は沈み勝ちだった。

 翌日平松さんがこんな話をしている。「職業柄、人工衛星や宇宙開発の政府の会議によく出席するのですが、今の官僚も学者たちもですがね、びっくりすることに、アメリカの人工衛星や宇宙開発の知識はもっていますが、お隣りの国でこれがどんどん進展していることについては、知識もなければ、関心もないのですよ。」

 私はこう答えた。「毛利さんその他の宇宙飛行士がテレビによく登場しますが、私にはイチローやマツイのように見える。アメリカの宇宙開発という名の大リーグに招かれているいわば招待外国人選手なんですよね。日本人が自分の大リーグを作らなくてはダメなんですよ。」

 そうしなくてはならないという疑問も今の日本人には指導者でさえ思い浮かばないらしいということが、私にはただただ悲しかった。

「寒波襲来の早春――つれづれなるままに――(二)」への11件のフィードバック

  1. 久しぶりというか、ほとんど初めてお便りいたします。西尾先生のつくる会を辞められたお話、残念です。辞められる過程が特に残念です。西尾先生の著作には古く大学紛争時代の「自由」などの御寄稿で触れて存じ上げておりましたが、先生がつくる会を始められたこと「ゴーマニズム宣言」で知り、やもたてず会員となりました。何もお手伝いできませんでしたが、御著作の拝読、シンポジウムの参加などで遠くから応援してまいりました。内部のことは知る由もありませんが、つくる会運動の唯一と言っていいような最大の功労者である西尾先生があのような形で会を辞めざるを得なかったこと残念至極です。西尾先生が引き続き日本覚醒の活動に御活躍されることを祈念いたします。遅ればせながら応援の言葉とさせて頂きます。

  2. >Mabooさま

    西尾先生は今回お別れの言葉を述べられました。
    でも、私が思うのは、つくる会のリーダーを降りるということです。決してつくる会の理念から離れるということではないのです。

    晩年(失礼かな)をつくる会のエンジンとしてエネルギーをとられることから離れて、静かに自分の仕事に没頭されたいということだと思います。

    でも、西尾先生の仕事内容は常につくる会の理念を補強するものであり、活動は日本人のための歴史認識を持つことを広めるものであり、ベクトルは同じなのです。

    だから、つくる会の組織にいようがいまいが、同じなんです。
    私はそう思っています。

  3. ピンバック: 子供達の未来
  4. ピンバック: なめ猫♪
  5. 平松茂雄氏が、隣の国で宇宙技術がどのように進歩しているか、日本の関係者に関心もなければ知識も無いことを話されたそうですが、このことはよく理解できます。日本では、GPSは軍用の位置決めシステムであることが殆ど念頭になく、自動車のカーナビの手段としてしか理解されていないのですから、当然のことかもしれません。
    例えば誤差1mで位置決めするには、時間の測定精度はどれくらい必要か、高校生でも容易に求められます。そのような精度の原子時計と時間の測定技術が位置決めには必要です。
    他国の技術力を評価するときには、感情ではなく数値に基づいた物差しが必要です。国際的な学術雑誌(学会誌)を見れば、中国の技術者がそのような精度の原子時計をもう20年以上も前から発表していることが分るでしょう。自分の願望で評価すると、失敗することになります。
    ロケットの部品には厳しい条件の下で確実に動作することが求められるでしょうから、採用されている部品を見ると、意外にローテク部品が使われていることに驚くのではないでしょうか。

  6.  ワールドチャンピオンの日本野球。。。

     Jリーグもあるし、日本に残って頑張る日本選手もいる(小野は、二部落ちした浦和に残った)←近鉄(当時)の中村ノリも、渡米を一年遅らせたし、大魔神佐々木も、地元横浜の子供の為に渡米を遅らせた

     サッカーはイタリア・セリエAや欧州リーグ、ブラジルリーグと国際色が濃いし、Jリーグで活躍している外国のスター選手も多い(ピクシーことユーゴ代表主将だった名古屋のストイコビッチやブラジル代表主将だった磐田のドゥンガが有名)

     なんだかんだいって、大相撲も頑張っているし、横綱・大関ともなると尊敬されもするでしょ?

     こんな言い方もあれですけど、見ている人間が「西欧コンプレックス」「対米コンプレックス」を持っていると、現状について必要以上に過敏に反応する事があると思うんですよね。。。

     若い人間に「あるはずのない」欧米コンプレックスを投射して見るとか。。。。

     むしろ、私は、そういう人たちの望むべき若者像や日本人像をお聞きしてみたいと思います。
     どういう行動、言動をすれば満足してもらえるのだろうか?
     そして、そうやって満足するような若者、日本人が、本当に日本を正しい方向に導いてくれるのか??

     むしろ、欧米コンプレックスからは自由な思考や行動を手にしている今の普通の20代の方が、よっぽど日本の将来を任せられるのではないか?(異国への憧れはあっても、欧米にコンプレックスを持っている今時の若者っているのか??)←杉村太蔵議員は、「夢は経済大国一位になって、アメリカだろうがユーロだろうが、言いたい事ははっきりといってやる」ことだそうです。。。立派な志ですね。

     若者文化といえば音楽だが、すでに洋楽全盛の時代は終わりを告げ、今はJ-POPが隆盛して、海外(特にアジア)まで席巻しています(実際、質的に見ても、J-POPの方が上)

     後は、J-POPを世界に広めるプロジェクトを考えることが、国際戦略の重要な方策になるのでは?(ビルボードがJ-POPに席巻されたら、アメリカはかなりの心理的ダメージを受けるはず)←だからアメリカの音楽市場は「閉鎖的」だ

    (しかし、失礼な言い方だが、70代以上の方は、どうも物事を「悲観的」に見る習慣があるように思われます。。。それに、自分の思い通りにならないと「自分は無力だ」「日本は終わりだ」と嘆くというのは、ちょっと我が儘じゃないんですかね?)←「視点」は色々あるはずなのに、自分の見方以外は認めないというのは独善的でもあるし

     失礼は承知ですがね、今の前途ある若者が、20代の時に、いい歳した大人が「日本はダメだ」「若者はダメだ」って、そんなこと毎日繰り返し言われてご覧なさいよ?
     まだこれからという時に、そんなこと言われたら将来不安になってしょうがないでしょ? 自分に自信が持てますか?

     ニート・フリーター問題を作りだしている元凶は、そういう「心ない発言」を繰り返す「大人」の方にだってあるんですよ?
     
     老人だって不安だろうが、若者だってまだ先が見えないし、ものすごい不安なんですよ?(だから、日々を楽しく騒いでやり過ごすわけです)
     そういう若者の不安を煽るような発言は本当に慎んでもらいたいですね(若者が聞いたらどう感じるかとか考えないなかな?)

     老後が不安でしょうがないなら、非建設的すぎる愚痴をこぼすのは迷惑なので、ちゃんと老人になった時の心構えを、宗教などで準備しておいて下さい。。。(まあ、日頃の行いというか生き方の問題でもありますがね)←万が一、日本が滅んだとしても、幸福な人生を送ることは出来るし、日本が繁栄しても、幸せにはなれない人もいますから

    P.S.
     ちなみに、「軍事力」についてですが、軍事アレルギーのある極左は一部にいるでしょう。

     しかし、まるでゲーム感覚で軍事を語る「軍事オタク」「元軍国少年」もいるのではないか?
     この人たちに、現実の国際政治が本当に見えているのか疑問だ。。。

     だから、言葉が人に届かないのも道理なのかな?

     遊び感覚ではなく、生活実感のある言葉で軍事を語る必要もある気がしますね。。。

  7. 拝啓 西尾先生 ご無沙汰です。とは言うものの単なる一読者ですから。江田島での話で、先生の言いたき事が奈辺にあるか、了解しました。日本人は歴史の当事者能力を失って、空洞の歴史を歩んでるようです。三島の言った「巨大な空間?」が現出し、浮浪の民・・GHQの意図が確実に定着している訳です。私は戦後生まれで、幼い時大阪の南に海水浴に連れて行ってもらった時、深緑色の兵舎が並んでいた光景を思い出します。7年間の占領期に遭遇していた訳です。自我の目覚める時期に三島の思想に興味を持ち「東大首席卒」の天才がなぜ世間と異質の思想を唱導するのか判然としませんでした。大学は教育学科で「社会主義一辺倒」。事情を知らずに入学しましたから、小突きまわされました。大学通信が送られてきますが、当時の・・ソ連健在だった折、盛んに「マルクス主義」を振りかざしていた先生が未だに健在ですが、一体思想的責任をどうとるのでしょう。臆面もなく職に就いている。嘘を強要した、恥知らずの日本人が至る所に跋扈。大阪大名誉教授子安何某がNHKで靖国について、国家神道の責任追求・論難していました。駄馬扱いのメールを送りました。『諸君』は卒業し、『WILL』を読んでいます。『遺書』と言う意味がありますね、私もそんな時期にさしかかっています。なお一層のご活躍とご長寿を念じて居ります。敬具

長谷川 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です