高橋史朗氏の本の書評

日本が二度と立ち上がれないようにアメリカが占領期に行ったこと 日本が二度と立ち上がれないようにアメリカが占領期に行ったこと
(2014/01/29)
高橋史朗

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日本が二度と立ち上がれないようにアメリカが占領期に行ったこと
高橋史朗著(致知出版)  評・西尾幹二

作られた対日誤解や偏見

 共産党の国際機関であるコミンテルンの歴史観は日清・日露戦争も含めて日本の近代そのものを侵略戦争の歴史だと考えていた。アメリカは戦後、そんな共産主義者を利用して占領政策を実施した。日教組をつくったのもその一つだが、ソ連のコミンテルン史観とアメリカの「太平洋戦争」史観が合体し、戦後日本の歴史教育の基本となった。日本人はいわば「義眼」をはめられ、それ以来70年も外せずに今日に至っている、と著者は言い、次々と気づかないで来た事例を挙げている。

 原爆投下に対しトルーマン大統領は「獣と接するときは相手を獣として扱わねばならない」と言ったそうだ。占領軍は欧米の帝国主義への批判は許さず、「日本人は生まれつき攻撃的・侵略的・軍国主義的な国民」であると決めつけた。たくさんの日本語の使用を禁じた。「国体」や「皇国の道」の禁止は知られているが、「国家」「国民」「わが国」が禁じられていたとは私も知らなかった。「わが国」の「わが」は愛国心に繫がるからだそうである。

 臆病なまでに占領軍に気がねし自主規制したケースとして「君が代」を音楽の教科書に載せなかった文部省の例がある。敗戦の衝撃の心理現象と見るが、アメリカでは日本人の民族的性格をフロイト流に病理学的に解釈したルース・ベネディクト『菊と刀』にみられる誤解と偏見が戦中にすでに設定されていた。日本は女性蔑視の国とか、弱者虐待の国とかいう思い込みが先にあり、それが「伝統的攻撃性」を生んだと勝手な解釈に及んでいた。

 本書が、ジェフリー・ゴーラーという社会人類学者の日本人の国民性の矛盾分析、乳幼児期の厳しい用便の躾(しつけ)(トイレット・トレーニング)に矛盾の原因があるとする、首を傾(かし)げたくなるような分析を取り上げ、ベネディクトへの影響を論究しているのは新発見である。

著者は本書を中国に起こった『菊と刀』ブームから書き始めている。欧米人の対日誤解や偏見は中国に受け継がれている。否、中国人は受け継ぎたがっている。そこに現代への本書の問いかけがある。

出展 産経新聞4月6日

「高橋史朗氏の本の書評」への1件のフィードバック

  1. たしか(記憶に違いなければ)ベネディクトにかなりの予算をつけて「菊と刀」を書かせたのがルーズベルトですね。
    ルーズベルト、ルースベネディクト。二大狂人は気のせいでしょうか発音が似ています。
    それにしてもルーズベルトはすさまじい。日本への原爆投下18発すべてに気前よく承認のサインをしたとか。「日米開戦の悲劇」ハミルトン・フィッシュ著)がルーズベルトの異常性をよく解剖していて日本人必読だと思います。(ハルノートの衝撃の内容は米国議会に知らされなかった。ヨーロッパ各地へのソ連侵略を棚上げしてソ連と同盟を結び日本を執拗に追い込んでいくルーズベルトの偏執性など)
    ルースベネディクトも、日系人収容所を取材して「菊と刀」を書いたといいますが、財産も名誉もなにもかもとりあげて強制収容所にいれられた日系人や日本移民に対して罪の意識を感じなかったのでしょうか。
    竹山道雄先生はベネディクト理論をわが意を得たりと歓喜した日本人の狂態を「集団マゾヒズム」と呼びました。日本語をやめて英語かフランス語にしようと、こういう主張が熱心に繰り広げられたのは信じられない、私は当時の日本人がただひたすらナイーブであったのだと思います、「甘えの構造」とも若干違う精神構造だと思います。
    そういえば、原爆のゲも知らなかったルーズベルトに原爆の製造を進言したのが実はアインシュタインで、このアインシュタインを日本人が神様のように崇拝するのも若干集団マゾヒズムの匂いがしないわけでもありません。これがもし韓国人ならば1万年は恨み抜くでしょう。
    菊と刀が中国で読まれているとは意外でした。だれが推奨するのでしょうか。
    おそらく戦後だけで日本人論が数千冊は出版されたと見ていますが、現代は日本人論がさすがに流行らないのではないでしょうか。
    明治・大正の近代から現代までにかけて、なにかバランスのとれた1冊、しかも外国人むけに紹介すべき日本人論を1冊くらいあげよと言われたら有識者はなにをあげるのでしょうか(文芸春秋などでもそういった特集がむかし有ったような・・)。10年ほど前に外国人の問合せで私が選んだのは福沢諭吉でした。文明論概略などすばらしいと思うのですが。そのときに日本人論で有名なのはほとんどがクズみたいな本だ、日本では無名の人が書く日本人論が素晴らしい。有名な本のなかで推奨できる例外が福沢諭吉で、日本人の本質をよく突いていると答えたおぼえがあります。
    (たしか水戸藩など国学系への批判が強いので最近の思想的保守には不人気なのかもしれませんが)

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