『天皇と原爆』の刊行(六)

 内田さんは出版者として私の『江戸のダイナミズム』を出して下さった人で、『諸君!』終刊号の編集長でした。

 

謹啓

 なお寒い日が続きます。ご新著有難うございました。誠に面白く拝読いたしました。

 「天皇と原爆」とは、読者に謎をかけ、しかもどことなくベネディクトを連想させて、秀逸な題名でした。テーマは壮大で深遠ですが、語り口調がよく活きており、大変読みやすく感じられました。新潮社の担当の方も、良い仕事をされたのではないかと拝察します。

 「江戸のダイナミズム」以後、仲小路彰など「GHQ焚書」の研究を通じて、西尾日本史論は一層の深化発展を遂げました。ご新著はそのことを端的に物語る一冊といえるのではないでしょうか。

 焚書など驕れる戦勝国の暴挙であることはもちろんですが、語るに足る良書をきちんとえらんで槍玉にあげていることに、妙な感心もさせられます。日本側協力者とおぼしき金子、尾高らが、それなりに“具眼の士”であったとかんがえていいのでしょうか。今回、重要な役割をはたしている和辻哲郎とは、ゆかりの深い人々のようですが、そのあたりを含めた、西尾先生の総合的評価を知りたいと感じました。

 終盤、国の「運命」をめぐる考察は、一巻の山場を感じます。小林秀雄畢生の名啖呵「利口な奴はたんと・・・・・」が、西尾先生の記述によってはじめて腑に落ちた気がしました。

 水戸学の変容を的確に要約して、アメリカ建国史との共時的展開を指摘された一節も、鮮やかです。欧州と日本の並行発展は斬新です。この部分もさらに掘り下げていただきたいものと思いました。

 全集第一巻は、途中まで読んでしばし中断していましたが、これから続きにとりかかりたいと思います。第三回配本も楽しみに致しております。

 何卒ご自愛ください。取り急ぎお礼とご挨拶まで
                 
                     敬具
平成24年2月12日            文藝春秋内田博人

西尾幹二先生

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