中村敏幸さんの当選作(三)

東京裁判とGHQの日本弱体化工作 

 開戦前に日米交渉に当った野村、来栖両全権大使は、ただアメリカの時間稼ぎに翻弄されていただけのように思われているが、来栖大使が開戦一年後に行った講演「日米交渉の経緯」には、日本がアメリカの悪意を正確に読み取っていたことが記されており、感慨深いものがある。(10)

 また、硫黄島守備に当った市丸海軍少将が栗林陸軍中将と共に最後の総攻撃に臨む直前に記した「ルーズヴェルトニ與フル書」(11)にも東洋征覇を目指した、アングロサクソンの非道と我が国が開戦のやむなきに至った経緯が切々と述べられているが、何よりも、我が国が開戦を決意した経緯については「開戦の詔書」とそれに続く「帝國政府聲明」に言い尽くされている。我が国は世界の情勢を把握することなく、やみくもに無謀な戦争に突入した訳ではない。対日包囲網の中にあって、ハル・ノートを突き付けられた時点で、我が国に残されていた道は、ハル・ノートを受入れ、戦わずして屈従の道をたどるか、それとも、勝敗を超えて敢然と必戦の決意を固めるかの二つに一つしか残されていなかったのであり(12)、当時多くの国民は、12月8日を、先行きに対する言い知れぬ不安感と共に、息の詰まるような圧迫感からの解放と「ついに来るべきものが来た」との覚悟を固めて迎えたのである。

 そして、終戦直後の国民の多くは江藤淳氏がその著「閉ざされた言語空間」でいうように、あのような戦争と敗戦の悲惨な結末は自らの「愚かさ」や「不正」がもたらしたものとは少しも考えていなかったのであり、この多くの日本人の静かなる不服従に脅威を抱いたGHQは、占領後直ちに、予てから準備していた「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(戦争についての罪悪感を日本人の心に植え付けるための宣伝計画)」と「東京裁判」を実行に移し、彼等の攻撃の手は、我が国民の心の中に目標を定めたのである。

 先ず、「降伏文書調印」の直後から報道、出版はもとより私信に至るまでの検閲よって言論を封じた上で、公職追放によって、各界に於いて、祖国の存亡をかけて奮戦した20万人余りの人々を一掃した後、その空いたポストを敵国に媚び諂った戦後利得者である左翼売国勢力に占拠させた。更に、7千冊以上に及ぶ書籍の焚書によって我が国の大義と歴史の真相を闇に葬り、洗脳番組の報道と神道指令や教育改革、占領憲法などの押しつけによって我が国の精神的な基盤を破壊した。

 東京裁判の不正に就いては語り尽くされているためにここでは触れないが、これらの洗脳工作によって、国民の多くが、先の大戦は邪悪な侵略国家であった日本によって引き起こされたとの贖罪意識を植え付けられた。そのために、散華された200万余柱の英霊は残虐非道な侵略戦争のために戦ったとの烙印を押され、英霊に対する慰霊の心を失わせ、今日なお、各地の戦跡に眠る、約半数、100万余柱もの英霊の遺骨を収拾することなく、恬として恥じない国情を生み出してしまったのである。

日米戦争は姿と形を変えて現在も続いている 

 アメリカはペリー来航以来今日に至るまで、日本に対して真に友好的であったことは一度も無い。サンフランシスコ講和条約発効後も、我が国を自己決定権の持てないアメリカ覇権の手足となる隷属国家に仕立ててきた。

 1960年代の「日米貿易摩擦」に始まり、「プラザ合意」、「日米構造協議」、「日米経済包括協議」、「年次改革要望書」と手を変え品を変えながら、アメリカは日本の金融と経済のしくみや日本型経営の基盤を破壊し続ける一方で、米国債購入やアメリカ起因による円高への為替介入によって生じた為替差損などによって日本から富を奪い続けた。そもそも、「日米構造協議」とは協議ではなく、「日本の構造は間違っており、アメリカ主導により、アメリカ流の(正しい)構造に改革させる」という意図をもって行われたものである。

 我が国は、GHQの日本弱体化工作によって二度とアメリカの脅威とならないように精神的な基盤を破壊されたが、それに続いて日本社会の構造基盤をも破壊されたのであり、日本の強さの基盤を失った。これは筆者が日米戦争は姿と形を変えて現在も継続しているという所以であり、連戦連敗の状態が続いているのである。

日本再生への道標

 最後に我が国がこれから再生へ向けて進むべき道標について示したい。

1.先ず第一に先の大戦で散華された英霊の慰霊と残された遺骨の収拾である。
   先の大戦に於いて、我が国は、仕掛けられた戦争に対し、やむなく決然と立ち上がり、我が将兵は祖国の存亡をかけ東亜の解放を願って勇猛果敢に立派に戦ったのである。この史実を国民の多くが認識し、東京裁判史観とGHQ工作の呪縛を解き、200万余柱の英霊に対し感謝の誠を捧げて御霊を安んじ奉り、我が国再生への御加護を祈念しなければならない。そして、今なお各地の戦跡に眠る百100万余柱の英霊の遺骨収拾を国家として全力で行い、首相閣僚はもとより、天皇陛下の靖国神社御親拝を実現した時が、真に我が民族が誇りと自信を取り戻した時と言えるであろう。

2.正しい歴史教科書づくりとその普及
   自国が残虐非道を尽くした侵略国家であったと教えられて育った子供たちに、健全な精神が育成されるはずはない。歴史教科書から虚偽の自虐史観を一掃し、子供たちが自国に対して誇りと自信を持てるようになる教科書づくりとその普及が急務である。

3.家族家庭の再生
   現在、我が国は深刻な少子化問題を抱えているが、子供は国や社会が育てるのではなく、親が育てるのが第一義である。戦後の混乱期に於いて、我が父祖は、日々の食糧に事欠く中にあっても懸命に子供を育てた。少子化対策として子供手当や婚外子支援、はたまた外国人労働者の導入を唱える徒輩がいるが、本末転倒も甚だしい。先ずは、我が国の家庭の雰囲気が温和に保持され、家族の絆と祖先を敬い家系を守る気概を養うことが最重要課題であり、ジェンダ・フリー、過激な性教育、夫婦別姓、男女共同参画などによって家族破壊を押し進めてきたことが少子化の元凶である。

4.グローバリズムとの対決
  ゲェテは「親和力」に於いて、「種に於いて完成されたものが、初めて種を超えて普遍性を持つ」と述べているが(13)、世界中を席巻するグローバリズムの波は「種」としての「民族国家の個性」を喪失せしめ、世界をボーダレスで無性格な弱肉強食の草刈り場と化そうとするものである。むしろ、今、我が国がなすべきは、世界情勢の動向を諦視しつつ、グローバリズムの波を巧みにかわしながら、グローバリズムによって破壊された我が国本来の社会構造基盤の再生に努めるべきである。
  
 今や国力が衰退傾向に陥り、半ば手負いの獅子となりつつあるアメリカは、昨今のTPP問題にとどまらず、今後一層凶暴になり、自らの国益追求のために更に過激な攻撃を仕掛けてくるように思えてならない。

5.自主憲法制定
  自主憲法制定については多くを触れないが、立案に先立ち、「万古不易、我が国を我が国たらしめてきた根源は何か」、「我が祖先が建国以来築き守ってきた国柄(国体)や伝統とは何か」を見つめ直し、次に「自主防衛体制」の確立を目指すことが最重要課題と考える。そもそも自国の防衛を駐留費を払って他国に依存する国は真の独立国家とは言えない。我が国がこの二つの課題の回復に努めるようになれば、現在我が国が抱えている多くのの難問は解決の方向に向かうに違いない。

6.孤独を恐れず、我が国の正しさを正面に掲げて米中韓との激論を戦わす
   アメリカは我が国と近隣諸国との友好を望まない。東京裁判によって突然表に出された「南京大虐殺」(25)、アメリカの後ろ盾によって大統領となった李承晩による「竹島不法占拠」、ヤルタ秘密協定によって生じた「ソ連の北方領土不法占拠」等、アメリカは戦後、我が国と近隣諸国との間に対立の火種を意図的に残した。今日でも、2007年の米下院に於ける「従軍慰安婦問題の対日謝罪要求決議」に代表されるような楔を打ち込み、「六カ国協議」という茶番劇を繰り返しながら北朝鮮の核開発もなし崩し的に容認し、中国の軍拡も、自国の軍事プレゼンスの正当化のために必要としているのではないかとさえ疑われる。

 中韓との軋轢は謝罪し補償することでは永久に解決されない。我が国は孤独を恐れず、支那事変は支那側からの突然の攻撃によって勃発したこと、そして、「南京大虐殺」も「従軍慰安婦問題」も全くの虚偽捏造であることを主張して「村山談話」と「河野談話」を破棄無効とし、韓国が今日有るのは、日本の統治と戦後の経済や技術支援の寄与大なることを堂々と正面に掲げた中韓との真っ向勝負の激論を戦わさなければこの問題を解決することは出来ない。あわせて大東亜戦争もアメリカが仕掛けた戦争であることを主張して「東京裁判」を否定しなければならない。その時、米国、中国、韓国は彼らの主張する正義が崩壊するためにそれを最も恐れているのであり、他のアジア諸国からは必ずや支持と歓迎を受けるであろう。それを乗り越えて初めて「大東亜戦争の世界史的意義」が明らかになり、我が国は世界の平和と繁栄に貢献する国として世界史の新たなステージに立ち、「日米百五十年戦争」にも終止符を打つ道が開けるものと確信する。

 我が国は今日なお、GHQによる日本弱体化工作の毒が全身に回っており、内閣が代わるたびに「村山談話」を踏絵にし、今日では虚偽捏造であることが明らかになった「南京大虐殺」についても、それを記載しなければ教科書検定に合格しない自己検閲状態が続き、病膏肓に入っている感がある。

 しかし、潮流は表層が東から西へ向かっているようでも、下層では逆に西から東へ向かっていることがあるように、また、「陰窮まって陽を生ず」とも言い、昨今の「河村市長発言」や「石原都知事の尖閣購入発言」を支援する国民的なうねりが見られ、日本を貶め続けてきた「従軍慰安婦問題」はもとより「バターン死の行進」も憂国の史家の努力によって、全くの虚偽捏造であることが明らかになって来た。また、1951年5月の米国上院軍事外交合同委員会に於ける「連合国側の経済封鎖によって追い詰められた日本が、主に自衛(安全保障)上の理由から戦争に走った」とのマッカーサ―発言が、都立高校の、平成24年度版地理歴史教材に新たに記載されることになり、底流では、我が国再生への流れが勢いを増して来ているように思われる。

 平成25年は20年毎に斎行されてきた伊勢神宮の式年遷宮の年に当る。神宮の御社が東の敷地から西の敷地へお移りになる時は、国威発揚の時期であると言われており(14)、これからの20年が、日本が本来の日本を取り戻し、世界に向かって羽ばたくために、孤独を恐れず、宿命としての孤独に耐え、眦を決して戦う秋である。

 註3                                                
(10)来栖三郎著「大東亜戦争の発火点・日米交渉の経緯」〔GHQ焚書図書〕。
(11)この書簡は、米軍の手に渡り(ルーズヴェルトは4月12日に急死)、原本はアナポリス海軍兵学校に保管されているが、その写しが靖国神社遊就館に展示されている。欧米列強の東洋侵略に対し下記のように抗議している下りがある。
     *卿等は既に充分なる繁栄にも満足することなく、数百年来の卿等の搾取より免れんとする是等憐れむべき人類の希望の芽を何が故に嫰葉(ワカバ)において摘み取らんとするや。ただ東洋のものを東洋に帰すに過ぎざるや。卿等何すれぞ斯くの如く貪欲にしてかつ狭量なる。
(12)東京裁判に於ける、東條・キーナン対決に於いて、東條元首相は「乙案のどの一項目でも、あなたのお国が受諾したら、真に太平洋の平和を欲し、互譲の精神をもって臨んでくれれば、戦争は起こらなかった(要約)」と述べている。
(13)「親和力」第2部9章の「オッティーリエの日記から」に次のように書かれている。「ある調べで鳴いているかぎりは、ナイチンゲール(夜啼き鶯)もまだ鳥である。しかしその調べを超えると、ナイチンゲールという鳥の種類の枠を超えてしまい、およそ鳥が歌を歌うとはどのようなことであるかを鳥一般に知らしめているように思われる。種に於いて完成されたものは種を超えていくに違いない。それは何か別のもの、比類を絶したものになっていくに違いない」。
(14)多少の周期のずれや、時代に応じた転調はあるが、明治開国以降の約150年を振り返ると下記のようになる。
     *第55回(明治2年、東の敷地へ)維新後の国づくり期。第56回(明治22年、西の敷地へ)日清日露の戦役を経て世界へ飛躍。第57回(明治42年、東の敷地へ)大正時代を中心とする低迷期。第58回(昭和4年、西の敷地へ)満州事変から大東亜戦争へ。第59回(昭和28年、東の敷地へ)戦後の復興期。第60回(昭和48年、西の敷地へ)日本経済の安定成長期。ジャパン・アズ・ナンバーワン。第61回(平成5年、東の敷地へ)バブル崩壊と失われた20年。第62回(平成25年、西の敷地へ)真の日本再生期。

文:中村敏幸

「中村敏幸さんの当選作(三)」への4件のフィードバック

  1.  あらためて中村氏の論文を精読したが、実に見事な近現代史観である。様々な歴史事象の表裏を洞察し因果関係を整然と筋立てるのみならず、国家・民族の根底にあるそれぞれの世界観(信仰)をも見据えての考察は、中村氏の史観の次元の高さを物語っている。

     中村氏は、吾が国・日本民族の世界観、民族固有の信仰である「神道」に造詣が深いとお見受けする。対するアメリカのそれは、ピューリタニズムであると洞察しておられる。WASPの国であると云われる所以である。しかし、それは「曾てはそうであった」と云うことであり、現在は、根底的に変質しているように思われる。

     それを端的に言えば、アメリカの主は、既にWASPではなく、FRBを握って合衆国政府から世界の基軸通貨であるドルを刷るごとに巨額の利息をむしり取る国際金融資本であり、彼らにアメリカ合衆国に対する帰属意識(愛国心)は無く、彼らの価値観は、無国籍のグローバリズムであり、実はユダヤ教の信仰そのものであると思われる。

    「ユダヤ教」は、コスモスとしての自然を否定する一神教であり、ユダヤ民族のみを選民とし、他民族はゴイム(畜類)とし、その存在と文化を否定する独善排他の信仰であり、現下、世界を覆い尽くしつつあるグローバリズムはそのような疑似世界観に根差すものであると考える。

     それに対し、吾が日本民族のミュトスに基づく「神道」は、コスモスとしての自然につながる信仰であり、日本民族のみならず、あらゆる民族の存在と文化を肯定し、それぞれに「処を得さしめる」世界観である。そして、世界の諸民族が自らのミュトスに基づく信仰を「ユダヤ教」とその同根から派生した「キリスト教」や「イスラム教」に次第に根絶やしにされ、今や神話と遺跡しか残っていない中、日本の「神道」のみが、民族のミュトスを淵源とする「天皇」と、その天皇による「宮中祭祀」の存続により、奇跡的に生命をつないでいる、と云う真実に着目しなければならないと考える。

     中村氏は論文の最終章「日本再生への道標」の「4 グローバリズムとの対決」において、ゲーテの「親和力」を引用しながら「種において完成されたものが、初めて種を超えて普遍を持つ」ことと、「現下、世界中を席巻しているグローバリズムの波が「種」としての「民族国家の個性」を喪失せしめ、世界をボーダレスで無性格な弱肉強食の草刈り場に化そうとしている」ことを指摘し警鐘を鳴らしている。炯眼であると思う。

     このグローバリズムの最大の敵は、完成された「種」において、様々な「種」が相互の存在と文化を肯定しながら共生するという「普遍」が確立することであろう。私は、大日本帝国が大東亜戦争において「八紘一宇」を掲げてアジアの植民地を解放したダイナミズムに、その価値観の源泉となった「天皇と神道」の存在に「種の完成に向かう姿」を観る。

     WASPの国であったアメリカに寄生し、やがてこれを乗っ取った国際金融資本(=ユダヤ国際勢力)(おそらく、ウィルソン大統領を使嗾しFRBを手中に収めた頃に確立したであろう)が、日本を目の敵とし、究極の敵として叩き潰そうとし、現下、将に止めを刺そうとしている、その理由の根源の根源は、このあたりにあるのではあるまいか。
     遠からず「世界観の相克としての日米戦争」と云う観点から論考をまとめてみたいと思っている。
     それを触発してくれた中村氏の卓論に深甚の敬意を表し、深謝申し上げるものである。

  2. 日米の角逐はその淵源を彼等のキリスト教布教のアメリカに残された最後にの処女地でありすでに他の布教の地は列強たちに押さえられてていた。また門戸開放を求めたマーケットに立ち塞がったちっぽけな日本のシナ進出で邪魔された怒りが起因していると思います。対シナを函数として日米関係は成り立ってている。

  3. 1月23日の本論文(一)への「コメント1」に補足させていただきます。
    『聖書』の旧約と新約の相違を明記した次の部分があります。
    「ガラテヤ人の手紙」3章23-25(口語訳)
    以下、「信仰」は新約、「律法」は旧約の意味。

    23しかし、信仰が現れる前には、わたしたちは律法の下で監視されており、やがて啓示される信仰の時まで閉じ込められていた。24このようにして律法は、信仰によって義とされるために、わたしたちをキリストに連れて行く養育掛となったのである。25しかし、いったん信仰が現れた以上、わたしたちは、もはや養育掛のもとにはいない。

  4. 従軍慰安婦問題、竹島・尖閣などの領土問題、日本海呼称問題、日本文化起源捏造問題などを英語や仏蘭西語などの多言語の動画という形で日本の主張を世界に発信しているWJFプロジェクトをご支援ください。日本の農業制度・医療制度など日本国民の生活と伝統文化を破壊するTPPの危険性を訴える動画もございます。沖縄の分離独立を促進し、中国併合への道筋を整え、日本の国家解体につながる道州制に反対します。

    WJFプロジェクト
    http://wondrousjapanforever.cocolog-nifty.com/blog/

    道州制: 何が問題なのか
    http://wondrousjapanforever.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-4d2b.html

    世界史の中に穿たれた楔: 原爆と東京裁判史観と対米従属
    http://wondrousjapanforever.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/post-4ce0.html

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