21)なにか他を見るということは、その外側に目をさらしていることではなく、他から見られている自分を見ることであり、また、見ている自分を見ることを通じて、他を見ることなのである。言うは易いが、まことにこれほど難かしいことはない。
22)人はつねに自分にとって切実なことのみを語らねばならぬ。私には私自身に見えることしか見えない。君がもし、未来の世界についてかくあるべきと確信がもてるなら、そのような世界は、君にとって、生きる価値のない世界であることを知るがよい。もし未来が光輝あるものでなければならないと決まっていたら、君はいますぐ絶望するしかない。一寸先は闇である。だから生きるに値するのである。現実を解釈してはならない。君の隣人が善意でなかったことを怒る前に、なぜ君は自分の悪意に気がつかないか、自分の失敗を社会の罪にする前に、なぜ君は、成功だけは自分のせいにしたがる自分の弱さに気がつかないか。
23)もし現実の不平等にぶつかって腹をたてる人がいたなら、その人の意識はすでに平等である。平等でなければ腹が立つはずもない。
24)民主主義とは、人間相互のエゴイズムを調和させるために、ほかに仕方がないから、ある妥協の方法として生まれた消極的、相対的な政治形態でしかないのである。放置しておけば人間の欲望には際限がなく、エゴイズムの衝突は、必ず無政府状態か専制独裁か、そのいずれかに結果するしかないが、誰しも他人を独裁者にさせたくないという自分のエゴイズムをもっている。民主主義は、そういう相互のエゴイズムの調節手段としての、最悪よりも次善を選ぶ妥協の産物として成立したにすぎない。
25)人間はけっして平等にはなれない存在なのである。西洋ではそれは常識である。不平等を是認したうえで、それぞれが閉ざされた幸福を築くことをめざしていない日本のような社会では、優勝劣敗は歪んだ心理で意識下にもぐり、ただ欲求不満だけがときとして正義の仮面を被って他人への羨望の焔(ほのお)に身を焼きつくすことになろう。
出展 全集第一巻
21) P221下段より ヨーロッパ像の転換
22) P225 ヨーロッパの個人主義
23) P235下段より ヨーロッパの個人主義
24) P241上段より ヨーロッパの個人主義
25) P244下段より ヨーロッパの個人主義