候補者応援の講演(一)

――郵政民営化への疑問――

 8月28-29日にかけて行った衆議院三氏候補応援講演の一つを以下に再現掲示するが、三ヶ所でほゞ同内容の話をしている。特定の応援講演ではない。三つのうちの一つの代表例である。

 

ずばり本題から入ります。

 郵政民営化法案は、悪法であり、克服されるべき、廃案にされるべき法案であります。小泉純一郎首相は国家犯罪を企てております。当地の議員は私の提案では自民党を離脱して、党籍離脱を党本部につき返すべきです。当選しても除名にすると向こうはすでに言っているのですから。今ここでぐずぐずと自民党に未練を残して、きっぱりとした態度を示せないようなことをやってもいいことはなにもないと思います。

 過激なことを申し上げてびっくりされるかもしれませんが、この地へ来て、党本部から差し向けられた「刺客」が敵ではなくて、民主党の票があなどりがたい、と。民主党が勝ちそうである、ときいた。ならばそこから票を奪わなくてはだめだ。ならば反権力を振りかざさなくてはだめなんです。反権力ということは、保守であることをやめることではありません。今の権力は保守ではないのですから。今の小泉政権は保守であるとはとても言いがたいことをやり続けているのですから。そのかわり反権力であるということ、今の政権に対して楯つくという姿勢を貫くということが、民主党の票を奪うということになる。民主党から票を奪わなければ勝てないですよ、絶対。私が今日たった今皆さんとここで支援団体の方々と会合したあと、食事をしに行って考えた結論です。

 最初に結論を申しましたが、なぜそうかということは、ここで詳しく郵政改革法案というものがどういうものかをお話する事以外にないのであります。多くの方が誤解しているんですよ。知らないんですよ。非常に簡単なことでございますが、郵便局の郵便貯金、それから簡易保険、そこへ向けて現在国民から330兆円のお金が預けられております。このお金はこの国にとっての虎の子のような、とてつもなく大切なお金です。

 他に年金積立金というのがございまして、国が預かっている金額ははるかにもっと多いのですが、差し当り2005年3月期で、郵貯と簡保に合計330兆円というお金が国民から預けられていて、そのうち、国債と地方債が186兆円、それから財務省に対する預託金というのが正確に申しますと、118兆円、つまり国家への貸付が合計304兆円。つまり郵便局のお金が国債になっているということですね。118兆円は財務省にお金を預託している、預けているということです。いずれも国が握っているということです。

 すなわち330兆のうち、304兆円はすでにして動かないお金で、これが民間に流れ出るということはありませんから、よく小泉さんが民営化すれば、お金が民間に流れる、「官」から「民」へお金が動くと言いますが、これは真っ赤な嘘で、金が「民」に流れるということはなくて、むしろ「民」から「官」へというお金の動きがますます激しくこれからもなる。なぜならば、もし民営化してしまったならば、銀行や保険会社がさらに多くの国債を買わなければならなくなりますから、事実上もうできないのですけれど、今まで以上に「民」から「官」へお金が流れるということになって、話は逆になるんです。

 そのことは、わたしが言うのではなくて、野口悠紀雄さんのような有名な経済学者が縷々として説いていることで、新聞がそういうことをきちんと書かない。いや書いているんです、経済欄を読んでいると。それが、エコノミストとか、東洋経済とか日経ビジネスとか読めばみんな書いてある。今の郵政民営化は時代遅れで間違っているとみんな書いているんです、エコノミストや専門家は。

 さて、この大きなお金304兆円というお金、郵便局の責任でしょうか。これを預かって運営しているのは財務省です。むかしの大蔵省が今の財務省と金融庁に分かれているのですが、旧大蔵省です。大蔵省が積年にわたってこのお金を預かって、それを国債にしたり、いろいろ使用してその国債がどう使われているかということは、郵便局の関知することではありません。みなさん国民のお金を集めて、そして大きなお金をそっくり大蔵省に預けたわけです。責任は大蔵省にあるのであって、郵便局にあるわけではないでしょう、お金がおかしくなっているのは。

 304兆円のうち、100兆円は不良債権化してほぼ償還不可能になっているのと聞きます。そのうち40兆円は道路公団です。みなさんご存知の道路公団は、約40兆のお金をすでに不良債権化していて、返せなくなっているんですよ。これは誰が貸したんですか。財務省、大蔵省です。郵便局は関知しないことです。郵便局は何度も言いますが、お金を受取って、預かって、そのお金を大蔵省に委ねただけですから。大蔵省が采配して分けて、使ったわけです。管理責任はいまの財務省にあります。

 その道路公団は、特殊法人というもののうちの一つです。まだまだあります。皆さんは国鉄民営化は成功したと思っている。新幹線が走って成功したと思っている。いえいえ、支線がみんな廃線になって、田舎の方では困っているじゃないですか。それはさておきまして、37兆円という旧国鉄の債務は全部棚上げでございます。これも償還不可能なのです。しかし国鉄には財産がありました。汐留その他土地を売りまして、現在24兆円にその金額が下がっております。それでも24兆円は還ってこない。今そのお金は返せませんからね。旧勘定はよけてしまっているわけです。24兆円というのが、どれぐらいの規模のお金かと申しますと、わが日本国民が支払っている消費税の三年間分です。それだけの巨額のお金が棚上げになって、国鉄はいかにも民営化に成功したように言うけれども、郵便局のお金を補填してそれで成功した顔をしているだけです。しかも驚くべきことに、国鉄のために国鉄清算事業団というものが作られているのですが、この5年間にそれが今24兆円背負っているわけですけれども、債務の運営の失敗と、そこに人間が働いていますからね、この5年間にさらに1兆円のお金が郵便貯金から投じられているのです。借金はそうやって増えているのですよ。旧国鉄の財務です。

 さっき道路公団のことを申しましたが、道路公団はこのあいだ確か民営化したはずですね、一応形の上で。失敗だと言われながら、民営化後も借金は増えつづけているんです。不良債権は。さっき40兆といいました。返せないと、それが増えているんです、どんどん。誰が悪いんですか。郵便局が悪いんですか。あり得ないでしょう。お金を集めた郵便局にどこに責任があるんですか。責任は言うまでもなく、財務省にあるのです。財務省理財局というのがぜんぶ管理しているのです。

Typed by Fukui  nishio@gx.main.jp

「候補者応援の講演(一)」への5件のフィードバック

  1.  国鉄改革については今日の本題ではありませんが、当時の赤字、累積債務37兆円というのは、そもそも虚構の数字です(西尾先生がおっしゃるように)。この収支決算には国鉄が持っていた線路とか駅舎とか車両とか、土地とか資産の類が入っていないのです。どんな会社でも支出と売上げだけ計上して、取得した資産(工場とか生産設備)を計上しなければ赤字になります。また普通は資産は簿価とかなるだけ安く計上するので、企業は表向き赤字が通常なのです。それでも国鉄の場合は、通常のバランスシートで資産も含めて収支決算すると、黒字だったのです。これは、当時から組合側からは反論されていましたし、国鉄改革関連本のどれにでも書いてあります。しかし、朝日新聞などのマスコミが大合唱する「国鉄債務37兆円!」というプロパガンダの前に掻き消されてしまっていたのです。これを棚上げして、赤字企業として売却するということは、この間の長銀と同じで、公的資金を膨大に投入した上で、赤字会社として格安で民間に売却するということで、国の財産を民間企業に合法的に詐取せしめる手法なのです。旧国鉄はすでに完全民間会社ですので、もう取り戻せません。債務30兆円の棚上げとは、実は債務という名の資産の棚上げであり、この金額に当たる旧国鉄資産を民間会社がただで利用しているということです。彼らは税金を使って商売しているのに、その利益は国庫には入らないのです。もし本当に利益が出ないならば誰も買いませんし、帳簿上赤字にするための支出は適当に国家(清算事業団)につけまわせばいいのです。国鉄改革については以上のとおり。

     それと西尾先生の論旨とは若干異なってしまうのですが、私は日本国を守っている、ぎりぎりのところで西洋の植民地化から守ってきたのは、やはり官僚だと思います。これはある程度の年齢になってから得た印象です。つまり、この人たちは必ずしもお金だけでは動かない、お金があることだけをよしとしない価値をどこかに持っているからです。こういう人たちを政体の中心にもってくるシステムを作った明治政府は偉いと思います。官僚が今よりもっと堕落したら、官僚をつくるシステムが形骸化したら、日本はひとたまりもなくグローバル化の波に飲まれていくと思います。もちろん、大蔵官僚のやっていることすべてが正しいとは思いませんし、よくわかりません。しかし、公共事業や地方への税金のバラ蒔きは、再配分化の意味からもある程度は必要なのです。ぜんぶ自分でやれと言っても、やれないような構造のあるところでは弱肉強食になってしまうだけです。村の論理もある程度は必要なのです。村があってこその都会であります。都会だけでは都会は成り立たないのです。江戸時代でも、一週間大坂への回船が滞ったら、都の民は餓えたといいます。

  2. おっしゃるとおり。
    つまり「小泉改革」が破壊しようとしているのは「官」ではなく「公」なんです。
    日本のビューロクラシー(bureaucracy,官僚政治)ではなく日本の公(パブリック)を破壊しようとしている。
    「公」を破壊してその資産を「私」にばら撒くだけのこと。

    小泉さんたちは政府部門の大きさの正当性などはあまり触れずに「役人天国」なんて言ってます。
    「効率と平等のトレードオフ」なんていう発想はないんでしょうね、あのお方の頭の中には。
    効率をある程度犠牲にしないでは平等を実現できないというのがユニバーサル・サービスの一側面。
    竹中チンの「小さな政府」論のバックグランドである経済成長率と政府支出の規模の負の相関というのは、この「効率と平等のトレードオフ」を反映しているわけです。
    つまりある程度の効率性が犠牲になる一方で、平等のメリットをみんなが享受しているわけです。(この部分、ほとんど某センセ受け売り)

    「痛みに耐えろ」って・・・いつまで耐えさせるつもりなんだろ、小泉さんは。
    というか、お前が先に痛い目をしろと言いたい。
    デフレ放置の最大の戦犯たちがなにが役人天国を許すなぢゃ。
    自分たちが赤字国債発行しまくっておいて、どの口がそれを言う。
    そういう公約違反(国債30兆円枠)は大したことではないらしい。
    というか、守った公約一つもなし。
    郵政民営化だって「議論する」と言って議論してないし。
    議事録全部読んだけど、真摯な議論か?あれが
    あれじゃ何千時間かけても同じこと、心を入れ替えない限り。
    真面目に質問されても、痛いところはいつもの詭弁、強弁。
    上祐か。

    しかし、道路公団民営化は「形だけ」やったか。
    本人は「これまで誰も成し遂げられなかった改革ができた」って、また強弁。
    古賀さん曰く、「我々の主張がほぼ認められた」って言ってたけど・・・
    そうだよね、族議員と利害が一致したんだよね。
    逮捕者が出ても役員は変更せずに10月を迎えるらしいから。
    高速道6社の会長予定者「談合しません」宣誓?
    建設省からの天下りもそのまま・・・役人・財界天国続行

    最近の官僚に対しては異論あり。
    国費留学して帰ってきたらとっととやめたり、やめなくても・・・
    財務省の某女官僚なんか、自分のダンナの会社が傾いたのしっかり国に助けてもらって・・・挙句の果てに1億以上儲けてる。
    で、そのダンナは今や再生機構の執行役員様ですか・・・カネボウの株はお買い上げになってるんでしょうか?
    村上世彰については説明の必要がないでしょう。

  3.  債務を切り離してJRを売りに出したことが、どうして「安売り」になるのかさっぱりわかりません。債務を分離すれば、その分だけ企業価値が高まって高く売れるはずです。債務を分離せずに売ればその分だけ株価は安くなります。

  4. 郵貯、簡保の資金はほとんど国で使われており、民に移すことはできないといわれますが、もし民営化されると既存の銀行などと同じ競争条件となるので、国の補償がなくなり郵貯に預けている預金者は払い戻しを請求する人がでてきます。払い戻されたお金は今度は民間の金融市場で、活用されるようになります。国に預託していて手持ちのお金が無いからといって、払い戻し請求を拒否することはできません。そんなことをすれば取り付け騒動が発生します。
    財務省はなんとかして払い戻し請求に対応しなければなりません。
    民営化されると財務省は資金運用について、今までのようにブラックボックスにしておくことができなくなると思います。
    したがって「民に移すことができない」という理屈は全くの誤りです。

    つまり、民営化することによって、公正な市場原理によって巨額の資金を効率よく運用していこうとしているわけです。

  5. こんにちは、はじめまして!
    B層発言で発奮している主婦です。違ったらごめんなさい。
    今、9月4日のshinさんの文を読んでいて初めて「政府保証」の謎がとけたような気がします。
    「独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構法案要綱」の「4 財源及び会計」に、気になる一文があって?と思っていたんです。

    (2)政府保証
    政府は、次に揚げるものに係る機構の債務を保証するものとする。
    (1)郵便貯金として預入された貯金の払い戻し及びその貯金の払戻し及びその貯金の利子の支払
    (2)旧簡易生命保険契約に基づく保険金、年金等の支払

    取り付け騒ぎが起きても上の一文があれば、税金からお金がだせるのではないでしょうか?
    それから、気にかかるのが法案、保証期限がついていないのです。
    株主が郵貯をいいように浪費した後、政府の保証は消えていないと思うのですが・・・

    今の郵政公社はブラックボックスでしょうか?
    公社が発足してから2年。
    平成13年に郵貯の全額預託義務を廃止し、平成19年までに返還されることになっているそうじゃないですか?
    その間にどのようにお金が動いていくのか、民営化されたら公表の義務がなくなるのではないでしょうか?
    それこそ、財務省理財局のおもうつぼではないでしょうか?

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