「朝雲」(一)

 過去一年間『朝雲』という防衛省の新聞にコラムを書き綴った。新しい日付から旧い日付のものへさかのぼって紹介する。最初は3月17日付であるが、3月11日午前中に送稿していて、地震の日だが、この稿を書いたときはまだ震災を知らない。

日本復活のシナリオは?

 ある雑誌の座談会に招かれて、標題を尋ねると「日本復活のシナリオ」であると知り、どこでも最近はこういう題が出されることに押しなべて今のわが国の不安と危機感が偲ばれる。民主党政権交替以来あっという間に国の格が下がっていく「日本没落」の感覚は目まいのような恐怖すら伴うが、問題の根はじつは深い。

 私の若い頃から一流の人間は政治家を目指さなかった。この国は政治家は三流でも官僚がしっかりしているから何とか持ったのだ、といわれていたものだが、最近はそうも言えなくなった。政官財のリーダーの国家意識の喪失は今や目を蔽うばかりである。

 吉田茂は憲法改正をしなかった。佐藤栄作は非核三原則などと自分から言わないでもいいことを持ち出して自分で自分を縛った。中曽根康弘は靖国参拝をとり止め、歴史教科書問題で中韓にすり寄った。小泉純一郎は靖国参拝をしたから偉いという向きもあるが、拉致問題で毎日のようにテレビのぶら下がり発言において、「ご家族のためを考えます」とは言ったが、「北朝鮮のしたことは主権侵害だ」とはただの一回も口にしたことはない。安倍晋三は慰安婦問題で何を勘違いしたかブッシュ大統領に謝罪した。終戦直後に日本人慰安婦が群をなして米兵の腕にとりすがった姿を忘れていないわれわれは、慰安婦問題は世界の軍隊の至る処にあり、アメリカはむしろ振り返って日本に謝罪すべきだ、となぜ言えなかったのか。

 最近米国務省日本部長メア氏の沖縄発言が問題になり、「ごまかし」と「ゆすり」が沖縄人侮辱と騒がれたが、米国政府が平謝りしメア氏を即座に更迭したのは、彼の発言中の「日本は憲法9条を変える必要はない。変えると米軍を必要としなくなり、米国にとってかえってまずい」というアメリカの本音、日本永久占領意思がばれて、物議をかもすのを恐れたからで、沖縄人侮辱発言のせいではない。日本列島はアメリカ帝国の西太平洋上の国境線であって、日本に主権はない。アメリカはここを失えばかつてイギリスがインドを失った場合のように世界覇権の座から滑り落ちる。だからアメリカが必死なのは分るが、それゆえにこそ日本も真の独立をめざして必死にならなければ「日本復活のシナリオ」は生まれてこない。日本の政治が三流に甘んじてダメなのはあらゆる点で主権国家であることを捨てているからである。

 かつて日本はアメリカと戦争をした。がっぷり四つに組んで三年半も近代的大戦争をくり広げた。日本は立派な主権国家だったのである。

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