日本はアメリカからとうに見捨てられている

『言志『 平成26年5月号より

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 私が『日本がアメリカから見捨てられる日』という本を出したのは2004年(平成16年)8月だった。十年早すぎたかも知れない。今ならきっとピンと来る人が増えているだろう。

 この本の第二章に標題と同じ題が付けられていて、次の三つの節に分れている。

① いざというとき軍事意志の片鱗も示せない国
② 国家なら他国に頼る前に自分に頼れ
③ 「対中戦略」以外にアメリカが日本を気にかける理由はない

 次の第三章の標題は「やがて日本は香港化する」で、やはり三つの節に分かれているが、ここでは二つの題のみ紹介する。

① 生活レベルは高いが、個人主義だけが跋扈する虚栄の市
② 日本の国防を内向きにしているのは憲法が原因ではない
(以下略)

 だいたい何を言おうとしていたか勘のいい読者はすでに十分にお分かりになるだろう。

 この本の第一章は小泉純一郎批判なので、いま関係がないので第二、第三章の標題のみを記した。日本は内側がダメになっていて、外側の急速な変化に追いつけず、アメリカは日本を防衛する気がなく間もなく立ち去るが、見捨てられる前にわれわれは大急ぎで国家体制を立て直さなくてはいけない、と言っているのである。私は十年前からこういう事を言いつづけてきた。少し早過ぎて本は売れなかったが、今なら売れるかどうかそれは分からないものの、内容は今の時局にドンピシャリと合致していると思う。

 ひょっとすると日本の国防はもう間に合わないのかもしれない。多くの日本人は薄々気がついているだろう。日本はすでにアメリカに見捨てられているということ、アメリカはアリューシャン列島、ハワイ、オーストラリアの線まで軍事防衛線を下げていて、今さら沖縄の基地も要らないし、自衛隊に集団的自衛権があってもなくてもどうでもよくなっているということを。

 それでもすぐに日本が亡びるのではない。中国の属国になって「香港化」するということが起こる可能性が高いということを私は言ったのである。まるでそれに符牒を合わせるかのごとく、自民党は今、毎年20万人ずつ外国人移民を受け入れる案を討議し始めるという。

 住み易いこの列島に住民がいなくなるということは決してないのである。住民は必ず存在しつづける、否、増えつづけさえする。しかし日本民族がいなくなる。日本文化が消えてなくなる。そういうことである。

 外国人移民のうち六、七割が中国人に占められることは今の趨勢から明らかだし、自民党はそれを予定して、国境の内側に敵国人を招き入れるトロイの木馬たらんとしているのかもしれない。

中国肥大化は米国の責任

 私がこんなことを考え、一段と危機感を募らせているのは、ウクライナ情勢を見て以来のことである。プーチンの力による国境変更にアメリカも西欧各国も有効な手段の手が打てず、既成事実化しかけている。このことから世界中の人が心配しているのは東アジアの動静である。台湾や尖閣や南シナ海の現状変更を望む中国の野望に火の点く可能性があることは、誰にでも見え易い動向である。いま中国はアメリカとロシアのどちらに与するのか明確な態度を見せず、アメリカが中国を味方につけようと必死になっているのを見るにつけ、オバマ政権の無能と無策を見せつけられる思いがする。

 アメリカはじつは今が歴史の曲り角に立っていて、いつの日にか起こり得る中国との大規模な衝突のテストケースを迎えているのかもしれない。それなのにオバマ政権は問題を複眼で見ているようには思えない。場当たり的にロシアへの経済制裁を重ねているのは、慌てている証拠である。ウクライナの動きを押さえようとする余り、アジアで妥協し、ずるずると日本に不当な仕打ちをしかねないのだ。それはアメリカにとっても将来大きな災いの原因となるのではないだろうか。アメリカはロシアに対しては曲りなりにも経済制裁の手を打つことができたけれども、米国債の最大の保有国である中国に対しどんな制裁の手があるのであろうか。ここまで中国を経済的に肥大化させたのもアメリカの責任である。

 ありとあらゆる面でアメリカの身勝手な振舞いにより日本は今不利な状況に置かれており、追いこまれていて、安倍首相の力量ひとつに国の運命がかかっている観さえある。ウクライナ=オバマ問題は、わが国にとっては慰安婦=河野談話問題とひとつながりの形で、三月中旬に大きなうねりとなって列島を襲った。3月14日に首相は河野談話の「見直し」はしない、と明言せざるを得なくなり、韓国朴大統領との日米初会議を辛うじて可能とした。だが、歴史問題がこのように封じ込められたのは日韓両国にとって不本意である。大波瀾もあっておかしくはない検証と論争を一度はくぐり抜けることが必要であったのに、おそらくオバマの命令にも近い要請によって、問題の追究が封じられたものに相違ない。

 オバマは日韓の間のトラブルはイスラエルとパレスチナほどではないにせよ、ある種の宗教的対立でもあるという困難さを理解しようとする気がない。また靖国参拝をヒトラーの墓詣でのごとくに侮辱する中国の見当外れも、冷静にこれを解釈し、判断する意思もない。それどころか安倍首相を「極右」とか「修正主義者」とか呼ぶニューヨーク・タイムズの誹謗中傷――これは玉本偉という日本人の左翼学者が書いていることが明らかになったが――をいいことに、これに悪乗りして、日本のナショナリズムを抑えこみにかかる。分かり易くいえば、アメリカは今、中国と韓国の対日歴史非難の共同戦線を都合よく利用して、日本の独立と自存への動きを抑えにかかっている。そこへウクライナ問題が発生して、日本が期待していたロシア外交という自由で独自な行動までが危うくなりかけているのである。

オバマの徹底した日本軽視

 アメリカは中国に大統領夫人ミシェルを一週間も送りこんでファースト・レディ外交をくりひろげた。それなのにオバマ自身の訪日ではたった一日の滞在日程とした。かつての歴代米大統領にはみられない日本軽視の行動である。台湾は今は第二のクリミアになりかねない情勢だが、オバマは北朝鮮の核問題には注視するものの、台湾の危機には口を緘し、むしろ中国の方に荷担してさえいる。

 アメリカが中国の民主化を心から望んでおり、独裁政権に対する厳しい意見をもつのなら――それがかつてのアメリカの姿勢であった――日本の右傾化を非難するのは筋が通らない。中国の尖閣威嚇が先行する事件であった。それゆえに日本の国内に防衛心理が芽生え、愛国心が高まったのだ。本来ならアメリカには日本の対決姿勢は有利なはずではないか。韓国の場合も、大統領の竹島上陸など韓国の対日侮辱が先にあった。日本はすべて受け身である。同盟国アメリカがこれを正確に見ていない。中国と韓国を諌めるのではなく、日本に「失望した」などと言って彼らを喜ばせるのは逆倒している。

 アメリカは中国の国防予算の増大に対して何も言わない。要人がたびたび中国に出掛けて行って、秘密外交をくりかえしているが、日本にはあまり来たがらない。中国からの巨額のロビー活動がホワイトハウスを麻痺させていると聞く。国務長官も国防長官も副大統領も典型的な親中派であって、有力な知日派はオバマの周辺にはいない。これらを勘案すると、アメリカは同盟国日本がもう邪魔になっていて、守るつもりはないのかもしれない。日本は早々とそう覚悟した方がよい。「核の傘」がそらごとであることはすでに自明であるが、「日米安保」もいざとなったら頼りにならないことを前提としてわれわれの防衛論議を組み立てるべきである。

 『日本がアメリカから見捨てられる日』を私が書いた時の予測はちょうど十年経って現実となったのではないだろうか。それならわれわれは一日も早く正確に自国の防衛の正体を知った方がよい。辺野古に基地を建設してアメリカ軍を必死に引き止めようとしているなどの日本の政策は、どこか哀れで見ていられない。可能な限り日本人は自分自身で起ち上がるべきだ。そのうえでアメリカと協力するならそれはそれでいい。同盟関係なしでは今の世界ではやって行けない。しかしそれは命令し命令される関係であってはならない。命令と依存の関係のままでは日本はかえって危うくなるのである。

『言志』平成26年5月号より

「日本はアメリカからとうに見捨てられている」への2件のフィードバック

  1. 南沙、台湾のクリミア化はF35をいくら並べても防げないんだと。

    なぜなら、日本の官僚、政治家がグローバリズム(=中華思想)に取り込まれてしまっていて

    日本国家自体が融解メルトダウンを起こしてしまってるからだと。

    これはちょっと日曜討論に投書してきた方がいいかもな・・

  2. >中国の属国になって「香港化」するということが起こる可能性が高い

    日本は香港とは違う。日本は日本人だ。中国人にとっては、かつて中国に侵略した国。という認識だ。

    日本人は、チベットみたいに、虐殺されて、民族浄化される。
    モンゴル自治区みたいに、女の子は、腸引きずり出されてレイプされて殺される。・・・・・実際にあったことだ。これらは。
    石平さんの本に書いてあったとおりになるね。
    日本が、核兵器以外で統治されてしまえば。

    90年代の中国総書記は、オーストラリア外相に日本を核兵器で攻撃する
    と明言しているから。

    70年前の復讐というか。族誅の国だけある
    香港のようにはならないです。

    日本人は中国人ではないですから。

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