アメリカとグローバリズム(二)

 ―グローバリズムの三つのベクトル?  河内隆彌

キレイごととしての理念的グローバリズムの裏側には、三つのベクトルがある、というのが私見である。

① 理想主義リベラル・グローバリズム
② 社会主義リベラル・グローバリズム
③ ウォールストリート・ビッグビジネス(コーポラティズム)グローバリズム

以下それぞれを説明する。

① 理想主義リベラル・グローバリズム
 キレイごとそのままの理念的グローバリズムで、一般大衆が希求してやまないグローバリズムである。要は、「戦争のない、平和な一つの世界(ワン・ワールド)」、「民主主義の自由で平等な一つの世界、人類の愛の世界」、「山のあなたの空遠く、あるのではないか、と信じられている世界」である。

 99%くらいの人がそう思っているだろうか?②③のダブルスタンダードに簡単に引っかかってしまう人たちのベクトルである。

 最近、適菜収という人が、著書で「B層」と名づける人々である。その定義は次のとおり:
グローバリズム、改革、維新といったキーワードに惹きつけられる層、単なる無知ではない、新聞を丹念に読み。テレビニュースを熱心に見て、自分たちが合理的で、理性的であると信じている。権威を嫌う一方で権威に弱く、テレビ、新聞、政治家や大学教授の言葉を鵜呑みにし、踊らされ、騙されたと憤慨し、その後も永遠に騙され続ける存在である。

② 社会主義リベラル・グローバリズム
 その淵源がマルキシズムにある、本当の?左翼のリベラリズムである。かれらはマルキシズムの普遍主義を化体して、社会主義ワン・ワールドをめざす。ロシア革命で成功しかかったが、統治の方法論を持っていなかったために、スターリンの独裁主義を呼び、その死後は単なる官僚主義に陥って冷戦に敗れた。そのあと中国が引き継いだが、これはもう相当変質してきている。むしろ③のウォールストリート・ビッグビジネスグローバリズムと相性が良くなってきているように思われる。

③ ウォールストリート・ビッグビジネス(コーポラティズム)グローバリズム
 むかしからそうであるが、金融には国境がない。改めてユダヤ人陰謀説を唱えるわけでもないが、ヨーロッパ文明における主たる金融の従事者は、国境を持たないユダヤ人であった。ウォールストリート・グローバリズムもあえて説明するまでもない。かれらは戦争そのものでも儲けるし、景気の上昇場面、下降場面双方でも儲けることができる。また1970年代以降の変動為替相場制、1980年代のいわゆる金融ビッグ・バン以降資本取引はほとんど制約なしに行われる状況となって、投資活動も国境を超えて行われることとなった。

 1950年代、経済の27%を占めていたアメリカの製造業は、2010年、11%となり、製造業労働人口は、非農業部門の9%にまで下がって、国民国家としてとらえた工業国アメリカ(地理的概念における)はブキャナンの嘆くように崩壊してしまった。しかし、いまウォールストリートと、アメリカを原点とする多国籍、無国籍ビッグ・ビジネスのグローバリズムは、「わが世の春」を謳歌している。

 かれらは、いっとき、「大きい連邦政府」の敵として、ニューディールに反対してきたが、タックス・ヘイブンというような税金を払わないで済む方法も編みだした。いまや、この③のグローバリズムは、税金を払わないで済むなら、むしろ「強い政府」は有利である。「回転ドア・システム」と呼ばれる、政権との人事交流を通じて、自らに有利な法制を設定しており、いまや一人勝ちの状況にある。

 以上三つのグローバリズムはお互いに複雑に絡み合っている。①はどちらかというと受動的な側面があるので、常に②と③のベクトルに引っ張られる側面がある。逆にいえば②と③に虎視眈眈と狙われているのである。

 以下極めて大胆というより乱暴な私見を述べれば、いま②はほとんど世界的に力を失ってきていて、むしろ③と重ね合わさってきている?猖獗を極めているのが、③のウォールストリート・ビッグビジネスグローバリズムである。これはまた、効率化という至上命題のもと、より安価な労働力を求める形で世界中に拡散している。

 アフリカ系のオバマがなぜ大統領になれたか?ある意味で、ポリティカル・コレクトネスというか、白人の黒人に対する歴史的な差別に関する贖罪意識のなせるわざ、という論評もあった。2012年は、2008年よりもかなり苦戦したが、ロムニーを破って2期目を獲得した。選挙前は「貧乏人の味方」のような顔つきだったが、いまオバマもウォールストリートの代理人であることがはっきりしてきた。

 オバマ登場のきっかけは、2004年の民主党党大会でケリーの応援演説をしたとき、ご他聞に洩れず「建国の精神に戻れ」と格差社会を批判して一躍名を挙げた。ふたを開けてみれば、オバマの大統領選には、かなりウォールストリートから資金が出ていたことがわかった。ノーベル平和賞の受賞演説では、「必要で正当な戦争はある」と断言した。アフガン戦争は継続して、ブッシュのネオコン路線を継承した。リベラル向けには「同性婚」への支持を鮮明にした。

 いま、共和党か民主党か、保守かリベラルか、という論議にはあまり意味がないようである。国内、国外政策ともに大差がなくなってきている。大きな二項対立があるとすれば、(アメリカだけではないが)グローバリストか、アンチ・グローバリストか、という視点が重要になるように思われる。

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