原発をめぐる個人的顛末(三)

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ゲストエッセイ 

川口マーン惠美

(3)ドイツでの憂鬱な日々

先週、二十年来お世話になっている旅行社の女性と電話で話した。日本人が経営している、日本行きチケットが専門の旅行社だ。状況を訊くと、やはりドイツ人のキャンセルが頻発しているらしいが、ただ、そのヒステリックな様子には音をあげているということだった。

キャンセルの確認がすぐに取れないため、あとで連絡すると言うと、「白血病になったらどうするのだ!」と、興奮するお客がいる。「なぜ、原発反対のデモに、数百人しか集まらないのだ」と非難するドイツ人もいたというが、大きなお世話だ。私たちは、今、デモよりも他にすることがある。
シュトゥットガルトのある日本人の話では、郵便配達夫が日本からの手紙を他の雑誌の上に乗せて持ってきて、「触りたくないので、雑誌ごと受け取れ」と言ったらしい。上司にそう指示されたという言い訳が本当かどうかわからないが、無学を証明しているような話だ。いつもは何に対しても懐疑的なくせに、何かの拍子でマイナスの方向に振れると、集団パニックや過激なデモなど、一丸でとんでもなくヒステリックになっていくのがドイツ人だが、今回も例外ではないようだ。そう言えば、チェルノブイリ原発の事故の時も、一番ひどい風評が巻き起こったのがドイツだった。

前述の旅行社の女性は、「在独の日本人のお客さんと話すと、皆、憂鬱そうです。そのうち、日本人差別が起こるのではないかと、心配していらっしゃるお客さんもいますよ」と、かなり落ち込んでいる様子だった。私たち日本人はそのうち、“井戸に毒を投げ込んだ民”にされてしまうのだろうか。
すでにドイツでは日本からの食料品の輸入は規制されており、お寿司屋も客が激減。はっきり言って、ドイツの安い回転寿司屋は、日本人の経営でないものがほとんどだし、日本からの高い輸入魚など元々使っていないのに、それでもドイツ人はもう寿司屋へは行かない。

ニュースでは、港に到着した日本からのコンテナが、被曝検査を受けている様子が報道された。ドイツ国民を安心させるためなのか、危機感を煽るためなのか、そこら辺がよくわからない。昔、狂牛病の疑いのある牛肉の缶詰をドッグフード用として輸出したのは、確かドイツだったが、私たち日本人は、放射能に汚染された品物を売ったりはしない。そういえば、フランクフルト空港では、強制ではないが、人間の被曝検査も行われている。

4月5日から広島国立美術館で予定されていた特別展「印象派の誕生」は、急遽中止。作品の60パーセントを貸し出すはずだったフランスで、日本向けのすべての美術品輸出停止命令が出たためだ。岡山県立美術館も同じで、22日からの「トーベ・ヤンソンとムーミンの世界展」は、フィンランドが原画の貸し出しを取りやめたため、やはり中止だ。他にも、中止になったものは、たくさんある。

日本では何が起こるかわからないということと、作品に同行する人間の安全確保のためだそうだが、そういうことなら、日本はこれからもいつどこで地震があるかわからない不確実な国だから、将来は、著名な音楽家も、高価な美術品も一切やって来なくなるということなのだろうか。この間まで日本にたくさんいた外国人も、ごそっと引き揚げてしまったようだし、いっそのこと、日本は鎖国してしまえば、平和でいいかもしれない。

そんな中、昨日、ダイムラー・ベンツの人と世間話をしていて、少し気が晴れた。「そういえば、お宅の会社は、ハイテク作業車を20台も寄付してくださったんですってね」と私。 新聞で読んだのだが、瓦礫の上でもガンガン走る「ウニモグ」4台、ショベルやクレーンを取り付けられるトラック「ゼトロス」8台など、優れモノがすでに日本に到着しているらしい。「社員の間で寄付も集めているよ。先週、50万ユーロ近くになっていた」ということだが、嬉しい話だ。しっかり集めてほしい。
「いやあ、それにしても、福島原発のおかげでドイツの原子力政策が180度方向転換した。あの事故なしには、こんなに早く原発廃止の方向にはいかなかっただろうね」と彼。3月27日に行われた我が州バーデン・ヴュルテンベルクの州議会選挙では、原発反対を唱えていた緑の党が突然票を伸ばし、50年以上続いていたCDU(キリスト教民主同盟)の政権を覆してしまった。(CDUは得票数は第一位だったが、二位の緑の党と三位のSPD社民党が連立して、CDUから政権を奪った)。そんなわけで、緑の党の支持者である彼は大喜びなのだ。しかも、今年はまだベルリン、ブレーメン、そして、メクレンブルク‐フォーポメルン州(メルケル首相の選挙区)と大事な地方選挙が続くので、この調子でいくと、ドイツの政治地図は、フクシマの負の力で左寄りに塗り替えられる可能性も捨てきれない。

私は原発推進派ではないが、フクシマ後の緑の党のはしゃぎようは、いくら彼らが30年来原発廃止に力を注いできたからと言っても、少々目に余った。それに、私はメルケル首相のファンなので、今回の一連のことで、彼女の力が弱まってしまうのは残念でならない。ドイツ在住の日本人にとって、これからもまだまだ憂鬱の日々は続きそうだ。

「原発をめぐる個人的顛末(三)」への1件のフィードバック

  1. 原発事故のせいで、滞在していた外国人が多く帰国しました。潜在敵国または非友好国である中国と韓国の人達も帰国したので一安心ではないでしょうか。彼らが再入国しないことを期待しています。ドイツ人が、どう思おうと日本の安全にとってあまり関係ないのですが、ナチスの罪状の道連れにされるのだけは願い下げです。
    観光振興は、高すぎる公務員・教員の給与・退職金・年金の一部を削って、一定金額の観光クーポンを政府が国民に発行して、旅行を奨励すれば効果があがるのではないですかか。国家安全のためには、無理に中国から観光客を呼び込まないほうがよいと確信しています。

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