『西尾幹二のブログ論壇』(二)

 近い人から感想が届いた。雑感というにふさわしいややとりとめない感想で、友人の私にはピンとくるが、良く分らない人もいるかもしれない。しかしともかくこの本の最初に送られてきた批評文だ。

 秦郁彦に小沢一郎を連想している発想の奇抜さが面白い。「違法性の不在」は合法であるという点が、二人に共通するという意味らしい。占領軍史観に合っていれば合法、そうでないものは全部違法とみなす秦氏の硬直した論法には、小沢一郎の強引さがたしかにある。

 この本を最初によむ人は、どういうわけか、第二章の秦郁彦批判に注目の眼を注いでいるようだ。もう一篇届いている批評もそれに類するので、次回にお知らせする。

ゲストエッセイ 

『ブログ論壇』雑感 粕谷哲夫

これは前回の 西尾日録を単行本にしたものより 大分 上出来です。渡辺 望さんの<コーヒー論壇>からの導入もよくできているのはもちろん、ダイアログをうまく入れて読者との<双方向性>という構成がたいへん新鮮です。編集デザインとしてもかなりの< 艶>を感じさせます。西尾幹二 批判も 適度にちりばめられ 討論の公平性がよく保たれており、好感持てます。

390ページの高品位の量感をソフトカバーで包むという 配合は 「ハレ」と「ケ」のバランスという点でも秀逸だと思います。

それで 質の高い 硬質の議論をうまく包んでいる感じで これは 西尾著作物の中で市場の受容度は かなり高いと判断します。後は宣伝ですね。マーケッティングからみてもそう思います。

秦郁彦にも(聞くべきものはいくつもありますが)、改めて読み直してみると全体では あたかも 小沢一郎を合法性ないしは違法性の不在ゆえに弁護する 小沢支持派 の 形式論理のような空虚さと同じものを感じさせずにはおきません。

秦郁彦は 法律でいえば 「訴訟法ないしは法手続き」「証拠主義」に関心がありすぎです。
それでは 歴史への想像力をむしばんでしまう。

(この点では保坂さんの方がいいです。彼は疑いは疑いとして結論を出さずに 疑問を読者に投げかけます)

ちなみに 「訴訟法ないしは法手続き」「証拠主義」で行くと、同時代に生きている 小沢一郎 という 男にたいする 判断も一筋縄ではいきません。

20%の人は小沢に肯定的です。しかし80%は小沢に否定的です。 いま生きている そこにナマの物証があるにもかかわらず 見解は分かれます。 決定的な定説などというものは ことほど左様に なかなかあり得ないものなのです。

山本五十六だって 激しい毀誉褒貶にさらされています。

秦郁彦は 歴史的 絶対証拠のない 日常的な考現学的な諸事象をどう判断するのでしょう?

我々は証拠によって生活しているわけではない。
観察や伝聞や風評を 総合して判断しているのです。
知力と感覚の総体で判断し生活しているのです。
そのトータルな集積が文化というものではないでしょうか?
イギリスはその流儀です。

もっとも学問であれば そんなアバウトなことでは すまないことは百も承知ですが、それを言うなら ヴェロナ文書の原点などに自らあたるべきです。彼にとっては <昭和史>はすでに一件落着で加えるべきものはなにもないと言わんばかりですね。

小生は 「自然法ないしはコトの是非そのもの」に傾斜するので 秦理論には相当の違和感があります。

経営学的に言えば 秦郁彦の考え方は<形式知>寄りで  西尾幹二的な考え方は<暗黙知>的です。

いまや 悪評高いマッカーシーの暴いた 共産主義の陰謀・謀略は徐々に マッカーシーは正しかったと 証明されつつあると聞いています。 秦郁彦も 否定や肯定をする前に 自分で徹底的に調べてみたらどうなんですかね。 その好奇心というか情熱がないこと自体 学者として問題だと思う。極度の知的怠慢ですよ。

もっとも徹底的に調べるには 英語とロシア語のスーパーな読解力が必要ですが・・・・。

宮脇女史など 調査の必要に応じて 外語を学習していったというようなことを言っていましたが、秦郁彦ぐらいならば 読解力のある専門家も同伴してアメリカやロシアに乗り込んでいろいろな 史料を 追求していく興味があってしかるべきです。

どうも歴史学者は 日本にある書物の範囲からテリトリーを広げることをしない。 

と同時に 仲小路のような 西欧列強による アジア侵略の入手可能な史料ですら踏み込もうともしない。・・・ ということは <GHQ 焚書> にたいする学者の良心を失っているということではないのか?

話は飛びますが ゾルゲ事件の 尾崎秀実を死刑にせずに 生かしておけばよかったと思います。彼らなら スターリニズムの<平和主義>の妄想がいかに誤りであったか 後刻気づいて 率直に認めたと思います。
彼を生かしておけば 後刻 釈放しても純粋な人なだけに自らに非を公式に認め、それが日本の左翼論理の蔓延を防ぐことに多少なりとも 貢献したのではないか?

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