中国の東シナ海進出は止まらない(五)

_VOICE6月号 特集「中国の脅威」は本物か より

「海への野心」で膨張する大国に日本は何ができるか

平松茂雄
西尾幹二

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宇宙開発関係者の体たらく
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西尾 最後に中国の宇宙戦略の話をお聞きしたい。中国はアメリカ本土に届く長距離核ミサイルを開発して、アメリカを威嚇する段階に入った。アメリカはそれに対するミサイル防衛システムを急いでいる。一方で友人宇宙船の開発に成功した中国は、アメリカのミサイル防衛を無力化するための宇宙ステーション建設を考えている。そこからレーザー兵器でアメリカを攻撃する計画がある、と先生のご著書にはありました。

 かつてのソ連もできなかったことが中国にできるのかという疑問も生じますが、そこまで動きだしているというのは大変な驚きです。これは本当のことなのでしょうか。

平松 どこまで具体化されているかはともかく、その方向に向かいはじめていることは事実です。一点集中主義を貫くことで、それができる国になったのです。この秋には月に衛星を飛ばす計画もあります。そこから考えれば、宇宙ステーションもそう遠い話ではないはずです。 

西尾 いまから15年ほど前、文芸評論家の村松剛さんが存命中に、「日本は宇宙開発を、どんな犠牲を払ってでも国家プロジェクトとしてやるべきだ」ということを書いていました。文学者には、このような考えをもつ人がいたのですが、要路の人は皆、バカバカしい夢物語としてしか受け止めませんでした。文学的な夢こそがかえって現実的だったのです。

 本四架橋(本州四国連絡高速道路)など、四国に三つも橋を架けるぐらいなら、それこそ宇宙への有人飛行競争に参加したほうがいい。国の威信を懸けてでも、これからでも遅くない。やるべきだと思います。

平松 中国は宇宙開発を着実に進めています。20世紀の終わりから21世紀の初めにかけては、GPS(全地球測位システム)を担う人工衛星の打ち上げも行なっています。以前、日本の宇宙開発関係者の会合で、「中国がGPSを開発していますよ」と話したことがあります。彼らは、このことをまったく知りませんでした。これには非常に驚きました。

 だからまず必要なのは、中国が何をやってきたかを日本人がよく理解することです。中国が核開発を始めたとき、「あんな国につくれるはずがない」と皆バカにしていました。それがいつの間にか完成し、独自のGPSまで実現し、宇宙からミサイルをコントロールしようとしている。

 もし台湾を攻めるならば、GPSは、大いに力を発揮するでしょう。もともとGPSは、海の上のように何の標識もないところで目標を定めるために、アメリカが開発したシステムです。潜水艦を攻撃するときもGPSを使えば、位置を測定して簡単に命中させることができます。

 中国がそのような方向に進んでいることを日本人はもっと知らなければならない。そうすれば日本人も、自分たちが何をすればいいかを、もっと考えるようになると思うのです。政府の戦略も変わっていくのではないでしょうか。

西尾 いまのお話のなかで、先生がお仕事の関係で日本の宇宙開発関係者の会議に出席なさって、官僚や学者たちはアメリカのことは知っていても、中国の宇宙開発については何も知らない、知識も関心もないということですが、これは驚きですね。由々しい事態で、許されないことでもあります。日本の指導者がかくのごとき体たらくだということに、私は怒りを超えて、絶望をさえ感じます。

(了)

「中国の東シナ海進出は止まらない(五)」への7件のフィードバック

  1. 余り関わる時間がなかったので、きちんと読まなかったのですが、「中国の東シナ海進出は止まらない」を改めて通し読みしました。部分的に違和感はありますが、大筋で納得出来、大変勉強になりました。私は、言葉の一つひとつより論旨を読もうとするので、誤解があったときはお叱り下さい。

    毛沢東について、極めて有能な戦略家と見る主旨は同感です。人道的見地から見れば許しがたい指導者と思いますが、理想国家を目指すために、何が大切かという洞察に基づいて戦略を考えていた点は、端倪すべからざるものがあると思っております。ただ、中国の矛盾を克服するために、より大きな矛盾を持ち込んだような気がします。

    国家戦略に基づいて、大プロジェクトに関わっていく点では、民主国家の難しさがあり、独裁的な選択を可能にする国家で無ければ、なかなか取り組めない気がします。唯一、現代のローマ帝国であるアメリカだけが、民主的手続きを経ながら、軍事戦略の意味のある大テーマに過剰に関わって来たと思います。日本は、純粋に民生上の問題にしか国家戦略を当てはめられない制約があり、「vagabond」さんの言われるような予算だけの問題ではないかと思います。

    宇宙開発の問題は、国家プロジェクトであるなら、もっとシステマティックにバックアップ体制を取らなければならないはずで、一概に、情報戦略のない中で従事している関係者だけ責められない気がします。ただ、日本の能力から言って、事情が許せば宇宙開発のロマンに挑戦する資格を持った国だと思います。

    いずれにしても、いま私たちが仰ぎ見るスケールの歴史的遺構の殆んどは、富の偏在した時代の独裁的な権力がなした事跡だと考えれば、民主主義というのは、過去のそれと比べれば、凡庸な文化しか生めないような気がします。とは言っても、いま現在、富の偏在と非民主的な体制によって塗炭の苦しみを強いられている人々が余りに多いことを考えると、多くの国にとっては、凡庸な文化こそが望ましいのかもしれません。

    だから私は、中国の富の偏在を「疑問視する」方が現実的な意味から平和思考だと考えています。地球上の有限な資源の問題もありますが、人類の叡智を投入すれば克服できると信じています。もし、築き上げた豊かさが実感できれば、誰しも、その価値を失いたくないと考えると思いますし、その国民の意識が変われば、一方的価値観だけで縛れなくなると思います。

    国家の威信をかけた大プロジェクトよりも、人類の夢をかけたプロジェクトが進められる日が来る事を期待しますが、だからこそ、観念的平和論だけでなく、今回のエントリーのような現実的な分析をきちんと進めていく事が大切だと痛感しました。

  2.  先日の【澤コレクション】のことですが、そもそもこれらの図書が氏によって何故・如何して・その対象として選ばれ確定することだできたのか腑に落ちませんでした。インターネットで偶然こんな書籍があることが判明しましたので参考となればと投稿しました。-連合国総司令部指令「没収指定図書総目録」 焚書資料刊行会(文部省社会教育局編) 今日の話題社 天皇・皇室・歴史 昭和57年発行

  3. 増田春樹様
     おとりあげになった文部省の目録書は、私も所持しており、
    沢氏はその間違いを一冊一冊検証されたのです。

     文部省の目録書では焚書図書は7700冊ですが、沢氏は600冊ほど重複があることをつきとめ、正しい総数は約7100冊であることを確認、うち5000冊をご自宅に所蔵、保管されているのです。

     このことは文中に書いたはずです。念のため。

  4. 私は宇宙開発の実施機関に勤務するものなので、
    先生の対談を読んで思うところ多かったです。

    われわれの機関に対して日本の宇宙開発の戦略が見えないという
    ご批判はよく頂戴しますし、現に心ある職員はこれでよいのか、
    と常に悩んでいるところであります。

    しかし、宇宙開発それ自体独立の戦略を立てても意味がなく、
    日本国がどうやって生きて、何で飯を食っていくのか、という
    大きな戦略があって始めて生きてくるものだと思います。
    それはわれわれ宇宙機関だけががんばってできるものではないと
    思います。

    しかし、特殊法人の一律独立行政法人化の中で、わが社も
    独立行政法人化したわけですが(他の法人もそうかもしれませんが)、
    「独立」とは名ばかりで、どの法人も一律予算と人員の削減を
    法律上規定されており、政府から下げ渡された「中期目標」の
    達成すらおぼつかない状況です。

    もちろん、われわれの殿様商売ぶりも改めていかなくては
    ならないのでしょうが、役目を終えたような特殊法人と、
    原子力、宇宙、バイオなどの国家戦略の全体を支えうる活動も
    みんなまとめてジリ貧傾向にあります。「戦略」など夢のまた夢
    (政府の「科学技術なんとか戦略・・」みたいなものはありますが、我々が読んでも意味不明)。

    ただ、宇宙活動の「平和目的」という縛りについては、
    以前は社内的にはかなりヒステリックにこだわる人間が
    いたように思いますが、やはり現実を目の前にそういう声は
    少しずつ小さくなってきたように思います。

    国家戦略や社会のニーズがあってそこに手段を提供するのが
    われわれの使命だと思うのですが、このままでは「夢」や「希望」
    などというきれいな言葉でごまかしながら毎年それなりの予算を
    消化するだけの存在で終わってしまわないか危惧しております。

    (以上、私見です)

  5. 「支那中共に関連して」

     ちょっと面白いニュースを見つけました。

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    金総書記「中国は信じられない」 韓国紙報道  

     韓国紙、中央日報は18日、ソウルの外交消息筋の話として、北朝鮮の金正日総書記が今月初めに訪朝し極秘に会談した米国関係者に「中国は信じられない」と述べ、友好国中国の指導部に対する不満を吐露していたと報じた。

     金総書記の発言は5日の長距離弾道ミサイル「テポドン2号」発射の直前とされ、ミサイル発射自制や6カ国協議復帰など発射前後の中国側の説得に応じなかったのは、金総書記のこうした不満が背景にあると同紙は推測している。

     同紙によると、金総書記は米関係者に「中国は決定的な瞬間にわれわれを助けてくれない」とも発言したという。(共同)

    Sankei Web、http://www.sankei.co.jp/news/060718/kok037.htm
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     これも、支那中共と北朝鮮とが示し合わせているのでしょうか?

     私としては、どうも支那中共も「問題児」の非常識な行動に手を焼いているように見受けられますね。

     ロシアも同様です。

     北朝鮮への非難決議に、支那とロシアが反対したのは、これ以上、北朝鮮を刺激して面倒な行動を起こされたくないからという印象を受けました。

     なんか、ちょっと腰が引けている気がしましたね。

    (誰だって、あんな国とは関わりたくないでしょう(苦笑))

    P.S.
     「。。。」という表現は改めるようにと、ブログの投稿者から直々に伝言を頂いたので、その忠告に従って「。」にすることにしました。。。

     私的には「。。。」の方が具合がよいのですが、ブログの投稿者からの注文では従わざるを得ません。。。

     ネットでは「。。。」という表現の方が個性的なのですが、まあ、そこまで個性的にしなくても、私の書き込みは普段から十分に個性的なので、それはそれで良しとしましょう。。。

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