『Voice』4月号の特集「日本の明日を壊す政治家たち」に「金融カオスへの無知無関心」という評論を発表しました。その冒頭部分を以下に掲げます。本題の始まる前段の部分です。
金融カオスへの無知無関心
米中経済の荒波に日本は飲み込まれる!
アメリカのサブプライムローン問題に端を発する金融不安が、急成長している中国経済にこれから先どういう作用を及ぼすのか、われわれは今息をこらして見守っている。アメリカに宿る金融資本は中国に移動し新しい繁栄の季節を迎えるのか、それとも中国から奪うものだけ奪って立ち去り、例えばインドやブラジルに居を移すのか、あるいはまた今度という今度に限ってアメリカの受けた打撃は致命的で、噂されるようにドルは基軸通貨の地位を失い、その結果中国経済も対米輸出不振から立ち行かなくなり、米中同時倒壊という新しい世紀の幕を切って落とすのか。否、そうはさせまいとする現状維持の力が強くはたらき、中東の石油輸出国、EU諸国、そして日本もドル防衛に協力し――現にそうしている――、当分の間、「米中経済同盟」はなんとか無事に守られていくのだろうか。
いずれにせよ、十年以上の時間尺で起こるであろうドラマを想定して言っているのだが、その際われわれが心しておきたいのは、今世界で産業の力を持っているのは日本だけだという静かな確信を失ってはならないことである。見るところ日本には政治的な存在感がない。それが唯一の問題である。
国際舞台で働く代表的日本人にだけ責任がある話ではない。一般の日本人の世界を眺める日常の眼に問題がある。一つはアメリカ、もう一つは中国という観点にとらわれて、そこで止まり、両方を同時に見ない。中国は怪しい国だということは十分に分っていてもそれ以上がなく、だからやっぱりアメリカと仲良くしよう、となるか、またアメリカは力尽きて終わりらしいからこれからは中国の言うことを聞くようにしよう、靖国に行くのは止めよう、となるか、どっちかなのだ。
自分というものがない。今世界はものすごい勢いで動いているのに日本は何のコミットもできないでいる。ほとんど馬鹿にされている。そう見えるが、しかし国内に混乱はなく、安定している。有力国の中で日本がいちばん力がある証拠である。なぜそこから世界を見ないのか。第二次大戦の戦勝国の言うがままに振り回されることをもう止めよう。アメリカでなければ中国、中国でなければアメリカ、と一方に心が傾くのはイデオロギーにとらわれている証拠である。
イデオロギーにとらわれるというのは、自分の好む一つの小さな現実を見て、他のすべての現実を見ることを忘れてしまうことを言う。一つの小さな現実で救われてしまうことを言う。反米も反中も、それで満足し安心したいための心の装置なのだ。
これから日本人が自分を守り自分を主張するためには、ときに自分の気に入らない不快な現実をも認めること、複雑で厄介な選択肢を丁寧に選り分けてそのつど合理的に決断すること、ここを突破口に歩を進めていかない限りわが国に未来はないだろう。