昨日ある企業の社長さんに会って、今度の選挙は革命ですね、と彼が嬉しそうに期待をこめて語るのを耳にした。小泉首相の乱暴なやり方が日本の社会を確実に変える、というのだ。従来の保守層、自民党支持者に、このような希望の声の小さくないことに私も気づいている。
小泉首相の乱暴なやり方は、手を変え品を変えこの四年間繰り返されてきた。前回の参議院選挙の前にはジュンキンスさん騒動があった。外務省に命じてインドネシアを舞台に曽我ひとみさん一家の涙の再会シーンが演出された。あまりに見えすいた拉致被害者の選挙利用であることは誰の目にもはっきりしていたが、国民は曽我一家の幸福を喜び、首相の策謀を咎めなかった。
今度の郵政解散も人目を驚かせただけでなく、自民党内に独裁恐怖心理を引き起こした――鴻池元大臣の参議院再否決はもうしないとの情ない白旗宣言ににじみ出ている――効果もやはり政治的にも、道徳的にもあまり非難されないで見すごされてしまうのかもしれない。
それは国民の側に、変化を期待する感情がいつも余りに強いからである。日本が主権国家としての立場を確立するための変化なら歓迎されてよいだろう。しかしわけも分らず何でもかんでも変化を期待し、首相が「自民党をぶっ壊すだけでなく、永田町をぶっ壊す」というメッセージを出すと、何かが大きく変りそうな幻想を抱いて、従来の保守層にまで希望の心理が芽生えるのは、今まで何度も首相に乗せられ、また同じ手で同じたぐいのペテンに乗せられる人間の心の弱さ、哀れさを、しみじみ感じさせずにはおかないのである。
この四年間の北朝鮮に対する首相の対応は、決して0点ではない。地村、蓮池、曽我の各家族を取り戻すことに成功しただけでも立派だったといえないことはないだろう。しかしブッシュの「悪の枢軸・イラク―イラン―北朝鮮」の発言があって初めて切り口が開かれたのであって、日本に外交主権があって起こった出来事ではない。外交主権がないことをむしろあらためて痛いまでに感じさせたものが北朝鮮の拉致事件であった。
であるとすれば、郵政民営化が日本に金融主権がないことを同様に痛感させる事件であることを、日本人は正直に見つめるべきであろう。90年代、いわゆる「マネー敗戦」が進行した。あれはレイテ沖海戦だと自嘲する人がいた。とすれば郵政民営化は、台湾沖海戦から沖縄戦へ、そして広島・長崎への原爆投下になぞらえるべき事件ではないだろうか。
日本は外交主権もなければ金融主権もない。その事実を正直に見つめないで「改革」と叫ぶのは、私には戦争末期の「大本営発表」の強がりに似ているように思えてならない。
日本人はいま自国の主権確立のための、独立国家になるための「変化」だけを求めていけばよい。それ以外の「変化」を期待するのは幻覚である。小泉首相は永田町をぶっ壊してもいないし、ぶっ壊すこともできない。本当にぶっ壊すなら、もっと巨大なタブー、「平和」というタブーに挑戦しているはずである。
そんな勇気もないし、そんな意思もない。むしろ自民党は逆の方向に走り出している。東京や静岡の比例女性候補者などに、平板な進歩主義的平和主義論者がかつがれていることが、自民党の左への移動を示唆している。
当「日録」管理人の長谷川さんが9月8日に、次のように私に私信を送ってきた。まず昨今の「日録」の感想から始め、
今回、訪問者数も多く、ブログの役割は十分に果たしていますね。
小泉信者というよりも、自民党が元の自民党であると錯覚している人たちは、自民党を支持することによって郵政民営化というまん前にある落とし穴に落ちますが、その後の日本の行方に自分達の責任はないと思うのでしょうか。
上記は私の気持をよく分ってくれている人の文章である。私もたしかにこういうことを言いたかったのだと思う。自民党は左へ移動しただけではない。責任感のある立派な伝統保守派の議員を多数見境もなく追放した。党内の融和をこわし、地域社会の義理人情を破壊し、恐怖と相互不信の情を政治の世界に持ちこんだ。
自民党はもはや昔の自民党ではない。公明党の毒が全身にまわって、リベラル左翼の、ホリエモン的価値が横行する、しかも自由も民主主義も忘れた、人を統制したがる強権政治に傾く方向へ走りだした。
私は自民党が圧倒的多数を占めることを望まない。今回は痛いお灸をすえる必要がある。地域によって異なるが、私は自民・公明・共産・社民の四党以外ならどこでもいいと思う。四党以外の党に投票する。
それについて日米関係や安全保障の面で危いことが起こると心配する人がいる。自民党よりもっとひどい人権擁護法や外国人参政権を用意している民主党を選ぶことはやっぱりできない、という人もいる。それはそうだろう。
けれども参議院は自民党多数であるから、急にどうなるものでもない。民主党は横路何某と西村眞悟が一緒にいる保革寄り合いの同床異夢の党である。あそこが一枚岩でありつづけることは考えられない。いつの日か分裂することは想定の内である。民主党が分裂するためには、自民党が弱くなるのが前提である。自民党が圧倒的に強ければ、寄り合い世帯の党も結束を固めざるを得ない。
今度自民党は少し分裂したが、もっと大きく割れることが必要である。民主党内の同じ国家観、歴史観をもつ勢力と組んで、本当の、真正保守の党を結集してもらいたい。いっぺんにそうならなくても、この意味での政界再編が早く始まるためにも、小泉政権のひとり勝ち、独走体制は決して望ましくない。
小泉強権の成立はむしろ危険である。時代の要請に逆行していると私は考える。
以上投票日の朝の感想である。
(緑色部分、9/11 10:52追加)
西尾幹二の関連論文
小泉「郵政改革」暴走への序曲(Will10月号)
小泉首相「ペテン」にひっかかるな(正論10月号)
狂人宰相、許すまじ(Voice10月号)
日録「候補者応援の講演」(一)~(六)も併せて読んで下さい。
さて、選挙は小泉自民の圧勝に終わりました。
我々有権者は1票を入れる権利があると同時に、1票を「入れた責任」があるわけですよね。
ある候補者に1票を投じるということは、その候補者が所属する政党に対する信任。
比例なんかはモロ、その政党に対する信任。
つまり、1票を投じるということはその政党に対して、最長4年間の政権担当を委任したわけね。
いみじくも、当の自民党が「今回は政権選択選挙」って言ってたし。(高市早苗応援演説より)
たとえ、「小泉さんが郵政民営化がこの選挙の争点だ、と言ったから、おれはそれに一票入れたんだ」って言っても、その行為は「政権」を選んだわけで・・・
その政党に政権をとらせたということは、郵政民営化だけでなく、税金、年金、教育、外交問題などすべてを、その政党に委ねたってこと。
比例区では「よりましな政党」に、小選挙区では「よりましな政党に属する候補者」に、投票しただけだよ、なんて言っても・・・・・
あとで、俺は「郵政民営化だけ」に賛成したのにとか、「あんなのが外務(財務)大臣になるとは思ってなかった」という言い訳は通用しない。
みんなマニフェストを見比べて、戦略的にプラスとマイナスを考えて選んだわけよね。
さあ、これからは自分が投票した政党は自分が期待する働きをするのかどうか監視しなくちゃいけない。
で、自分の信じたことと違った方向に行きそうなとき、どうやってその政党に自分たちの思いを実現するように働きかければいいんだろう。
もしも、働きかけても聞く耳を持たないときは、どうしたらいいんだろう。
1票を「投じた責任」は、これから確実に政策という形をとって、降りかかってくる。
もう結果は出ちまった。
「そんなつもりはなかった」は通用しない。
さあ、どうしよう・・・
再度貼り付けます。
遠藤浩一覚書
わたしゃ、どうしていいかわからない・・・
とっても恐い・・・口に出すとホントになりそうなんで、詳しくここに書きませんけど。
ついでに・・・
日本国憲法
1.議員の議席を失はせるには、出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。
2.出席議員の3分の2上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
3.議員を除名するには、出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。
4.衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
5.憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議
し、国民に提案してその承認を経なければならない。
願わくば創価学会と手を切って、自民党内左翼と手を切って・・・なんて無理か・・・
竹中さんは政権内にずっと居座るつもりなんだろうか
猪瀬さんはいつお役ゴメンになるんだろうか
次は何を売り飛ばすつもりなんだろう
とりあえず、外務・財務大臣だけはヘンなの選ばないで・・・
しかし・・・ドルは109円割るな、こりゃ・・・
ちなみに私は悪いけど小泉政権を選んでません。
ただし、だからと言って逃げない、戦い続けなきゃいけない。
自民党から小泉・竹中がいなくなるまで。
まともな保守政党になるまで。
しかし、自公で2/3議席独占は恐い
どうせなら、自民「だけ」で2/3の方がマシだったのに・・・
とりあえず、もう公明はいらないんだから人権擁護法案とか、外国人参政権は忘れてくれ、お願いだから。
郵政法案通した後、今度は何を「アジェンダ」として持ち出すんだろう
ネタ切れで参院選のためになんて考えて、変な法案が出てきませんように
というか、変な事したら次の選挙に2匹目のドジョウはいないってこと・・・分かってくれてるよね、いくらなんでも。
都会派に脱皮した自民党を期待していた、自称保守も多いが、今の自民党の政策は、民主党内の右と左の意見を外した、民主党主流派の政策と変わらない。そこに、アメリカ政府の言いなりを加えれば、完璧である。つまり、小泉自民党は、もはや田舎にやさしい穏健な保守政党ではなく、都会人にうける革新政党になっただけである。
しかし、都会人は気が変わりやすいのを忘れてはいけない。前回、民主党に入れた都会人が、大挙して、今回自民党に入れた。次回、どちらに入れるかは、まったく予想がつかない。民主党の敗因は、マニュフェストがあまりにも、民主党左派よりだったからである。小沢氏が、表に出なくても、民主党を牛耳り、マニュフェストを保守傾向の都会人にも、納得できるものに変えたとき、小泉支持、自民党支持がいつまで続くのか?まったく予想できない。
どちらにしろ、自民党、民主党とも、分裂の危険を秘めたまま、秋の空のようなわがままな都会人の機嫌を取らなければならないのは、ご愁傷様である。
賽は投げられた。
覚悟を決めて戦うしかなさそうだ。
小泉氏のように相手の生命を奪うやりかたで。
敵の姿は西尾先生が指摘されているようにはっきりしている。
もう、古きよき日本には戻れない。
先生も覚悟されていると思う。
総選挙の感想——今こそ民営化議論のとき——
総選挙がおわりました。自民党の歴史的大勝ということで、われわれ小泉郵政民営化法案に反対していた側としては、やや残念な結果になってしまいました。しかし一方で、法案に反対して、無所属・新党で立候補した元自民党議員が17人も当選することができました。これはのちに述べるように、よく考えると大変な意味のあることです。また、選挙に対する感想をひとことで表すと、「勝つことはできなかった、しかし良心は護られた」というところです。
まず、自民党大勝、議席の2/3をも占める大勝利という一報を聞いて感じたことは、小泉郵政民営化法案に対する知識がいかに一般には浸透していなかったかということです。今回はとくに都市部や若年層を中心とした、いわゆる無党派層と呼ばれる人たちが、こぞって自民党に投票したようです。つまり、この人たちにはまだ郵政民営化が単なる郵政事業の民業化ととらえていて、たしかに地方では郵便局が減るかもしれないけど、都会では企業原理が導入されてより便利になるくらいにしか思われていない。小泉郵政法案の実態である郵便貯金の私有化、日本国を外国に売り渡しかねない危険性がまだ充分に認識されていないのです。
一方で、民意が民営化そのものに賛成とはっきりと出たことは、郵政法案議論にはかえって好都合になったとも言えます。小泉首相は「民営化に反対ですか賛成ですか?」と単純化した詐欺トークで総選挙を押し切ったわけですが、これに対しては国民は「賛成です」と答えたわけです。ですから、今度は当然「どんな民営化がふさわしいか?」という議論の番だと思います。さすがに今度は、もう「賛成ですか反対ですか」は使えないでしょう。もともと郵政民営化自体に反対していた人は少なく、*小泉*民営化案に反対していただけですから、局面が法案自体の細かい議論に入りやすくなったことで、必ずしも悲観すべき事態ではありません。
ここで、反対派の無所属議員たちが小選挙区で15人、比例復活2人をふくめて17人も返り咲いたことの意味が大きくクローズアップされてきます。つまり、国民一般には郵政民営化案の危険性がほとんど知らされないまま総選挙に突入したのですが、有力な反対派議員がいて、自民党の対立候補との対決が話題となったような選挙区では、逆に民意はことごとく反対派に上がったのです。選挙民の関心が一段と高く、法案反対の理由もおそらくは充分伝えられたところでは、法案反対派が勝利したのです。この33人中17人が再選という数字は、けっして小さな数字ではありません。それは知名度の高い大物議員がいたところでも、対立候補との得票差は僅かで大変な接戦だったことからもわかります。この自民党の立てた対立候補たち、政治経験もほとんどなく証券会社からトラバーユでもするように議員さんになろうとしている人たちに入れられた票は、彼ら自身の票ではありません。これはいわば自民党票です。この票は対立候補が立てられていなければ、本来は今回無所属だった元自民党候補に入れられてたはずです。つまり、今回勝利した人たちは、実際には対立候補の分をもふくめて二倍の得票をえる実力をもっていたということになります。そういう実力のある議員が、法案反対派には17人もいたということです。この人たちはそういう意味では、本物の代議士であり、17人のサムライと呼ぶのがふさわしいと思います。
希望はここにあります。望むらくは、この17人の反対派のサムライたちが、できれば一人も日和ることなく、今度は法案修正派として粘り強く小泉郵政法案に対抗していってほしい。そして、衆院単独強行採決の日までできるだけの持久戦を戦っていただきたい。なぜなら、あなたたちに託された民意は法案反対なのですから。そして、われわれはそれを及ばずながら支援したい。そうして、あんなに大勝したにもかかわらず、なぜ彼らはああまでして反対しているのだろうという疑問を国民一般の間に喚起したいのです。郵便貯金の民営化案に最低限の修正を施す程度のことは、まだ不可能ではないと思います。選挙によって民営化自体にゴーサインが出た今こそ、いよいよ本格的な民営化の中身の議論がはじまるべきときなのです。まだ何も議論されていないのですから。
できれば、声の大きい鈴木宗男さんにもいっちょ噛んでもらいたいですね。
—
注)自民党候補同士の対決となった33の小選挙区のうち、反対派が15人勝利、対立候補が14人勝利、そして、漁夫の利をえて勝った民主党が4人。つまり過熱した選挙区では、20/33で反対派が勝利したということです。
—短信—
小選挙区の特性、自民—民主の総得票比率は1.3
てっくさん(あるいは北岡さん)
改めて見直してみて、恐らく事前に今回の圧倒的な自民党の勝利を予測していたのは、あなた達だけと驚いています。
http://officematsunaga.livedoor.biz/archives/50047956.html#comments
邪推をすれば、恐らく、アナウンスメント効果によっていわゆる自民造反組への票の流れを狙ったもののようにも思えますが、いかがなものか。
私の指摘が図星であるならば、今度は離合集散の予想も見てみたい気がします。
今度は開示したところで投票ではないので意味はないのでしょうが。
ネタ元がこちらなのか独自ソースなのか知りませんが、造反組の今後の行動が非常に気になります。
モンベリさん、はじめまして
私はネタなんて持ってない。
あれ見たときも半信半疑、あのままいくとはまさか思ってない。
ただ、小泉自民が大勝することくらいは、みんな予想してたはず。
それでも、「民主に入れて岡田政権を選ぶのか」なんてピンボケの人はいたけどね。
2/3超えたのは全くの予想外。
一応、数は数えたけど、開票見るまで、最後の最後まで信じられなかった。(「信じられなかった」は結果数字だけじゃなく、いろんなものに対してね)
てことで、離合集散なんて、まったく分からないし、興味もないです。
これから、何かをごまかすためにいつもの「サプライズ」出てくると思いますよ。
そんなもん、しらん。
政策しか見ない。
それと委員会のメンバーと。
国会前の委員会で全て決められるんだよ、今後は。
ということで、そういうネタは守備範囲外です。
他の人に期待してください。
山崎養世です。
Voice10月号を読みました。小泉改革の本質をわかりやすく解説してくださっていて、感銘かつ敬服いたしております。
小生がかねてより主張しております、小泉さんのいう「官から民へ」がまやかしであることは明らかだと思うのですが、なかなか国民の皆さんに伝わっていかないのをもどかしく思っています。
>山崎養世先生
コメント書き込みありがとうございます。
選挙が終って、最近やたらと郵政民営化と郵政民営化法案の違いが話されるようになってきました。みんなが冷静になってきたようです。
今からでももしかしたら、修正ができるかもしれません・・・・・ご活躍ください。
山崎養世先生
拙論をご注目くださり、ありがとうございます。Will、正論、Voice、諸君などに今度、思うところあって一連の郵政批判をかきましたが、最初の問題の捉え方の原点に先生のいくつかのブログや雑誌でのご発言がありました。
素人の身で大胆な論を展開しましたのも、先生のご説明がもっとも合理的であるとの確信をえたからでもあります。おかげさまで他の議論も類推できました。深謝申し上げます。
私のやっている勉強会(徳間書店がスポンサー)に一度きてご講話をたまわりたくぞんじます。
西尾先生
年上の長谷川様
先生の勉強会に参加させていただけるとのこと、是非喜んでお伺いします。
具体的な日程調整等は、小生のHP(お問い合わせ)からメールで事務所スタッフにご連絡いただければ幸いです。
お会いできる機会を楽しみにしております。
山崎養世