産経新聞4月14日 書評倶楽部から
中島誠之助 古美術鑑定家
昭和13年生まれ。東京・青山の骨董通りの名付け親。著書に『骨董やからくさ主人』『句集 古希千句』ほか。
長い世界史たどってみる必要
かなり難解な本である。そのくせ一気に読み終えることができる。ということは内容の深さを理解しようとしなければ通読するだけで終えてしまうという安易さに陥る。
要は歴史というものは、振り返ってあの時ああすればよかったとか善悪の基準だけでは決め付けることが出来ないといっているのだ。そして現在おかれた絶対安全な環境の中で、口先だけの危機感を述べることの間違いと危うさを指摘しているのだ。
歴史を語ることの尺度を50年や100年ではなくて数世紀いや数十世紀のスケールで計って、現実の動きが必然的な結果として起きるとしたところに本書の新鮮さがある。
日米開戦はなぜ起こらざるを得なかったのか。戦争の非は決して日本だけにあるのではなくフロンティア精神を掲げて西進したアメリカ側にもあるのではないか。アメリカ人の思想と歴史観は日本に対してどのように働いたか。それを知ることがわが国のこれからの進路を決めるうえで必要なのだと説いているのだ。
迫害を逃れて新大陸に上陸した清教徒たちが国是としたキリスト教国家アメリカ、その西進を拒んだ日本神話に表現される神の国日本との宗教戦争が日米の戦いであったとする著者の持論は、昭和史という新語で一方的に日本を悪人扱いする世間の論調に警告を発している。
現代社会の中で一部の人はなにか言うことが許されないもやもやとした気持ちを持っている。なぜ原爆を落とされなければならなかったのだ。そこに至る長い世界史をたどってみる必要があるのではないか。
日本の敗戦直後、アメリカは皇太子の家庭教師としてクエーカー教徒の婦人を派遣してきた。あれから60有余年の後、アメリカの意図がどのような結果を我が国にもたらしたか。ここらで確(しっか)りと考えて見る必要があるようだ。