「正論」連載「戦争史観の転換」について

 「週刊新潮掲示板」(2014年6月26日号)に次のようなおねがいを掲げた。多分、返事を言ってこられる方はいないだろう。

 ここは小さな簡単な探しものは効果をあげるのだが、そういう材料は今なにもないのに、何か出さないかと言われて仕方なくこんな掲示を作った。勿論、ご返事の期待は非常に少ないが、諦めてはいない。

 私はいま月刊誌『正論』に『戦争史観の転換』と題した30回予定の大型企画を連載中で、日米戦争の背後に西欧五百年史、中世・近世の歴史の暗部とのつながりを発掘し、近現代史観の克服を試みている。ペリー来航以後に米国の侵略意志を見る百年史観は今までにも多い。だが(一)五百年史観は戦前に大川周明、仲小路彰の例があるが、戦後に有力な論考があったら教えてほしい。(二)江戸の朝鮮通信使は朱子学の優位で日本人に教える立場であったのに荻生徂徠の出現で日本の学問が動いて立場が逆転した。この転換に詳しい適確な本を教えて欲しい。

 さて、その「正論」の連載だが、ようやく第二章「ヨーロッパ遡及500年史」の④が仕上り、7月1日号にのる。これで8回目である。前途多難である。

 第二章はスペイン中世のスコラ哲学とインディアスの関係が主たるテーマだった。次の第三章はまだ予定の段階だが、「近世ヨーロッパの新大陸幻想」と名づけるつもりだ。イギリス、フランス、オランダ等の17-18世紀が世界史を決めるのはアメリカ大陸への幻想からだった。第四章は「欧米の太平洋侵略と日本の江戸時代」、第五章は「『超ヨーロッパ』の旗を掲げたアメリカとロシア、そして日本の国体の自覚」・・・・・というような大よその方向を考えているだけで、その先はどうなるか分らない。各4節づつ全8章、全部で32回を計画している。

「「正論」連載「戦争史観の転換」について」への3件のフィードバック

  1. スペインという海洋帝国の存在を視野におきつつ近現代史を語る先生の切り口を期待しています。

  2. 西尾先生の西欧五百年史の記事を近く拝読したいと思っています。自分はヨーロッパの法思想史を専門的に研究する者ですが、「西欧五百年」とうかがって、真っ先に想起されるのは、IMT: International Military Tribunal (軍事法廷)の起源研究のことです。裁判ではないので、東京裁判という語も使用をやめるタイミングだと個人的に考えていますが、この「軍事法廷」「極東軍事法」の起源の研究が必要だと思っております。東インド会社という植民地向けの組織に、どうやら起源があるようだということまでは分かってきました。

    軍事法廷の起源は、ギリシャの公論形勢・市民追放弁論やローマの法廷弁論の文化とはまったく別の伝統に基づいています。中高で教えられていないだけでなく、大学でも、戦後、国際法の主要なパートである戦時国際法 jus in bello が粗末に扱われ研究もほとんどなされていませんが、軍事法廷は、その戦時国際法とも関係がありません。東インド会社は、商取引だけに特化した丸腰の組織ではなく、小国家のような組織です。「法廷」と総督を有していました。

    武器の売買を特権的に行うことができ、国際法に基づき、開戦を宣言する法的な権能(戦争への法 jus ad bellum)、戦争を終結する法的な権能(これは、戦争における法 jus in bello)まで与えられていたのです。東インド会社は主権国家のミニチュア版と言っていいものだったのです。戦争を始めることができる。武器を自由に流通調達することができる。まさに、やりたい放題できる組織です。

    戦争の終結の仕方、とりわけ、植民地での戦争の終結の仕方に、不当に軍事法廷の慣行が介入してくるようです。言語が異なるため、裁かれる現地の人々が軍事法廷で話されている事柄も判らない、意味もわからないという状態で、平然と数多くの軍事法廷が蓄積され、政治犯の苛酷な隔離牢獄への収容や拷問、そして処刑が行われていたようです。その延長上に、マッカーサーの父はフィリピンやグアムで軍事法廷を組織し、恐らく記録も残っているでしょう。一般書では、マイケル・ハワード『ヨーロッパ史における戦争』(改訂版)中公文庫に一部が説明されていますが、専門的な研究を共同作業などでしっかりやる必要があると以前から考えているところです。

  3. 西尾幹二全集14巻が届きました。毎巻、書架の装飾がわりに並べておくだけで、中身は一度の読んだことがありません(ケースから出したこともない)が、今回は、一気に全部読みました。おかげで、このところ寝不足です。西尾さんの日常が軽妙なタッチで描かれていて、大変面白かった。

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