ありがとうアメリカ、さようならアメリカ (五)

Voice6月号より 戦争へ向かう東アジア

同盟国を「最国家」へと向かわせる日

 ロシアのプーチン大統領が最近、核武装をしていない国は主権国家と認めない、という思い切った発言をしたが、不気味だが、真実の一面を言い当てて余りがある。北朝鮮はいったい何を目指して来たのか。日本ははたしてあの国を笑えるのか。4月13日のミサイル発射騒ぎの一件は日本の運命をいわば裏側から暗示し、喜劇を演じているのはそもそもどこの国かを通説に風刺した一光景であったといってよいであろう。

 明日アメリカが覇権の座を降りるわけでも、ドルが基軸通貨でなくなるわけでもないとしても、明日でなければ明後日、明後日でなければ次の日へと、現実の変化は少しづつじりじりと動いている。アメリカが中国をリベラルな民主制度に作り替えるだけの力がないことははっきりしている。韓国、台湾、トルコ、サウジアラビア等へのアメリカによる安全の約束に関してすでに信頼性に疑いが生じており、それらの同盟国を庇護するのではなく「再国家」へと向かわせる必要をアメリカ自身が認める日は近づいている。アメリカはNATOから抜けて、ヨーロッパから軍事力を撤退させ、EUを独立したパワーとして、その周辺の権益を自分たちで守れるように責任を委嘱する決断の日もそう遠くはないだろう。

 アメリカが日米安保条約を破棄し、独立した大国としての日本に進んで報復核抑止力を与え、海上輸送ルートや海上領土主権を守るための軍事力の充実に強力することが、アメリカの国益であるということに否応なく気づく時期は遅かれ早かれやってくる。われわれはそれをただ無為に待つのではなく、それには相応の準備、一年や二年ではできない心の用意と法制度の改変と整備が至急求められることは、改めて言うまでもない。

 超大国としてのアメリカが冷戦中、日本経済の再生のために尽くしてくれた功績は大きく、ヨーロッパも同様の感謝の念を抱いていよう。19世紀末以来つづいた一極集中の覇権構造は多くの災禍と破壊をもたらしたが、稔りある創造と繁栄をも招来した。それが終わりつつあることが世界にとっての新しい季節の到来であることを知り、転換に恙(つつが)なく、遅滞なく遂行されることを期待してやまない。

「ありがとうアメリカ、さようならアメリカ (五)」への1件のフィードバック

  1. 『19世紀末以来つづいた一極集中の覇権構造は多くの災禍と破壊をもたらしたが、稔りある創造と繁栄をも招来した。それが終わりつつあることが世界にとっての新しい季節の到来であることを知り、転換に恙(つつが)なく、遅滞なく遂行されることを期待してやまない。』

    世界史の大転換について、何かジーンと来る表現ですね。

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