百鬼夜行の世界

 このところ東アジア太平洋地域には信じられない出来事が相次いでいる。マレーシア航空の行方不明事件も、韓国のセウル号沈没事件も、機長や船長に不明な点があった。謎はたぶん解明されないだろう。台湾の議会占拠事件はアジアの一大変動の兆しとみえなくはないが、日本のメディアが積極的に報道しないことが謎だ。

 が、何といっても最大級の謎は、北朝鮮の帳成沢粛清劇だった。その後直系親族が孫に至るまで処刑され、すでに200人以上、関係者全員含めると500人以上が処刑されたと聞く。拘束した大量の政治犯を送り込むために、閉鎖されていた収容所の一つが急遽再開されたそうだ。

 一族に刑死が及ぶこんな話は、わが国の歴史では秀吉の怒りを買って三条河原で遺児、側室、侍女ら39人の首がはねられた秀次事件を思い出させる以外に他に例がないほど、遠い遠い出来事である。

 私たちはまったく正体の見えない恐ろしい不明のもやに包まれて、地上の現実について何も真実を知らされずに暮らしている気がする。

 横田滋・早紀江さん夫妻がモンゴル・ウランバートルで孫娘と初めて会ったニュースが3月にあったが、ひょっとしたらご夫妻はあのときめぐみさんに引き合わされたのではないかとの噂を聞く。もちろん噂である。韓国が中国にすり寄り、北朝鮮が日米に接近する力学はたしかに存在する。

 北朝鮮はミャンマーに次いで、地上に残された最後の未開の市場、豊富な鉱物資源と安い労働力の魅惑の地だ、とアメリカ人にも中国人にも思われているであろう、と話す人がいた。何かが起こるかもしれない。恐ろしいことにつながらなければ良いが、とのみ願う。

 ウクライナをめぐる新しい米露対立は、私は無能なオバマ政権の躓きの現れと「正論」5月号に書いたが、アメリカの仕掛けた罠にロシアがはまったのだと言う人もいる。フーン、と私は唸った。

 アメリカは戦争の種子をさがしている。自分はまきこまれず、他国に戦争をさせる紛争地をつねに必要とする。オバマはなにものかの手先に使われているのに違いない。ウクライナは恰好の舞台だ、というのだ。そんなこともあるまいと思っていたら、ウクライナの金塊がアメリカにいち早く持ち出されている、という。カラパチア山脈周辺に新たな金鉱脈が発見されてもいて、金塊と金鉱脈をロシアの手に渡るのを抑えるのがウクライナ紛争の真相であった、というのだ。ならばプーチンはクリミアだけで満足せずに、ウクライナの西部へ進出する機会をいつまでもうかがいつづけるであろう。

 アメリカがいま一番警戒しているのはロシアと中国が手を結ぶことである。ロシアと中国はアメリカのドル支配からの脱却を願っている点で利害が一致している。ロシアと中国の連繋を断つのに最も有効な位置にあるのは、アメリカではなくわが日本であろう。ロシアはメイド・イン・ロシアの産品が売れるような産業国家に何としてもなりたい。それがプーチンの夢だ。プーチンの日本接近には理由があるのである。

 安倍オバマ会談でそんな話は出たのだろうか。中露接近を防ぎたいオバマに、安倍さんが「任せて下さい。北方領土と引き換えに日本はあの国を西側と同じ産業国家にすることで、ロシアに恩を売り、中露分断を図る計略がありますよ」とか何とか、言ったであろうか。

 けれどもオバマは一方では、中国との「新型大国関係」におもねるようなことを言っている。この「新型大国関係」と「日米同盟」はそもそも両立しないのだ。この簡単な真実を、オバマはどこまで知っているのであろうか。

 なにか煮え切らないアメリカの態度に、われわれのいらいらは募り、不安が高まってくるのを今後とも避けることはできそうもない。

 私たち国民は正確な国際情報を与えられていない。首相は国民の百倍もの情報をつかんだ上で舵取りをしている。私たち国民は半ば盲人である。

 最近の私はもやに包まれて見えない世界の現実に、推理を重ねるのも正直いってやや疲れがちである。

「百鬼夜行の世界」への4件のフィードバック

  1. 気安くコメントを書いて恐縮です。コメント欄の常連みたいになってしまいましたが、西尾先生のブログを読むようになって外交問題をまた少しは真剣に考えるようになりました。一般国民にとっては生活に直接関係ないことに意識を集中するのは何かきっかけが必要です。きっかけを与えていただき有難うございます。
    ロシア政治経済ジャーナルという人気のメルマガの発行者は北野さんという日本の国益を第一に考えながらロシアのよいところは見習おうという愛国者ですが、ロシアはアメリカのCIAが火遊びをやっていると見ているそうです。その他に青山繁晴氏や佐藤優氏の解説なども動画で参考になります。
    オバマに関する分析も雑多ですが、オバマはイラクへの米軍派遣問題で米軍の高官の首を数百人切った、その恨みが米軍に根強く残っていてオバマをおとしいれようとしているなどの分析も侮れないものがあります。

    誰にも思考のクセがあると思いますが、私は日本のマスコミが判断基準であり、国民が激しく意見を二分するような問題は、まず日本のマスコミがだした結論の逆が正しいと考えております。おそろしく低レベルの意見であることは自覚しておりますが、今までずっとそうだったのですから。マスコミが北朝鮮を支援しろというときは支援しないほうが正しかったし、むかし消費税を上げるなというときは多分上げたほうが正しかったのでしょう。今は消費税上げろと主張しているので、多分消費税は上げないほうが正しいのではないかと。機密保護法も外国人地方参政権も、なにもかもマスコミの反対をいってます。朝日新聞の捏造に踊らされて慰安婦に謝れとマスコミが意見一致したときは謝罪しなかったほうが正解だったのです。マスコミが中国や米国と仲良くしろというときはその逆が、つまり警戒するのが正しいのです。マスコミがあまりに北朝鮮を敵視するようになったら、逆に北朝鮮はあまり刺激しないほうがおそらく正しいのです。マスコミが日米安保反対した時代は日米安保堅持が正しかったのでしょう。現在はマスコミが日米安保批判がトーンダウンしたから、ひょっとすると日米安保に頼りきるのは危ないという天からの警告かもしれません。とはいえ例外もあります。安部首相が憲法改正は96条からとぶちあげたときはマスコミが反対しましたが、私もちょっとまずいのではないかと思いました。まあ例外はありますが、対マスコミ天邪鬼は発動しつづけております。ウクライナ問題で最近のマスコミは欧米寄りだから、逆をいえばロシア支持ですが、それはありえないですね。個人的にはロシア人の国民性は好きです。

    戦前は外国情勢に関する情報が不足していたと同時に新聞のみの一方的情報が流れこんでいたように思いますが、最近はネットの影響もあり情報過多ともいえるでしょうか。誰かが深い意図をもって情報を発信しており大衆が踊らされている面もあるのでしょうが、それでも情報が少ないより情報が多くニュースソースも多彩なほうが、ずっとましと考えております。
    最近ネットを見て気づくのは中国からの親日的情報が、以前の著しい連日の反日ニュースとは打って変わって増えてきたことです。中国は「日本に旅行してここに感心した」「日本人のこういうところを見習おう」といった記事などが増えています。反日的ニュースにしても米国の反日を間接的に伝えるような形でオブラートに包むような洗練された工夫が見られます。この背景はなにかあるのか、中国経済が傾いてきたせいか、中国共産党の方針転換か、それとも中国共産党への不審が強まったせいか、日本人の反中がとどまるところをしらないので逆転させようとしているのか、尖閣問題で日本人を油断させようとしているのか、あるいは単純に中国側のニュース元締めの深謀遠慮の判断によるものか。まあ風向きにより、さっさと遠慮のない反日にそのうちまたもどるのかもしれませんが。

    米国と中国の関係については以前に一緒に仕事をした米国籍の人間なども言ってましたが、「中国は外から変えようとするのにはあまりに危険な国だから内部から変えさせるしかない。それもできるだけ世界に大きな損害をださないように変えさせるしかない」。まず経済的自由をもたらし、それが政治的自由を促すであろうと。そのためには米国は中国を「うまくあやしていく」しかない。その過程で日本人になんらかの「我慢」をしいるかもしれないが我慢してくれと。まあそんな意見をもっている米国人のエリートは多いのだろうと思います。
    歴史問題で米国の偉大さを過信する米国人はあいかわらず尊大ですね。最近も日本の戦争映画が日本を美化しすぎだ、加害者であったことを強調しろなどという米国人がいます。日本人を野獣扱いした米国映画をあれだけ量産しながらこう言うのです。偽善は駆逐しなければなりません。それに「日本だけおとしめれば飯がうまい」という反日左翼が便乗して相変わらず米国人、中国人などをそそのかしています。国内では劣勢になってきたものだから海外にマッチを持参して放火しています。慰安婦像問題もあり、米国人の対日感情も悪化する可能性があります。(別に悪化してもかわまないですが)

  2.  こんにちは。

     国際問題は、色々と推測したところで、そもそも、世の中は一寸先は闇なのであり、推測しても無駄であるというしかありません。

     最後はなるようにしかならないですからね。

     安倍首相は、外交で本当に頑張っていますし、実際に日韓会談(正確には米国が立ち会っていますが)を、靖国神社参拝までしながら、徹底的に韓国(及び中国)を無視するという手段を使い、向こうから頭を下げさせる形で実現させてしまいました。

     外交手腕は、近年まれに見る素晴らしいセンスを発揮しています。

     外務大臣も防衛大臣(防衛庁を防衛省に格上げしたのは第一次安倍内閣の功績です)も冷静で堅実な対応をしていて、見ていてとても頼りになると感じています。

     安倍内閣は、今できる最大限の努力をしていると見ていいでしょう。

     あとは、人事を尽くして天命を待つ、の気持ちでいるしかないかと。

     日本の平和は明日には破られるかもしれない、それならば、今日ある平和を十分に満喫するのが得策ではないでしょうか。

     かつて、西ドイツの学生が、平和とは何かと問われたとき、いまここにある平和がそれであると答えたのと一緒です。

     一日一日を大切に生きていくことが大事なんじゃないですか。

     もともと、西尾先生は特攻隊を志願する軍国少年だったはずであり、その時の気持ちが残っているならば、明日、中国との戦争が始まったら、一兵卒として最前線に立つ心構えが出来ているはずです。

     明治の元勲たちは、大久保利通でさえ、いったん急あれば、自ら一兵卒として戦う気概を持っていたサムライでした。

     男などと安っぽい言葉ではなく、今の日本に必要なのはサムライの魂を持った人間でしょう。

     それは何も男に限ったことではなく、女性であってもサムライの魂を持った人間はいるはずです。

     むしろ、今の世の中、男よりも女の方がサムライだったりするのではないでしょうか。

     ホシュを標榜する人間の中に、いくさが起こったときに、真っ先に突撃することの出来る人間が何人いることやら、非常に心許ない。

     少なくとも私は、20代の時に、自分の人生は30で終わってもいいと思って過ごしてきましたし、実際、10代、20代で特攻した日本人は大勢いたのですから、30以上まで生きられる今の日本社会で暮らしている自分は非常に恵まれていると思っていました。

     40を越えた今、自分はもう人生でやるべきことはやり尽くしたと思っていて、あとは気楽に余生を送ればいいとすら考えています。

     明日、死ぬとしても後悔はしないでしょう。

     私ははっきりと自信を持ってそう言い切ることが出来ます。

  3. ・中国の日米離間策
       先の大戦に関する歴史認識を表に出す、思い出させる
       ことで、日米の間の反目を画策する。南京大虐殺や韓国を
       使っての従軍慰安婦など、東京裁判史観への日本の反発と
       米国の対応を見ている。
    ・アメリカの日中離間策
       こりゃもう、アメリカがいつも気を使ってきたことだ。
       日中を仲良くさせてはならないと。
    ・日本の米中離間策
       まったくなし。受け身外交、経済第一主義、
       情報陰謀省をつくって、積極外交へ転換するべきである。
       米国でのロビー活動、中国への情報謀略、工作員の潜入
       中国動乱の惹起。これらの予算措置と人員を養成するべき
       である。

      

  4. 「横田夫妻が、モンゴルでめぐみさんと会った」という噂がある。
    そういう噂が出ることはありえますが、そういう事実があってそれを横田夫妻が秘密にする、ということはありえないだろうと思います。
    もちろん、世間には、考えられないことが起きますから、絶対にないとは言えません。しかし、横田夫妻は、決して口にすることはありませんが、個人的な解決よりも、救出活動をしていく中で「拉致問題全体の解決」「国家主権や国際的人道問題」を優先させなければいけないと考えているように見えます。

    佐藤勝巳氏の遺稿集が出版されました。その中に、「拉致問題」について看過できない記述があります。横田滋さんが、「家族会」の寄金を無断で使用していたという記述です。「小坂某」という北朝鮮のエージェントに騙し取られ、そのために未だに会計の引き継ぎができないでいる、というものです。

    佐藤勝巳氏の弟子であり、「救う会」「特定失踪者調査会」で活動するA氏に確認したところ「根拠もなく、なぜ、このようなことを書くのか、理解できない。そもそも、自身の一千万の使途不明金のことに一切触れず、単なる誹謗中傷を垂れ流す心理が分からない」という答えが返ってきました。しかし、一旦書かれたことは、あたかも真実のように流布していく可能性があります。

    様々な運動体に、勝手な噂がつきまとうことは人間社会の常であるかも知れませんが、その真贋を見つめる作業は、思想や歴史の真実を見つめようとする行為と似ているかも知れません。

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