ZAITENより

 ZAITENという文字を見て何のことかお分かりだろうか。「財界展望」という雑誌の改称である。由緒のある、古い雑誌である。どうしてこんな改題がなされるのか分らないが、そのZAITENから拙著『憂国のリアリズム』についての次のようなインタビューを受けたので、ご報告する。

ZAITEN著者インタビュー

憂国のリアリズム 憂国のリアリズム
(2013/07/11)
西尾幹二

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――3年間続いた民主党政権を「全共闘内閣」とお書きになっています。

 仙石由人、枝野幸男、海江田万里ら民主党の各氏は、もともと全共闘の活動家でした。菅直人も鳩山由紀夫も似たようなものです。彼らは、国際政治という観点を無視して主観的な平和主義を唱える勢力といっていいでしょう。民主党政権が行ったことは、現実がまったく見えていないママゴト民主主義です。

――先の選挙で自民党が政権に返り咲き、安倍内閣が誕生しました。安倍政権の課題として、①中国共産党体制の打破、②憲法改正、③不可解なグローバリズムにどう立ち向かうか――の3つを挙げています。

 まず中国ですが、なぜアジアではベルリンの壁の崩壊が起きないのか。中国共産党の一党支配が強固だからではありません。共産党が一党支配を保ったまま同時に金融資本主義を身にまとい、異様な二重体制となり、アメリカがそれを許容しているからです。しかし、この状況がアジア版ベルリンの壁崩壊とも言える。ソ連が崩壊したように、中国も体制の転換をすべき時が来ています。

――憲法改正の真意は。

 憲法改正は歴史問題と第二次世界大戦の罪を一方的に押し付けられるのは終わりにすべきだということです。歴史と政治は別でなければならない。かつてアメリカとソ連は歴史的に対立してきましたが、今両国が政治や外交問題を議論する時、歴史を持ち出すことはしません。両国は大国だからです。憲法改正で重要なのは、日本を侵略国と断罪した戦勝国の歴史観からの脱却です。

――不可解なグローバリズムとは、どういうものでしょうか。

 ひと言で言いますと、FRB(米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会)はアメリカの国営銀行ではありません。ただの民間銀行で、ユダヤ系です。それがアメリカの金融政策の策定を行っている。選挙で選ばれた人たちではない。“奥の院”がアメリカを動かしているわけで、アメリカ国民にとって、民主主義は本当に存在するのか、という問題です。

 中国も同じです。中国共産党の幹部たちは、中国国民とは関係ありません。もちろん、選挙で選ばれたわけでもありません。彼らは巨額を国外に持ち出す“犯罪者集団”です。このように、正体の見えない不可解なグローバリズムが世界中を覆っていて、どこかで一つに繫がっているのかもしれないのです。

――安倍政権では、集団的自衛権を認めようとする動きがあります。

 認めるのは良いのですが、集団的自衛権は双務的な相互条約です。集団的自衛権を認めるならば、同時に米軍基地の撤廃が主張されるべきです。本来なら、すぐに米軍基地撤廃は無理にしても、例えば「まずは横田基地から」といった議論が沸き起こるべきなのです。集団的自衛権を議論するなら、そこまでの覚悟が必要なのですが、肝心なことは誰ひとり話題にしません。

――本の中で、「東京裁判について議論する必要はない。戦争責任論もナンセンス」と主張されています。

 戦争責任という概念は、第二次世界大戦中はありませんでした。戦後になって突如出てきたものです。戦勝国が敗戦国の責任を追及することは、敗戦国を未来永劫にわたって封じ込める手段としての意味が強いのです。世界的にも戦争責任という概念は、アメリカの南北戦争、南軍の罪を問うたリンカーンが最初です。そして、ナチスを裁いたニュルンベルク裁判で「人道に対する罪」というものが打ち出されます。それ以前は、どんな戦争でも、国家のために戦った軍人が罪に問われることはなかったのです。

――先の大戦で日本は「人道に対する罪」は犯していないのでしょうか。

 もともと「人道の罪」などないのですが、戦勝国が言うところの「人道の罪」を日本は一切犯していません。ナチスには強制収容所やホロコーストがありましたが、日本にはそういった絶滅収容所はありません。そもそもアメリカが日本と戦争を行った目的が存在しないのです。ナチスに対する戦争目的はあったかもしれませんが、日本に対する万人に納得のいく戦争目的をアメリカはいまだに説明することができません。

――連合国にとっては、ファシズムに対する戦争だったというのが一般的ですが。

 とんでもない話です。ファシズムを日本に当てはめることはできません。「天皇制ファシズム」とは、戦後左翼が言い出したことで、天皇制とファシズムが一つになることはありえません。ファシズムとは、総統(独裁者)がいて、党が政府を支配し、強制収容所がある、この3つの条件が必要です。これを実現させた全体主義国家は、ヒトラー政権とスターリン政権だけです。当時、ファシズムに最も近かったのは、アジアでは蒋介石の国民党政府です。ヒトラーとスターリンに並行するのは蒋介石と毛沢東です。天皇を戴く日本では、総統は出ず、ファシズムは成り立ちません。

2013年10月号より

「ZAITENより」への3件のフィードバック

  1. NHKのジャパン・デビューの台湾報道に関して画期的な判決がでましたね。本判決結果はNHKの異常性を容赦なく指摘したものになっています。
    これについては報道後から多くの日本の有志が立ち上がってNHKの異常性を問題にしました。西尾先生などの過去のご努力がこういう形で実を結びつつあるのだと思います。誠に喜ばしいことですが、今後も追及を緩めるべきではないと思います。
    この捏造の意図は、「人間動物園」という用語で日本と台湾の友情を断ち切ろうとするという異常な狡猾性を示してます。背後に異常偏向した学者がいることは間違いありません。
    たしかに長谷川如是閑などが西洋におけるこの種の催しを見世物と嫌悪して一種の動物園と形容したこともありますが、文脈がまったく違います。長谷川如是閑は西洋人を批判するために用いています。NHKはひたすら日本をおとしめ台湾の親日感情を破壊するために用いています。

    報道での異様な偏向を告発するのは重要なことですが、入試なども同様です。1ヶ月くらい後にセンター試験を控えていますが、こういうものも馬鹿にしないで目を放さないようにする必要があります。
    以前に西尾先生が書かれた下記の言葉は今も真実です。

    「新しい歴史教科書をつくる会の目的は何かというと、教科書を
    つくることが第一義ですが、もう一つはそれに関係して、
    歴史教育の過誤に対し理論闘争をすることです。
    日本史学会という所は間違いもなく左翼に占領されています。
    彼らは教科書を好き勝手にしているだけでなく、センター試験まで
    自由に利用できる強い立場を得ているのです。この敵の本丸を
    壊さなくてはなにごとも動きだしません。
    大学入試センター試験では平成12年度にも、マッカーサーの
    し残した仕事として天皇制度廃絶を選ばせるトンデモナイ出題が
    なされ、われわれは激しく抗議しました。しかし、受験生の側に
    「これはひどい」と怒る声はなく、そのままになりました。
    しかし「強制連行」には、「これはひどい」と怒り、裁判をすると
    手を上げる受験生が出現したのです。日本史の方でも裁判に参加する声
    を上げている人がいます。たぶん連名で本訴に進むでしょう。
    小さいながらこれは前進です。若い人の間に歴史学会の間違い、
    官製の歴史認識の間違いに気づき、怒りの声を上げるほどの人が
    出てきたのです。一大変化でなくてなんでありましょう。
    理論闘争が一歩づつでも効果をあげている証拠ではありませんか」

    戦後の歴史学は共産主義者が主導しました。そしてことあるごとに
    日中、日韓、日台を互いに争わせるために、ことごとく歴史を
    歪曲して、歴史認識を政治問題化してきました。
    破壊的なのは朝日新聞やNHKなど主要メディアを完全に支配下に
    置いてコントロールしてきたこと、日教組など下部組織としか
    思えない教育団体を手先として幼年のころから日本人の洗脳を
    はじめて、共産主義イデオロギーが崩壊した後は、日本をひたすら
    誹謗中傷して未来志向のアジア関係を日本が築けないように
    ありとあらゆる妨害をしてきました。
    この客観的事実をひとりでも多くの日本人に知らせて危機感を
    もっていただくことが必要と毎日考えています。

  2. 上記に追加です。
    「人間動物園」以外に「日台戦争」という用語も使われましたね。

    日本の反日左翼学者は韓国の反日感情を煽って「韓国併合は侵略である」
    という定義を定着させようとしました。
    徹底的にこの線で反日左翼が韓国を煽ったので、韓国は時代を経るごとに
    歴史認識を政治問題化する方向に進みました。

    この韓国に対してやったことを連中は台湾に対してもやろうとしました。
    けれども台湾は韓国と違って学問の自由があります。反日でなければ
    正統な学問でないと認められず弾圧されるという異常なグロテスク国家
    ではないので日本の反日左翼の詐欺にも引っかかりませんでした。

  3. NHKの話題をだしましたので、西尾先生の「憂国のリアリズム」から特に注目すべき、また日本人が熟読すべき箇所を引用させていただきます。もし著作権上の問題がありましたら削除してください。

    (以下、「憂国のリアリズム」の「ノンポリ中立主義の仮面の恐怖 -NHKをどう考えるか」より)
    (引用開始)
    歴史の大企画全集というものがある。むかしよく買っていた。十年ほど前に講談社の『日本の歴史』シリーズ全二十六巻と中央公論社の『日本の中世』シリーズ全十二巻が、私の買った最後のシリーズものである。どちらも網野善彦が中心的役割を果たしていた。
    よしんば網野が大きな役割を果たしていたとしても、大企画全集は一人ではできない。歴史学会が総力を挙げ、長い時間をかけて練り上げた計画の実現であろう。
    右の二つの全集で中軸を担っているのは網野を始めとする共産党直系の確信犯左翼である。しかし全員がそうだとするわけにはいかない。ノンポリの中立派で、世間から篤実な学者風と認められている人がちりばめられている。講談社版では誰が中立派で誰が左翼かの全部を私は言い当てることはできない。『日本の中世』の場合には、第一巻「中世のかたち」を書いた故石井進(東大文学部教授)が中道の役割である。この場合の編集は網野善彦・石井進の二名になっている。中道の人の名前は全集がいかにも公平で、知的に公正な学問的客観性を持っているかのごときイメージを世間に与えるのに寄与している。この中立的立場の人はむかしから「オトリ」とみなされている。
    日共系の歴史学者たちの総本山に石母田正(いしもだ・ただし)という古代史学者がいた。この石母田と理想的な師弟関係を結んでいたのが網野善彦で、彼は火炎ビン闘争時代の日共党員であった。その後挫折し、苦労を重ね、学会の主流を免れたが、有能さゆえに中世史学会で仕事を重ね、覇を唱え、歴史マスコミの実権を握った。2004年に亡くなるまで、彼は時代の寵児となり、歴史だけでなく、人文系学問の全般に対して大きな顔をしていたことはまだ多くの人の記憶にあるだろう。
    しかし彼はその反日的思想ゆえに単独では力を発揮できない。学問的中立を演じなければ世間の広い信用は得られない。そこで石井進のようなノンポリの手堅い地道な学者の利用価値が出てくる。出版社も左翼も中立を仮装したい。マスコミの世界におけるこの中立的立場の人々が昔から「オトリ」とみなされていることはいま述べたが、『日本の中世』という全集で石井進がその役を果たしていることは紛れもない。
    (中略)
    私はいまNHKのことを語る前に歴史学会のことを語っているが、じつは心理構造は同じであり、メカニズムは同じだろうと見ているのである。
    今述べた暗黙の禁止が支配する学会の構造は大学の教授会、とりわけ東京大学教授会のようなところを支配してきたメカニズムで、偏向はおそらく教育学部において最も著しく、工学部において最も少ないと観察される。学科の中では今見てきた文学部日本史学科が最悪であることは自他ともに承認されるであろう。がんらい歴史は言語の世界であり、文学と境を接するのにもかかわらず、歴史は科学であると主張し、科学的合理主義という名の迷信に支配される度合いが最も甚だしい分野である。
    (中略)
    NHK内部の人事も、出演者の選別も、おそらく同様な、このような目に見えない手によってすべては言葉に出さずに行われるのであろう。そして触れてはならない「禁止」を守護することが繰り返され、タブーはだんだん複雑に重層的に再生産されていくのであろう。・・・
    (以上)

    おそろしいほど日本の高度経済成長以降の戦後左翼の習性をえぐりだしていると思います。
    この後も意味深長な内容が続き、そして「GHQ焚書図書開封」につながっていきます。読んでない方はあとは書籍を入手してお読みいただければ幸いです。

    網野善彦の歴史物はなぜか本屋で熱心にならべられてますね。また講談社がいつころからか猛烈に左翼的傾向を強めていったことに以前から驚愕しています。講談社は日本の国益を守る良い出版社というそれまでの印象が完全にひっくり返ったので、その後講談社の本は一切買わないと決めました(私は頑固者です)。
    私は歴史にほとんど興味ない一般人ですが、東大の歴史学者というと典型的には林健太郎氏や、日本史では坂本太郎氏などを思い出します。坂本太郎氏は文章も巧妙で壮麗であり、なんの業績があるかほとんど知りませんが、むかし文章を読んでファンになりました。最近、「史書を読む」という著作が目についたので断片的に読んだのですが、実に達観して飄々とした良い文章だと感じました。ネット時代になり、サラリーマンの間でも網野善彦が面白いという評価があったので本屋で書籍を手にとりましたが、皮相な記述にあふれていると思いました。左翼の方便は「庶民の目から歴史を見る」ですが、これは完璧に偽善です。実は、中国共産党や北朝鮮の独裁者にいくら人民が虐げられていても、知らないふりをして、世界中で問題にされていても、ほんとうに屁とも思わなかった連中だったのです。日本の体制がひたすら憎らしくて、歴史のゴミ箱を漁って、ありとあらゆる反体制的衝動を発掘して、自分と同じ似たものどうしを見出しただけです(しかもこじつけ)。「歴史は鏡」とはよく言ったものです。また網野の価値中立的な研究もなんら科学的でないと直感しました。統計学的概念もほとんど棚上げして個別の事象群に奇妙なイマジネーションを発揮しただけではないでしょうか。物理学の概念の「場」という用語の無茶振りも滑稽でした。

    「歴史は科学である」。共産主義者はどこの国でも「科学」を隠れ蓑にしてやりたい放題をやってきました。科学とは暗黙のうちに自然科学を示しますが、自然科学とは理論と実験がセットになり両者が厳格な相互批判により堅実に定理群などを蓄積していくもので現代物理学などは別格ですが思想の入り込む余地すらありません。ところが共産主義者は思想を最上部におき、思想で理論を統制し選別し、思想で実験環境をコントロールし、思想で実験結果を脚色しました。もうとんでもない、ただの無限大のデタラメとしか言い様のないシロモノです。

    私は何十年後かの趣味のライフワークのひとつとして考えているのが、左翼歴史学者の大物である井上清(羽仁五郎の弟子)の全論文と著作物の分析です。けれども正直時間をそんな畑違いのものに使いたくないので、本業である若い研究者等にやる人がでないか期待しています。全部を調べあげれば、日本の戦後共産主義左翼の本質がうかびあがってくるはずです。ちなみに井上清の「尖閣諸島は中国領」の論文はいかにも中立を装った内容になっていますが、現在その内容はほとんど論破されてます。<いかに中立を装った内容で偏向を盛り込むか>、そして核兵器で日本を恫喝する中国に対して<良心的日本の学者は尖閣が中国のものだと認めている>と滑稽な理論的基盤を与えて、日本を外交的に不利に突き落とすか。これに関して共産主義学者はぞっとするほどタフで悪知恵に長けていることがわかります。
    ちなみに井上清は過去の著作で中国の文化大革命のことを「文化大革命は、資本主義が復活するのを防ぐ保障をうちたて社会主義を発展させる、それは数千年の私有財産制下につくられてきた人間とは根本的にちがう人間をつくることですから、一度や二度の文化大革命で、できるはずもなく、これから何回もくり返し何十年もかかるだろう、毛沢東はそこまで視野にいれているわけです。文革の中国こそ現代の世界史の頂点である」と途方もない絶賛をしています。こういうデタラメな連中が日本の歴史学を何十年もかきまわしてきたのだから、この後遺症はあと100年は続くかもしれないと思われ、憂鬱になってきますが、頑張って新しい世代が改善していってほしいものです。

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