現代世界史放談(二)

中国の魔力

 アヘンを買い続けたシナは、次には支払うべき銀が足りなくなり、国外へ銀が流出して経済破綻します。いまの中国がまさにそれです。ドルがどんどん流出して、外貨準備高は急速に減り続けています。

 話を遡りますと、1990年代初頭、アメリカは日本の経済に敗れた頃、日米構造協議で日本の社長や経営者の財布の中身にまで干渉してきました。小売店を潰して全部大型店舗にしろなどと言われ、地方都市の商店街はシャッター街になってしまいました。勝手に日本型経営の仕方や経済構造、談合、株の持ち合い、終身雇用、年功序列にまで散々に手を突っ込んだのが日米構造協議でした。アメリカの資本主義を正統と見なし、日本のそれを異端とした。正統が異端を裁くのだという異端糾問裁判が、あの日米構造協議です。

 しかし日本側では、外務省も経済界も寂として声を挙げなかった。改革は日本の消費者のためにアメリカが善意でしてくれるのだと頻りに言い、アメリカに右に倣えとすることを国是とした。それは日本を潰せという方針であって、一斉にいろいろやられたわけですが、日本はアメリカの焦りに気がつかず、自分が間違っているように思い込んだ。

 アメリカはメキシコなど様々な国で工場展開をしましたが、うまくいきませんでした。そこで中国大陸の豊富な労働力と広い土地に目をつけると、鄧小平は待っていましたとばかりに税の優遇措置を提言し、積極的に外貨を導入しようとした。つまり、中国の政策の魔力にアメリカは囚われてしまったのです。

 他方、中国はまるで尻に火が点いたように走り出す。それから十年、十五年、その急激な変化は驚くべき速さです。しかし、これは昔のシナと非常によく似ているのです。

 19世紀のはじめ頃、イギリスも貿易赤字で苦しんでいて、清から絹・茶・陶磁器・木綿などを買っていましたが、それに見合うイギリスからの輸出品は毛織物や時計など玩具の類で、そんなものではとても清から物産を輸入できない。そこで、当時の国際通貨が銀だったのでそれを利用しようとしたが、ロンドンから銀を運んだのではなく、植民地インドから清へ銀が支払われました。

 しかしインドにもそんなに銀があるわけではないので、イギリスははじめインドに綿織物を運んでそれを売って得た銀を使って清からお茶を買い入れたが、それでも銀が足りない。

 イギリス人が次に考えたのは、インド人にアヘンを作らせてそれを清に運ぶことでした。清にアヘンがもたらされると、アヘンを吸飲する風習は瞬く間にシナ人の心を捕えて、イギリスは銀の決済をしなくてもアヘンを持って行けばお茶が買えるということで、悪名高い問題が起こるのはそれからあとです。

 ちょうどいまの中国が近代市民生活に憧れて「爆買い」するように、アヘンをどんどん買います。そのため、清にあった銀の保有量が減ってしまい、銀が急速に外に流れ出したのです。ちょうどその時期の中国といまの中国は似ている。

 現代ではアヘンではなくて人民元をどんどん刷っていたわけですけれど、最近、人民元の暴落が身近に迫ってきて、まだ値のあるうちに外貨にこれを替えるべく、国家は西側の有力企業を狙い撃ちして爆買いし、富裕層や中流層まで海外送金に目の色を変えている。

 アメリカや日本は、いま中国にアヘンを売っているわけではありません。しかし、閉鎖的で貧しかった中国13億の民に近代生活の富の味を教えた。かくて中国は毒を食らわば皿までと、金持ちになることに無我夢中になっていたけれど、ここへきていったん握ったカネを失いたくない、とドルや円やユーロにこれを替えようとして、急速に富が外に流出する事態になっているということです。

 歴史は不思議にも同じことを繰り返すものだ、と私はしみじみ思います。

つづく

月刊Hanada 2016年6月号より

「現代世界史放談(二)」への4件のフィードバック

  1. 支那の様に新しい国では、もともとの「地がでる」とは、歴史の中でいずれは時間を経て現れてくるものです。異文化を理解することは、これは簡単なことではありません。特に日本の様なきわめて古い歴史を現在も尚、継承している古い伝統に彩られた高度な文明を、アメリカ人の様な新興国の人々に果たして理解できるか?疑問な点が多々ございます。歴史を研究するとは、この様な文明の根底を理解することに他なりません。これらの根底にあるもの、それは民族の持つ心性であります。日本のこの心性は、豊かな自然の恵みに支えられた、温和な気候と植物を崇める神道に起源がある。その事をともすれば現代の日本人は忘れがちになります。これを説いて、教え導く高徳の人間が必要です。自分自身を知る事が、未来への展望になることでしょう。

  2. チャンネル桜の「闘論、倒論、討論」”ヨーロッパ、中東の現在”を見ました。その最後の部分の議論について、一言申し述べたいと思います。
     近年中国の技術進歩が著しいという問題です。一国の知力と人口の比率をグラフに描くとします。縦軸に人口、横軸に知力のグラフを用意して、グラフ線を描くとすれば、必ず両端(左端は知力なし、右端は知力高い)に裾野を伸ばしたなだらかな山方の標準正規分布の曲線(個体の集合体がとるばらつきの性質)に近いものになると思われます。曲線の山の頂が平均的な知力の人の人口です。このグラフの形は各民族、ほぼ同じで、大バカ者も大天才も極少なくなるはずです。日本などは、このグラフの全体が右側、つまり、知力が高い方へ少しは移動しているものと思いたいものですが、さてどうでしょうか。そして、我々が関心のあるのは、グラフの曲線の右端にある低い裾野の先の超知的な人々のことです。彼らこそが最高度の知的行為を行う人であり、ノーベル賞級の科学技術を切り開き、経済理論を考え、行政を立案する人たちです。グラフの性質として、ある一定以上の超知力人間というのは、人口のほんの一部であり、人口数に比例するはずです。当然、中国は日本の十倍の超知力人間がいる勘定になります。
     さて、米国はこの標準正規分布のグラフの形をしているのでしょうか。米国で研究生活をした人に言わせると、米国にはとんでもなく頭のいい連中がそこここにいるとのことです。東京大学物理学科(この人)が出た人間が舌を巻く超知力人間が日本と米国の人口比に較べても明らかに比率が高いのと言うのです。つまり、標準正規分布のグラフの曲線は右側へいくほどなだらかに人口数が少なくなっていくのに(日本では明らかにこの形)、米国では裾野の右端に、小さなピークが現れるというのです。そのピークを構成する人たちこそ、米国の科学技術を支え、経済システムを指導し、国際政治、軍事を立案しているのです。その小さな集団(日本にはほとんどいない超知力人間の集団)はどこからきたのでしょうか。難民としてヨーロッパからきたユダヤ人、各ヨーロッパ諸国から知識層の移民、そして、アングロサクソンの元々もっている知力(英国は産業は衰退しましたが、いまだに多くのノーベル賞受賞者を出しています)ではないでしょうか。今年ノーベル賞を貰ったアメリカ人の多くはより良い研究環境を求めて、やってきたヨーロッパ人で、南部陽一郎氏や中村修二氏のもこのような人たちです。
     つまり、米国の超知力を支えているのが、標準正規分布曲線の右端に現れる小さなピークの人々(私見では日本の五十倍)、中国では日本の十倍の超知力人がいることになります。
     では日本は今後、この超知力の劣勢にどう対処すればよいのでしょうか。普通に考えると、米国の五十倍、中国の十倍に日本は確実に負けてしまいます。希望があるとすれば、日本人が縄文人から受け継いだ民族的能力を高める教育ではないでしょうか。それは誠実さ、生真面目さ、粘り強さです。ここで豊洲問題が出てきます。日本人の唯一の知的武器である、誠実さ、生真面目さが失われつつあるように見えるのが豊洲問題であり、三菱自動車の燃費不正です。あの番組の出演者加瀬氏が言っていた、日本人の精神こそが大切だというのは、当っていると思います。データを捏造するようでは日本の科学技術はいずれ地に落ちるでしょう。
     日本のエリート層は自分がこのグラフでどの位置にいるかをしっかり自覚しなければなりません。日本国内では、彼らは頭がよく、記憶力も思考力も申し分ないでしょうが、実は、米国で言うところの超知的層ではないのです。米国という国は標準正規分布のグラフの右端に小さなピークを作っている超知的人間の集団が動かしているのであり、日本のように平凡な知的層ではないのです。この日米の差が最もよくでているのが、国際政治、経済、金融政策、軍事運用だと思います。東京大学法学部を出て、経済学の専門でもないのに財務省に入って、そこの上層部にいる連中は、自分は超エリートだと思っているのではないでしょうか。そう思うことで思考停止してしまい、米国の超知力の考えることが全く分らなくなるのだと思います。我が日本民族には生物的に超知力の人々を沢山作り出すことはできません。中国は人口が日本の十倍ですから、十倍の超知力人がいると考えられます。
     日本人の、特に高級官僚の諸氏は、自分は日本ではエリート層で知力に申し分ないと思っているでしょうが、米国の超知力層から見ると、知的に随分劣っているという自覚を持ってほしいものです。ソクラテスの「無知の知」こそが、平凡な知力の人間に必要な、常に己に問い掛けるべき言葉だと思います。
     原発問題もほぼ同じ知的劣勢を感じます。何故、福島原発の事故が起こったかが、今もって、科学技術思想的に解明されていません。一部には、ほぼ本質を突いているな、と思われる見解を述べる人はいますが、政府、マスコミ、学会でも解明されないまま放置し、エネルギーが欲しいのか、原爆が欲しいのか、先を急いで原発を動かそうとしています。このように、緻密に考察し、論証する力がないのが、日本のエリート層の劣るところだと思います。借り物の技術ではいずれ綻びが生じます。一から自分で作ってこそ自分達の技術になるのです。巨大なシステムを構築することは、とてつもない知力が必要です。日本人の知力はシステムが大きくなると全体が見渡せなくなるようです。原発もそうですし、金融システム、経済システムも日本人の手に持て余しているようです。
     もし、日本の将来に希望があるとすれば、知的エリート層を養成する段階で米国の超知的層の存在や「無知の知」といったものを意識させる教育によって、不断に思索を深め、誠実で、生真面目な、そして粘り強い知的行為を旨とする人々が育ってくることだと思います。教育のシステムを構築するのもまた、平凡な、それでいて自分は偉いと思っているエリート層ですから、大変厄介です。
     尚、私が米国の超知力層の存在を知ったのは、通産省工業技術院の研究者菊池誠氏(今90歳頃)のMITでの研究体験のエッセイによっています。

  3. 菅沼光弘先生も大蔵省解体は日本弱体化のために米国主導で行なわれたと指摘されています
    専門分野の違う方が同じ意見を持つというのは不思議なものです
    情報の裏を読み取るにはセンスが必要だと菅沼先生は指摘されていますが、どの専門も突き詰めれば
    通じる道は同じということでしょうか
    アヘンと同じく経済で中国を食い物にしているとの指摘ですが、戦後の日本も同様に感じます もっとも、外資で日本が豊かになったわけではなく、先人たちの努力によって現在の日本があるわけですが、、、
    構造改革で日本が弱体化したなら元に戻せば良いと思うんですが そうはいかないのでしょうか

  4. 幹二先生、こんにちは!

    分かった!!

    予算の分配の塩梅が焦点・・・です。

    「国会は予算を決める場所だぞ?」…, 父の言葉です。

    当たり前ですが、総収入は過去と比べても大差ないだろうし、足し引きの采配が間違っている。

    歳出改善・歳入改善が基本です。

    以上!! v

    16.10.21 , 14:03 _ 子路 ,.

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