私の全集が出ることになりました。個人の著作全集のことです。すでに一部の人には知らせていますが、世の中に公表するのはこの文章が最初です。
全22巻で、本年5月に第一回配本が始まります。3ヶ月に1巻づつ出る予定なので、完結には約5年かゝることになります。出版社は国書刊行会です。
2段組みで、約500ページ前後、なかには600ページを越えざるを得ない巻もあります。でも活字は小さくなく、余裕のある版面です。箱入りで、がっしりした古典的な全集のイメージになると思います。発行部数や定価はまだきまっていません。
各巻には標題を付けることにしました。標題の本を中心にそれに関連するいろいろな文章が集められます。次の通りに決まりました。
西尾幹二全集・二十二巻構成と表題・頁数概要
平成二十三年一月十一日現在第一巻 ヨーロッパの個人主義 512ページ
第二巻 悲劇人の姿勢 480ページ
第三巻 懐疑の精神 512ページ
第四巻 ニーチェ 638ページ
第五巻 光と断崖――最晩年のニーチェ 576ページ
第六巻 ショーペンハウアーの思想と人間像 488ページ
第七巻 ソ連知識人との対話 480ページ
第八巻 日本の教育 ドイツの教育 672ページ
第九巻 文学評論 480ページ
第十巻 ヨーロッパとの対決 488ページ
第十一巻 自由の悲劇 480ページ
第十二巻 日本の孤独 480ページ
第十三巻 全体主義の呪い 496ページ
第十四巻 人生の価値について 496ページ
第十五巻 わたしの昭和史 少年篇 480ページ
第十六巻 歴史を裁く愚かさ 480ページ
第十七巻 沈黙する歴史 480ページ
第十八巻 決定版 国民の歴史 696ページ
第十九巻 日本の根本問題 528ページ
第二十巻 江戸のダイナミズム 512ページ
第二十一巻 危機に立つ保守 488ページ
第二十二巻 戦争史観の革新 456ページ
本年5月に出される最初の一冊は第5巻『光と断崖――最晩年のニーチェ』です。今まで私の単行本に集録されていない文章がほとんどです。一般の読者の方には未知の文章がとくに多い一冊です。あれ、西尾はこんな仕事をしていたのかと吃驚りなさる方が少くないでしょう。
ひきつづく二冊目からは振り出しに戻って第1巻、第2巻……の順序どうりに出す予定です。若い時代のスタートラインで私には三つの動因(ライトモチーフ)がありました。
第1はドイツ留学に由来するヨーロッパ体験です。第2は小林秀雄論、福田恆存論、ニーチェ論で、批評家としての私の起点ですが、そのとき三島由紀夫の死に出合いました。第3は戦後批判、時代批判、マルクス主義批判です。これが一番の基本だったかもしれません。最初に展開されたのは70年安保ともいうべき全共闘運動に対する行動を伴った批判でした。
以上の三つのライトモチーフをそのまま反映させて、第1巻から第3巻が編集されています。私の習作時代の文章、学生時代や同人誌時代の文章の精選されたいくつかは第3巻に収録するつもりです。
生前全集は人生の幕引きの儀式であるとともに自分の一生を見直すいい切っ掛け、自分をあらためて知る大変にありがたい機会ともなると思っています。
私はミネルヴァ書房から学術者自叙伝という企画を頼まれている最中にこの全集の企画が持ち上がりました。これは幸いでした。
全集の各巻に約20枚づつ付ける「後記」を書き進めるうちに、自叙伝のほうもどう書くかのヒントが得られるような予感がしています。「後記」に書くことのできない思想の展開史を「自叙伝」の方に記述することができる日が来るのではないかと秘かに期待してもいるのです。
各巻の詳しい内容は追ってご報告します。