日記風の「日録」 ( 平成16年9月 )(六)(前の月の生活に即した所感です)

 今これを書いているのは10月16日である。当「日録」をリアルタイムに書いて欲しいという要求があったが、そんなことは私の身体が二つない限り不可能である。忙しいときには日録を書いている余裕はない。最も忙しいときにはインターネットを開いている余裕もない。

 リアルタイムに書けという要求がいかに無体であるかを示すために9月の多繁期を現在の感想と交差させながら回顧しておく。大体次のような毎日である。

9月16日(木)
 明日は人間ドックを予約している。1週間後の22日には、八木秀次さんとの『新・国民の油断』のための第2回目対談がセットされている。ほゞ同じ日に『Voice』11月号の25枚評論の〆切りがくる。両方が同時期に重なるのは無理だと直ちに判断した。

 明日17日には青春出版社の『日本人は何に躓いていたのか』の初校ゲラの校正もどしが予定されている。17日正午がタイムリミットである。私は人間ドックをキャンセルする決心をした。次いで『新・国民の油断』の第2回対談のためにも資料を読み、考えをまとめる時間が必要なので、関係者に連絡して、4日間だけ延ばして、26日(日)にしてもらうことにした。さもないと『Voice』が入らない。

 私は最近日程を変更してやりくりするこんな落ちつかない事ばかりしている。どたばたの騒ぎである。不手際のせいではなく、仕事量が多すぎるせいである。幸い八木さんやPHPのご好意もあって、延期は可能になった。

 私は今、約1ヶ月前の9月の日付をきちんと追った日記風の記録をここに掲示している。理由は、私がどんな風に自己整理して、否、自己混乱して日々を生きているかを公開しておきたいと思ったからである。

 明日17日までに『日本人は何に躓いていたのか』の初校ゲラを見終えて、同日午後から国際政治の新しい資料を一斉によみ始め、22日夜までに『Voice』論文を書き上げる。私でなくても、もの書きはみんなこんな時間の綱渡りをしている。私は大学の勤務がなくなった分だけ楽なのである。

9月17日(金)
 『日本人は何に躓いているか』は4月1日に書き始め、8月15日に脱稿した。(勿論、4~7月は「江戸のダイナミズム」18~20回の連載と重なっている)。9月の初旬に初稿ゲラを受け取っているが、十分に見ている時間がなく、後で再校、三校で修正量が多く、苦労することになるが、9月17日、すなわち本日までに初校に一通り目を通して戻さなければならなかった。

 この本は平成16年度の私の出版物の中心の位置を占める。330ページ、10月29日刊、¥1600、初版部数1万2000ときまった。

 現在――10月16日の段階で、三校まで修正の筆を入れ、校了となった。
目次の各章の題目とあとがきの「おわりに」をお知らせする。各章の下に見出し語が並ぶが、これはここでは省略する。

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『日本人は何に躓いていたのか』

目 次

序 章 日本人が忘れていた自信

第一章 外交 ――日本への悪意を知る
第二章 防衛 ――冬眠からの目覚め
第三章 歴史 ――あくまで自己を主軸に
第四章 教育 ――本当の自由とは何か
第五章 社会 ――羞恥心を取り戻す
第六章 政治 ――広く人材を野に拾う
第七章 経済 ――お手本を外国に求めない
 
おわりに

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 ここにも編集者との間で小さなやりとりがあり、変更を余儀なくされている。第一章の副題は最初私が「他国の悪を知る」とした。今でもこのほうが私の真意に近い。第三章の副題は最初「自己本位」とのみした。どちらも今の読者には唐突、または難解であるとの理由で、ご覧の題に落ち着いた。

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 おわりに

 最近日本人は永く忘れていた自信を少し取り戻しつつあるように思える。物事がすべてうまく行っているからではない。むしろ過去半世紀のほうが物事は円滑にはこび、日本人の生活は気楽だった。

 最近の日本は地域紛争の当事国になりかけている。国家財政の行方にもただならぬ不安がある。町には大型化した犯罪が増え、性風俗は乱れ、学校の生徒が昔のように勉強しなくなった。平成に入って、つまり冷戦が終わって以降ということだが、目立って問題が多く発生し、日本はこのまま行けば力を失っていくばかりで、この国は地上から消えてなくなってしまうのではないかと極論する人さえいる。

 こうなって初めて、最近卒然と何かを悟る気運が生じている。私にはそう見える。何を悟るかというと、日本を衰滅させてはならない、国がなくなれば自分の人生も生活も危うい、という動物の生きんとする本能のようなものが動き始めているように見える。

 国家主権というものを過去60年ほど日本人は考えないで済んでいた。最近そうはいかないのではないかと少し気がついた。日本という国を衰滅から守るという考え方が、言論界でも一般社会でも主流になりつつある。それに逆行する考えはこれから恐らく通るまい。

 大切なのは国家だと気がついたとき、忘れかけていた自信をかえって取り戻す心が至る処に見られるようになった。

 私もまた自信を回復しつつある一人である。本書はこのような精神状況を迎え、日本及び日本人を総体(トータル)として、あらためて捉え直し、描き出すという私にとって初めての試みである。

 何しろ日本の現代の全貌を七つの観点から一人で論じ尽くすのであるから、無謀といえば無謀である。うまく論じ得たという自信はないが、今必要なのはちまちました議論ではなく、立体的総合論ではないかという私の意図と野心の一端に共感を持って付き合っていただけたら、このうえもない喜びである。

 本書は平成16年4月1日から稿を起こし、8月15日に脱稿した書き下ろし稿である。

 一書のモチーフを私から引き出し、共に考え、支えてくれた青春出版社書籍編集部の辻本充子氏、並びに背後からバックアップしてくださった書籍編集部編集長の桑原渓一氏に心より深謝申し上げる。

平成16年10月9日
                        西尾幹二

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 以上で本書の方向は大体察知いただけたであろう。9月の前半はこれの初校もどし、9月30日に再校もどし、10月12日三校最終ゲラもどしを実行した。再校、三校ともに修正多量で時間に追われる苦しい日々だった。

10/22脱落個所掲載
10/23誤字修正

「日記風の「日録」 ( 平成16年9月 )(六)(前の月の生活に即した所感です)」への2件のフィードバック

  1. 先の本宮ひろ志の漫画に関する「南京事件」関連での集英社に対する抗議。
    安倍晋三氏他自民党有力政治家に対する支那に対する強気の発言。
    森内閣以前、少なくともバブル景気以前の時代だったら到底考えられ
    無かった事象が今起きていて隔世の感がありますね。

    問題が発覚したら「改善」する。そんな日本人の古き良き伝統が
    今強く現れていると思われます。

  2. 今ニュースが入ってきました。尤も産経新聞が提供したヤフー記事ですが。

    ★中国の対日政治工作 70年代から本格化 CIA文書公開 影響力阻止狙う「策略」
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20041022-00000011-san-int

    産経新聞記事とは言え、この時期、米国がCIA文章を公開した意味は
    大きいと思います。朝日新聞が如何に支那の対日工作の片棒を担いで
    来たかが依り一層強調されるからであります。「毒ガス作戦」など
    の嘘記事は典型的な対日工作記事と言える事でありましょう。
    最早、朝・毎などが過去に書いた記事を正当化する事は不可能で
    特に両新聞社は何らかの究明をする必要が有ります。

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