特別対談 西尾幹二先生 × 菅家一比古主幹(一)

美し国会報より 

西尾幹二先生   ×     菅家一比古
評論家 西尾幹二     一般社団法人美し国教育創造研究所
電気通信大学名誉教授    代表

主幹 菅家一比古
(かんけ いちひこ)
社会教育家。古神道家。一般社団法人 美し国代表 株式会社ピュアーライフ 代表 取締役会長兼社長昭和28 年、北海道生まれ。20 代の頃より教育者を志し、青少年や母親を対象とした家庭教育から、企業の経営者を対象とした人間学まで、人材育成を目的とした講演を企業、学校、PTA など様々な団体で行なう。平成23 年に「日本蘇り」を目的とした国民運動「美し国」を立ち上げ、真の日本人の結集を呼びかけている。著書多数。

特別対談
〜歴史の読み直しを通してこれからの日本のあり方、
世界の流れを考える〜

歴史の風景を読み解く

●歴史の読み直し

菅家 西尾先生の歴史観の根幹には、哲学が土台になっているのではないかと思っています。例えば代表なご著書である『国民の歴史』の中では、歴史とは過去からくるものではなく、未来からくるものであるとおっしゃっています。 一般的に歴史から学ぶということは、過去の出来事からの照射と受け留めてきましたが、先生は未来から開かれてくるものであると言っておられます。
西尾 歴史が蘇る時代は、常に何らかの危機がある時代です。江戸時代の日本人はよもや幕藩体制が崩れてなくなるなどとは誰も考えていなかった。同様に戦時中は敗戦後の日本のことなど、当時誰も予想がつきませんでした。
 そこで幕末とか敗戦といった危機が訪れると、そのとき初めてどのような未来を歩まなければならないか、ということから歴史の読み直しが始まるわけです。すると未来への期待や危機感の如い か何んによって、過去はそれぞれ違ったように見えてくるのです。
 鎌倉幕府ができたとか、関ケ原の戦いや日本海海戦があったとか、そういう歴史の緒事実を変えることは出来ませんが、評価や解釈は未来の見方如何によって様々に変化します。
 例えば、山の姿が遠くから見るのと、私たちが動くことによって山の形が変わって見えるのとは別です。季節や時間帯によって山の景色が全く違って見えるのと同じように〝歴史も絶えず動く〟のです。
 つまり動かない過去は問題にしても仕方がないわけで、未来をどう創造するか、生き方によって過去は違って見えるということが大切です。
菅家 最近、明治維新についても全く否定的な本が出版されましたね。
「明治維新とは、吉田松陰を中心とするテロリスト集団の悪行である」などと書かれています。
西尾 全くバカらしい本です。GHQ戦勝国史観の変形ではないでしょうか。
 明治維新について一例をあげると、水戸学に会沢正志斎の『新論』という本があります。一八二五年に執筆されたのですが、出版を禁じられ志士達が手書きで広めました。既に幕末に近づいていて世界の情報がこの本にも随分入ってきていた。そこで著者は世界地図を頭に描いて、世界の情勢を書いている。完全なグローバリズムですね。
 日本を中心に遠くから世界を見て、こんなふうに凄い国がたくさんあると分析しています。しかもどこかの国を絶対化せず、どれも相対化して自国も絶対化していない。どこかの国を理想化したり、西洋が文明だなんて一言も言っていません。そういうグローバリズムの感覚に長けていました。
 それが吉田松陰をはじめとした幕末の若者達の世界像に乗り移るのです。
 ところが、明治の文明開化になると、西洋に一歩でも近づくことが良いことになります。そうすると自分が西洋文明の袋の中に少しづつ入っていくから、袋の外を見ることが出来なくなってしまいます。西洋文明に甘くなり、日本の文化は遅れているというようなことになる。当然そういう動きが出てきて、福澤諭吉はその代表的な一人です。西洋の袋の中に入ったことから自分の思想を樹てた人であり、私にとってはあまり魅力がありません。
菅家 福澤諭吉も森有ありのり礼も中江兆民も、西洋礼賛主義者でした。
西尾 中江兆民はたまたまフランスへ早く行ったからで、内村鑑三もその中では一番マシな方ですが、なぜキリスト教に改宗してしまうのでしょうか。
 結局西洋の袋に入ってしまって、日本の姿が見えなくなったのは明治維新以降ではないでしょうか。文明の方向は水戸学をも吉田松陰をも、どんどん否定する方向に進んで行くのです。
 ところが面白いことに、第二次世界大戦前に再び日本は会沢正志斎の『新論』と同じ世界像を見ることになります。野蛮なアメリカ、野蛮なヨーロッパ、どうしようもない白人主義。そういうものが改めて見えてきた。そして戦争が終わって、今度はアメリカ民主主義ということになると、全部またアメリカの袋に入って他は見えなくなってしまいました。
 アメリカでは大統領の有力候補にトランプなんかが出てきましたね。世界の陳腐さが見え出した今こそ、会沢正志斎の様なグローバル観が必要なときです。
菅家 トランプの様な人間が台頭し、持て囃はやされる世界がアメリカに厳然と存在しています。アメリカの良識を疑ってしまいますね。
西尾 結局アメリカは中国によく似た国じゃないですか。唯我独尊で好き勝手言って。いずれ日本人は目が覚めるでしょう。
菅家 トランプ大統領の悪夢!
西尾 次の大統領に一番可能性が高いと思っています。戦前日本を追い詰めたフランクリン・ルーズベルト(第32代大統領)もそういう男でした。
菅家 まさにルーズベルトもそういう人でしたね。狡こうかつ猾で偽善的で性悪説を思わせるものがあります。
西尾 歴史は絶えず動いています。何月何日に何があったかという事は動かない。しかし、それを並べても歴史にはなりません。それを並べたものは「年代記」というのです。年代記からは歴史を学べません。
 歴史とは人間の生き方。並べた歴史事実をどう解釈し、どう理解するかによって、未来の生き方、考え方が見えてくるわけです。

●トランプの出現は日本の天佑か

菅家 先生のご著書の中に、「アメリカという国家は一番東からどんどん西進し、遂に西海岸に辿り着き、更に西へと進みハワイを侵攻し、太平洋の一番端でとうとう異人種の壁にぶち当たった。これが日本だった。これをなんとか倒さない限りは、アメリカの太平洋覇権は成り立たなかった」と。
西尾 アメリカの歴史は大部分において西部の植民地化の歴史、つまり西部開拓史です。アメリカの歴史学者でターナーの「フロンティア学説」というのが有名ですが、この人はこんな面白い事を言っています。 日本史においても同じことが言える。日本は西から東に対する形で展開している。西部に発生した日本の古代王朝は、東部日本を未フロンティア開地として征服し、併合し、開拓して日本国家を統合し成長させてきた。つまり、今日の地域区分で言えば九州以外の西日本、中部、関東、東北、北海道をいわばフロンティアとして、日本列島全体の7割の面積を次第に征服して発展してきたのだ。それが日本国家だと。
菅家 なるほど。そういう見方もありますか。
西尾 これは日本に対する皮肉ですよ。でもこういう形の歴史はどこの国にだってあります。
 アメリカの発展には「移民」というのが必須要素で、アメリカ人にとってはついこの間まで新しい移民を必要とし、新しい移民は必ず今までいた移民を足場にして、何らかの形でアメリカ社会の中に自分の立場を築いてきました。9
 そして彼らが市民化すると次の移民が入ってきて、次の移民もまたその前の移民を踏み台にして、自分の利益と生活の場を見つけていく。こうやって発展してきました。 
 新しい土地を開拓するだけでなく、経済や金融なども拡大する。貿易も軍事も拡大していくことで、アメリカ文化をどんどん広げて行く。それがフロンティア精神で、これこそ神の定めだと言うのです。
菅家 しかしながら東西冷戦が終わり、パックス・アメリカーナの時代はもう終わったのではないですか。
西尾 だいたいベトナム戦争までですね。これは世界史の常識です。ベトナム戦争までがアメリカの覇権時代。あとは惰性です。
菅家 70年代以降、どう考えてもアメリカの外交戦略、世界戦争は無理がありましたね。
西尾 無茶苦茶ですよ。
菅家 湾岸戦争もイラク戦争もそうでしたし。
西尾 その結果がトランプですよ。
菅家 現実化したら怖いですね。トランプ大統領。でもそれによって、日米安保神話が崩れて、日本人が覚醒するということも考えられませんか。
西尾 期待します。
菅家 むしろこれは日本にとっては天てんゆう佑なのかもしれませんね。
西尾 トランプは日本を核武装させたらいいと言っていますしね。
菅家 トランプの発言には中国もしたり顔ですね。しかし中国はむしろ韓国と日本の核武装化を懸念するのではないですか。
西尾 それもあるし、中国をものすごく敵視していて、もうぶっ潰すとか言っているでしょう。少なくとも親中派ではない。一方クリントンは何をしたいのか見えてきません。
菅家 ロシアとの関係はどうですか。トランプはロシアを非常に持ち上げているではないですか。
西尾 親露外交は日本にとってマイナスではないでしょう。むしろロシアを味方にした方が良いのではないですか。日本は昔スコットランドに自動車産業を移しましたが、なぜロシアにしなかったのかと思います。 
 でもある人から聞いた話ですが、ロシア人は働くのがあまり好きではないらしい。中国人はお金になれば目の色変えて働きますが、ロシア人はお金があっても無くても働かないと。本当ですかね?
菅家 確かに、中国は昔から華僑の伝統がありますから。しかしロシア商人の凄さというのはあまり聞いた事がありません。
西尾 民衆は働かないで寝ているのでしょう。ほとんど冬ですから。
菅家 寒さでウォッカばかり飲んでいるのでしょうかね。日本の様に四季の彩りがしっかりしていれば、季節に合わせて自分の身体を動かしていくじゃないですか。
 ロシアという国はずっと氷に閉ざされたような環境ですから、一所懸命というような観念が生まれてこないのでしょう。

つづく

「特別対談 西尾幹二先生 × 菅家一比古主幹(一)」への1件のフィードバック

  1. 第二次大戦の結果アメリカが得たものはなんだったのか?

    対日戦争は結果としてアメリカにほとんど何の利益をもたらさなかったのは、戦後アメリカが関わった多くの戦争と同様である。 
    アメリカの対日参戦の主目的は中国から日本を追い出すことであった。
    そしてその目的は達せられたかに見えたが、日本の代わりにそこに入り込んだのはソ連とその手先、中国共産党であった。 そして彼らはアメリカを完全に追い出した。

    何十万人もの兵士を太平洋で失い、アメリカが得たのはサイパン島とかグアム島、あとは沖縄の基地くらいのものか。

    原爆投下によって終戦が早まり、日米の兵士・国民の命を救ったというが、日本はその前に
    降伏の意思を示し、条件を探っていた。
    原爆とはひとつは共産ソ連に対する牽制であり、ふたつめに日本から無条件降伏を引き出す政治的取引材料であり、三つ目は壮大な人体実験の意味があったであろう。
    広島も長崎も犠牲の多くは一般市民だ

    アメリカは言う。 もし原爆が投下されず、戦争が長引いていたら、日米の犠牲者はどれだけ増えたであろうか?
    東京だけで10万人もの一般市民が無差別に焼き殺されたことを考えれば、やはりさらに10万人単位で犠牲者は増えたであろう。
    だが、それをしないために広島・長崎の原爆で何万人も殺していい道理は絶対に無い
    正直に「米軍の犠牲が減ったから良かった」と言うならまだわかる

    いやらしいのは日本の指導部が戦争を長引かせ、これを終わらせるために正義の爆弾が落とされた、日本国民もこれに感謝すべきである、という米国の論法である

    とはいえ、どこぞの国のように70年も前の事件について、原爆投下を決断したわけでもない現在の大統領に謝罪を要求することに意味は無いと考える。

    ただ淡々とと「原爆は米軍の損失を減らしたが、日本の非戦闘員の被害は甚大であったことがわかった」という事実を言うだけでいい。
    謝罪は必要ないが、広島訪問後、アメリカの戦争や米軍はいつも正しいわけではなかったのかも? という反省の弁をオバマの口から聞いてみたいものだ。

    繰り返して言う。日本は謝罪も賠償も要求しない。 アメリカ人が、アメリカは国益を損ねる無茶な参戦をこれ以上繰り返すな、と大統領と一緒に反省してもらえればそれで良い。 (まぁ無理でしょうが・・・・)

    広島の資料館では犠牲者の写真から発せられる声無き非難に大統領は何を思うのか? きわめて個人的な問題である。
    太平の世の今を生きる我々に、あの爆弾による犠牲者を代弁する権利も資格もない。苦しみながら亡くなった犠牲者に代わり、謝罪や賠償を求めるなど不遜ではないのか? 安倍総理とオバマが並んで黙祷を捧げればそれでいいのだ。 オバマは感じたことを大統領退任後に出すメモワール本にでも書いて頂きたい。

    現役の合衆国大統領は米軍の最高指揮官でもあるから、彼が軍や軍の歴史を貶める発言をする筈がない。 そこを忖度しないで無条件に無限大にヒューマニズムを押し広げ、これをオバマに期待するのもまた日本の平和ボケ思考の表れと思う。

    それにしても日本側がオバマに謝罪を求めないという報道が米国民に驚きをもって迎えられ、これがオバマ広島訪問を後押ししたという。
    米国側の罪悪感がいかに大きいかがよくわかり興味深い。 やはり道義における大東亜戦争の覇者はわがニッポンである。

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